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適応障害 経験者のQ&A


◇このページは?

実際に適応障害になった経験に基づき、気づいたこと、学んだことのあれこれをQ&Aにまとめてみました。

適応障害 学びのまとめなどもご参考になさってください。


調子に乗って書き溜めているうちに、40万文字を超えてしまいました。ちょっとした文庫や新書2~3冊分くらいの情報量があります(笑)


Index

  1. 適応障害について:適応障害って何?うつ病とは違うの? 何が原因でなるの? など
  2. 症状について:どんな症状が出るの?「休んだほうがいい」というサインは? など
  3. 休み方について:上司との調整方法は?どうやって休んだらいいの?そもそも休めないんだけど! など
  4. 通院について:よい病院の探し方は?薬の飲み方は? など
  5. お金について:給料はどうなる?有給は?税金は?ボーナスは?医療費は?ローンは?など
  6. 復職の目安について:どうやって復職していくの? 産業医面談で話すことは? など
  7. 復職してからについて:職場に菓子折りを持っていく? 挨拶はどうする? 再発防止のために必要なことは? など
  8. よりよい生活のために・・・:以前のようにやる気が出ない! 適応障害との向き合い方は? 出世は? お勧めの文献(参考文献)は? など

Q&A

【1.適応障害について

Q.そもそも適応障害って何?

A.一言で言うと、「ストレスで心身がやられてしまい、原因となる環境にいられなくなってしまう」病気です。ある環境の変化に起因する明確なストレスが原因となり、過剰な(※)心身の不調が生じ、日常生活や社会生活に大きな支障がでる 自律神経失調症、抑うつ症状、回避行動などの心身の様々な症状が起こります。症状だけを見ると「うつ病」と酷似していますが、「発症原因が明確に説明できる」ことが「うつ病」との違いとされています。また、概ね原因となる出来事の発生から1~3か月以内に発症し、原因から離れると6か月以内に症状が改善すると言われています。

抑うつ症状を呈するメンタル疾患の中でも、「原因がはっきりしていて、急激に発症し、適切に対処することで比較的短期間に寛解するもの」が適応障害と言えるでしょう。 英語でもそのまま「Adjustment Disorder(適応障害)」であり、その頭文字をとって「AD」と略されることもあります。

(※)「過剰な」心身の不調という部分がポイントです。ここでの「過剰」とは、あるストレスによって、普通にしていれば(他の人では)起こらないような心身の不調が、強烈に発現することを指します。「反応として一般的に予想されるよりもはるかに強大な苦痛」という表現もなされます。 また2022年1月発効のWHOの診断基準(国際疾病分類:ICD-11)では、「ストレスへのとらわれ」(「ストレスに対する過度の心配」「ストレスに対する反復的で悲観的な思考」そして「ストレス源についての絶え間ない反芻」)が診断上の必須の症状に加えられています。

Q.うつ病とは違うの?

A.発症すると「抑うつ症状」や「自律神経症状」など心身の不調を呈する病気であるという意味で臨床的な症状は酷似していますが、発生機序が異なるとされます。

適応障害の場合は、「特定のストレス源など明確な原因が認められ、かつ、そのストレスに曝露してから比較的短期間(1~3か月以内)に抑うつ症状を発症し、当該のストレス源から離れるとすぐ(6か月以内)に症状が改善する」とされています。一方のうつ病は、「明確な原因が不明の場合が多く、ストレスに曝されてからも抑うつ症状を発症するタイミングが不定で、さらにストレスから離れてもなかなか症状が改善しない」ようです。

上記から明らかなように、適応障害とうつ病の違いは「症状の軽重」というよりは、「明確な原因の有無」と、多くはその「継続期間の長短」にあります。単純に「適応障害だから軽い」「うつ病だから重い」というわけではないので、注意が必要です。

このほか、適応障害では、特に発症の初期においては、抑うつ状態にあっても「楽しいこと」「ストレスでないこと」は比較的従前通りにできることが多い (ただし悪化すればそれもできなくなりますので、あくまでも程度の問題です)のに対し、うつ病の場合は「楽しいことがあっても、まったく楽しめない」状態になることが多いとされます。

Q.適応障害の発生プロセスは?

A.ストレスに直面すると、まずはアドレナリンやノルアドレナリン、コルチゾールなどに代表される「抗ストレスホルモン」によって、心身がストレスに対処するべく 「頑張ろう」「我慢しよう」と活発に働きだします。しかし、そのランナーズハイ的な「頑張り」と「我慢」がいつまでも続くわけではありません。「イライラ」「疲労」など「心身からの注意のメッセージ」を押し殺して働き続けていると、やがて抗ストレスホルモンが枯渇し、 疲労が蓄積し、心身がかかるストレスと闘えなくなります(頑張れなくなる、我慢できなくなる)。疲弊し切ってしまって心身が正常にはたらかなくなる状態、これが適応障害の発生です。

Q.適応障害を引き起こす職場(※)のストレスとは?

A.以下のようなものが挙げられます。

※このQ&Aでは、主に 「仕事」の要因について記載しています。このほかに「学校」「家庭」「地域社会」といった要因なども当然にあり得ます。

▼職場の人間関係(上司、同僚)がうまくいっていない

▼取引先との関係がよくない

▼自身の仕事環境自体に急な、ないし大きな環境変化があった(これらが複数掛け合わされた場合はリスクは高くなる)

▼異動先の環境変化に慣れない

▼現在の業務内容が自分の性格や能力と不適合である

▼仕事量が多い

▼責任やプレッシャーが多い/多くなった

▼ハラスメントの被害を受けている

 これらを一言で表すと、「業務過多」「仕事そのものの悩み」「職場における人間関係の悩み」のいずれかが原因、ということになります。

Q.適応障害を引き起こすストレスの前段階(きっかけ)となるものはありますか?

A.適応障害の背景には強いストレス環境がありますが、当該の「ストレス」に対して心身が防衛体制を取るまでには、「前段階(きっかけ)となる マイナスの精神状態」が必ずあります。これを「自分自身の精神状態・体調(コンディション)」「職場環境(働きやすさ)」「組織風土(仕事そのもののやりがい)」という3つの観点から考えてみましょう。

▼自分自身の精神状態・体調(コンディション)

▼職場環境(働きやすさ)

▼組織風土(仕事そのもののやりがい)

「理想の状態」と「現実」とのギャップのことを「問題」と言いますが、ここに挙げた現象は、まさに「問題」が表出してしまっている状態であると言えます。マイナスの感情を惹起させるものばかりです。この状態が常態化すると、「疲労感」「徒労感」「不安」「怒り」「虚無感」「虚しさ」「あきらめ」「妬み」「嫉妬」「落ち込み」などのネガティブな感情が心を支配するようになり、負の気持ちが次から次へと連鎖するようになります。ここへさらに強いストレスが掛かり続けると、これをきっかけとして、一気に適応障害へと突き進むということは、 どんなに健康な人であったとしても、決して珍しいことではないのです。

Q.ストレスを受けて心身に反応が起こるメカニズムについて教えてください。

A.ストレスの原因(と考えられる)因子を「ストレッサー」、ストレスによって起こる心身の反応を「ストレス反応」といいます。

単純には、「ストレッサーによってストレス反応が起こる」といえるのですが、すべてのストレッサーがそのままストレス反応に直結するわけではありません。 ここに3つの因子が関わってきます。「個人要因」「環境要因」そして「周囲のサポート」です。

▼個人要因

▼環境要因

▼周囲のサポート

ここまでをまとめると、「ストレッサー」に、「個人要因」と「環境要因」そして「周囲のサポート」が影響した結果として、「ストレス反応」が起こる、ということになります。

さらに最近では、この3要素に加えて、本人が職場で発揮できている生産性の指標である「エンゲージメント」や、本人の総合的な満足度を指す「Well-beingスコア」も、ストレス反応に対するポジティブ(またはネガティブ)なインパクトを与える指標として注目されています。

▼エンゲージメント

▼Well-beingスコア

Q.「ストレッサー」にはどのようなものがありますか?

A.分類方法にもよりますが、大きく分けて以下の9つが代表的なものとして挙げられることが多いようです。

▼量的な仕事の負担

▼質的な仕事の負担

▼身体(肉体)の負担

▼対人関係

▼職場環境

▼仕事の裁量度

▼技能の活用度

▼仕事の適正度

▼働きがい

Q.「ストレス反応」にはどのようなものがありますか?

A.「心」「身体」「生活態度」の3つの観点からみてみましょう。

▼心

▼身体

なお「心」と「身体」双方の不調で現れる症状としては、活気の低下、疲労感や倦怠感、だるさなども挙げられるでしょう。また、「勝手に涙が流れる」といったことも自覚されるようになってきます。

▼生活態度

これらの反応は、すべて心身からのSOSといってよいでしょう。頭では「大丈夫」と思っていても、心身がすでにストライキをはじめている状態といえるでしょう。

Q.どうやって治すの?

A.まずは休職などで、ストレス源から離れることが最優先です。そして、傷ついた心身を休めることに努めます。並行して、しばしば投薬治療(抗うつ剤、睡眠薬)が行われます。しばらく休養によって不調が改善してきたら、次に内的要因としての「自分自身の認知の歪み」(働き方のクセなど)をカウンセリングなどを並行して修正していきます(認知行動療法など)。さらに体調が整ってきたら、外的要因としての環境調整(軽減勤務など)を行い、社会復帰に向けて、再発を予防していきます。

適応障害の程度は、「(ストレス(外部要因)+自分自身の認知の歪み(働き方のクセ・・内部要因))×ストレスへの曝露時間」で表されるとされます。この式からも明確なように、とにかくまずは外部要因から離れ、内部要因を修正すること。そして、できるだけそれを早期に対処すること(一般にストレスへの曝露時間が短いうちに対処できるほど回復も早いとされます)が重要です。

Q.社会復帰までにどのくらいかかるの?

A.一般的には、復職までは少なくとも3か月程度は掛かることが多いと考えてよいでしょう。最初の1か月が「完全休養」、次の1か月で「活動再開」、最後の1か月で「復職調整」というのが最短に近いコースなのではないかと思います。統計的には、3か月で4割弱、半年で6割、1年で7割、1年半で8割弱の割合で復職に至ると言われています。

個人差はありますが、休養が2週間とか、1か月といった単位ではきわめて短く、再発し易いとされます。というのも、休職時の業務引継や復職時の調整にも時間がかかるため、1か月ではほとんど休みらしい休みにならないことがほとんどだからです。またそもそも、休んだ直後はしばしば心身が緊張状態にあり、本当の意味での「休養」になっていないことがあるからです。

Q.会社の人事台帳の経歴欄に、「休職事由:急性の適応障害」と記載されることになりました。適応障害に、「急性」と「慢性」があるのですか?

A.あります。適応障害は、その多くが、そもそもの適応障害の定義である「特定のストレス源など明確な原因が認められ、かつ、そのストレスに曝露してから比較的短期間(3か月以内)に抑うつ症状を発症し、当該のストレス源から離れるとすぐ(6か月以内)に症状が改善する」という比較的急性の経過をたどるため、敢えて「急性」「慢性」という区分をすることは少ないと思います。しかし、厳密には「急性」の適応障害と「慢性」の適応障害があるのです。会社の風土として、より正確に事由の掲載を行った、ということなのでしょう(普通は「適応障害」とだけ記載されることが多いです)。

医学上は、適応障害の本来の定義通り、ストレス源から離れたり、薬物治療をしたり、心理療法を受けたりすることによって適応障害の諸症状が6か月以内に改善するものを「急性」と呼び、休養や治療を開始してから6か月以上経っても諸症状がなかなか改善しないもの(悪化する場合を含む)を「慢性」としています(復職ができるか、という一歩進んだ観点ではなく、あくまで「症状に改善がみられるか」によって急性と慢性を区分することが普通です)。 症状が慢性化することを、「遷延化」ともいいます。

一般的に急性の場合は予後が良好ですが、慢性の(遷延化した)適応障害の場合は、「うつ病」「気分障害」その他の精神疾患へ移行、またはこれらを併発している可能性もあるため、治療に長期間を要することもあります。また再発を繰り返した場合も 同様に「慢性化」する危険性がありますので、注意が必要です。

Q.どんな性格の人が適応障害になりやすいの?

A.以下のようなタイプが挙げられるとされます。 実際は、個人の性格を単純に類型化することは難しく、以下のタイプの複合的な要素が少なからずあろうかと思います(例えば、「執着型だが、攻撃型の傾向もある」などです)。

▼執着型

▼攻撃型

▼衝突回避型

▼他者評価依存型

▼循環気質型

▼ビジョン喪失型

Q.職場で適応障害でつぶれてしまった人を何人も見てきましたが、皆発症の仕方などのタイプが微妙に違うようでした。もしかして、適応障害にもいくつか類型のようなものがあるのではないですか?

A.あり得ることだと思います。適応障害は、ある環境・ストレスに「適応」できなくなってしまう疾患です。その「適応できなくなるなり方」に、私は個人差があることに気づきました。表でまとめると、以下のようになります。この表は、あくまで私がこれまで実際に見聞きしたことをもとに、私的にまとめた「適応障害タイプ分類」です。「ああ、そういうこともあるかもね」という観点でご覧ください。

■アクティブ・タイプ(積極的脱出)

▼起こりがちな潰れ方

▼仕事面での、確たる自分の理想像

▼環境に適合できていないときの行動

▼環境に適合できていないときの自覚

▼自己評価

▼他人からの評価

▼環境に適合できていないときの自分の認識

▼他者との「合わせ方」

▼好発しやすい層

▼よくある適応障害の発症例

▼症状をこじらせると起こりやすいこと

▼意識したいこと

▼贈る言葉

■アンガー・タイプ(怒りの発露)

▼起こりがちな潰れ方

▼仕事面での、確たる自分の理想像

▼環境に適合できていないときの行動

▼環境に適合できていないときの自覚

▼自己評価

▼他人からの評価

▼環境に適合できていないときの自分の認識

▼他者との「合わせ方」

▼好発しやすい層

▼よくある適応障害の発症例

▼症状をこじらせると起こりやすいこと

▼意識したいこと

▼贈る言葉

■フェードアウト・タイプ(消極的脱出)

▼起こりがちな潰れ方

▼仕事面での、確たる自分の理想像

▼環境に適合できていないときの行動

▼環境に適合できていないときの自覚

▼自己評価

▼他人からの評価

▼環境に適合できていないときの自分の認識

▼他者との「合わせ方」

▼好発しやすい層

▼よくある適応障害の発症例

▼症状をこじらせると起こりやすいこと

▼意識したいこと

▼贈る言葉

■バーンアウト・タイプ(燃え尽き症候群)

▼起こりがちな潰れ方

▼仕事面での、確たる自分の理想像

▼環境に適合できていないときの行動

▼環境に適合できていないときの自覚

▼自己評価

▼他人からの評価

▼環境に適合できていないときの自分の認識

▼他者との「合わせ方」

▼好発しやすい層

▼よくある適応障害の発症例

▼症状をこじらせると起こりやすいこと

▼意識したいこと

▼贈る言葉

いかがでしょうか。実際はこれらの複合要因になるかと思いますが、一口に「適応障害」といっても、その「起こり方」は様々であることが想像されます。この分野の研究がさらに進むことを願うばかりです。

Q.適応障害の発症タイプ別で、「こうすると発症しにくくなるよ」というコツを教えてください。

A.それぞれのタイプによって、「環境に適応できなくなる」パターンが違ってきます。どのタイプに該当するかを吟味して、試してみましょう。

■アクティブ・タイプ

「アクティブ・タイプ(積極的脱出)」の方は、なまじ優秀なだけに、自分の理想像と現実の環境とのギャップに苦しむ傾向があります。そこで「白馬の王子様」を探して様々な職を転々としますが(優秀なだけに転職もすぐ決まりやすいのです)、「隣の芝生は青い」 「釣り逃がした魚は大きい」を地で行くので、却って理想はどんどん遠ざかります。そこで、職歴の割にはキャリア・アップができていないというケースもまま見られます。 したがって、転職をすればするほど待遇が苦しくなることもしばしばです。こういった負の連鎖を断ち切るためにも、ここは一つ、「折り合いをつける」ではないですが、時には立ち止まって「自分が環境に馴染む努力」も必要です。「石の上にも三年」という言葉の通り、「すぐに見切りをつけようとしないこと」をちょっと強めに意識しておきましょう。

■アンガー・タイプ

「アンガー・タイプ(怒りの発露)」の方は、典型的な思考の癖として「分からない」「教わっていないからできない」「できるようになったらはじめる」「〇〇さんが悪い(自分は悪くない)」と考えてしまう傾向があります。要するに、他責傾向が強いのです。他者から見ると、「自分のことを棚に上げていつもプリプリ怒っているイタい人」です。 周囲から見ると扱いづらいことこの上ないタイプです。「分かってくれない」「助けてくれない」「教えてくれない」「〇〇してくれない」といつも思っているので、 俗に「くれない族」ともいいます。これらは、低い自己肯定感の裏返しであるともいえます。このタイプの場合は、「他人だったら自分のことをどう思うのか?」ということをまず一度考えてみるのがお勧めです。「チェンジ・チェア」というやつですね。まずは人のせいにするのではなく、 「なんで他人はそういう風に行動しているんだろう」という問からはじめ、そこから敷衍して「では、自分はどうしたらいいのか」という観点で考えることができると、気持ちもラクになるかもしれません。

■フェードアウト・タイプ

「フェードアウト・タイプ(消極的脱出)」の方は、優等生だった方に多い形式と言えます。これまで親や先生の導く「正解」を探し当てることで何とか生きてきたので、「(他者に)怒られたくない」「(他人にとっての)正解は何か?」「失敗して(他人に)悪い評価を受けないか?」など、判断軸が常に「他人」になってしまっているのです。よく言えば「相手の気持ちを汲み取って行動できる」ので組織には一見、適合的なのですが、「空気を読む」「気を遣う」 「人に合わせる」のも度が過ぎると感情が疲弊しきってしまいます。特に入社したてで、社会の理不尽の洗礼をそれほど浴びていない「いい子」ほど、「正解」がない環境に戸惑い、「何をしたらいいのか」 が分からなくなり、パニックに陥るのです。このタイプの方は、「他人は自分ではない」という事実を認識することと、「まず自分軸を持つことを大切にする」こと、要するに「子ども時代の頑張り方」から「オトナらしい働き方」に脱皮することが必要なのだろうと考えます。

