クレーマーの定義と、戦い方について

↑考察箱のトップ


クレーマーの定義は難しい

どこでも湧き上がる、クレーマー。日ごろの生活の鬱憤を、ミスをした他者にぶつけることで晴らす、かわいそうな人々だ。最近でいうと、コロナ禍で湧いた「自粛警察」も、形を変えたクレーマーである。

クレーマーは、撲滅しなければならない。なぜなら、対応に人足も、時間も、経費も費やすし、組織を疲弊させるからだ。社会にとって害悪でしかない。

人間は誰でもミスをする。だから、クレーム自体は起こり得るものだし、それは企業にとって貴重な意見ともなる。しかし、「クレームを申し入れてきた客」が、「クレーマー」となった時点で、「お客様」から、ただの「迷惑な人」でしかない。邪魔だから、目の前から徹底して排除しなければならない。

そんなクレーマーの定義は、なかなか難しいところがあるが(何を以て悪質と判断するかは難しい)、私は概ね、このようなものだと思っている。

相手の非に対し、お詫びと損害分の補填"以上の"対応を相手に要求する奴

例えば、お店の商品の不備であれば、店員がお詫びし、それを「交換」することで、そのクレームは終了する。 この段階で対応が終了すれば、「お客様に気の毒な事をした。再発防止策をとろう」となって、一件落着だ。これが普通だ。

しかし、クレーマーは、ここでそれ以上の対応(例えば交通費、上長のお詫び、文書による再発防止策など)を求めてくる。 自分の収まらない「怒り」だけでなく、日常生活の鬱憤や、日ごろ抱えているルサンチマンを発散させ、自分が上位に立っていることを確認したいだけだ。ただのわがままである。

こういう奴らとの戦い方は、ただ1つ。「まともに相手をせず、取り合わない」ことだ。 へりくだるから、つけあがる。サービサーと客は「カネと契約」で結ばれた対等な立場であって、決して上下関係ではないのだ。

***

クレーマーの「定番台詞」と、それへの対処法

■「責任者を出せ」「上司を出せ」「上に代われ」「社長を出せ」(不当要求)

⇒「この件についての対応は、わたくしが承っております。」

(解説)もはやテンプレート化している最頻出フレーズです。「クレームにいきなり上長を出さない」というのは、新入社員でも知っている常識です。でも、クレーマーはこの言葉が大好きです。

この派生形に、「上司と相談したのか?」というのがあります。これもテンプレですが、回答は「上長にも報告しておりますが(上長とも連携しておりますが)、この件についての対応は、わたくしが承っております。」ということになります。一人で対応しているわけではない、ということは明確にしておいたほうがよいでしょう。 ちなみに、「部長」とか「店長」とか、役職名でいうと、「じゃあその店長を出せ」となりがちなので、「上長」とぼかすとよいでしょう。

■それは会社を代表する見解として捉えていいんだな(脅し)

⇒「わたくしが、当社の社員としての立場から申しております」

(解説) 唐突に言われると「おおっ」と怯む質問ですが(それがクレーマーの狙いです)、文章に起こすと実に間抜けですね。会社の代表権なんて一社員にあるわけないのに、何を言っているのでしょうか。慌てることはありません。まともに取り合わなければ、話はそれ以上に大きくできないはずです。

任されている裁量によっては「この件に関しましては、弊社の規定に基づいて、わたくしのほうで回答差し上げております」と答えてもよいでしょう。

■誰の指示で言っているんだ(答えているんだ)(脅し)

⇒「わたくしが、弊社の規定(※)に基づいて、対応しております。」

(解説)指示も何も、社員として、内規(ルール)に基づいて対応しているのですから、事実でお返しするしかありません。

(※)ここでは便宜上「規定」としましたが(以下同じ)、相手によってカチンと来ない言葉に変えることも検討します。「ルール」「きまり」「とりきめ」「内規」「社内規定」・・・。どの言葉が相手の地雷を踏むかはなかなかみえないので、試してみるほかないのですが・・・「ルール」という言葉が四角四面な印象でダメな人もいれば、変に「とりきめ」とかくずすほうが「バカにされている」と感じてダメという人もいるので、本当に難しいところです。ちなみに「その規定を見せろ(教えろ)」と言われても、「応じかねます」でよいでしょう。

■それはお前の勝手な判断ということか(曲解)

⇒「お言葉を返すようで恐縮ですが、わたくしは"勝手"という言葉は申しておりません。弊社の規定に基づいて、対応しております 。」

(解説)言っていない言葉を持ち出して「言った」ということにする、よくあるクレーマーの手口です。「言っていないことは言っていない」と、最初に毅然と拒否しておくと、あとで揚げ足を取られることがなくなります。

■本部に責任はない、ということか(曲解)

⇒「今回お話いただいている、〇〇の件に関しましては、△△(対応部署など)が責任を持って対応させていただいております。当社といたしましては、二度とこのようなことが起こらないよう、△△と連携をとって対応してまいります 。」

(解説)ある商品の不具合、窓口での手続きミス・・・現場レベルではすでに謝罪をしており、必要な補償(返品など)をしているにも関わらず、執拗に"本部の責任"を問うタイプの質問です。「本部の責任」など管掌範囲が広すぎて、一度認めてしまえば要求がエスカレートすることは目に見えています。

現場でミスが起こった場合、原理原則はまず現場で解決すべきものです。そこで解決できないと、クレーマーに付け入るスキを与えてしまうわけですが、「本部の責任」とか、「監督責任」というのは、繰り返しになりますがその範囲を安易に規定できるものではありません。

したがって、「今回のクレームの原因に対しての責任範囲」だけ分限的に明示し、本部は再発防止のための対策をとる、と役割を明確に分けることが重要です。

なお、「指導します」と答えてしまうと「その指導の内容を示せ」と返ってくるまでがお約束ですので、例文のように「連携して対応します」くらいの表現にとどめておくほうが無難でしょう。 もっとも「内容を示せ」と言われたら、「応じかねます」でよいでしょうが、それだけひと手間増えることになってしまいますからね。

■現場の勝手と切り捨てる、ということか(曲解)

⇒「お言葉を返すようで恐縮ですが、わたくしは"勝手"という言葉は申しておりません。現場とは状況に応じて連携をとっております 。」

(解説)これもよくある言葉で、中には「責任は現場の個人に押し付けるのか」とか、「本部の責任はないということか」と、わざと「あれ、そう取られたのかな?」と思わせるように誘導する、より質の悪い質問を重ねてくるケースもあります。ただ、これはミスリードを誘っているだけですので、「言っていないことは言っていない」と、先に明確にしておいたほうがよいです。

そもそも、「現場の勝手と切り捨てる対応」と曲解されたところで、クレーマーには関係ない組織の問題です。冷静に考えると「だから何?」ということではあります。まあ、大きなお世話というやつです。

■会社としての見解を、文書で回答しろ(不当要求)

⇒「恐れ入りますが、文書での回答は致しかねます。ご容赦ください。ご意見は、こちらのお電話(お話)にて 直接承らせていただいております。ご期待に沿えず、申し訳ございません。」

(解説)「文書で回答しろ」と言ってきたら、以降はクレーマーと思って対応してよいでしょう。典型的な不当要求だからです。なぜなら、回答する方法を選択するのは、企業側だからです。「回答できない」ということはきっぱりと伝えてしまってよいでしょう。

ちなみに、クレーマーに対して「文書で回答」するのは最悪の手段です(原則的にはメールも同様)。クレーマーは偏執者ですから、その文書について、1字1句、突っ込みを入れるのが愉しくてしょうがないからです。何1つよいことはないですから、絶対にやめておきましょう。

■会社としての謝罪(経緯をまとめたもの、対応策)を、文書で提示(ホームページに掲載、新聞広告に掲載)しろ(不当要求)

⇒「恐れ入りますが、文書での回答(ホームページへの掲載、新聞への掲載)は致しかねます。ご容赦ください。ご意見は、こちらのお電話 (お話)にて直接承らせていただいております。ご要望に沿えず、申し訳ございません。」

(解説)これもよくある要求ですが、「回答できない」ということをきっぱりと伝えてしまってよいでしょう。そもそも、ある件について対応策を決めたり、公表したりするか否かを選択するのは、企業自身です。クレーマー本人に会社の行動を促す権限は何もありません。どうもクレーマーは、ここを勘違いしている人が多いようです。

そもそも「客」は会社組織のことを「何1つ」動かすことはできません。「従業員」ではないのですから。企業は「客の意見」を「参考」にはしても、「客」が組織を「動かす」わけではないのです。クレーマーは、どうも「自分の意見」で「会社組織」が変わると思い込んでいる節がある。だから厄介なんですよね。

■今、お前の言った内容を、書類にして送れ(不当要求)

⇒「恐れ入りますが、ご要望には添いかねます。ご容赦ください。」

(解説)わざわざやる必要のないことです。今言っているので。丁重にお断りしましょう。

■文書で回答できないということは、逃げるということか(言いがかり)