■バーンアウト・タイプ

「バーンアウト・タイプ(燃え尽き症候群)」の方は、30代・40代など、比較的その組織で一定の成果を上げ、適合的に勤務を続けてこられた方に多い形式です。いつの間にか組織に過剰 適応した結果、立派な「ワーカホリック」となり、「深層心理で感じている疲労感」には蓋をして、その実は「息も絶え絶え」で働いているという悲惨な図が浮かびます。これまで「たまたま」発症を防げていただけで、その働き方にはどこかしらムリが生じていたということです。思考の傾向は、「休めるわけ、ないだろう」「上司のいうことは、絶対だ」「他者の要求には、すぐに応えなければならない」「会社が絶対だ」というもの。一昔前で言うと「会社人間」というやつですね。このタイプの方は、アドラーの言うところの「嫌われる勇気」を持つことが重要でしょう。要するに、「他人のことまで背負うのをやめる」 「会社を勝手に背負わない」という覚悟と勇気です。会社組織の仕事というものは、所詮は「他人の金勘定」です。自分の心身を、「他者のカネ」にすべて捧げることは、余りにも辛いことではないでしょうか。そして、そもそもこれまでのキャリアの自負もありますから、若干有頂天というか、自意識過剰になっているところがあるはずです。ここはひとつ、「自分がいなくたって組織は回る」ということを自覚する、この割り切りが大切でしょう 。

Q.適応障害になりやすいタイプと、発症の機序、周囲も対応できる予防法について教えてください。

A.適応障害は、外部要因(環境調整)×内部要因(個人の特性)×暴露時間で発症する病気です。環境調整、そして暴露時間を減らす(できるだけストレスにさらされる時間を減らし、早めに対処する)ことが重要なのは言うまでもありませんが、個人特性へのアプローチにによって発症を防いでいく取り組みも、同じだけ重要です。以下、タイプ別にみていきましょう。

■「ワーカホリック型」

性格は几帳面、完璧主義、凝り性、頼られると断れない。行動はエネルギッシュ。周囲からは頼れる、できる、有能と思われているタイプです。 このタイプは、オーバーワークによって「失体感」「失感情」に陥りやすく、突然、燃え尽きてしまうことがあります。 予防法は、本人が自分で気づき・対策することも難しいですから、上司がある意味で業務命令として、強制的に「休ませる」「早く帰らせる」というアプローチをしていくことが必要です。また、「疲れていないか?」「眠れているか?」声をかけて気づかせるということも重要です。

■「自己犠牲型」

性格は融通が利かない、生真面目、物静か、従順。協調性が高く、周囲からは「淡々と仕事ができる」「安定感がある」と思われているタイプです。 このタイプは、突然の環境の変化によって「抑うつ」になりやすく、メンタルをつぶしてしまうことがあります。 予防法は、イレギュラーなことを連続して与えないことを第一に、環境が変わった場合は、半年くらいは「慣れさせる」ように見守ることです。

■「ワンマン型」

性格はせっかちで怒りっぽい、闘争心や向上心が強いといったことが挙げられ、比較的若いうちからリーダーを任せられていることが多いタイプです。 このタイプは、低い自尊心を「向上心」によって上書きしているため、終わりなき結果の追求によって、交感神経の過緊張、脳の過緊張が続いた挙句、突然過労で倒れてしまうことがあります。高血圧や不整脈、動悸、不眠などから、エスカレートすると心筋梗塞や脳梗塞などの致死的な脳血管障害を起こす危険性も高い性格類型です。 予防法は、少なくとも睡眠時間の確保をさせること、そして人間ドッグの結果を受け止めた生活習慣の管理ということになるでしょう。

■「チー牛型」

見た目は明るく、社交的。しかしその実は「世間」と「他者評価」を異常に気にする、近年の言葉で言えば「チー牛」なタイプです。 このタイプは、常に「空気」で気分もパフォーマンスも大きく変動するため、しばしば「息切れ」を起こすことがあります。予防法は、「ほめて伸ばす」、そして「無理をさせない」ということになります。

■「ゆとり型」

いわゆる「ガラスの心」で、弱気。控えめで消極的。「元気のない」新入社員といったところでしょうか。 このタイプは、基本的に社会の波に晒されて「嫌なことがある」と回避傾向が出ます。早期退職や転職を繰り返すことも多いです。 予防法は、"最初は"手厚くサポートすることです。ただし、本当に双方が合わないのであれば、無理に引き留める必要があるのかということはよくよく検討したほうがよいでしょう。特に改善がみられないまま年齢が進んでしまうと、結局"扱いづらい人"になってしまうだけで、本人にとっても組織にとっても不幸になってしまいます。

■「優等生型」

優等生で親や先生の言う「正解」を選んできた、あるいは体育会系で先輩の言う通りにやってきた―というタイプです。組織には適合的ですが、しばしば盲目的で猪突猛進、一生懸命真面目に取り組むこと だけが取柄なので、いつしか過剰適応を起こし、やがて「実存 」の問題を引き起こします。実存の問題とは、「自分探し」とか、「実存クライシス」と呼ばれるすべての人が誰もが一度は通る「熱病」のようなものですが、劇症化するとメンタルダウンの原因となります。問題となるのはすなわち、会社にそれなりに慣れてきたころに「自分はこのままでよいのだろうか」と悩み、退職や転職に至るケースです。予防法は、「悩みを聞く」「社内のロールモデルに引き合わせる」といったことが考えられます。

Q.適応障害に「なりやすい時期」というのはありますか?

A.「環境の変化が起こりやすい時期」は適応障害も起こりやすいとされます。

まずよく言われるのが、新年度を迎える「春」ですね。3月~4月に環境の変化が起こって、そこから1~2か月経つ頃、つまり「5月下旬~6月頃」は適応障害が自覚されやすい時期です。よく「5月病」と言いますが、環境の変化が起きてから、 実際には若干のタイムラグがあるイメージでしょうか。この時期は慣れてきたころにGWがあるので生活のリズムも崩れやすいですし、6月頃にはちょうど蒸し暑くなったり、湿度が急に上がったり、梅雨で低気圧の日が多かったりで、もとより体調を崩しやすい時期でもあります。

では「夏」はどうでしょうか。日照時間も長く、いかにも「憂鬱」とはかけ離れた季節に見えますが、「冷房との温度差」で体調を崩したり、酷暑下でパニック発作が誘発されたり、所謂「夏バテ」で心身を崩したり・・ということもありますからなかなか侮れません。

次に「秋」から「冬」にかけてです。この時期は、有名な「季節性うつ病(季節性感情障害)」の発生期と重なります。日照時間が短くなる10~11月頃から体調を崩しはじめ、日照時間が長くなってくる3月頃から体調が回復するのが「季節性うつ病」の特徴とされます。「季節性うつ病」そのものは周期性がある疾患なので、 「特定のストレス」という原因がはっきりしている「適応障害」そのものではないものの、季節性うつ病自体が、「適応障害」を増悪させるということは大いにあり得ます(なぜならば、季節性うつ病の症状は「気分の落ち込み」「疲労感」「仕事に取り掛かれない」「楽しめない」「集中力が落ちる」「眠れない」など、症状的には「適応障害」の抑うつ症状と酷似しているからです)。このウィンターブルーの時期に環境の変化(異動や昇進など)が重なると、覿面に「適応障害」を生じせしめることは、想像に固くありません。

このほか季節の変わり目も「環境の変化」という観点で重要な不調のサインです。「急に暑くなった・寒くなった」「低気圧が近いづいている(梅雨、台風)」「湿度が高い」など、様々な気候変動要因が、適応障害(自律神経失調)の引き金となるケースはあるようです。

・・・ということで、結局は1年中、適応障害は起こり得るのですね。

Q.5月病は、適応障害と関係ありますか?

A.はい。いわゆる「5月病」といわれる現象は、適応障害のことを指す場合が多いと思われます。4月からの就職や転職、異動、年度替わりといった環境の変化に適応できず、ちょうどGWをはさむ前後で緊張がいったんほどけたところで心身の不調を自覚する、といったことが原因でしょう。GWで長期休暇に入ることで、休み中のテンションと、仕事に対するモチベーションの落差が影響し、休み明けの就労への意欲低下、抵抗感につながると考えられます。

しかし、臨床的には「5月のGW明けすぐ」というより、「5月中下旬~6月に入るころ」に適応障害が急増することが知られています。「少し遅れた5月病」、さしずめ「6月病」といったところでしょうか。

体調不良を自覚するのがGW明けだったとして、そのまますぐに心療内科にかかる、ということは現実問題としてはあまり考えられません。通院を逡巡し、何とか決心して心療内科の扉を叩くのが普通でしょう。中には、頭痛だから内科、吐き気だから胃腸科、めまいだから耳鼻科・・・と、まずは対症療法をしてみて、それでもなかなかよくならない、「原因不明だ」-となってはじめて、「もしかしてメンタルかも?」と気づくということだってあるでしょう。そうこうしているうちに、発症から2週間、1か月というのはあっという間に経ってしまうのです。

「GW明けからどうも体調が悪い」ということが2週間以上続いた場合は、「適応障害」を一度疑ってみることも重要です。

Q.「気象病」は、適応障害と関係ありますか?

A.近年は、「気象病」という現象が広く人口に膾炙するようになってきました。気象病とは、気候や天気の変化(気圧・気温・湿度の変化)で自律神経が乱れ、体調が悪くなる状態の総称で、「雨が降る前になると頭痛がする」「台風など低気圧が近づくと眩暈がする」「天気が崩れると古傷がうずく」といった訴えがしばしば聞かれます。思い当たる方もいらっしゃるのではないでしょうか。

気象病によって引き起こされる症状には、次のようなものがあります。

▼身体症状

めまい、頭痛、頭重感、吐き気、食欲不振、胃もたれ、消化不良、首・肩の凝り、関節痛、古傷の痛み・疼き、手足のしびれ、喘息、むくみ、低血圧、狭心症など

▼心の症状

抑うつ、気分の落ち込み、重だるさ、倦怠感など

これらの症状は、まさに適応障害で感じられる諸症状と酷似しており、「気象病」が適応障害を増悪させる可能性は十分にあると考えられるでしょう。

Q.適応障害になると、どんな時に「気象病」を起こしやすいですか?

A.個人差はありますが、「雨の日」「台風や前線などの大型の低気圧が近づいている」「湿度が高い」といったときに体調を崩す方が多いようです。

Q.適応障害になりやすい人は、ストレス耐性が低かったり、コミュニケーション能力が低かったりするのでしょうか?

A.必ずしもそのようなことはありません。適応障害になるタイプの人は、むしろ激務に耐えて文句を言わずに仕事をしたり、対人関係構築上はソツなく仕事をこなしたり、という傾向が強いと言えます。どちらかというと、組織の要請に過剰適応してしまうがゆえに、その要求が当人の受忍限度を超えた時に、耐力が燃え尽きてしまうという表現のほうが的確でしょう。

適応障害は、ストレスの負荷が強ければ、誰でも罹患し得るメンタル疾患です。適応障害になってしまった人がそのまま「ストレス耐性が弱い」とか、「コミュニケーション能力が低い」などと短絡的に結びつけることは、環境因をスポイルした危険な偏見ともいえるでしょう。

Q.適応障害に「なりやすい年齢」というのはありますか?

A.どの年齢でも「環境との不適合」でなり得る病気です。ただし、学校や家庭、社会環境における要因を除いて、「職場要因の適応障害」という観点でみると、30代半ば~40代前半が好発年齢であるように思われます。

30代半ばになってくると、職場における職責(役職、職掌の重さ)もだんだんとヘビーなものになってくることが一般的です。さらに、人生のイベントとしても結婚・出産を経て、「子育て」や「介護」、「家を買う」などとの両立も課題として本格化する時期です。ここで問題となるのが、ついつい「まだ若い」と思って、20代のイメージで働いてしまうことなのです。

しかし残念ながら、どんなに日々鍛えていても「気合と根性、体力で乗り切るぞ」という無茶ができるのはせいぜい30代も前半までです(身体を鍛えているはずのアスリートですら、20代と30代では「闘い方」が違ってくるのを見れば明らかです)。30代前半ならまだしも、四十路が見えてきているときに無理をしても、身体がついてこないのです(当然、精神もです)。「今までと同じ働き方をしていたら、突然潰れてしまった」というタイプの適応障害は、実は30代半ば以降にとても多いのです。40代前後ともなればこれまで15~20年くらいは優に勤めてきているはずなので、「仕事 や職場そのものへの適応性」が決して低いわけではないのですが、「働き方」はこれまでと同じではまずい、というところでしょう。

実は20代の場合は、まだ「体力」「気力」があるので何とかなってしまうことが多いです。適応障害になりかけていても、何とか「転職」で環境チェンジをする力も残っています。また、20代の適応障害の場合は、「働き方」というより、携わっている「仕事」 や「職場」そのものへの適応自体が当人にとっては難しかったというケースや、むしろ「うつ病」になってしまっていたり、いわゆる「大人の発達障害」が潜んでいることもあり、「15年選手」よりも実は背後関係が複雑なことも多いようです。

一方、40代後半以降の場合は、巧く面倒ごとを避けて生きていくスキルが否が応でも身についてきていますし、部下なり後輩なりが「嫌なこと」の大部分をカバーしてくれるような立場になっていきますので、職場環境だけを原因とした適応障害は減っていきます。むしろ、本人の更年期障害であったり、背後に「介護」や「健康問題」があったりなど、「仕事以外」の要因が潜んでいるケースが増えてくるのです。

Q.適応障害の発症率はどのくらいですか?

A.全人口の2~8%と程度とされています (※1)。これは20名程度の部署であれば少なくとも1人は発症を経験し得る、というイメージです(ご自身の職場をみて、この数字はどうでしょうか?)。

(※)文献によっては、「20%」とするものもあります。5人に1人とはいかにも多い気がしますが、「適応障害予備軍」や「ストレス障害」「うつ病」といったメンタル疾患も含めると、あるいはそのくらいの数になってもおかしく はないかもしれません。

上述の通りどの年齢でも発症し得る病気ですが、特に成人の場合、女性のほうが男性よりも2倍弱程度、かかりやすいとされています(※)。しかし本人にとって強度のストレスに曝された場合、誰でも起こり得る精神疾患であることは強調しておきたいところです。

(※)男性が4%強、女性が7%弱程度とされます。統計上は、最も報告例が多いのが「独身女性」とされています。この差は、女性ホルモンの影響、女性の社会進出と「男性型社会」との齟齬の発生、ライフイベントでの環境変化(特に妊娠・出産・育児)、女性特有(ここではジェンダー的な意味ではなく、生物学的な意味で使用しています。念のため)の人間関係の複雑さなどが理由、と説明されることが多いです。

Q.環境の変化は適応障害の原因となりますか?

A.環境が大きく変わることは、適応障害の大きな原因の1つといえるでしょう。環境変化がストレスとなり、心身の不調が出てくるのが、いわゆる「5月病」であり、一種の適応障害といえると思います。

転勤・昇進・業務内容の変化など、生活にかかわる大きな環境変化が起こると、その環境変化自体がストレスとなり、適応がうまくいかなければやがて心身の不調として自覚されるようになっていきます。

人間には恒常性維持機能がありますので、まず、私たちの心身は環境の変化に順応しようと努力します。しかし、そこには必ず無理も生じてきます。適応がうまくいかなければ、覿面にバテてくるのです。

早ければ2週間くらい、遅くても1か月くらい経ってくると「不安」「不眠」「体調不良」などが発生します。ここで適切な休息をしなければ、おそらく適応障害に向けて一直線となるでしょう。

Q.職場でメンタル不全が発生する要因について教えてください。

A.過剰な仕事量や負荷、不相応な責任、競争過多、酷薄な長時間労働といった「組織全体の問題」に加え、人間関係の不全といった「個人に直結する問題」が挙げられます。

このような状況が所与の条件としてあって、かつ、抱えている業務に「見通しが持てない」とか、そもそも業務を「抱えすぎている」など、仕事に「把握可能感」がないと、処理可能な感覚を持てず、不条理な気持ちが増幅する(有意味感・有意義感を喪失する)ことで、メンタル不調の負のループが展開することになります。

Q.こんな職場環境や上司が適応障害を招来しやすい、というのはありますか?

A.こうなると、壊れますをご参照ください。ここでは、以下のような風土が適応障害を引き起こしやすいと例示しました。

▼目的意識の喪失

▼風土としての時間外労働の許容

▼担当業務外の「業務」の常態化

▼業務量の偏在化

▼即レス文化

上記で記載した「職場環境」の観点の外、「上司」というのも当然に適応障害の要因となり得るものです。具体的には、次のような上司が、所謂「クラッシャー」になりやすい要注意人物だと思います。

以下、詳しく見ていきたいと思います。

■クラッシャー上司1:「成功体験(サバイバー経験を含む)が強すぎる人」

「自分はこうやって修羅場を乗り越えてきた」という成功体験が強すぎる人は、「自分はできたのだから、他者もできて当然」あるいは「自分ができたことができない他者は無能」と考えてしまいがちです。自己能力感の肥大化ですね。「自己評価が高すぎる人」ほど、一緒に働く社員にとって迷惑な存在もありません。
実際は置かれた立場や状況が一人ひとり違うわけですし、人口が増え続けていた時代(税金も低く可処分所得も増え続けていた時代)の成功体験が、人口が減り続けている今(税金が重く可処分所得も減り続けている時代)に通ずるかどうかは実に怪しいということにも残念ながら気づいていません。
似た事例で「昔は深夜残業なんて普通だった」という、謎の「長時間労働武勇伝野郎」もいますが、四六時中メールや電話やCCツールで「通知」される現代の情報量と比べて当時、個人が扱う情報の絶対量がどうだったのかという本質的な問題や、ボーナス非課税時代と課税時代のモチベーションの違いなど、様々な「時代の違い」をまるで分かっていません。
このように、他者の気持ちや立場を真に理解できない(理解しようとしない)サイコパス気質がある場合、部下は「この人には何を伝えても無駄だ」と思うようになり、殻にこもって「面従腹背」を貫くようになります。こうなると、正しい情報はどんどん入ってこなくなり、いつか必ず、致命的な判断ミスを犯すことになります。自分が策士と思って策に溺れるか、信頼していた部下に肝心なところで裏切られるか。 いずれにしても碌な末路にならないでしょう。
部下が適応障害になったとき、「まさかこんなことで体調を崩すとは」とか、「1on1を頻繁にやっていたのに、体調不良にまったく気づけなかった・・・」という上司などは、正にこのタイプです。部下はその上司のことを腹の底から信頼しておらず、「何を言っても分かってくれない」と思って「しんどい」ということすら伝えられなくなっていたのです。

■クラッシャー上司2:「真っ当なビジョンがない人」

こう書くと、だいたい、「え、今どきそんな人いるの?」と思われることでしょう。ビジョンを持つことは、もはや「 ビジネスの常識」のようになっていますからね。ただ、その肝心の「ビジョン」とやらをよく見てみると、「売り上げで前年比○%!」とか、「首都圏で1番になる!」とか、酷いものになると「何かでトップを目指す」という陳腐極まりないものだったりすることが、びっくりするくらい多く見受けられます。こんなものは「ビジョン」ではなく、単なる「指令」でしかありません。
こんな軟な「指令」ごときを「ビジョン」に掲げるような人物は、「人を動かす」だけの志、奥深い背景、器をそもそもまったく持っていません。例示したような数値目標は 、おおよそ「ビジョンを実現するための単なる道具」であって、それ自体が「最終的に目指すもの」などではありません。数値目標自体には、人を動かす感動も、ストーリーもありません。 これなら、「路頭に迷わないためにとりあえず今期は全国で真ん中以上の成績は取ろう!」とか、「全員のボーナスアップ!」とかのほうが、余程モチベーティッドなビジョンだと言えます。ビジョンが何か崇高なもの、あるいは逆に極めて実利的なものだと勘違いしている方も多いようですが、「ビジョン」というくらいですから、「ありありと目に浮かぶ、誰もが目指したくなるような、わくわくする未来像」である必要があります。「前年比○%」のどこに、「わくわくする未来像」があるのか、一度考えても見てほしいものです。
ともかく、この「単なる指令」を「崇高なるビジョン」として上司が掲げてしまうと、上司から部下への「数字の押しつけ」になってしまうのです。 ビジョンが業務命令になってしまうわけです。そんなことをされて、部下のモチベーションは正常に保たれるとお思いでしょうか?