⇒「文書では回答いたしかねますが、ご意見は、こちらのお電話(お話)にて直接承らせていただいております。」

(解説)単なる言いがかりですが、こちらは「逃げているのではなく、回答する窓口は用意している」というスタンスを示しておく必要があります。

■うちに来て謝罪しろ(不当要求)

⇒「恐れ入りますが、ご自宅にお伺いすることは致しかねます。ご要望に沿えず、申し訳ございません。」

(解説)ここまでの「文書での回答を要求」と双璧をなす典型的なクレーマー用語です。このセリフを吐いた時点で、クレーマーとして対応するべき案件です。基本的には「文書での回答」と同じ対応で、「できないことはできない」と突っぱねましょう。

■SNSに書き込んでもいいのか?(カビの生えた古臭い言い回しだと、「マスコミに言うぞ」)(脅し)

⇒「私から、それをお止めすることはできません。」

(解説)勝手に書けばよいだけの話です。相手は、「困ります」とか「やめてください」とクレーム担当者が慌てふためく姿を想像して発言しています。だからこそ、「自由にやってください」と突き放すのです。私の経験上、これを言うと、十中八九、相手は目に見えて狼狽します。まさか、「書きたいなら勝手に書けば?(意訳)」と言われるとはつゆほども思っていないですから・・・。だから、覿面に効くのです。

こういうときに一番やってはいけないのは、「SNSへの書き込みは、困ります」とか、「どうかおやめください」などと伝えることです。相手に「やましいことがあるから、口止めをするんだろう」とか、「憲法21条を知っているのか?表現の自由の侵害だぞ!」と盛大に揚げ足を取られる危険性もあるので、絶対にクレーマーの口車に乗らないようにしましょう。

ちなみに、「悪い内容を書き込む」などと一方的に不利益となることを明示して、対応者を困らせる行為は、立派な「恐喝」です。

この「SNSに書き込むぞ」という表現は最近、かなり頻繁に聞かれるようになった脅し文句ですが、普通に犯罪になる可能性がありますので、発言内容によっては法的措置を取られることを覚悟しておきましょう。企業側もいちいち面倒で(食傷気味で)訴えないだけですから、軽々しく発言しやすい言葉の割には、相当リスクがある言葉であると思っておいたほうがよいです。

なお、複数回同様の脅しを繰り返すなど、悪質性が高い場合は、「こちらとしてはSNSへの掲載をお止めすることはできませんが、実際にお書込みされた場合は、当社も 事実内容を確認させていただき、必要に応じて(しかるべき)対応をさせていただきます。」と一言添えてもよいでしょう。

俺はしないけどさ、SNSに書き込んだりされたら困るよな? (脅し)

「私から、それをお止めすることはできません 。」

「SNS脅し」の派生形です。自分が「直接」書き込むといっていないので、恐喝にはならない・・と踏んでの発言でしょうが、普通に恐喝行為です。これもまたよく聞くクレームですが、普通にブラックリスト入りする発言ですので、軽々しく言わないほうがよいと思います。品性を疑われますよ(SNSは脅しのつもりのようでいて、対応する側は、「またこれか・・」と辟易とするくらい、よく聞く台詞なんです)。

この回答の仕方ですと、「俺は"困るよな?"と聞いているんだ。困るか困らないか、それを答えろ」と詰められる場合も想定されます。その場合は、「私個人の見解は、お答えできません。また、会社としての見解も、お答えいたしかねます。ただし、私から、SNSへの掲載をお止めすることはできません 。」と返しましょう。「困る」と答えた瞬間に、前述の通り「口止め」ないし「表現の自由の侵害」に話を持っていかれる可能性が高いからです。

■消費生活センター(公正取引委員会、警察)に相談(告発)するぞ(脅し)

⇒「私から、それをお止めすることはできません。」

(解説)基本的な考え方は同上。そもそも、わざわざそんなことを言わずに先方が勝手に訴えればよいだけの話です。 公的機関の名前を出せばビビると本気で思っているのでしょうか。これも、一番の悪手は、ストップをかけることです。相手の思う壺です。

悔しまぎれに「そうなったら、困るのはそっちだぞ」という捨て台詞を吐かれたら、「行政からのご指導がありましたら、しかるべき形で対応させていただきます 。」というスタンスで鷹揚に構えましょう。大丈夫です。従業員は別に何も困りませんから。

■訴えるぞ、裁判を起こすぞ(脅し)

⇒「私から、それをお止めすることはできません。」

(解説)これも同上。余計なことは言わずに、「止めることはできない」という事実だけ、簡潔に伝えるようにしましょう。こちらも、ストップをかけたと取られるような発言は厳禁です。

■知り合いに弁護士がいる(マスコミの知り合いがいる、政治家の知り合いがいる、有力者の知り合いがいる)んだけど・・・(脅し)

⇒「恐れ入りますが、わたくしの理解が足りず、そのお言葉の指していらっしゃる内容が分かりかねます。どのような意味か、お教え願えますでしょうか。」

(解説)まずはとぼけましょう。相手の口から「これは脅しで言っただけ」ということがポロっと出てくるのを待つのが吉です。 相手にしゃべらせれば、必ずボロが出てきます。「脅し」と分かれば、あとは「自由にどうぞ」と突き放せばよいだけです。

おそらく「訴えるということだよ」とか、「国会(市議会)で問題にするつもりだ」とか、「雑誌に取り上げてもらってもいいのか」などと続くわけですが、 「私から、それをお止めすることはできません。」と返せばよいわけです。これも、ストップをかけてはいけない言葉です。

■知り合いに怒ると怖い奴がいるんだが(うちのトコに若いモンがいるんだが)、そいつ(ら)を連れてこようか(に話そうか)?(脅し)

⇒「恐れ入りますが、直接お越しいただきましても、対応いたしかねます。」

⇒「ご意見は直接承っておりますので、他の方では対応いたしかねます。」

(解説)基本的にはマウントを取るために強めの表現をしてビビらせているだけなのですが、ここまでくると、完璧に脅迫です。「対応できない」ことを毅然と伝えましょう。

■それって、法律的に問題があるんじゃないの?(言いがかり)

⇒「不勉強で恐れ入りますが、ご指摘くださっている点について、お教え願えますでしょうか。」

(解説)「法律」という言葉を持ち出して怯ませる手口です。裁判所ではないので法律論を戦わせる必要はありません。「要するに何が言いたいのか」を相手から聞くき出すのがよいでしょう。

■それはあんたらの決めたルールじゃないか。こちらには関係ない(言いがかり)

⇒「おっしゃる通りですが(お気持ちは理解できますが)、弊社ではこのような対応となっておりますこと、ご容赦いただければと存じます 。」

(解説) これも定型句です。客にとって内規が関係ないのはその通りなので、まずは「おっしゃる通りです」と応じるほかありません。ただ、それをどう運用しようと企業側の勝手ですので、先方が企業の内規にまで踏み込んで攻め立ててきた場合は、立派な「不当要求」です。受け入れる必要はありません。堂々と突っぱねましょう。

というか、先方から「関係ない」と言ってきているのですから、もう答えを自分で言っているようなものです。だから、クレーマーと会社組織とはそもそも「関係ない」んですよ。よくよく考えると、論理が完璧に破綻しているのがクレーマーのクレームの特徴です。

■俺のことを馬鹿にしてるのか?/客を信頼していないのか?/俺が間違っているって言いたいのか?(言いがかり)

⇒「そのようなことはございません。ご不快な思いをさせてしまい、申し訳ございません。」

(解説)受け取られた誤解への「否定」と、不快な思いをさせたことへの「お詫び」。これ以上にできることはありません。

■(営業時間外に)〇〇しろ(経緯の説明文を送れ、謝罪に来い、商品を届けろ、..etc.)(不当要求)

⇒「恐れ入りますが、当社の営業時間は〇時までとなっております。したがいまして、〇時までの時間に対応させていただくか、あるいは日を改めましてご連絡を差し上げたいと存じます。 」

(解説)時間外対応をする必要は基本的にはありません。緊急のもの、あるいはよほどのことであれば、まともな企業は時間外であっても、先方の要求の「前」に、対応要員を割いてしかるべき対応をとるはずです。こういう要求が 「先方から」出る時点で、緊急性や重要性はおそらく棄却されているわけですから、内規通りの対応をするのがベストといえるでしょう。わざわざクレーマーのために貴重な時間や人足を割く必要はありません。

■〇日までに(〇時までに)〇〇しろ(不当要求)

⇒「できるだけ早く対応を差し上げたいところですが、〇日(〇時)までに〇〇をする、というお約束は、現時点では出来かねます。ご容赦ください。」

⇒「できるだけ早く対応を差し上げたいところですが、この段階でのお約束はいたしかねます(具体的なお日にちやお時間はお伝えいたしかねます)。今しばらく、お時間を頂戴できますでしょうか。ご期待に添えず申し訳ございません 。」