以上、クラッシャー上司の特徴を記載しました。これらの構造のまずさに気づかない人、気づけない人、「そもそも何がいけないの?」と思う人は、間違いなく「適応障害患者製造機」になります。絶対にリーダーにならないほうがよいでしょう。 短期間で何人も辞める職場、どんどん人が倒れていく職場には、こういうクラッシャー上司がよくいるものです。ちなみに私の聞いたことのある例では、部下を公然と「ソルジャー」呼ばわりして憚らず、着任わずか半年で5名を適応障害に仕立て、さらに2名を退職に追い込んだとんでもない冷血漢がいるそうです。社内でもそれはもう大問題になったそうですよ。「人」を「モノ」として扱う先は、「人が壊れる職場」ということですね。

ちなみに部下を適応障害に追い込んだ時に、最初に「人生を狂わせてしまって申し訳ない」と思うタイプと、「さて、補充をどうしよう・・・」と思うタイプの2通りがあります。

会社としては当面は後者のタイプを重用する傾向にありますが(中間管理職として、この発想はきわめて適合的です)、経営層までが後者の発想をしている場合は、その会社はどこかで、必ず「人」が原因でおかしくなっていくこと請け合いです。その理由は、もう明らかですよね。「人はいくらでもいるから」と、人材を使い捨てしていく先には、やがて「その仕事をやる人がいなくなる」という深刻な矛盾が待ち構えているからです。

不幸にもこういう上司に当たったら、何より自分が「適応障害にならない」ためにも、面従腹背で目立たないように生き抜きましょう(業績を上げすぎると重宝がられてどんどん要求水準が上がってとても面倒なことになりますし、業績を上げなすぎるとやり玉にあげられるので、良くも悪くも「目立たない存在(平均的な業績を上げ続ける)」でいることが生き延びるカギです)。そして当然、自分がそんな人物にならないか(なっていないか)にもよくよく留意する必要があるでしょう。

Q.クラッシャータイプの上司には、どのような類型がありますか。

A.例として、4つの類型を挙げます。

■類型1:「自分が一番優秀である」と信じて疑わない、マウンティング・タイプ

能力やスキルの優秀さと人間性はほんらい比例しませんが、人間性までが一番であるという思い込みが根底にあります。自分の非を認めない、異論の排除、パワハラなどが、典型的な行動特性として表れやすいため、「恐怖感に支配された職場」「物言えぬ職場」に陥りやすいといえるでしょう。

■類型2:「部下は劣った存在である」という、見下しタイプ

とにかく他者に対して、否定的なのが特徴です。「自分を超えられたくない」という恐れが根底にあります。常にイライラしている、仕事を任せない、あら捜しや注意ばかりが目立つ、といった行動特性により、「マイクロマネジメント」「報告ばかりの職場」に陥りやすいといえるでしょう。 そして現代的職場においては、この「マイクロマネジメント」の横行はもっともよく見られる類型の1つと考えられます。

■類型3:「自分がよければOK」という、自己中心タイプ

本質的に自分のことにしか興味がないので、人望がない(信頼されていない)のが特徴です。その場の雰囲気を重視するので指示に一貫性がない、 成果以外のことに興味がないので相談しても明確な答えが返ってこない、人によって態度を変える(特にそれが上司に強く 向けば「ヒラメ」、特定の人だけを優遇すれば「依怙贔屓」、冷遇すれば「モラハラ」ですね)、といった行動特性があるため、往々にして職場内にラポールが形成されにくい傾向があります。

■類型4:そもそもなるべきではない、なってはダメタイプ

基本的に業務のことを何も分かっていない(前提として「細部まで分かっている」必要はないのですが、分かろうとしない、興味がないというほうがより正しい)ので、 メンバーは意欲を削がれるのが特徴です。具体的な指示ができない、決断ができないといった行動特性があるため、その多くはチームとしての方向性がみえない 、指示が朝令暮改で迷走しやすい、といった状態に陥りがちです。

Q.マイクロマネジメントを防ぐためには、どうしたらよいでしょうか?

A.シンプルに「仕事を任せる」ということがマイクロマネジメントを防ぐ要諦です。そして「仕事を任せる」というのは、相手を尊敬し、信用し、信頼してはじめて成立する行為でもあります。

そして仕事を任せるときは、「明確な結果、具体的な指示」が欠かせません。「いつまでに・どのような成果を」「どのように」出してほしいのかを”明示"し、あとは結果を待つ-という態度が不可欠です。

このとき、「任せたから、プロセスは知らない」という「放置」は単なる「管理放棄」です。部下も「本当は興味がないんだ」とやる気をなくしてしまいます。一方で、「任せたからには、細かいプロセスに介入する」という「過剰介入」も、それこそ「マイクロマネジメント」です。

プロセスを「観察」はしても、過剰に「口出し」はしない(自由にやらせてみる)-そして結果責任は負う-そういうスタイルをこそ部下は求めており、この感覚こそがマイクロマネジメントを防ぐポイントです。

Q.適応障害を発生させないために、あるべきタイプの上司像はありますか?

A.成果と生産性向上に拘る「組織の管理能力」だけではなく、個人のパフォーマンスや関係性を把握し、調整する「個人の管理能力」も求められることになります。 個人の管理能力には、大きく分けて「信頼関係」と「共感(思いやり)」の2つの要素があります。詳しく見てみましょう。

■信頼関係

信頼関係とは、どのように構築されるものでしょうか。それは、まず何よりも「誠実である」ということです。誠実であるということは、「信念がある」とも言い換えることができます。いずれにしても、すべての行動において「一貫性があること」が重要な要素となります。これがないと、「他者の評価」が「自分の価値判断」のすべてとなり、いざというときに「場当たり的」で「頼りない」だけ、になってしまいます。もちろんこれに加えて、「思いやり」があることも不可欠です。「思いやり」とはもう1つの要素である「共感」とも深くかかわってきますので、この点は後述します。

なお、この信頼関係のベースには、当たり前ですが「能力」「スキル」が備わっていること、が求められます。その職能や職責に見合う能力とスキルがあってはじめて信頼関係構築のスタートラインに立てるということも忘れてはならないでしょう。ただ、能力とスキル「だけ」では信頼関係構築が成り立たないこともまた事実だといえるでしょう。
なお、綿密な信頼関係にある状態を「ラポール」といいますが、ラポール形成のための条件を見てみましょう。

▼ラポール形成のための条件

■共感(思いやり)

「共感」をもう少しかみ砕いて表現すると、人に興味・関心があって、その人の状況や心理に想いを遣ることができる人、ということです(あくまでも"共感"であって、"同調"ではないことに留意が必要です)。
まずは「チェンジチェア」を意識しましょう。チェンジチェアとは、「相手の立場を想像する」ことであり、「聞く耳を持たない」こととは対極の概念です。チェンジチェアを経て、「感情移入」のプロセスがあります。「自分だったらどんな感情を抱くだろうか」を創造するプロセスです。
「チェンジチェア」ができずに「感情移入」だけをしてしまうと、それは「自分」のバイアスで「感情的判断」をしているだけの状態となってしまいます。一方で「チェンジチェア」ができても「感情移入」が抜けてしまうと、「状況の理解はできるが、納得できない」という気持ちで相手に接することとなり、相手には「表面的にしか受け取ってもらえていない」「冷たい」と受け取られること必至でしょう。そしてそもそも、「チェンジチェア」も「感情移入」もできないとなると、それはいわゆるサイコパスになってしまいます。
「チェンジチェア」と「感情移入」のバランスを取ることで、「ありたい状態」と「現状」のギャップ(=問題)が浮き彫りとなり、いよいよ「問題の発見」が可能になります。問題が発見できることで、はじめて「課題化(では、どうするか)」が可能になります。
この「では、どうするか」までがみえるところまでが、「共感」です。これを相手の課題とせず、自分に取り込んでしまうと「同調」という現象に転化してしまいます。同調すると、相談者と自分が所謂「共依存」の関係に陥ってしまい、お互いがお互いに依拠する(配偶者が「私が支えなければ」とパートナーの暴力行為を受け入れてしまうDVの構造です)歪んだ関係が固定化してしまうので、危険です。「共感すれど、同調せず」の距離感が極めて重要になってきます。
いずれにしても、「共感」のためには人の話に興味を持って聞く、というごくごく基本的なプロセスが不可欠になります。

この「信頼関係」と「共感」によって、はじめて「血の通った」組織形成が可能となります。 この状態をベースに、「組織の目標を明確化し、計画を具体的に落とし込める」そして、「組織において、個々人の仕事の質と量を適正化できる」ようになれば、結果としてメンタルの不調を出しにくい職場を実現できることになるでしょう。

これは、正に言うは易く行うは難し、ですね。

Q.適応障害には上司の影響力が大きいことが分かりました。影響力にはどのような種類があり、またどのように適応障害に作用していきますか?

A.一般的に、上司の影響力には5つの類型があるとされています。それぞれの種類と、適応障害への作用を見ていきましょう。

■専門性

経験豊富、専門知識がある、マネジメントスキルがあるなどの「専門性」への信頼です。
相談をしても暖簾に腕押しだったり、箴言しても糠に釘だったりと、部下を幻滅させるような応対を続けていると、「上司の言うことを聞いておけば間違いない」「あの人が言うなら大丈夫」という信頼感が棄損され、やがて「適示適切に相談をする」という風土が失われ、適応障害の温床となっていくでしょう。

■人間的な魅力(魅了性)

「あんなリーダーになりたい」とか、「あの人が言うことは聞いてしまう」といった、正に「人間性」そのものへの信頼です。
リーダーとして尊敬できない立ち居振る舞い、メンバーとの距離感の異常(近すぎる、遠すぎる)、ハラスメント行為といった言動によって、ひとたび部下を失望させてしまうと、覿面に親近感や「相談のしやすさ」といったプラスの評価を失い、適応障害の温床となっていくでしょう。

■厳格性

決断が明確だったり、信賞必罰を迷いなく実行できたりと、仕事における「厳しさ」や「怖さ」「厳格さ」といったものに付帯する影響力です。
「あの上司の言うことはしっかり聞かないとまずい」と思わせるような力ですが、その力の行使を誤ると、それは単にパワハラということになってしまいます。パワハラが適応障害の引き金になることは言うまでもありません。
また逆に、余りにも決断を先送りにしたり、恣意的な評価を繰り返したりしていると、「頼りない上司だ」と思われてしまって部下からの人望は臨めなくなるでしょう。

■一貫性

自らが掲げた目標や、組織の責任をしっかりと負う姿勢のことです。「あの上司はブレないから信頼できる」と思わせるような力です。
朝令暮改過ぎる方針変更や、責任転嫁などを繰り返せば繰り返すほど、社会人として死活的に重要な「信用」を失っていく結果になります。

■返報性

メンバーのために「尽くす」姿勢が部下の心を打ち、「あの上司にはよくしてもらったから、成果で応えよう」と、返報性の原理がはたらくような関係性を指します。
人間関係はあたかも鏡のように「自分の態度」を映すものです。敬意と謝意を以て接すればお互いに敬意と謝意が生まれ、敵意と悪意を以て接すればお互いに敵意と悪意が生まれるものだと断言できるでしょう。
金子みすゞさんの詩「こだまでしょうか。いいえ、だれでも。」は、人間関係の心理を鋭く突いているといえるでしょう。

Q.適応障害を引き起こす、具体的なシチュエーションはありますか?

A.「新卒配属・転勤・異動」、「昇進」という明確な環境の変化はもちろん、慣れた職場であっても「業務量の増加」という目に見えにくい環境の変化も含め、「環境の変化」が適応障害を引き起こす典型的なファクターです。1つずつ見てみましょう。

■新卒配属・転勤・異動

新しい環境に慣れないうちは、新しい業務や人間関係に適応していくため、緊張したり、気を遣ったりする機会が増えます。社会人デビューをする新卒配属、生活環境の変わる転勤、そして異動は、適応障害のもっとも一般的なリスクファクターと言えるでしょう。自覚がなくても、人は新しい環境に適応するためにストレスを知らず知らずのうちに溜めているものです。数か月くらいは心身の不調を起こしやすいですから、積極的に休養を取るように心がけましょう。

■昇進

責任が増すばかりでなく、部下との関係性構築、上層部・他部署との調整など、視座が一段高くなります。「やるべきこと」が多くなり、その重圧によって適応障害を発症してしまうことも、よくある典型的なパターンです。

■業務量の増加

「同じ職場に長くいる人」も、適応障害の予備軍です。部署滞留が3~5年を過ぎてくると、仕事に慣れているが故に、いわゆる「快適ゾーン」を突破し、本人は仕事へのモチベーションが著しく低下していることも多いです。そこへきて実務のことはなんでも任せられるポジションにいるため、知らず知らずのうちに抱える業務量が増えていく傾向にあります。仕事に慣れているがゆえに本人も周囲も「このくらいは大丈夫」と思っているため、意図せざる業務量の増加が心身の負担になっていることになかなか気づかず、あるとき突然、糸が切れたかのように「プッツン」してしまうのです。

Q.メンバーが立て続けに適応障害で離脱している部署があります。明らかにその部署の構造に問題がありますよね?

A.はい。まだ「1人」ですと、要因がかなりのところ「その人の性格」だとか、環境に着目するにしても「たまたま、その人の業務量が多かった」など、どちからというと偶然性や個別性の問題にされてしまいがちです。しかし、2人、3人・・と続いてくると、偶然や個別性で片づけられる問題ではなくなってきます。連鎖が起こるときは、必ず構造的な問題があるのです。 必然性、そして全体の問題ということですね。

単純に業務量に比して人員が足りていないというケース、既に高ストレス状況下にあって、メンバーが離脱したことによって寸でのところでとどまっていた心理的安全性が瓦解し、「ドミノ倒し現象」が起きているというケースなどが考えられます。いずれも「高ストレス状況」が問題です。さらにこういう時に起こりがちなのが、「スケープゴート」の現象です。職場のストレスが臨界点に達しているとき、自分たちの生存を確保するために、誰か特定の人を「悪人」に仕立てて一致団結するという現象です。ここまでくると職場の秩序は完全に崩壊し、信頼関係ではなく、「敵と立ち向かう自分たち」という関係だけで組織が構築され、かつ最適化されてしまうので、ストレス状況が解消されない限り雰囲気がよくなることは期待できないでしょう。そして「スケープゴート」にされた人からさらに病んでいく・・・という形で、職場が急速に音を立てて崩れていくことになります。

こういった「高ストレス状況」とそれに引き続く「立て続けの離脱」を招く一番の原因は、やはり、「直属の上司」です。知らず知らずのうちに「部下を追い詰める上司」が、こうした状況を帰来させているのです。では、それはどのような行為によっているのでしょうか。次のQで詳しく見ていきたいと思います。

Q.「部下を追い詰める上司」というのは、どのようなものですか。

A.いかにもなパワハラ上司、嫌味をいう上司・・・というのは実は「敵」も多く、上述のスケープゴートが実は「上司そのもの」だったということもあります(そういう部署は妙に一致団結して 活気があったりするものです)。ただ、明白なパワハラは経営監査などでも不評だったり、パワハラ通報窓口などへの複数の匿名の訴えなどで会社も動かざるを得ないことがありますから、時代の要請的には、究極的には淘汰されていく方向性にあります。

実はもっと厄介なのは、「一見、そうとは見えない」タイプなのです。人を追い詰めるのには「暴力」も「武器」も不要で、以下の5つの手順だけで簡単に実現されてしまいます。立て続けに人の離脱を招いている部署は、多かれ少なかれ、以下のような行為のすべてまたはいずれかを、上司が(意識しているか、あるいは無意識的かどうかはともかく、結果として)行っているというケースが非常に多いのです。

■ストイックな定量目標

目標設定は、上司の重要な仕事の1つです。しかし目標は、それが評価基準であるがゆえに、部下を容易に追い詰める武器ともなります。実は目標には、4つの段階があるとされています。1つが「絶対目標(マスト目標)」、もう1つが「最良目標(ベスト目標)」、そして「許容目標」、最後に「最低限の目標」です。部下を潰す上司は、「マスト目標」だけを掲げて部下を詰める傾向が強いです。しかし実際は、目標には「逃げ」が必要なのです。
マスト目標は、経営のビジョンと直結する「大きな数字」です。上司はおろか、一般社員が一朝一夕で成し遂げられる数字ではないのです。そこで「ベスト目標」が掲げられます。これは、「今期はここまでいけたら最高だよね」という目標です。しかしこれですら「ベスト」ですから、実際は「ベスト」までいけることは難しいと上司も分かっているべきなのです。そこで実際の運用は、「許容目標」と「最低限の目標(本来の意味でのノルマ)」が重視されることになってきます。「許容目標」は、「まあ、なんだ、その、ここまでいけば、悪目立ちはしないよね」という数字であり、上司はともかくも、一般社員はまずここを目指すべきということになります。そして、最低限の目標として、本来の意味での「ノルマ」が課せられます。ノルマの本来の意味は「達成しなければならないと組織で定めた成績」ですから、一般社員は「許容目標達成を目指して、かつ、ノルマは果たす」という行動を取ることが本来の姿ということになります。
しかしどうでしょうか。「ノルマ」の意味をはき違え、「マスト目標」や「ベスト目標」がノルマになってはいないでしょうか。実現できるはずのない数字を追いかけさせられることほど、心理的にプレッシャーになることはありません。しかし、上司が目標に「逃げ」があることを意識的なのか無意識なのかは知りませんが「黙殺」しているので、経営が掲げる投資家向けの「デカ数字」とか、そこから敷衍しての「ベスト数字」に追いまくられることになるのです。
「マスト目標」は聞いただけで息が詰まるものです。一般社員は、そんなものは無視して「許容目標」と「最低限の目標(本来の意味でのノルマ)」に向き合うべきです。モチベーション管理が巧いタイプの上司は、このあたりの「翻訳」が得意な傾向にあります(会社の「本音」と「建前」をうまく「自分の言葉」にして部下に伝えることができる)。