(解説)ファーストコンタクトで、いきなり日程の約束は困難です。 ミスがあればすべて相手の言いなりになっていいということではありません。一見すると「正当な権利」のように責めてくるのがクレーマーですが、これは客の立場を悪用した「不当要求」です。突っぱねましょう。

■今すぐ本部の回答(見解、原因の調査、お詫び)を寄越せ(不当要求)

⇒「まずはこちらで詳しいお話を伺わせていただき、対応させていただきます。どのような状況か、お聞かせ願いますか?」

(解説)これも典型的なクレームのテンプレートです。こういうときの対応の基本は、まずは何はなくとも「冷静に事実の把握」です。

■今すぐ返金しろ(不当要求)

⇒「まずは詳しいお話を伺わせていただきたいと思います。どのような状況か、お聞かせ願いますか?」

(解説)企業活動の核心は「売り上げの回収と保全」です。誤配や商品のエラーなど、こちらの責に帰すべき(あるいは内規に照らして返金すべきと明確である)事情がある場合を除き、安易に「返金します」とは口が裂けても言 うべきではありません。まずは「事実確認」からスタートです。

■誠意を見せろ(脅し)

⇒「ご不快な思いをさせてしまっていることに対し、申し訳なく思います。」

⇒「〇〇の件に対して、お詫びを申し上げることしかできず、心苦しい限りですが、ご寛容ください。」

⇒「今後同様のことが起こらぬよう、対応してまいりたいと存じます」

(解説)必要な範囲でのお詫びと、適切な補償が「誠意」です。これを超える要求は、ただの「たかり」というやつです。

■何が言いたいか、わかるだろ?(脅し)

⇒「恐れ入りますが、わたくしの理解が足りず、 分かりかねます。どのような意味か、お教え願えますでしょうか。」

(解説)まずはとぼけましょう。相手の口から「これは脅しだ」ということを言わせるのが吉です。「金寄越せ」とストレートに言う馬鹿はそういないでしょうが、たくさん喋れば必ずボロが出ます。そこを突きましょう。

クレーマーは、こちらが下手に出て、忖度して、「金品の提供」を申し出るのを待っています。「補償しろ」「お詫びの品を送れ」「上位の商品に交換しろ」あたりの要求が出てきたら、しめたもの。完全に「恐喝」ですから、答えはすべて「〇〇は致しかねます。ご要望に沿えず、申し訳ございません。」でOKです。

■そんなマニュアル通りの返事を求めているんじゃないんだよ(言いがかり)

⇒「当社の規定に基づいてご回答を差し上げておりますが、〇〇の件につきましては、私どもも心苦しく思っております。ご不快な思いをさせておりますこと、申し訳なく思います」

⇒「今回のご案内は、当社の規定に基づいて差し上げておりますが、心を尽くして対応いたしたいと思います。」

(解説)現場が勝手に判断し、感情で対応していたら大変なことになります。規定通りの対応をすることが「誠意」を示すことになります。そのうえで、最大限「心がこもっていること」は明に暗に伝えていくほかありません。

■申し訳ございません、は聞きたくない/お詫びの気持ちがこもっていない(言いがかり)

⇒「ご不快な思いをさせておりますこと、お詫び申し上げます。このたびはこのようにお詫びを申し上げることしかできず、心苦しい限りです。」

(解説)はっきり言って、ただの言いがかりです。相手は何を言っても許すつもりがないので、弁解するだけ無駄です。表現を変えてもう一度、謝っておきましょう。

■申し訳ないということは、お前の会社に責任がある(お前の会社の非を認めた)ということだな(言いがかり)

⇒「言葉が足りなかったようで恐れ入りますが、わたくしが申し訳なく存じておりますのは、今回の〇〇の件に対してでございます。ご不快なお気持ちにさせてしまったことをお詫び申し上げます。」

(解説)「何の件に対してのお詫びなのか」を明確にして、簡潔に回答し、余計な要求が付け入るスキがないように対応していきましょう。

「クレームの原因となった事象」、ないし「不快にさせてしまったこと」「お時間をいただいていること」などの限定された内容に対して「のみ」お詫びをしているのであって、すべての事象に責任があるわけでは「ない」ことを伝えるフレーズです。このクレーマーの例では、「無限」に責任を負わせようとしているところがきわめて悪質です。ひとたびこれを肯定してしまうと、あらゆることに対して「責任がある」→「では謝罪と賠償をどうするのか」という話が永久にループすることになります。

■俺のこと、クレーマーだと思ってるだろ(言いがかり)

⇒「お言葉を返すようで恐縮ですが、そのようなことは申しておりません。」

(解説)「はい、そうです」とは言えないので、逆のことを答えるのが大人です。「じゃあ、なんだと思っているんだ」と聞かれたら、貴重なご意見をいただけるお客様だと認識しております。」というところが落としどころでしょうか。

■お前が何とかしろ(〇〇しろ)(言いがかり)

⇒「わたくしの一存ではお取り扱いいたしかねます。ご容赦ください」

(解説)できないことはできないので、「できない」と答えるしかありません。

■そんなこともわからない(確認していない/把握していない/知らない)の? (悪口)

⇒「お恥ずかしながら、わたくしの勉強不足(確認不足、手落ち)でございまして、ご迷惑をおかけいたします。」

⇒「勉強不足(確認不足)で恐縮ですが、お調べいたしますのでお時間を頂戴できますでしょうか。」

(解説)普通にムカつきますが、ムカつかせるのが相手の目的ですので、同じ土俵に立たないようにしましょう。クレームは突然発生するので、必要な情報がそろっていない状態で対応せざるを得ないことも多々あります。

一般論として、変に推測で対応(「・・・だと思います」系の受け答え)するのは危険です。知らないことは「知らない」わからないことは「わからない」と正直に対応して、それを詰られたら「勉強不足でした!」と素直に頭を下げるほうが、誠実さが伝わりますし、相手もそれ以上、攻めようがなくなります。

■俺を誰だと思ってるんだ/俺が誰だか分かって言っているのか (脅し)

⇒「当社のお客様です。」

(解説)ただの脅し文句ですから、まともに取り合うのはやめましょう。

■「馬鹿」「阿保」「ボケ」/「殺すぞ」/「ぶっ飛ばすぞ」/「お前の家に行くぞ」/「お前」「てめぇ」 など(罵詈雑言、威嚇、脅し)

⇒「今、〇〇とおっしゃいましたが、わたくしはそのお言葉に恐怖を感じております。おやめいただけますでしょうか 。」

(解説)脅し文句が出た時点で、こちらは急に冷静になって、相手の発言を復唱しつつ、「あなたの言葉に恐怖した」と訴えて、被害者になりましょう。クレーマーはびっくりして、以降の発言にかなり慎重になる可能性が高いです(ちなみに、「馬鹿」も立派な罵詈雑言ですので、いい大人が他人に安易に使わないほうが身のためです)。

これでも罵詈雑言が収まらない場合は、再度〇〇とおっしゃいましたが、わたくしはそのお言葉を使われることに、大変恐怖を感じております。今すぐにお控え願えますでしょうか 。」と、語気を強めてもう一度伝えます(2回目)。

それでも続く場合は、「残念ながら、ただいまわたくしが恐怖を感じている〇〇という言葉を繰り返されていらっしゃるようですので、これ以上〇〇という言葉を使われるようでしたら、警察に相談させていただくことになります。どうかおやめください。」と伝え、数秒間だけ相手の反応を待ちます(3回目、最後通告)。

「警察」のワードは強力なので、「そちらの責任なのだから、警察に相談しても相手にされるわけないだろう」と相手が激高することもあります。その場合、「〇〇と仰ったことに対して、わたくしが恐怖を感じております。その〇〇と仰ったことに対して、相談させていただきます。」と冷静に返しましょう。

それでも罵詈雑言が止まらない場合は、間髪を入れずに、電話の場合は「それでは、恐れいりますがここでお電話を切らせていただき、これから110番に通報させていただきます 。」、対面の場合はその場で「それではこれから、110番に通報いたします。」と対応します。

3回目となれば、「こちらが要求しても相手が脅し続けた」という事実がありますので、相手がどんなに止めても、懇願しても、本当に通報してしまうべきです(実際に通報しなければ、逆にこちらが「脅し」たことになってしまいますので、それもリスクがあります)。

なお、罵声の録音ができていると動かぬ証拠になります。性質の悪いクレーマーだと判断したら、証拠保全も同時に行うように心がけましょう。

■こちらは住所(電話番号)を言っているのだから、お前の住所(電話番号)も教えろ(不当要求)