■ゴールを見せない

どこがゴールかが示されていないと、人は簡単におかしくなってしまいます。またオアシスかと思っていたらそれは砂漠の蜃気楼で、実はそこには何もなかった・・・ということが続いても、同様です。マラソンや競歩、トライアスロンのような過酷な競技、登山や太平洋横断などの激しい運動が成立するのは、ひとえに「ゴール」が明確であることが挙げられます。もし、「どこまでも到達点が見えない」ような運動があれば、誰もがペース配分を見失い、いつか必ず離脱してしまうでしょう。しかし、仕事では結構頻繁に、この「賽の河原」のような地獄が展開されていることがあるのです。「終わりが見えないままとにかく走らされる」とか、「掘った穴をまた埋める」とか、「打った文書を全部消してもう一度入力する」という仕事が、驚くほどそこかしこに転がっているものです。
この状態は、「明確に<何をしたらゴールか>を示すこと」と、「途中からゴールを変更する場合は、その都度説明をする(勝手にゴールを動かさない)」ということで簡単に防ぐことができます。しかし、多くの場合、それがなされることはないのです。

■適切な情報を与えない

行動や判断に必要な情報を適切に与えない(意図的でも、意図しなくても)ことは、人を追い詰めるためのよくある手段です。独裁者が失敗するのは、周囲にイエスマンだけを置き過ぎた結果、適切な情報が入ってこなくなる(よい情報だけで悪い情報が上がってこなくなる)ことが最大の要因と言えるでしょう。逆に独裁者を側近が追い詰めようと思ったら、情報を手前で(自分のところで)止めてしまうのが一番です。「情報を制する者が、権力を制する」のです。権力欲は何も独裁国家だけでなく、私たちの身近にも潜んでいます。会社組織にもそういう構造がないと思うのは、よほどナイーブだと言えるでしょう。
適切な情報が与えられないと、「正しい行動」ができなくなり、成果をあげにくくなるのは必定です。本来の、「上司」という権力者は「適切な情報」を与えることで効率的に成果創出をさせることが何より重要なミッションのはずですが、ひとたび「権力の魔力」に取りつかれてしまうと、自分の立場を脅かされたくないという保身、そして「情報を独占することで持ち得る優越感」にどうしても抗えなくなり、必要な情報を敢えて渡さないというマネジメントが横行するようになります。

■適切な評価をしない

結果やプロセスに対して、適切に評価をしないことも、人を追い詰める常套手段と言えます。学校で内申点がかかっている大切な評価のときに、「Aさんはがんばっているけど、他の成績もよさそうだから今回は【4】でいいや。Bさんは自分が顧問をしている部活でがんばってくれているし、他の成績がまずそうだから【5】にしてあげよう」という決め方をする教師の話を実際に聞いたことがあります。「たまたまその教師が顧問をしている部活に所属していただけで、【5】になった」というような依怙贔屓は、残念ながら世の中にはごまんとあるのが現実です。会社にも当然、ありますよね。「何であいつが先に昇格しているんだ」とか、「こいつが昇格していないのはおかしい」みたいなことはそれこそあらゆる組織においてみられる現象でしょう。
適切な評価が行われないと、結果的にモチベーション、やる気、会社への忠誠心などを一気に失っていくことになります。「どうせがんばっても無駄だから」「どうせ評価は決まっているし」という雰囲気の中では、組織として効率的に成果を上げることはかなり難しくなっているのですが、こういう「どうせ職場」は、長引く賃金据え置き時代にあって、ますます増えていくことは必然でしょう。

■裁量を与えない

裁量を与えないということは、上司が「聞く耳を持たない」こととイコールです。「自分でやってしまう人」というのは、究極には「自分の考えを押し通したい」から、人の意見を聞く気がない人のことです。
どんなに優秀な人でも、ミスやエラーを起こします。1つ1つは小さなエラーでも、それが組み合わさると累積で大きなエラーにつながっていくことがあります。「累積」ですから、10%くらいのエラーがあった案件が2つ重なると、90%の事象×90% の事象で、すでに完成度は81%の事象になってしまっています。独りよがりの行動は、こうしたミスの累積化に「誰も気づかない」、そして「修正ができない」という危険性があるのです。自身のエラーの累積化を避けるためにも、上司はどんどん裁量を与え、判断ミスやエラーが、個人で対処できなくなるくらい広がらないように配慮すべきでしょう。
また純粋に、任されると人は意気に感じるものです。経営陣のスポークスマンを務めて、部下に提示された業務メニューをすべてやらせることが上司の仕事なのではなく、経営陣から下りてくる業務目標を「翻訳」し、個人に裁量を与えて任せていく-ということが必要です(経営のメッセージを律儀に「すべて」部下にやらせる部署は、驚くほど適応障害の発生率が高くなる傾向がみられます。数字の瞬発力はあっても、人材が抜けてしまえば「安定して高い成果を上げる」チームを作ることは 向こう年単位で困難になります。「翻訳」して「やるように仕向ける」ことが上司の仕事であることは、改めて心得ておきましょう)。

いかがでしょうか。これらは、問題が起こっていることが「ぱっと見でわかりやすくない」からこそ、極めて早期発見されにくく、組織が崩壊してからはじめて気づく・・というところが実に厄介なところです。

Q.どうしたら適応障害を防げるの?

A.まずは「正しい情報を収集する」こと、「心身の声に気づく」こと、「ストレスが起こりやすい環境そのものを軽減する」こと、そして「周囲に相談する」ことの4つが挙げられます。「自分が発症しないために能動的に動く」ことが肝要です。

■正しい情報を収集する

このようなページを書いておいてなんですが、私が書いている情報は所詮、「経験者の体験談」でしかありません。もちろん、それはそれで何かの役に立つことはあるのですが(私もそういうページに随分助けられました)、何事も常に批判可能性のあるバイネームの情報を第一に「信頼」しましょう。 職場などが提供するメンタルヘルス情報、官公庁のサイト、臨床精神科医が作成しているページなどは最も信頼がおけるソースです。

■心身の声に気づく

強いストレスに曝されたり、ストレスが蓄積してくると、身体面や心理面、そして行動面に「変化」が現れます。この「変化」に気づいて(黙殺せずに)早めに対処できると、悪化を食い止めることができるかもしれません。

▼身体面の変化

▼心の変化

▼行動の変化

災害から身を護る要諦は、「危険を感じたら、すぐ避難」です。これはあらゆるリスクに言えることです。「危ないと思ったら、逃げる」「マズいと思ったら、身を伏せる」-「危険」を察知する観点はきわめて重要です。多忙になるとついついそのセンサーが鈍ってしまい、余計に適応障害と親和的になってしまうことがあるのですが、ここは上記の観点をぜひ意識して、「気づきの力」を高めるようにしたいものです。

■ストレスが起こりやすい環境そのものを軽減する(環境調整)

再発防止と観点は同じですので、詳しくは適応障害の再発を防ぐ考察「働く人を疲弊させる風土」の見直しなどもご参照ください。ここでは、情報過多になりがちな現代の職場において、「即レス」を排することがいかに大切か、を繰り返し述べています。
このように「仕事の仕方を見直すこと」に積極的にチャレンジすることが、結果的にストレスを軽減していくことにつながります。放っておくと仕事は際限なく増えていく傾向にありますから、「あれもこれも」ではなく、優先順位をつけて「引き算する」「捨てる」ことが重要ですね。

■周囲に相談する

自分の心身からの「悲鳴」に対して、「気づき」を得る姿勢は不可欠です。しかし、ストレス戦闘モードに入ってしまっていると、自分自身ではその不調がマスクされてしまっていて、なかなか気づくことができません。だからこそ、「周囲の目」が必要なのです。
身近な家族、同僚、そして上司。実は、自分の近くでは自分の状態を知っている人がたくさんいます。普段からできるだけ自分の状態や気持ちを開示するように努めておくことが、大切な行動です(言うは簡単、実践はとても難しいことです)。これが機能すると、周囲が必ずや「気づき」の助けになってくれるはずです。

Q.適応障害に対するよくある誤解は?

A.今はさすがに公言する人は少なくなっていると思いますが、適応障害は「甘えだ」「気の持ちようだ」 「気合が足りないからなるんだ」「怠け病だ」「サボりでしょ」「メンタルが弱いからかかる」というのがもっともありがちな誤解でしょう。しかし、実際はどちらかというと、ストレスに対処しようと「頑張りすぎる人」に起こりがちな病気であるということ、そしてストレスの負荷や環境の急変によって「誰にでも」起こり得る病気であることは、かなり周知されてきているのではないでしょうか。

一方で、「心が弱いから」「精神的に打たれ弱いから」「心を鍛えていないから」といった、「根性論」や「性格」にこの病気を矮小化して捉えてしまうことはよく見られますし、「絶対に完治しない」「必ず再発する」といったように、いたずらに不安を煽る誤解もよく見られます。

Q.職場の人の「適応障害」への偏見が気になります。

A.人の考えを変えることは非常に難しく、わざわざ体調を崩したあなたが労力をかけて「人の考えを変える」ことに腐心する必要はないと思いましょう。復職後、元気に働き続けて、安定的なパフォーマンスを上げていれば、自然と偏見も消えていくのではないでしょうか。

身近に「適応障害」や「うつ病」を経験した人がいないと、どうしても「気合が足りない」「甘えである」「怠け病だ」「サボりでしょ」「メンタルが弱いからかかるんだ」と思い込んでしまうものです。

しかし、適応障害は、明確なストレス源によって誰でもかかり得る病気であり、しかも、しっかりと付き合っていける病気でもあります。むしろ、身近な復職者の姿を見ることではじめて、病気への理解も深まっていくものだと考えるのがよいかもしれません。

Q.職場で病名を公表していません。カミングアウトすべきでしょうか?

A.公表してから奇異の目で見られたり、偏見を受けたり、あるいは過剰に気を遣われたりするのも困る、という事情はよくわかります。

しかし、職場の同僚に現状を正確に伝え、配慮を得られる状態にしておいたほうが、中長期的には望ましい職場環境になる可能性は高くなるといえるでしょう。とはいえ基本的には個人の自由で、公表しなければいけないということはありません。

どうしても公表を控えたい場合は、メンタル疾患の病名を使わずに、「頭痛やめまいがひどい」など、症状ベースで現状を説明する、という方法は使えるかもしれません。

Q.同じ職場でも、適応障害になる人とならない人がいます。つまり、適応障害になる人は「精神的に弱い」ということなのではないのですか?

A.適応障害は、論理を追求する「脳」が、ともすると非論理的な「心」や「身体」を抑え込むことで成り立っている現代社会の構造、すなわち「脱心性」「脱身体性」-要するに「脱人間性」-傾向の強まる現代社会において、正にその「脱人間性」によって引き起こされる、きわめて現代的な病であると捉えることができます。

極論をすれば、人間性を極度に失った現代社会の要請に過剰に「適応」し、その結果として「適応」できなくなったが故に「適応」障害が発生します。逆説的ですが、過剰適応は適応障害と裏表の関係にあるということです。したがって誰でも、条件が揃えば心身のバランスを崩す可能性はあります。

もちろん、適応障害の因子には「ストレスを溜めやすい性格」や「認知の歪み」「考え方のクセ」があると言われています。また、環境変化に対してのレジリエンスの強弱も個人差があるでしょう。しかし、それ「だけ」で適応障害を発症するわけではありません。 長時間労働をはじめとした仕事の負担(責任、緊張の度合い)はもとより、環境の変化、職場環境、人間関係、家庭事情、体調、 ここまでの疲労の蓄積度合い、残っている体力・気力、周囲の理解・協力や支援の度合いなど、様々な要因が組み合わさって適応障害は発症するものです。さらに、取り組んでいる仕事に対する想いやモチベーションの軽重によっても大きく影響されるとされています。

現代社会が「人間性」をスポイルするという本質的な構造に立脚している以上、どんなに「精神的に強い」と思われている人でも、適応障害を発生する危険性は「誰にでも、常にある」と考えたほうがよいでしょう。

Q.うーん・・でも、どうしても適応障害には「甘え」の要素があるような気がしますが・・・

A.いざ自分がなったときに、「甘え」などではなかったと痛烈に気づかされることになります。

「甘え」を辞書で引くと、「相手の行為に遠慮なく寄りかかる」とか、「慣れ親しんで我儘に振舞う」とあります。その人が持っている精神気質も適応障害の1つの原因であることは間違いないですが、適応障害を惹起しやすい気質というのは「真面目」「完璧主義」等々、「甘え」の対極にあるような性格群であることがほとんどです。

さらに抑うつ症状そのものが、ストレスによる日和見の(普段は病原性を有しない)特定のウイルス(ヒトヘルペスウイルスの一種)の活性化が原因、という最新の学説があります。またセロトニンの不活性でうつ症状が惹起されることや、日照不足によるビタミンDの生成阻害のほか、遺伝や甲状腺の病気など、「抑うつ症状」を発生させる原因は様々あると言われています。

抑うつ症状の1つである適応障害は決して「甘え」によるものではなく、何らかのきっかけで、誰もがなり得るものだと思っておいたほうがよいでしょう。

Q.これまで元気だった人が、突然離脱してびっくりしました。何かトリガーのようなものがあるのですか?

A.高いストレス環境下で働いているときに、周囲から見るとほんの「些細なこと」が、「最後の一押し」になってしまうということはよくあります。それはつまり、クレーム対応やトラブル対応といった誰にも分かりやすい引き金に限らず、日常業務の中でトリガーとなってしまうことが無数にあることを示唆しています。

このほか、「季節の変わり目」「天候不順の時期」「気圧変動の時期」「風邪をひいた直後」「寝不足」「飲酒」などは、高負荷を受けているときには適応障害の発症を 不可逆的に進めてしまう要因になる可能性があります。

Q.立て続けに人が倒れる部署と、そうでない部署があるように思います。その原因って何でしょう?

A.大きく分けて2つあると思います。1つが、「職場環境の問題」、そしてもう1つが「伝染」です。

■職場環境の問題

まず職場環境の問題ですが、これは敢えて申し上げることもなく、「職場環境にそもそも適応障害を発生させやすい要因がある」ということになります。そもそもが激務である、達成不可能なノルマが課せられている、クラッシャータイプの上司がパワハラを重ねている、急激に職場環境が変わった、など様々な要因があると思います。
このとき、特性として「新入社員・若手社員が立て続けにやられる」のか、「ベテラン社員がかかりやすい」のか、「特に分け隔てなく病んでいる」のかによって、その原因を探れる可能性があります。「新入社員・若手社員」が多いのであれば、 多忙過ぎて他人を構っている暇がないなど、そもそも新人が配属されるべき職場の状態ではない、ということになるでしょう。「ベテラン社員」 がその中心であれば、直近(1年くらい)で何か環境に劇的な変化があった可能性があります。「特に分け隔てなく」の場合は、そもそも職場がパワハラ気質なのか、そうでなければ直近で環境が激変したという可能性を探りましょう。

■伝染

続いて「伝染」です。これは無視することのできない要因です。精神病は決して(感染症的な意味で)伝染するものではありませんが、心理的に、また精神医学的には「伝染」することがあるとされています。これを「感応精神病」と呼ぶこともあります。すごく簡単にいうと、「毒気に当てられる」とでもいいますか、「身近な人もおかしくなってしまう」ということですね。
プロのカウンセラーですら、うつ病を「もらう」ことがあると聞きます。学校で誰かが倒れると、他の生徒も倒れる・・という集団ヒステリー的な現象が観察されることもよくあります。
職場で誰かが休職すると、後を追うように別の誰かがおかしくなって・・とその心因反応が連鎖することは、十分にあり得るのです。 それはまるで、白いシャツに黒いインクを落としたシミが、じわりじわりと周囲に侵食していくかのようであります。
特に疲労によって精神が昂っていて、「感度」が高まっている人が集まっているような、ギリギリでまわっている職場(要するに日本のほぼすべての職場)では、この「伝染現象」はバカにはできないことだと思います。 さらにストイックなことを書くと、誰かが「休職」することで「休んでもいいんだ!」という風穴を開けると、堰を切ったように一気にその方向へ流れ込む・・という、ある種の「逃避」の心理もこの現象を説明できる可能性があります。

いずれにせよ、立て続けに人が病む職場は、構造的に何らかの問題を抱えている可能性がきわめて高いですので、その原因を究明し、早急に組織的に対処をする必要があります(「1人目」ないし「2人目」までは許容されても、さすがに「3人目」を出してしまうと、決定的な士気低下は避けられません。従業員の会社へのロイヤリティも落ちる一方でしょう。 遠からず、それこそ「優秀な人から辞めていく」という最悪な職場に必ずなっていきます)。

Q.メンタル不調が伝染していくプロセスを教えてください。

A.適応障害も「病気」の1つとすると、風邪のアナロジーで考えると分かりやすくなります。すなわち、「感染」→「発症」→「伝染」というプロセスです。

風邪は、空気の悪いところに充満したウイルスによって感染し、抵抗力が落ちている人が発症し、周りの人々に伝染す、というプロセスを踏みます。 メンタル不調も、ストレスを溜めやすいところで感染し、ストレス抵抗が落ちている人がまず発症(休職や転職などの職場離脱)、周りのメンバーに伝染するというプロセスを踏むと言えるでしょう。

発症・伝染の段階で気づいたころには、「感染しやすい環境」が既に組織内に蔓延してしまっているということはよくあります。 こうなってしまうと放っておいても治ることはまずなく、「換気」「消毒」などの対処をしていく必要があります。要は、元から絶つしかなくなるのです。

メンタル不調が伝染していくプロセスは、「ドミノ倒し」と言えるかもしれません。もともと足場が不安定で倒れやすくなっていたところへ、同じ環境で辛うじて立っているドミノ同士が、状況の近い順に次から次へと倒れていく-そんなイメージでしょうか。最初のドミノは、あるきっかけ(最後の一押しともいえる)で倒れます。一度倒れたら、止めることはなかなか難しい-そして、一度倒れたドミノの列を修復までには時間がかかる-メンタル不調伝染のプロセスとそっくりです。

Q.感応精神病が職場の中で広がることは「ある」と考えてよいですか?