⇒「恐れ入りますが、社内の取り決めにより、お教えできないことになっております。ご要望に沿えず、申し訳ございません。

(解説)当然ですが、言う必要はありません。注意したいのは、「個人情報なので、お教えできません」と答えてしまうこと。クレーマーは、「こっちはその個人情報を教えてるんだ!」と激高する予定で手ぐすね引いて待っていますので、「個人情報」というワードは絶対に使わないようにしましょう。

■担当者に代わるまで、電話を切らないで待っているからな(不当要求)

⇒「こちらから折り返しご連絡を差し上げますので、一度電話をお切りになってお待ちください。」

⇒「担当者は現在、不在にしております。本日中の対応が難しい可能性もありますので、一度電話をお切りになってお待ちください。」

(解説)万が一対応しているすぐそばに答えられる担当者がいたとしても、絶対に同じ電話に出さないことが肝要です。

一次対応では済まないレベルの外部からの照会には、事実の確認⇒対応の協議⇒回答、のプロセスを踏むことががきわめて重要で、どんなに相手が憤っていても、いきなり電話を替わるのは絶対に避けなければなりません。

そもそも担当者はほかの案件も抱えていますから、その予定との兼ね合いがあることを忘れてはならないでしょう。

■(〇〇するまで)絶対に電話を切らない(ここから帰らない)ぞ(不当要求)

⇒「現時点で、こちらからご案内できる内容はすべてとなります。ほかに何かございましたら承ります。」

⇒「現時点で、わたくしからお伝えできることは申し伝えたと認識しております。ほかに何かございましたら承ります。」

⇒「現時点でのご回答は、以上となります。ほかに何かございましたらお伺いいたします。」

(解説)とにかく、「もう、こちらとしては伝えることは伝えた」というスタンスを示し続けることが重要です。これ以上やることがなくなれば、「もう話すことなんてないんだけど(意訳)」ということを分かってもらうしかありません。あまりにもしつこければ、「お引き取り願います」という言葉を続けてもよいと思いますが、さすがに言葉が強すぎるので、「最後の切り札」として取っておきましょう。

■こっちも仕事があるんだよ(時間がないんだよ)。その分の時間を返せ(補償しろ)(不当要求)

⇒「この度は(お仕事もある中/お忙しい中)貴重なお時間を頂戴し、ありがとうございます。お時間を取らせてしまったこと、心苦しく思います。」

(解説)時間は返せませんので、「貴重な時間をもらったこと」に「感謝」し、「時間を奪ってしまったこと」を「心苦しく思う」しかないでしょう。変に「お詫び」すると、「だったら補償しろ!」となるので、あくまでも「お礼」と「お見舞い」が無難です。執拗に「補償しろ」と詰ってきた場合は、「時間的な補償を差し上げることはできませんが、貴重なお時間をいただき、ありがとうございます。」ときっぱり断りましょう。

■電話代はこちらが出しているわけだが、おかしくないか。この電話代を返せ(不当要求)

⇒「お時間取らせてしまい申し訳ございません。当社では今のお電話代をご負担することは致しかねますが、できるだけスピーディーに対応させていただきます。」

(解説)接続までに時間がかかったり、クレーム対応そのものが長引いたりしたときに起きがちなクレームです。「電話代を返すことはできない」ということは明確にしておきたいものです。

なお、クレームの内容によっては(例えば商品の不備など明らかに対応が必要な場合)、お差支えなければ、こちらから折り返しご連絡を差し上げます。お電話番号を頂戴してもよろしいでしょうか。というように、電話代が顧客負担とならないような配慮も、せっかくの顧客を「クレーマー」に育てないためには必要かと思います。

■電話代をこちらが出すことになるのはおかしいだろう。折り返してかけてくれ(不当要求)

⇒「恐れ入りますが、まずはこのお電話で、詳しいお話を伺わせていただきたいと思います。どのような状況か、お聞かせ願いますか?」

「恐れ入りますが、こちらのお電話からは発信することができかねますので、ご了承ください。できるだけスピーディーに対応させていただきます。まずはこのお電話で、詳しいお話を伺わせていただきたいと思います。どのような状況か、お聞かせ願いますか?」(発信ができない電話の場合)

(解説)まずは「どのような内容か」を聴くところからスタートしましょう。ナビダイヤルなどで、こちらから発信ができない電話の場合は、その旨も簡潔にお伝えしておきます。ただし上述の通り、クレームの内容によっては、電話代が顧客負担とならないような配慮は必要となることもあるでしょう。

■もういいよ、二度と来ない(お前のところで買わない)から/お前と話しても無駄だ、もういいわ/いいか、覚えておけよ(脅し)

⇒「このたびはお時間をいただき、ありがとうございました。」

⇒「このたびは貴重なご意見を頂戴し、ありがとうございました。」

(解説)相手が捨て台詞を吐いたら対応終了です。おめでとうございます。向こうから悪縁を切ってくれるなんて、最高ですね!! このやり取りはきれいさっぱり忘れましょう!