A.はい、「あり得る」と思ってよいでしょう。適応障害でAさんが休職すると、次にBさんが退職し・・という形でドミノ倒し現象が起こることはしばしば観察されます。適応障害が発生するような職場は、しばしば「ギリギリ」で何とか持ちこたえて業務をこなしているケースが多いと推察できますから、特にAさんの職場内での影響力が大きいと、それに引きずられる形で次々と、精神の失調が「うつる」ことは否定できません。

AさんとBさんの関係が近い(同じ職種でよく相談をしあっていた、一緒のプロジェクトを行っていた、など)ほど、感応する可能性は高いといえるでしょう(※)。

(※)2名の間で起こる感応精神病を「二人精神病」、多数で発生した場合は「三人精神病」とも呼びます。

Q.感応精神病が職場内で蔓延るのを防ぐ方法はありますか?

A.関係が近ければ近いほど、「感応」してしまい、適応障害を「もらう」危険性が高くなります。職場内で誰かが過労で倒れると、少なからず職場内のメンバーにはショックが走ります。「代わってあげられなかったのか」とか、「何ができることはなかったのか」「気づいてあげられなかった」など、後悔する人も出てくるでしょう。特に、近くにいて辛い状況を知っている人であれば猶更、「あのとき声をかけておけばよかった」と思うことでしょう。しかし、必要以上に相手の立場を想像してしまうと、まさに「もらう」ことになるのです。

一番注意が必要なのが、「倒れた社員と仲が良かった同僚」「適応障害やうつ病から復職して1年以内の社員」です。

「仲がよかった同僚」は、倒れた相手の状況をよく知っていますから、「次は自分もなるかもしれない」という不安感に苛まれたり、一方で「そうか、その手があったか」と(深層心理で)感じてしまい、気持ちとしてマイナスの方向に引っ張られる、ということが往々にしてあります。非常に危険な精神状態ですので、早めに現状の気持ち、組織に感じている問題点などを個別にヒアリングする場を設け、必要に応じて業務軽減も検討するなど、メンタルケアを間髪を入れずに行うようにしましょう。

「復職して1年以内の社員」は、より危険です。「かつて自分が通った道」がフラッシュバックして、精神的に極めて不安定になりがちだからです。実際、うつ病から復職した社員が、ようやく復職から1年経とうとしたときに、同じ職場で精神を病んで退職する社員が出てしまったことで、急にメンタルを持ち崩し、あっという間に(後を追うようにして)退職してしまった-というまったく笑えない事例も起こっています。何度も書いているように、適応障害が繰り返される職場は何かしらの機能不全が起こっているものです。こちらも、早めのメンタルケア(できれば産業医の協力も得る)が不可欠です。

Q.「え?こんな些細なことでおかしくなってしまったの?」と思うようなことが原因で適応障害になってしまった人がいます。不思議でしかたありません。理由はありますか?

A.3つの要因が考えられます。1つが、そもそも適応障害自体が「そういう病気である」というもの、もう1つが、限界だったところへ「最後の一押しをしてしまった」というもの、最後の1つが「そういう発想がまかり通っている職場そのものが要因」というものです。

■そういう病気である、とは?

まず「そういう病気である」ということから説明します。適応障害の症状は、「ある環境の変化に起因する明確なストレスが原因となり、過剰な心身の不調が生じ、社会生活に大きな支障がでる抑うつ症状」と定義づけられますが、適応障害を発症させるに至ったストレスが、まさに「過剰な」、すなわち「通常では起こり得ない」心身の不調を引き起こしていると解釈することがまず自然なのです。 普通だったら何でもないようなことが、とんでもなく苦しくなるからこそ、社会生活に支障が生じるのです。普段だったら平気な顔で対応できる些細なクレームを処理した直後に、燃え尽きた。あるイベントの振り返りで、同僚から不備を指摘された直後に、燃え尽きた。-「え?なんで?」ということが、まったく受け容れられなくなるということがあるのです。

■「最後の一押しをしてしまった」

続いて「最後の一押しをしてしまった」説について。精神を正常に保つ崖っぷちにいるときに、ほんのちょっとした一押しが、「ダメ押し」になってしまったということで、こちらも説明がつくでしょう。普段なら何ともない、ちょっとしたミスの対応が、その人を崖下に転落させてしまった・・ということはあり得るのです。私も、普段なら何でもない 取引先からのごく初歩的な問い合わせ対応を受け付けたことが「最後の一押し」となり、それ以降、休職に突き進んでいきました(具体的には金曜の夕方にその対応を終えて以降は社用携帯をまったく触れなくなり、翌日・翌々日と、とんでもないうつ状態になった挙句、月曜から休職となっています)。

■そういう発想がまかり通る職場自体の問題

最後に「"こんな些細なことで"がまかり通っている職場」であることそのものが問題である、という点について。これはその通りで、「些細かどうか」は当の本人にしか分からないことだからです。単に価値観を「押し付けて」いるのですよね。人前で話すのが大好きなAさんにとっては特に苦痛でも何でもない朝礼のスピーチが、人前で話すのが苦手なBさんにとっては、苦痛で苦痛で仕方がない、ということは普通にある話でしょう (心が弱っていたら、猶更です)。ここは「チェンジチェア」の観点を持つべきであり、自分の価値観だけで「些細なこと」と決めつけるのはきわめて乱暴なことなのです。

Q.適応障害は遺伝しますか?

A.適応障害を抱える親の子どもが必ず適応障害になることはありませんが、「うつ病」などのメンタル疾患になりやすい気質や性格はしばしば遺伝する場合があります。したがって、家系的に適応障害になりやすい傾向があること自体は、否定できません。

とはいえ、たとえ家系にメンタル疾患者が多かったとしても、物事の捉え方(認知)の歪みに気づいたり、ストレスを溜め込まない日常生活を心がけることで、予防することは十分可能です。

またそもそも「適応障害」に限っては、抱えきれない程のストレスに曝されたときには誰でも発症し得る病気ですから、後天的な要素も相当にあると言えるでしょう。

したがって、この事実を以て、過度に悲観的になる必要はありません。

Q.適応障害を分かりやすく例えると、どのような表現ができますか?

A.比喩を使うと、物事の本質を高次な視座で捉えやすくなります。以下、適応障害の解説を、いくつか日常的なアナロジーを使って例示してみます。 下記と重複する部分もありますが、「適応障害たとえ話」というページも作っています。併せてぜひご参照ください。

■独裁者とレジスタンス

適応障害は、意義(過去の反芻と未来の展望)の存在である「脳」が、意味(今ここに在ること)の存在である「心と身体」と「共存」するのではなく、彼らを支配下に置くように振舞ってしまうことから心身に変調を来す疾病であると捉えることができます。現代社会の構造上、どうしても「有意義性」が「有意味性」に勝ってしまうため、脳は常に支配的に振舞うことになります(ゆえに、人間は社会的存在であり、理性的に振舞うのです)。問題は、その「支配」がエスカレートし、「独裁」に転化したときです。
まだ、健全な「支配-被支配」の関係であれば、心身が「ちょっと疲れた、休みたい」と訴えれば、脳は「そうか、休んでよい」と指示するでしょう。しかし、独裁の領域に入ってくると、心身が「休みたい」と訴えても、脳はそれを「不満分子」と見做して、「黙殺」します。またあろうことか、その逆の言葉(「仕事があるのに、休めるわけがないだろう」)を投げかけて、心身の訴えを上書きしてしまうことすらあるのです。
困った心身は、徐々に様々な抵抗運動(レジスタンス)を試みるようになります。会社に行く足が止まってしまうのは、「ストライキ」そのものです。頭痛や腰痛などの痛みで身体が動かなくなってしまうのは、「ロックアウト」とでも言えましょうか。やがて「眠れない」「食欲がない」「意欲がない」・・と心身はゲリラ的に抵抗活動をエスカレートさせていき、物理的に脳(司令部)が動けないように働きかけるようになります。こうなれば、最終的には休職するしかありません。
そして脳がとうとう観念して休んでいるうちに、心と身体は「発言権」を回復していくのです。「頭脳政権から、脳・心・身体による連合政権へ」。ここにクーデターが成立したことになります。
しかし、現代社会は「脳」に親和的です。復職すると、次第に脳が復権していきます。ただ脳の復権に任せておけば、やがて独裁へ突き進み、同じことを繰り返すようになります。ここで「心と身体に発言権を残しておけるか」が、再発防止のための最大のポイントとなるのです。

■JRPG(和製ロールプレイング・ゲーム)

編成したパーティーが瀕死状態で強敵にエンカウント(出くわすこと)したとしましょう。ここでゲームオーバーになってしまっては、ここまでのストーリーがセーブポイントからやり直しになってしまいます。
そんなとき、選ぶコマンドは「たたかう」ではなく、「にげる」ですよね。
仕事も同じで、瀕死状態で闘い続けることは得策ではありません。体力も気力も落ちていて、八方ふさがりになっていると感じたら、「逃げる」を選択することも時には必要だということです。 「逃げる」には体力が必要です。ですから、「戦闘不能」になる前に、さっさと逃げてしまうことが肝要です。
RPGの例えというのは非常に分かりやすくて、「逃げる」ばかりでは「お金」も「経験値」も溜まらない、というところも含めて、まさに「仕事」のアナロジーになっていることに気づかされます。

■列車と自動車(DMV)

組織人というのは、多かれ少なかれ、決められたレールの上を只管走る「列車」に例えられます。適応障害になるときには、この列車がブレーキの壊れた「暴走列車」になっていると言えるでしょう。
しかも厄介なことに、どこを目指しているのか分からない、目的地不明のミステリートレイン状態です。さらに皮肉なことに、「線路は続くよ、どこまでも」なのです。エンドレス・ミステリー・トレイン。最悪です。
最近はDMV(デュアル・モード・ビークル)というのが実用化されていますね。「列車」も「車」にもなれる次世代の乗り物です。ここはいっそのこと、DMVになってみてはいかがでしょうか。
社会人ですから、ある程度決められたレールの上を走らなければならないときはあります。そんなときは「列車モード」でトコトコと行きましょう。
しかし、組織人とはいえ、「自分の意思で動く」という時間も大切です。そんなときは、「自動車モード」になってみましょう。自動車と列車の違いの1つに、「ハンドルの有無」があります。そうです、「ハンドル」で、自分の進路を切り拓いていくのです。
まずは休んで、燃料を補給して。それからDMVになって。自分を動かすハンドルを持つのです。

■一般道と高速道路

適応障害になるような人は、大抵は頑張り屋さんでしょうから、道路にたとえると「高速道路の追い越し車線」をずっと走ってきたようなタイプ、と言い換えることができそうです。
しかし、ずっと追い越し車線を走り続けるというのは疲れるものです。後ろから猛追撃をしてくる車、横から無理やり入ってこようとする車。ただでさえスピードを出していますから、周囲に配慮しつつ、「事故を起こさないように」、それでも「より早く目的地を目指す」という走り方をし続けるのには注意力の継続にも限界があります。それでもサービスエリアで休むこともせず、ずっとずっと走り続けているのですから、それは疲弊して当たり前なのです。だいいち、燃料も切れてしまいますしね。
休職を経て復職すると、まずは強制的に高速道路から降ろされた状態からスタートします。しばらく高速道路のスピードに慣れてから一般道に下りると、「スピードの遅さ」にびっくりすることはしばしばです。しかし、この「一般道」こそが、日常生活の場そのものなのです。まずはしっかり一般道に慣れて、徐々に高速道路を走れる自分を目指していけばよいのです。
だいいち、復帰したばかりでは、危なっかしくて合流車線に乗っかることすらできませんよ。

■エネルギー切れ

まず、「エネルギー」「老廃物」「ストレス」「休息」という要素があるとします。簡単化のため、これらの単位はすべて等価とします。
ここにコップが2つあります。1つが意欲的な活動に必要なエネルギーのコップ。もう1つがそのエネルギーの代謝によって生まれた老廃物のコップ(心身の毒素)。両者は正比例の関係にあるものとします。
このエネルギーは、かかるストレスによって費消されるものとします。10のストレスが掛かれば、10のエネルギーを消費し、代謝によって10の老廃物が蓄積していきます。ここで10の休息をすると、5のエネルギーが補給され、5の老廃物が消失するものとします(エネルギー保存則と所与の条件により、休息のエネルギーは、エネルギーとその代謝物に等しく分配されます)。
エネルギーのコップにエネルギーが入っていたとき、日常的にストレスが掛かり続け、そのスピードに休息が追い付かなければ、やがてエネルギーが枯渇することは自明です。「抑うつ状態」は、正に「ストレスによってエネルギーが枯渇した状態」であることが直観的にも捉えられるのではないかと思います。
一方、老廃物のコップにも着目してみましょう。日常的にストレスが掛かり続け、そのスピードに休息が追い付かなければ、やがて老廃物(毒素)がコップを満たしてしまうことは自明です。このような状態になると、「毒気に当たった」状態となり、攻撃性が自分、ないしは他人に向いて、厭世的になるとか、四六時中イライラしているといったことも起こってきます。これも「エネルギー切れ」の裏返しということになります。

■骨折

「うつは心の風邪」といいますが、どちらかというと「骨折」なのではないかというのが適応障害を経験しての感覚です。そもそも、「心が"折れる"」という比喩表現がその感覚の妥当性を示唆しています。
骨折すると、「まずは動かないように固定」(絶対安静)→「回復してきたら、日常生活の中で復帰訓練を開始」(リハビリ)→「骨折後の骨と生きていく」(寛解)というプロセスを踏みます。私も足を骨折したことがあるのでよく理解できるのですが、骨が折れると元の状態に100%戻るということはなくて、「日常生活を問題なく送れるようになる」ということを原則として目指すという治療をしていくのですよね。事実、私は低気圧が近づくと古傷が痛みますし、胡坐も満足にかけなくなってしまいました。どこまでも「骨折後の骨と新しく生きていく」ということなんですよね。
これは心も同様で、折れたら「まずは社会生活から離脱」(絶対安静)→「回復してきたら、日常生活の中で復帰訓練を開始」(リハビリ)→「折れた後の心と生きていく」(寛解)というプロセスを踏んでいきます。心も、一度折れたら元の状態に100%戻るということは決してなくて、「日常生活を問題なく送れるようになる」ということを原則として目指すという治療をしていくのですよね。事実、「前と同じような働き方」をすれば再発は確実でしょうし、以前と同じテンションで仕事に向き合うことはできなくなってしまいました。どこまでも「折れたの心と新しく生きていく」ということなんですよね。
この「新しく生きていく」という部分-Reborn性とでもいうのでしょうか-こそが、骨折と適応障害におけるリハビリの要諦なのではないかと感じる次第です。

■魚

金魚は、エサを与えられれば与えられただけ腹が膨れ上がるまで食べてしまう-ということを聞いたことはありませんか?まさにこれ、社畜は、仕事を与えられれば与えられただけ過労で倒れるまで受け続けてしまう-ということのアナロジーです。
それから、マグロですね。立ち止まると死んでしまうので、目を開けたまま眠る-と。私たちは人間ですから、ちゃんと横になって寝るのです。立ち止まってよいのです。

■充電池

充電池は、「使いながら充電すると、充電と放電を同時に行うことになって負荷を高めるため、消耗を早める」という特徴があります。
休養は心と身体のまさに「充電」です。脳はここに活動という「放電」を持ち込みがちです。しかし、使いながら充電すると「劣化が早い」-これもまさに「休養が大切」ということを説明するときのよい比喩になっているかと思います。

■ゴールのない長距離走

長距離走は、ゴールが分かっているからこそペース配分を考えて走りきることができます。「あと何キロあるのか」という見通し(ゴール)がみえない状態で、適切な休息・補給がない状態で走り続ければ、誰でもおかしくなってしまうでしょう。

■サーフィン

波に乗れているうちはよいのですが、「あの波も乗れる」「この波も乗れる」・・・とやっていくうちに、だんだんと疲れてきます。適切なタイミングで浜辺に戻ることも考えないと、やがて疲れ果て、溺れてしまうかもしれません。ボードを変えたり、たまには乗り物を変えたり(小舟?客船?)することも重要ですね。

Q.適応障害は、放っておいても治りますか?

A.いいえ。「環境が変わる」「症状が収まる」「本人の認知の歪みが修正される」の3点が整わない限り、決して治りません。すなわち、「環境が変わる」ためには大抵は「休職」が、「症状が収まる」ためには「投薬」が、「認知の歪みが修正される」ためには「認知行動療法」や「社会復帰のためのリハビリ」などが不可欠です。このうち1つでも欠ければ、いたずらに抑うつ症状が長引くことになり、予後を悪くしていくでしょう。

骨折したまま試合に出れば、骨折した部位は間違いなく悪化し、余計に「以前のような試合」をすることが難しくなるでしょう。これとまったく同じで、心が折れたまま社会に出てしまうと、手負いの心は間違いなく悪化し、余計に「以前のような社会生活」は遠のくといえるでしょう。

ですから、小手先の治療で誤魔化して、しっかりとした休みを取らずに「薬を飲んで何とか働いています」という状況だったり、休んだはいいけれど「考え方などは特に修正せずにそのまま働いています」などということをやってしまったりすると、悪化・再発の一途をたどることは目に見えているのです。「放っておいても、治らない」という事実をしっかりと胸に刻み、体調が悪ければ一刻も早く、医師の診察を受けるべきでしょう。

Q.適応障害は増えているのでしょうか。増えているのだとしたら、その原因は何でしょうか。

A.統計的に有用なデータがあまり見当たらないのですが、定性的にみて「増えている」という論説は多く見かけます。身近な例を確認しても、1つの部署で短期間に複数の社員がメンタルを壊した-という話は、どこかで見聞きするのではないでしょうか。感覚的には、「増えている」と判断してもそう間違ってはいないという感触です。以下、「増えている」という前提で議論を展開していきます。

■心療内科への受診者の増加

「適応障害が増えている」原因の1つは、「鶏が先か卵が先か」になってしまうのですが、「そもそも、心療内科への受診者が増えた」ということがあるでしょう。「精神病院」と聞くと尻込みしてしまいますが、「心療内科」と聞くと何となくハードルは下がります。そして、職場におけるメンタルヘルスへの理解・サポート体制も、格段に進歩してきています。今まで潜在的な適応障害を抱えていた人々が、医学の世界に「顔を出すようになった」と捉えることはそう外れた解釈ではなさそうです。

■社会構造と働き方の変化

前項の「受診者そのものの増加」というロジックを前提で適応障害の発生理由を辿ってみると、そこには「社会構造、働き方そのものの変化」が挙げられるように思います。このQ&Aでは各所で取り上げていることですが、適応障害とは「過去の反芻と将来への不安」を好む「頭脳」が、「今ここの自分」を大切にする「心身」を支配し、「心身の声」が届かなくなったことによる一種の人格破綻現象である、と見ることができます。「意義性」を求めてしまう脳と、「意味性(心性・身体性)」を求める心身との相克が、適応障害の真因であるという解釈です。
なぜこうなってしまったか。それはまず単純に、「パイの減少」が挙げられます。日本は完全に人口の減少期に入りました。全体のパイは日ごとに縮小しています。そして、「未来」そのものである子どもの数は、「割合」だけでなく「実数」も激減しています。ここへ、平成年代から続く経済政策(不況時の増税を端とする総 需要抑制・総賃金抑制のデフレ化政策)による可処分所得の減少という問題がのしかかっています。これで「将来不安」が惹起されることは必定です。そして「将来への不安」は、「頭脳」の得意分野でもあります。