【2022年10月13日追記】

クレーマーによるハラスメント行為(カスタマー・ハラスメント)が明確に社会問題化しています。

厚生労働省の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」の登場は話題になりましたが、任天堂が修理サービス規定に「カスタマーハラスメント」を明示して断固として対処することを決めたこと(2022年10月)は特に大きなインパクトを持つといえそうです。任天堂という、エンターテイメントの総本山のような企業がカスハラ対策に乗り出すことを明言されたことは、今後の日本のあらゆるサービス業において、「招かざる客」への対処に、大きな光明をもたらすものと期待されます。

「カスハラ対策マニュアル」では、次のクレーマーの行為を「ハラスメント」と定義づけています。

*時間拘束型
・従業員を長時間にわたり拘束
・居座り
・長時間の電話

*リピート型
・繰り返し理不尽な要望を問い合わせる
・理不尽な問い合わせについて、執拗に面会を要望する

*暴言型
・怒鳴る
・「バカ」などの悪口を浴びせる
・人格否定、名誉棄損など

*暴力型
・殴る・蹴る・叩く
・モノを投げつける
・わざとぶつかってくる

*威嚇・強迫型
・強迫する
・反社勢力とのつながりを仄めかす
・「SNSに上げる」等、ブランド棄損につなげる脅しをかける

*権威型
・特別扱いを要求する
・文書等での謝罪を要求する
・土下座を要求する

*店舗外拘束型
・必要性が不明な状態で、顧客の自宅や、業務と無関係の喫茶店などに呼びつける

*SNS等での誹謗中傷型
・Web上で名誉棄損、ブランド棄損の行為を行う

*セクハラ型
・従業員の身体に触る、待ち伏せする、つきまとう
・食事やデートに執拗に誘う
・性的な冗談

いずれも最悪ですが、このように「類型化」されたことで、当該の行為は「カスハラ」として、企業がまともに取り合わなくてよい、という機運が形成されることが何より重要です。警察、弁護士等と連携し、クレームに対峙する現場の従業員を守ることこそ、これからの企業に求められる動きといえるでしょう(逆に、この「カスハラ」に対応する従業員を放置することこそ、企業にとって訴訟や退職などのコンプライアンス、健康経営、ガバナンス上のリスクがあると言ってもよいでしょう)。

なお、このマニュアルの「案」も公開されていて、ここでは以下のようなものが具体的に「カスハラ」に当たると明示されています。

*時間拘束型
・1時間の時間拘束(←1時間以上電話で粘られた経験、ある人多くないですか?これってカスハラなんですよ!)
・業務に支障を及ぼす程度の拘束

*リピート型
・頻繁に来店
・度重なる電話
・複数部署に、複数回のクレーム

*暴言型
・大声を上げる
・罵声を繰り返す

*揚げ足取り
・電話対応で揚げ足を取る、言葉尻を捉えて詰る
・同じ質問を繰り返し、対応のミスが出たところを責める
・話のすり替え

*威嚇・強迫型
・強迫や反社会的な言動
・「SNSに曝露する」「マスコミに知らせる」といった言動(←これ、滅茶苦茶多いですけれど、立派なカスハラです)

*SNS等での誹謗中傷型
・従業員の氏名公開
・会社の信用を棄損させる表現

*過度な要求
・金銭要求(「誠意を見せろ」も金銭要求の一種)
・難癖による補償要求
・備品(≒ノベルティ、記念品)の過度な要求
・制度や契約上対応できないことへの要求

*コロナ禍の過剰対応要求
・マスク着用や消毒、換気に対する過度な要望
・マスクをしていない他の顧客への注意喚起の要望
・マスクの着用拒否(≒不着用へのクレーム)

*明確な違法行為
・正当な理由のない業務スペースへの立ち入り
・不法侵入

書いているだけで虫唾が走りますが、少しでも顧客対応をしたことがある方ならば、上記の1つや2つ、日常的に経験しているのではないでしょうか?

1時間客の罵声に付き合ったとか、「SNSに上げるぞ」と脅されたとか、「あの客はマスクをしていないからお前が注意しろ」とか。堂々と「NO」でいいのです。なにせ、国が認める「カスハラ」ですから。


↑考察箱のトップ