■論理志向社会というレイヤー

ここに「情報化社会」というレイヤーが密接に絡んできます。デジタル社会、AI社会というものは、そもそも「0か1か」で世界を表す完全論理の世界であって、この完全論理は「意義性」ときわめて親和性が高く、「意味性(心性・身体性)」をしばしば「無視」します(心性と身体性は、見事なまでに非論理的です)。「知」の管理と「情」の管理という言葉がありますが、現代社会は完全に「知」、すなわち「論理」によって突き動かされているとみることができます。「情」がない社会、「非情社会」とでも換言できますでしょうか。
もともとそのレイヤーにあって、心身の無理はマグマのように溜まっていたのでしょう。これがコロナ禍による「テレワーク」の普及により、一気に爆発したという見方もできます。ただでさえ「不安」が渦巻くコロナ禍こそ、「情」のアプローチが不可欠であったところへ、私たちは容赦なく、「情報」という「論理(≒意義性)の洪水」とでもいうべき波が絶えず押し寄せる道を選択させられ、 私たちの情(心性・身体性)を根こそぎ奪われてしまったのです。

さて、上記までについては要約すると「単純に医者に掛かる人が増えたから」「人口減少と経済悪化で将来不安が増したから」「テレワークで論理世界が強化されからた」という、人口に膾炙した3つの議論を展開してきました。ここまでは概ね首肯される方が多いのではないかと思います。 あるいは、どこかで聞かれたことがあるので退屈な議論だったかもしれません。ただ私は、もう1つ、刺激的な仮説を考えているので取り上げてみたいと思います。それは「晩婚化」です。

■晩婚化と体力の問題

日本は既に「30歳前後」が初婚年齢という晩婚社会です。まだ初婚年齢が「20代後半」であった2000年前後とは、様相も大きく異なってきています。
結婚は言うまでもなく「他人と折り合って生きること」であり、子どもができたら猶更「理不尽な相手の要望に応えること」も要求されます。「他人の人生を多少なりとも自分が背負う、取り込む」ということですね。多かれ少なかれ、結婚生活の過程で「価値観の転換」を迫られることになります。
以前は、「20代」で経験してきたこれらの「価値観の転換」が、今や「30代」にまで伸びている。これが意味することは何か。薄々気づいている方も多いと思うのですが、「三つ子の魂百まで」とはよく言ったもので、人間の性質はそう簡単に変わるものではありません。況や、30代においてをや。まだ柔軟な20代ならともかく、30を超えて大きく価値観を転換させることはとても難しいのです。
ところで、「平和主義者」は、「平和」を唱えているだけで「平和」の実践はしない存在です(実際に平和を維持しているのは国防組織と政府です)。これと同様、実は適応障害になる人に多い「完璧主義者」も、「完璧」を唱えているだけで「完璧」を実現し得ない存在です(実際に「完璧にできる」人とは、現実と折り合いをつけ、持続可能な生活を崩さない人-すなわち、「日々を丹念に暮らしている」市井の多くの生活者のことでしょう)。「主義」を掲げることと、「実践」することは時に乖離することがあるのですね(そうでない場合ももちろんあります)。
さて、ここでの「持続可能」というのは、「現実と折り合いをつける」こととほぼイコールの概念です。「現実と折り合いをつける」ことを学ぶのは、実は「婚姻」という社会装置がとても有効だったのです(お見合い、所与の経済事情、子どもの教育、お互いの実家、住まいの制約 etc..)。しかし、婚姻という装置を使って「現実と折り合いをつける」生き方を学ぶには、余りにも「遅すぎる」時代になってしまったのかもしれない、というのが1つの仮説です。
この「晩婚化」でもう1つ影響があることといえば、単純に「体力」の問題もあります。20代は「仕事」と「家庭」の両立をするだけの気力も体力も充実していますが、30代になってくるとどうしても「老い」がはじまってきます。晩婚化によって、よりによって体力がガクッと落ちてくる「30代」に入ってからスイートな家庭をまず築き、子どもを育てる・・ということを行っていかなければならなくなっているのです。子育ては体力も気力も使う一大事業です。これを「平均20代」でこなしていた時代と、「平均30代」でこなしている現代(しかも30代のほうが仕事の難易度も責任も格段に上がっていて、普通は激務です)。どちらが体力的にしんどいかは、明らかでしょう。さらに純粋に、年齢に応じて「出産力」が逓減するという深刻な問題もあります。
私はこの晩婚化を「悪いこと」とは一言も言っていません。晩婚化という現実に、現実の社会制度や慣習が追いついていないだけ、という見方をしています。今はちょうどその過渡期。だからこそ、 社会の変化そのものに「適応」できなくなっている人が増えているのではないか、と考えるのです。

【2.症状について

Q.どんな症状が出ますか?

A.多くは、「身体症状」→「心の症状」→「行動の変化」へ推移しやすいとされます(※)。まず、いわゆる「自律神経失調症」(しばしば身体のどこを調べても悪いところは見つからないが、とにかく具合は悪い)といわれるような、多彩な症状が身体に起こります。そして、ほぼ同時かまたは少し遅れて「抑うつ症状」を発症し、やがて行動面において、正常な日常生活・社会生活を棄損していきます。

(※)もちろん個人差があり、最初に心の症状(不安症状など)が自覚されるという場合もあります。

■身体症状

身体症状としては、以下のような多彩な症状が挙げられます。睡眠障害が代表的なものですが、一般的に、まず自分の「弱いところ」に症状が発現することが多いようです。

睡眠障害(不眠)、過眠、1日中眠い、肩こり、頭痛(緊張型頭痛、片頭痛)、腰痛、あごの痛み、めまい(回転性、動揺性、起立性)、立ち眩み、 乗り物酔い・画面酔いをしやすくなる、食欲不振、吐き気、嘔吐、胸やけ、逆流性食道炎、胃痛、腹痛、下痢、便秘、下痢と便秘を繰り返す(過敏性腸症候群)、喉の渇き、感冒様症状(風邪のような状態)、短期間で数キロ (医学的には「5%」とされます)の体重の増減、動悸、頻脈、胸の苦しさ、胸の痛み、胸の圧迫感、首の圧迫感、息切れ、息苦しさ、息の吸い方が分からなくなる、浅い呼吸、空咳、喘息、気管支喘息、失神、のどの詰まった感じ ・異物感、のどの圧迫感、疲れやすい、倦怠感、だるさ、微熱が続く、手足のしびれ、顔のしびれ、口のしびれ、冷え性、のぼせ感、ほてり感、むくみ、発汗異常(冷や汗、脂汗、多汗)、 味覚異常、嗅覚異常、喉の渇き(水分補給量の増加)、皮膚のかゆみ、 肌荒れ、乾燥肌、帯状疱疹、おでき・ニキビ・湿疹、ほくろが増える、肌のくすみ・シミ、顔の毛細血管の浮き出し(細絡)、皮膚のピリつき、髪のパサつき、表情のやつれ、眉間の皺が深くなる、肋間神経痛、蕁麻疹、突発性難聴、耳鳴り、耳閉感、耳のかゆみ・痛み、 眼精疲労(疲れ目)、かすみ目、鳥目、ドライアイ、視力低下、目の充血、目の下のクマ、ものもらい、瞼の痙攣、顔の痙攣、唇の荒れ、唇や歯肉の暗赤色化、奥歯や親知らずの痛み、歯の知覚過敏、歯肉炎 ・歯周病、虫歯、口内炎・口角炎、口臭、声が出なくなる、アレルギー性鼻炎、花粉症、のどの痛み、鼻詰まり、風邪をひきやすくなる、高血圧、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、 頻尿、尿糖や蛋白が出る、膀胱炎、血尿、脱毛症、肛門周囲膿瘍、痔疾、白髪の増加、月経痛、月経の乱れ、子宮内膜症の悪化、など

■心の症状

続く「心の症状」では、次のような症状がみられるようになってきます。特に「抑うつ症状」と「不安症状」が代表的な症状です。

抑うつ症状(気分の落ち込み、憂鬱な気持ち、気分が晴れない、絶望感)、不安症状(不安感、焦燥感、恐怖感)、イライラ、怒りっぽさ、易刺激性(視覚過敏、聴覚過敏、騒音過敏、触覚過敏、臭覚過敏)、気力低下、意欲低下、虚しさ、集中力低下、易疲労性(疲れやすさ)、脱力感、 頭の中がもやもやする(頭の中に霧や靄、霞みがかった状態。ブレインフォグ)、物事に対する興味や喜びの喪失 (しばしば、仕事に関係することからはじまり、趣味や日常に関係することまで増悪していく)、罪悪感、劣等感、自己卑下、攻撃性、 自責傾向、他罰傾向、物忘れ、記憶力低下、会話や本の内容が頭に入らなくなる、悪い方向にばかり考える、ぐるぐると同じことを考えてしまう、悪夢、希死念慮、パニック発作、過換気症候群(過呼吸)など

また、心の症状が悪化すると以下のような「妄想」が生じることもあります。

▼こころの症状でみられる「妄想」の例

■行動の変化

これらの結果として、最終的には以下に挙げるような「行動の異常」がみられるようになってきます。 「会社に行けなくなる」ことが代表的な症状ですが、そのほかにも様々な問題行動を発症させ、しばしば、日常生活・社会生活に深刻な影響を及ぼします。

休みがちになる、電話ができなくなる、会話ができなくなる、口数が減る、笑わなくなる、笑顔がなくなる、無断遅刻や欠勤、早退が増える、悲しくないのに勝手に涙が流れる、よく泣く、拒食・過食、 過食嘔吐、過剰な飲酒(痛飲や酒浸り状態)・喫煙、乱暴な運転、暴力、人に当たる、物を壊す、喧嘩、自傷行為 (リストカットやかきむしり行為)、抜毛症、食毛症、買い物依存・散財、 外出ができなくなる、引きこもり、ゲーム依存、スマホ依存、ネット依存、ギャンブル依存、爪噛み、指しゃぶり、汚語発声、奇声、幼児退行など

■実際に経験した症状

あくまで私の場合ですが、休職直前は以下のような症状がありました。

睡眠障害(頭が冴えてなかなか寝付けない、ほぼ1時間おきに起きてしまう、毎朝2時~4時台に目が覚めてネガティブなことを考えてそのまま眠れなくなる) 、めまい・立ち眩み・ふらつき、頭痛、こめかみ痛・あごの痛み、奥歯の痛み、強い疲労感・倦怠感、肩凝り・腰痛、眼精疲労、目の奥の痛み、瞼の痙攣、耳鳴り、耳に空気が詰まったような感じ、音が遠くに聞こえる 、動悸、息苦しさ、胸の詰まり・苦しさ、肋間神経痛、皮膚のかゆみ、背中のピリつき、蕁麻疹、胃腸症状(胃痛、胃もたれ、吐き気、腹痛、下痢)、体重の減少(2か月で4キロくらい) 、消え入りたい気持ち、仕事に取り掛かれない気持ち、脳に霞や靄のようなものがかかっており、思考や考えがまったくまとまらない、強い不安・焦りの気持ち、対人恐怖症(人と話すのが辛い) 、焦燥感、抜毛症、一人でいると勝手に涙が流れる、夜中に泣いてしまう

このようにまとめてみると、まるで「自律神経症状の総合商社」状態です。一目瞭然で、「限界」でしたね・・・。

Q.「抑うつ」とは何ですか?

A.心のエネルギーが低下し、「気分が落ち込んで何もすることができない」とか、「憂鬱な気分で塞ぎこんでいる」などといった不快適な心の症状を指します。適応障害やうつ病はじめ、メンタル疾患における代表的な心の症状の1つと言えるでしょう。

Q.「もう、休んだほうがよい」というサインはありますか?

A.適応障害の兆候・なりかけ・初期症状のサインや、それ、おかしくなっています!をご参照ください。「本当は休みたいのに、休めない(気がする)」というのと「睡眠が覿面におかしくなる」というのが、危険な2大兆候だと個人的には強く思います。

よく、若手のYouTuberが、「休めない!」なんて言って動画配信をやめるにやめられなくなっている光景を見聞きしますが、ああいうのはすごく「休めなかった時の自分」と重なってしまい、見ていてとてもハラハラします。 「若いと体力も気力もあるねぇ」とは思うものの、「休めない」と思い込んでしまっている時点で危険なサインであることは間違いありません。周囲で止めてくれる人がいればよいのですが・・・。 一般的に、30代半ばになってくると、体力と気力も相応に落ちてくるので、適切に「休む」ということをしていかないと、確実に精神を蝕むことになります。

さて、 このほか、「人とかかわる行動が億劫になる」というのも危険な兆候です。「電話1本を掛けるのに1時間掛かってしまう」とか、「レストランで店員さんに声を掛けることが急にできなくなる」「エレベーターでは人と乗り合わせないようにする」などという、健常な人から見たら「何それ!?」と思われるような対人恐怖症的なことも、休職直前の時には日常的に発症していたことを思い出します。渦中にいるとなかなか気づきませんが、こうして言葉にしてみると、明らかに「おかしい」ですものね・・・。

とにかく、「何かおかしいぞ」という症状が2週間続く場合は、躊躇せずにまずは家族、そして上司にも相談し、早めに精神科や心療内科を受診することをお勧めします。

Q.もう少しシンプルな「休んだほうがよい」判断基準はありませんか?

A.直近の状態を観察した時に、次の5つの質問に1つでもYESがついた場合は、家族や上司への相談を行い、場合によっては早めに精神科や心療内科を受診することをお勧めします。

▼質問1.自分だけでは解決できない心身の不調を自覚している

▼質問2.心身の不調が原因で、日常生活・社会生活が支障されている

▼質問3.仕事以外のことができなくなっているか、意欲が沸かなくなっている

▼質問4.明らかに体調が悪いが、検査をしても異常所見はみられない

▼設問5.今、自分は幸せとはいえない

Q.適応障害の兆候になるような症状はありますか?

A.適応障害の兆候・なりかけ・初期症状のサインをご参照ください。特に、「休めない」「眠れない」「疲れが取れない」「食べられない」「興味がわかない」「集中できない」「思考ができない」という7つの「ない」があったときは、危険なサインだといえるでしょう。

Q.病院に罹ったほうがよいチェックリストのようなものはありませんか?

A.経験に基づき、簡単なチェックリストを作成してみました。

■「職場の適応障害」-病院に罹ったほうがよいチェックリスト(私製)

この2週間の状態を振り返り、当てはまるものにチェックを入れてください。

仕事上で強いストレスを感じている。
頭痛やめまい、肩こり、胃痛や下痢などの体調不良が続いている。
不安や焦り、またはイライラする気持ちが強い。
熟眠感が得られていない。満足に眠れていない。
悲しくないのに涙が出ることがある。
今「特別休暇」をもらっても、つい「休めるわけがない 」と思ってしまう。
本音では、会社に行きたいとは思わない。
仕事にやりがいを感じていない。
このまま消え入ってしまいたいと思う。
上司にプライベートのことを相談できない。
合計点数: (こちらに自動計算されます)

合計点数が5点以上(※)の場合は、一度病院で相談してみることをお勧めします。

※各選択肢の得点には、「症状の重さ」を加味して点数を2~4点で傾斜配分しています。10点以上の場合はかなり適応障害の蓋然性が高く、15点以上であれば可能な限りすぐに休職をしたほうがよいレベル、20点以上ともなると日常生活にも相当影響が生じ出しているレベルであろうと推察されます。 私製ですので、あくまで1つの参考としてご活用ください。

Q.適応障害で「睡眠がおかしくなることが多い」ということでしたが、具体的にはどのような症状がでるのでしょうか?

A.「睡眠がおかしくなる」というのには、いくつかバリエーションがあります。例えば、30分経っても寝付けない(入眠障害)、夜中に何度も目が覚める(中途覚醒)、本来起きる時間より2時間以上早く目が覚めてしまい、もう一度眠ることができない(早朝覚醒)などがあります。また、全体的に眠りが浅く、熟睡できない(熟眠障害) という状態も起こります。これらを総称して「睡眠障害」とか、「不眠症」と言います。 また個人差はありますが、一般的に、6時間未満の睡眠が何日も続いていると、心身の不調が強く自覚されるとも言われます。

メンタル疾患の場合は、これらのうち「早朝覚醒」「中途覚醒」を原因とする「熟眠障害」が先ず、特徴的に起こりやすいとされています。 これを放置すると、「入眠障害」にも至り、「寝付けない」「眠れない」「途中で起きる」と不眠症状のオンパレードとなり、まったく心身が休まらなくなってしまいます。

不眠症そのものは、睡眠環境(寝具、温度や湿度、周囲の音や光)、また体調(風邪をひいている、花粉症など)、心理的要因(ストレス、悩み、緊張など)、食事や薬(飲酒、喫煙、カフェインなど)、そして生活習慣(不規則な生活や運動不足)も影響してきます。まずは以下の睡眠環境改善策を試してみて、2週間経っても良くならない場合は、早めに精神科や心療内科 、または睡眠外来を受診することをお勧めします。

睡眠環境の改善リスト

Q.睡眠の不調は適応障害の初期兆候と言われるようですね。何故ですか?

A.物理的に睡眠時間が取れないほど忙しい、という理由もありますが、何よりも、ストレスに曝された状態が慢性的に続くと、ストレス反応が激しくなり、やがてそれに抗することができなくなってしまうからです。その過程で心身に起きていることは、簡単に言うと交感神経の過緊張です。過緊張によって真っ先にしわ寄せが来るのが睡眠です。「疲れているのに眠れない」とか、「興奮して眠れない」「不安で眠れない」 「仕事が気になって夜中に目が冴えてしまった」「心配で早朝に目覚めてしまった」「寝床で仕事のことについてネガティブな妄想をくよくよと考えてしまう」などといったことは、誰もが一度は経験することでしょう。

よい睡眠のためには、日中の緊張感が静まり(交感神経が緩和し)、副交感神経が優位になってリラックス状態になる必要がありますが、疲弊してくるとその切り替わりがうまくいなかくなります。その結果として、入眠困難、中途覚醒、早朝覚醒、浅い眠りといった睡眠障害を発症するのです。ちなみに 数か月の平均的な睡眠時間が6時間を下回ると適応障害やうつ病の発症リスクが高まり、4時間・5時間程度にまで落ち込むと、ほぼ8割近い確率で早期に適応障害を発症すると言われています。

しかし困ったことに、睡眠の不調は「自覚されにくい」という特徴があります。「何となく日中に元気が出ない」症状の真因が「浅眠」にあったり、「寝つきはいいんです」という人に限って、実は夜中に何度も目が覚めている(寝る時は疲弊のあまり「気絶」しているだけという人もいます)ということもあります。兆候 が見過ごされることで症状が悪化し、「おかしいぞ」と気づいたときにはもう適応障害真っ只中、ということも珍しくないのです。

睡眠の不調を早期に発見し、早めに対策(セルフコントロール、仕事の調整など)ができるかどうか-これは、適応障害を予防する意味でとても重要な意味を持つといえるでしょう。

Q.睡眠障害の兆候をどのように見抜けばよいでしょうか?

A.過去1か月の間に、週2~3日くらいのペースで以下のような変化を経験した時は、「もしかして不眠状態になっているかも?」と疑ってみましょう。疑ってから2週間、睡眠の質が改善しないようであれば、不眠症になっている可能性が高いといえるでしょう。

▼不眠状態チェックリスト

Q.自分では気づかないまま睡眠障害が進行しているということはありますか?

A.あり得ます。上記の「不眠状態チェックリスト」は、どちらかというと「眠れていない」という自覚がはっきりとある方には有効なのですが、「自分はよく眠っているつもりである」とか、ストレスの余り自分の身体の状態に意識がいっていないと、そもそも不調に気づくことができない場合もあります。

例えば、「私、寝つきはとてもいいんです」という人をよくみると、疲労や寝不足のあまり夜は単に「気絶しているだけ」というケースもあるのです。

睡眠には「量」のほかに「質」も関係してきますので、「私はよく眠れているはずだ」という人も、以下のチェックリストをしてみると「あれ?睡眠の量が足りない?」とか、「もしかすると、睡眠の質が落ちているかも?」ということに気づけるかもしれません。

▼睡眠時間(睡眠の量)が不足していると考えられるケース

▼睡眠の質が低下していると考えられるケース

また、「自分では気づきにくい睡眠障害」の背景に「睡眠時の呼吸」の問題が隠れている可能性もあります(睡眠時無呼吸症候群など)。「呼吸」が原因と思われる諸症状も例示しますので、併せてご確認ください。

▼睡眠時の呼吸に問題があると考えられるケース

Q.「眠りたくない」「眠るのが不安」というのも、睡眠障害ですか?

A.「眠りたくない」という意思や、「眠るのが不安」という不安感そのものは、どちらかというと「抑うつ」症状に属するものといえるでしょう。ただしその結果として睡眠障害に発展していく可能性は極めて高いですから、そういう点では睡眠障害の一種と言ってもよいかもしれません。

「眠りたくない」「眠るのが不安」な理由は、しばしば、「眠ったら明日になってしまうから眠りたくない」という訴えが聞かれるように、酷薄な現実からの逃避です。

「本当は23時台に寝たほうが身体によいことは分かっている」が、ついつい、明日の活動に対する逃避感情から、スマホをずっと眺めてしまったり、夜食を食べてしまったり、睡眠の質を落とすことを繰り返すようになっていきます。エスカレートすると、「明日は大事なプレゼンなのに4時まで起きてしまった」「夜更かしでついに起きられず、はじめて会社を遅刻してしまった」など、社会生活に不規則な睡眠の影響が侵食していくようになります。ここで睡眠リズムが狂うと、あっという間に睡眠障害になってしまうのです。

誰にでも「眠りたくない夜」というのはあるものですが、それが毎晩のように(本当は眠れるのに)いつまでもなかなか眠ろうとしない、というのは抑うつ症状が強くなってきている、と思って間違いありません。

Q.抑うつ状態とは何でしょう?それを見抜く方法はありますか?

A.抑うつ状態とは、「気分が落ち込んで何もする気になれない」など、「憂鬱」な心の状態が強くなることで、様々な精神・身体症状を呈する状態を指します。一般的には、次のような状態(20項目)に当てはまれば当てはまるほど、また、その度合いが強ければ強いほど、そして継続 (※)していればしているほど、「抑うつ傾向」にあると判断されることが多いようです。

(※)なおここでの継続とは、「2週間」を1つの目安とします。

▼抑うつ状態チェックリスト

  1. 気分が沈んで憂鬱である
  2. 朝方の気分が最も悪い
  3. 些細なことで泣いたり、泣きたくなったりする
  4. 夜、眠れない
  5. 食欲がない
  6. 異性への興味がない
  7. 最近、やせてきた(1か月で5%以上)
  8. 下痢や便秘をしている(便通が正常ではない)
  9. 動悸がする
  10. 何となく、疲れやすい
  11. 気持ちが落ち込んでいる、暗い気持ちである
  12. いつもと変わりなく仕事や日常生活に取り掛かることができない
  13. そわそわして落ち着かない、じっとしていられない、焦燥感がある
  14. 将来に希望はないと思う
  15. いつもよりイライラしている、怒りっぽくなった
  16. 物事を決めるのに時間がかかる
  17. 自分は役に立たない人間だと思う
  18. 今の生活は充実していない
  19. 希死念慮がある、消えたいと思う
  20. 今の生活に満足していない

Q.「憂鬱な気持ち」と、病的な「抑うつ状態」の違いは何でしょうか?

A.誰でも「憂鬱な気持ち」になって気持ちが落ち込んだり、元気がなくなってしまうことがあります。しかし、病的な「抑うつ状態」とは、気分が塞いだ状態が数日たっても回復せず、気晴らしをしても解消せず、概ね2週間以上続くような状態を指します。 うつ病や適応障害での「抑うつ」と、一般的な「憂鬱気分」との違いをまとめてみます。

▼症状の強さ

▼症状の持続性

▼症状の変動

▼仕事

▼趣味・日常生活への影響

▼気分転換の効果

▼原因

▼周囲の気づきと理解

▼認知の歪み、妄想

(※)妄想には、「心気妄想」(自分は不治の病に違いないなど)、「罪業妄想」(自分は悪い人間だなど)、「貧困妄想」(自分にはお金がないなど)、「被害妄想」(自分は攻撃されているなど)などがあります。

▼投薬の効果

「憂鬱な気持ち」は一時的で一過性のもの、病的な「抑うつ状態」は2週間以上継続する持続性のものだとみてほぼ差支えないでしょう。

Q.原因不明の身体の痛みがあります。ストレスと関係ありますか?

A.身体の痛み(頭痛、顔面痛、首の痛み、肩の痛み、背中の痛み、手足の痛み、腰痛、臀部の痛みなど)を訴えて「整形外科」や「脳神経外科」でレントゲンを撮ったり、CTスキャン、MRIで検査をしたり-といったことをしても、「どこも悪くない」とか、場合によっては「気のせい」と言われてしまうことがあるかもしれません。しかし、現に痛みはある-といったときは、ストレス性の疼痛かもしれません。

これは、脳が刺激に対して過剰に反応していて、これ以上活動することにブレーキを掛けている状態、とみなすことができます。「調べてもどこも悪くない謎の痛み」が続く場合は、ストレスによる疼痛も疑い、一度心療内科を頼ってみてもよいでしょう。

Q.どうも以前と比べて乗り物酔いをしやすくなりました。ストレスと関係ありますか?

A.あり得る話です。乗り物酔い(冷や汗、生唾、だるさ、頭痛、吐き気、嘔吐、腹痛、下痢など)は自律神経失調症の1つともされており、不安やストレスがその原因になることも多いようです。「荒波を漁船で渡る」とか、「コーヒーカップで信じられないほど回転する」みたいなことをやれば普通の人は誰でも酔いますが、明らかに「弱くなったな」と思うことが増えてきたら、注意が必要です。

例えば以前は平気だったのに、「何でもない通勤電車で酔うようになった」「遊園地のアトラクションがまるでダメになった」「自分で車を運転していても、ちょっとした田舎道で酔うようになった」「ブランコをちょっと漕いだだけで具合が悪い」「自転車でしばらく走っただけで気持ちが悪い」など、状況が酷くなっている場合は、もしかすると自律神経が悲鳴を上げているサインかもしれません。

知らないうちに、日常的に「酔い止め薬」が不可欠になっているなど明らかに日常生活に支障が出ているようでしたら、一度自律神経失調症を疑って耳鼻科、神経内科や心療内科を頼ってみてもよいでしょう。

Q.休養中の有り余る時間で、ネットの買い物依存になってしまいました。毎日荷物が届き、困っています。どうすればよいでしょうか?

A.買い物にもエネルギーが必要ですから、「買い物をする元気と意欲」が出てきたこと自体は喜ばしいことです。ネットで買い物をするくらい余裕が出てきたということは、休息の時間が徐々に「暇」になってきたということですね。適度な買い物は気分転換にもなるため 、それ自体は特に悪いことではありません。しかし、これも「日常生活に支障が出る」レベルになってくると、心配です。

意欲が戻ってきて一時的に活動的になった可能性、抗うつ薬などの副作用で元気になりすぎた可能性、休職中の不安を買い物で紛らわしている可能性(ストレス発散の一環)、また実は「躁うつ病であった可能性(躁転状態)」 、そして「買い物依存症」になってしまった可能性もありますので、 「毎日数十万円の買い物をしてしまっている」など、明らかに異常な兆候が発現したら、必ず主治医に相談するようにしましょう。

Q.休養中の有り余る時間で、どうやら●●(※)の依存になってしまいました。1日中●●から離れられなくなっています。どうすればよいでしょうか?

(※)この●●には、「ゲーム」「SNS」「スマホガチャ」「スマホ」「動画」「ギャンブル」・・・その他、様々な依存性のあるものが入ります。

A.何かに熱中するにもエネルギーが必要ですから、ともかく「何かをする意欲」が出てきたこと自体は回復のサインです。しかし、その行為が「日常生活を棄損する」ようになってくると、それは「依存症」ということになります。何らかの欠乏感情・不安感情・満たされない気持ちを、代償行為によって一時的に書き換えているだけで、本質的にはその感情が何も解決していないのが依存症の特徴です。

例えば「やめたいのにやめられない」「やめるべきとわかっていてもやめられない」「触れていないとイライラしてしまう」「四六時中そのことについて考えている」「日常生活に影響が出ている」「ブレーキがきかない」「依存症じゃないか、と言われると全力で否定したくなる」といった症状が出ていればおそらく「依存症」の可能性が高いですから、ただちに主治医に相談するようにしましょう。

Q.適応障害によって、「意欲」そのものが低下してしまう理由は何でしょう?

A.脳がストレスを受けた時の反応を、「刺激と反応」のモデルに単純化して考えてみましょう。

ストレスは、「刺激」の1種です。強い刺激を受け続けることにより、これまで「反応」することで対処していた脳は「これ以上、"刺激"を受け容れてくれるな」と、防御反応を示すようになります。めまいや頭痛などは、「これ以上活動しないでくれ」というサインです。

しかし、よく考えてみると、「ストレス」(マイナスの刺激)というのは、必ず「自分の意志とは無関係に」やってきます。要するに、受動的なのです。ですから、いくら体調不良で抵抗をしたところで、その環境に身を置き続ける限り、刺激は自分の意志とは無関係に、与えられ続けます。こうなると余計に防御反応が強化され、「刺激をシャットアウト」するように心身がますます変質していきます。

ところで、マイナスの刺激の反対、「欲求に基づいた楽しいこと」(プラスの刺激)はというと、必ず「自分の意志で」求めていくものです。こちらは能動的な概念だといえるでしょう。しかしストレスによって脳が刺激信号そのものをシャットアウトしてしまうと、困ったことにプラスの刺激すら、脳はシャットアウトするようになってしまいます。

よく、「ストレスにはよいストレスと悪いストレスがある」という言い方をすることがあると思います。これは言い換えると、「よいことも、悪いことも、刺激という信号の一種である」ということを述べていると言えるでしょう。強すぎる刺激は心身を蝕むのです。

強いストレスによって「これ以上、心身がどんな"刺激"も耐えられなくなっている」状態が、適応障害であり、それゆえに、「意欲」も低下してしまうのだ、と言えるのだと思います。

Q.日常生活レベルのことが億劫になってきました。適応障害と関係ありますか?

A.普段から怠惰な生活を送ることが普通であれば、それは性格とでもいえるでしょうが、以前と比べて、徐々にあるいは急に、普段通りの日常生活が送れなくなってしまう-ということがあれば、精神的な病気を疑いましょう。

例えば、以下のような「当たり前」のことをするのでも疲れやすかったり、億劫だったり面倒だったりして(面倒になることは誰でもありますが、ここで実際に)行動ができなくなる、というのが1つのサインだと言えるでしょう。

■お風呂に入りたくない

毎日洗髪していたのが面倒になって数日に1回になってしまった、シャワーを浴びる気力がなくて湯船に浸かるだけになってしまった、湯船に浸かることが億劫でお風呂に入らなくなってしまった、など様々なバリエーションがありますが、「身体をきれいにしよう」とか「さっぱりしよう」という気持ちや「家族や同僚から臭いと思われたくない」「電車の中で迷惑を掛けたくない」といった想像の前に、「面倒で入りたくない」という感情が強く出 ることが特徴です。やがて数日に1回はおろか、1週間に1回もお風呂に入れない・・といった状態まで増悪することがあります。

■身だしなみを整えたくない

女性の場合は髪や服装が乱れる、すっぴんで外出したりリモート会議に出たりする、などの変化がみられるようになります。男性は、分かりやすいところで行くと「髭を全くそらなくなった」とか、寝ぐせだらけであるといった塩梅です。「靴が汚い」「ネクタイが汚れている」「ワイシャツがしわくちゃ」といったものも挙げられるでしょう。
「相手にとってどう見られるか」を想像する気力がもはやほとんどないので、そこまで気持ちが回らなくなっている可能性があります。
こちらも「急に変化した」というところがポイントです(以前から服装に無頓着な人であれば、それほど心配することではないかもしれません)。

■歯を磨きたくない

歯ブラシで歯を磨くという行為が面倒になってきます。以前と比べて、「口をゆすぐだけ」など、歯磨きという行為が簡略化されてきている場合は要注意です。

■掃除ができない

脳が弱っていると、周囲に対する「気づき」の力や判断力も弱まっていきます。以前ならできた掃除も、「どこから手をつけたらいいかわからない」という現象に苛まれ、それと相まって周囲の美化、整理整頓がどんどん面倒になり、できなくなっていきます。
「部屋が汚い」「ゴミ箱があふれる」「排水口があふれる」などが典型的です。「以前はそんなことがなかった」としたら、赤信号といえるでしょう。

■床屋や美容院にいけない

会話が億劫で、行く気が起きなくなります。そもそも「おしゃれをしよう」という気が起こりません。畢竟、髪の毛がボサボサになっていきます。髪を染めている場合、どんどん元の毛が生えてきて、まだら模様のいかにも疲れた人の髪になっていってしまいます。

これらはいずれも、「活動するエネルギー」「他者から見られる想像力に要するエネルギー」が枯渇していることによって引き起こされていると判断することができます。基本的には休養によってエネルギーを充填しない限りは、日常生活の棄損 現象はどんどん増悪していくといえるでしょう。

Q.適応障害になると、エンタメが楽しめなくなることはありますか?

A.はい。脳機能の低下によって集中力や意欲、興味が低下し、今まで楽しめていたものが急に楽しめなくなることがあります。

▼テレビや映画

▼漫画や小説

▼音楽

ポイントは、「急に」です。今まで楽しめていたものへの意欲が急激になくなったときは、メンタル面で何らかの不調を抱えていないか、ぜひともセルフチェックするようにしましょう(もちろん、当該のコンテンツに「飽きただけ」ということもあるわけですが・・・。)。

Q.なぜ、ストレスで食欲がなくなることがあるのですか?

A.ストレスの蓄積によって自律神経のはたらきが弱まり、結果として胃腸の動きが減衰することが原因と考えられます。

また、物理的に忙しさのため「食事を取らない」とか、「食事をとる時間がもったいないので栄養バーだけで済ませる」といった食生活を続けることで、胃自体が小さくなってしまい、結果として食欲自体が落ちてしまう、という現象も考えられるでしょう。

Q.燃え尽き症候群とはなんですか?

A.慢性的な仕事のストレスによって心身がダメージを受けた結果、疲弊のあまり文字通りあたかも蝋燭が「燃え尽きて」しまうかのように仕事の一線からフェードアウトしてしまう症状を指します。しばしば、適応障害の症状の1つとして数えられます。

燃え尽き症候群になると、心身のエネルギーの枯渇や強い疲労感を感じ、「仕事から離れたい」という気持ちが増加します。そして、しばしば仕事に対して否定的で、冷笑的(シニカル)な感情を抱くことになります。結果として今まで通り効率的に仕事を進めることが難しくなるばかりか、仕事に対する達成感や満足度を喪失してしまいます。

Q.燃え尽き症候群になると、どのような症状が起こりますか?

A.燃え尽き症候群では、「これまで仕事に真剣に取り組んでいたのに、突然やる気を失う」「仕事をバリバリこなしていた人が、突然職場から離脱してしまう」「仕事上の人間関係が突然億劫になり、思いやりの心が消えた」「仕事に対して感じていた達成感が消えた」というような、「これまで仕事に一生懸命取り組んでいた人が突然変化する」というエピソードがしばしば語られます。

これらを大まかにまとめると、主に次の3つの症状が発現するとされます。

▼情緒的消耗感

▼個人的達成感の低下または喪失

▼脱人格化

上記のように、以前の自分と比較してやる気が低下し、自分への自信も失い、かつ周囲への思いやりをする気力もなくなっている状態が「燃え尽き症候群」の典型的な症状であるといえるでしょう。

Q.燃え尽き症候群の原因はどのようなものですか?

A.主に仕事による過度なストレスが原因とされています。特に「自分が携わってきた大きなプロジェクトがひと段落し、次の仕事に取り掛かるとき」や「一生懸命取り組んできた前部署から異動してすぐ」、「全身全霊をかけて打ち込んだ仕事が頓挫した」「営業成績を死ぬ気で上げたのに評価が変わらなかった」など、力を入れて取り組んでいたことから「環境」が急に変わったときやそれが報われなかったときに、これまでの「疲れ」を後追いでダメージとして受け、心身が悲鳴を上げることで発症することがエピソードとしては多く聞かれます。

具体的な原因としては、以下のようなものが挙げられるでしょう。

▼燃え尽き症候群の原因

Q.燃え尽き症候群になりやすいタイプはありますか?

A.独りでストレスを抱え込み、頑張り続けてしまう人が燃え尽き症候群と親和性が高いタイプです。具体的には、次のようなタイプが挙げられるでしょう。

▼燃え尽き症候群になりやすいタイプ

Q.「燃え尽き症候群」と、適応障害の違いはありますか?

A.燃え尽き症候群とは慢性的な仕事のストレスにより心身をすり減らした結果、抑うつ症状を発症する状態を指します。「適応障害」や「うつ病」の症状の1類型とみることができるでしょう。すなわち適応障害は「病名」で、「燃え尽き症候群」は「病名」ではなく(ある病気の症状や性質を表す)「病像」、ということになります。

Q.ずっと一線で活躍してきた自負がありますが、ある時突然「やる気」が雲散霧消しました。もうこの仕事をしたくないと思うようになりました。少し気分も落ち込んでいます。「燃え尽き症候群」でしょうか。

A.この情報だけでは判断できないものの、その可能性があります。どんな人でも、同じことをずっと繰り返していけば「飽き」がきて、突然やる気を失うことがあります。どんなにハイパフォーマンスでバリバリ働いていた人でも、ある閾値を超えると燃え尽きてしまうということは十分に考えられることです。

この場合、「実は、仕事が今の自分にマッチしていない」と考えてみるとどうでしょうか?しっくりくるでしょうか。

どのような仕事も、最初は「チャレンジ」からはじまります。少し難しいことを覚えて、できるようになってくると創意工夫が生まれ、やがてコンフォートゾーンといわれるような「快適」な環境に身を置くことになります。もっともパフォーマンスを発揮できる状態です。しかし、上達・熟練を重ねるにつれ、同じことを繰り返していくと「役不足」という状態につながっていきます。

挑戦の余地もなく、創意工夫も出尽くした-そんな状態に達してしまっては、燃え尽きるのも当たり前です。異動や昇進など、新しいステージへの挑戦をすべきですし、逆に言えば上司や会社は、そういう社員をつくらないためにも、積極的に定期的な異動を行っていくべきだといえるでしょう。

Q.ストレスが強い環境下にいると、「一人になりたい」と思う反面、以前より増して「孤独」を感じるようになりました。適応障害と関係ありますか?

A.「一人になりたい」と思う一方で、「孤独」も感じる。この矛盾した認知状況こそ、まさに特徴的な抑うつ症状の1つと言えるでしょう。誰かに気を遣うだけのエネルギーはもう残されていないのでできれば一人で過ごしたいものの、本当は(辛いから)一人にしてほしくないという複雑な感情ですね。

具体的にこの感情を言葉にしてみると、「人が近くにいても距離を感じる」「何かを話しかけられても遠く聞こえる」「誰かが楽しそうな会話をしていると、疎外感を覚える」「孤独な感情が渦巻き、絶望する」といった感じでしょうか。これらの感情が進行すると、外の世界が異常に客観的に見える感覚(モニター越しで外を見ている、硝子越しに外を眺めている、見えない膜に包まれている、水中にいるような気持ち)を覚えることがあります。これを「離人感」といいます。

離人感が強くなってくると、孤独感はあるものの、人とコミュニケーションを取る(あるいは取ることを想像する)だけで苦痛になり、やがて会食はおろか電話やメールでのやり取りすら難しくなってきます。インターフォン越しの会話、コンビニやレストランでの店員との会話すら困難になります。

強いストレスによって、他人に対して想像したり、気を遣ったりするエネルギーが残されていない状態です。本当はコミュニケーションを取りたいのに取れない、アクションを起こすだけのエネルギーがない、そんな状況です。

このような状況は放置していても悪くなる一方ですから、「一人になりたいけど孤独」といった感情が耐えがたいほど続くようでしたら、早めに心療内科を受診することをお勧めします。

Q.飲酒や喫煙の量が増えると、危険なサインですか?

A.一般的に、飲酒・喫煙の量が増えた時は「ストレスが溜まっている」と判断されます。これらは、「不安を紛らわす」ために行為される嗜好品だからです。

なお、飲酒も喫煙も、適応障害の症状(特に抑うつ症状)を悪化させるとされます。睡眠の質を落とし、抗うつ薬の副作用も出やすくなるとも言われています。可能な限り、飲酒・喫煙は控えることが望ましいといえるでしょう。

Q.会社のストレスチェックで、「高ストレス状態のため、カウンセラーまたは産業医との面談をお勧めします」という通知を受けました。面談したほうがいいですか?

A.はい。ただちに面談したほうがよいです。

会社で行うストレスチェックの医学的な信頼性はきわめて高く、高確率で離脱予備軍をスクリーニングできます。したがって、この通知を受けている時点で、相当な危険信号と判断してよいでしょう( というか、ほぼ赤信号です)。できれば、むしろすぐに「直属の上司」に体調不良について相談することを強くお勧めします。 ここで早めに休めれば、それだけ復帰も早まるはずだからです。

これは私の実際の職場での経験値ですが、ストレスチェックで「高ストレス者」と引っ掛かった人のうち、実に8割が半年以内に「休職」ないしは「"疲弊による"突然の退職」 -すなわち業務離脱に至っています(また、チェック後1か月以内に100%、突然の体調不良による有休取得が発生しています。これについては例外をみたことがありません)。この結果だけでも非常に確度の高いテストだと思いますし、そのチェックを受けただけではセルフコントロールなど不可能ということも示唆しています。

当然ながら、この通知を受けた人はすでに深刻な過労状態にありますから、「休めるわけないだろう」「面談なんてしている時間があるわけないだろう」という歪んだ心理状態に陥っています。もはやこの状態になってしまうと、何かを新しくはじめる余裕すらないのです。畢竟、自主的に産業医の面談なんて受けるわけがありません。実際、同僚同士で「ストレスチェックどうだった?」とやって、「高ストレス者」と判定されているにも関わらず、自主的に産業医と面談した人を見たことがありません。そして、そのまま8割が「休職」ないしは「突然の 転職・退職」に至ってしまうのです。せっかくストレスチェックを導入しても、これでは遅すぎるということですね。

そもそも、「産業医」という響き自体が、過労気味の労働者にとっては言葉の響きが強すぎて、ハードルが高すぎなのです。このような現状では、社会的損失が大きすぎるように思います。本来は、もっと気軽に「産業医面談」なり、「カウンセラー」を利用できる(できれば通知が来るほど悪化する前に)ような仕組みがあるとよいのですが・・・(実際に適応障害になってしまうと、産業医もカウンセラーも 、相談するためのハードルというものが、実はまったくないということに気づけるのですが・・・)。

Q.もしかして、会社の「ストレスチェック」で引っ掛かったときには、結構手遅れなのでは・・・?

A.残念ながら、その通りと考えます。ストレスチェックの結果「休みなさい」と言われて、素直に休めるくらいなら、とっくに休んでいるんですよね。休むべき状況なのに「休めるわけ、ないだろう」と認知が歪むのが適応障害の特徴ですから、もはや「高ストレス」と言われている時点でかなり引き返すのは難しくなっていると思ってよいでしょう。

ほんらい予防領域のはずのストレスチェックですが、運用上は、どうしても「結果の後追い」にしかならないというのが実情といえるでしょう。Webで「あなたはインターネットを使っていますか?」と質問すると、100%が「YES」と回答する-という笑い話に似ている気がするんですよね。とはいえ、「ストレスチェック」自体は、本人に「気づき」を促すという意味で非常に意味のあるものだと私は考えています。問題は、それを 組織がどう運用するか、ということですね。

Q.ストレスチェックの結果の見方と、活用方法について教えてください。

A.ストレスチェックは、本人の「気づき」を促すツールです。自分のストレスの状態を理解し、それをセルフケア(場合によっては、医療の力を借りる)することに活用できます。

まずは、「ストレッサー」(ストレスの原因)を知りましょう。自分がどのようなことにストレスを感じているのか、客観的かつ定量的に把握します。 次に、「ストレス反応」を確認しましょう。自分に起こりやすいストレス(ストレスが表れやすいポイント)を理解することで、心身からのサインを受け止めやすくなります。 そのうえで、適切な「周囲からのサポート」を得られているかを客観視します。上司や同僚、家族や友人といったファクターが、あなたにとってどれだけよい関係性かどうか、ということは、確実にストレス反応に影響するからです。

このほか、「エンゲージメント(いきいき度、仕事への忠誠度)」や「Wel-being(総合的な満足度)」といった指標もあれば、ぜひ参考にしましょう。

これらを受けて、「自分自身のストレスの原因になっていることは何か」「ストレッサーによって、自分は心身にどのような影響を受けているのか」を客観視し、実際の自分の仕事・生活と照合してみるこおとをお勧めします。 これといった自覚がなくても、心身が「ストレス反応」を蓄積していることはよくあることです。自分に表れやすい症状を知っておくことで、早めに不調のサインをキャッチすることができるようになります。

なお、これらを踏まえた上で最も有効な活用方法は、組織にとっても個人にとっても、「うつ病や適応障害予備軍の早期発見と対処」になります。もし、「高ストレス状態」と判定され、産業医面談をお勧めする通知をもらったら、心身が悲鳴を上げている状態です。躊躇なく、上司、およびカウンセラーや産業医と相談されることをお勧めします。

Q.ストレスチェックの結果は、人事査定に影響しませんか?

A.ストレスチェック実施業務には、人事権者が従事してはならないことが定められています。またストレスチェック業務の従事者は、守秘義務が課せられています。このことから、少なくとも法的には、ストレスチェックの結果 そのものを人事査定に反映させることはできません。あとは会社と個人との「信頼関係」の問題になってくるでしょう。

Q.仕事の時は体調がとても悪いのですが、それ以外では結構元気です。そんな適応障害ってありますか?

A.あり得ます。しかし、「仕事以外は元気だから大丈夫」とは必ずしも言えません。 このまま放っておくと悪化する危険性は十分にありますので、体調の悪さに気づいたら、早めに対策を取ることが肝要です。

心のエネルギーを費消していく過程で、真っ先にできなくなることは「嫌なこと」「苦手なこと」だと言われています。さらに心身のエネルギーが消耗してくると、やがて自分の好きだったこと、得意だったはずのことまで手につかなくなることがあります。これが「悪化」です。 仕事の環境が急変していたり、激務が続いている場合などは、猶更「職場」と「それ以外」との差が顕著に表れているともいえます。

なお心のエネルギーが回復してくると、上記のプロセスとは逆に、「好きなこと」「得意なこと」から元気に取り組めるようになってきます。この変化も、体調が回復しているかどうかのバロメーターになるでしょう。

Q.1日の中で「元気な時間」と「調子の悪い時間」を繰り返しています。そんな適応障害ってありますか?

A.あり得ます。一般的にメンタル失調による抑うつ症状は、「波」を描くとされます。特に特徴的なのが、「日内変動」と呼ばれる1日の中での気分の波です。

これは、「朝に憂鬱な気分が強く、夕方になると気分が軽くなってくる」というように表現されることが多い(※)です。病的ではない「気分の落ち込み」の場合、このような日内変動はあまり見られないとされます。

したがって、気分に日内変動があって、かつ、それが継続的ないしは断続的に起こっている(断続的な場合は、もう少し長いスパンで「波」が発生している可能性もあります)ときは、「うつ病」や「適応障害」を疑って、一度メンタルクリニックへ相談されることをお勧めします。

(※)これとは逆に、日中は比較的快活だが、夕方になると気分が落ち込むというタイプの抑うつ症状もあります。日中の活動によってエネルギーが費消されてしまうことと関係があるとされます。したがって、「朝は元気だから大丈夫」ということでもなく、気分に「日内変動がある」というところに着目したほうがよいかと思われます。もちろん、特に気分に変動がなく、「1日中落ち込んでいる」といったことも十分考えられますので、「日内変動がなければ抑うつではない」ということも、単純には言えません。 もっとも、本当は日内変動があるのにも関わらず、抑うつ症状が強すぎてそれを自覚できないといったこともありそうです。

Q.「気分が落ち込んでいる状態」と、適応障害での「抑うつ症状」の区別は可能ですか?

A.可能です。「症状の継続期間」をみてみるとよいでしょう。

誰でも、仕事での失敗や心配事などで日常的に「気分が落ち込む」ことを経験します。しかし、このような一過性の「気分の落ち込み」は、早ければ数時間から1日(寝たら治るという現象ですね)、どんなに長くても1週間もすれば自然と回復します。 要するに、徐々に回復していくのです。そしてその回復を、自覚することも可能です。

しかし、適応障害の場合は、このような気分の落ち込んだ感覚がなかなか回復せず、1週間、2週間と続いていきます。「何をしても気分が紛れない」といった感覚がだらだらと続くことが特徴です。 「回復の自覚ができない気分の落ち込み」がある場合は、適応障害(またはうつ病)を疑ってよいでしょう。

Q.急に落ち込んで元気がなくなったり、疲れが取れなくなったりすることがあります。でもこれって普通ですよね。どういう状態が適応障害なのでしょうか?

A.「いつも元気」という人はいなくて、誰でも急に落ち込んだり、疲れがまったく取れなくなったりすることがあります。自律神経失調症は、疲労が蓄積されていれば、誰もが多少は経験する普通のことです。問題は、その状態の「継続性」と「異常性」 、そして「強さ」と「悪化度」ではないかと思われます。

■継続性

抑うつ状態が1週間経っても一向に収まらず、2週間以上続くようなことです。「土日に休んでも疲れが全然回復しない」「朝起きても全然疲れが取れていないことが何日も続いている」など、明らかに「ずっと」不調が続いているという状態が1つのバロメーターになるのではないかと思います。

■異常性

「これまでは普通にできていたことが急にできなくなった」という状態です。「電話が掛けられなくなった」「店員さんに声を掛けられなくなった」「会議で発言できなくなった」「普通はしないようなミスを連発した(誤植だらけの報告書を提出してしまう、上司の名前を何度も間違えて呼ぶ、同報メールをCCで送ってしまう・・・)」 「会議中にえずくことが増えた」など、些細な変化が重大な症状の兆候になっていることもありますので、「あれ?おかしいぞ?」ということが「あからさまに増えてきたら」注意のサインです。

■強度

症状の「強さ」のことです。例えば頭痛であっても、多少「疲れたな・・今日は早めに帰って寝よう」というレベルのものから、「痛すぎて横になっていないとどうしようもない」というものまで様々です。下痢も、暴飲暴食でトイレに駆け込むような一過性のものではなく、会議の度にいつも中座してトイレに駆け込む・・・といった反復性のものもあるでしょう。「強さ」は、「日常生活・社会生活の困難度」と言い換えてもよいでしょう。

■悪化度

適応障害の場合、休養や環境調整などで手を打たない限りは症状がどんどんと悪化していきます。典型的なのが睡眠で、最初は「朝、たまに早めに目が覚めてしまうなぁ・・」くらいだったものが、徐々に「毎朝目が早く冷めてしまう」、「夜中に何度も目が覚めてしまう」、「眠れなくなる」と症状がエスカレートしていきます。しばしば悪化のペースは雪崩を打ったように急速に悪化していきますので (疲れが疲れを呼ぶ状態です)、放っておくと気づいたころには心身がボロボロになっているということも考えられます。

Q.肩こりと腰痛がひどく、なかなか治りません。さらに最近はよく眠れなくなったり、会社に行くのが非常に億劫になったりと様々な不調が起こっており、気分が落ち込んでいます。病院に行ったほうがよいでしょうか。

A.肩こり・腰痛など、一見関係ないような症状でも、適応障害の症状の1つである可能性は十分にあります。このケースでは「眠れない」「会社に行くのにエネルギーを要する」「気分が落ち込む」など、心の症状や行動の障害も起こりだしています。

「不眠」「意欲低下」「抑うつ」はメンタル疾患の代表的症状ですから、「いつもと違う感じ」が2週間以上続くようであれば、一度メンタルクリニックの受診を検討してもよいかもしれません。

Q.疲労の蓄積度合いを確認する目安はありますか?

A.まずは厚生労働省の「労働者の疲労蓄積度チェックリスト」を使って確認することが一般的でしょう。ここでは、最近1か月の「自覚症状」と「勤務状況」について確認することとなります。

▼自覚症状チェックリスト

  1. イライラする
  2. 不安だ
  3. 落ち着かない
  4. 憂鬱だ
  5. よく眠れない
  6. 身体の調子が悪い
  7. 物事に集中できない
  8. することに間違いが多い
  9. 仕事中、強い眠気に襲われる
  10. やる気が出ない
  11. へとへとだ
  12. 朝起きた時に、ぐったりした疲れを感じる
  13. 以前と比べて、疲れやすい

▼勤務状況チェックリスト

  1. 時間外労働が多い(月50時間を超える)
  2. 不規則な勤務(予定の変更、突然の仕事)
  3. 出張に伴う負担(頻度、拘束時間、時差)
  4. 午後10時~午前5時の「深夜労働」に伴う負担
  5. 休憩・過眠の時間数や施設の適切さ
  6. 仕事についての精神的負担の大きさ
  7. 仕事についての身体的負担(肉体労働、寒冷作業、暑熱作業)の大きさ

また、上掲リンクにある「家族のチェックリスト」をご自身でも確認されてみることをお勧めします。客観的に見た疲労蓄積のサインを自覚することができます。

▼家族から見た1か月の働き方と休み方チェックリスト

  1. ほとんど毎晩、午後10時以降に帰宅する(テレワークの場合は午後10時以降に終業している。変則勤務の場合は終業から始業までのインターバルが10時間以内である)
  2. 休日も仕事に出かける(仕事をしている)ことが多い
  3. 家に仕事を持ち帰ることが多い
  4. 宿泊を伴う出張が多い
  5. 仕事のことで悩んでいるようだ
  6. 睡眠時間が不足しているように見える
  7. 寝つきが悪かったり、夜中に目が覚めたりすることが多いようだ
  8. 家でも仕事のことが気にかかって仕方ないようだ
  9. 家でゆっくりとくつろいでいることは、ほとんどない

このほかに、こんなことも疲労蓄積の大きなサインになるかと思います。こちらも、ぜひ直近1か月の様子を思い起こしてみましょう。

▼上記以外の疲労蓄積のサイン

  1. 「最近の変化」について、家族や同僚、友人に指摘される
    「最近イライラしている」「怖い」「顔色が悪い」「眠れている?」など。
  2. 周囲から「休め」と言われて、イライラする
    とっさに「休めない」と思って頑なになったり、時には「休めるわけないだろう」と逆上したりすることもある。
  3. 急な日常生活の荒れ
    飲酒・喫煙量の増加、甘いものの取りすぎ、衝動買いの増加、金遣いが荒くなる、ギャンブルにハマる、過度に奔放になる、喧嘩が増える
  4. 急な性格の荒れ
    攻撃的になる、ごまかしたり、嘘をついたりすることが多くなる、人付き合いが悪くなる、笑わなくなる、自信がなくなる、無能感を覚える
  5. 急な仕事の荒れ
    責任を避けがちになる、些細なミスが増える、ミスを指摘されても認められなくなる、悪口を言ったり、弱音を吐いたりすることが増える、言葉が出てこなくなる

Q.前月の残業時間は月40時間くらいでした・・・が、体調がとても悪いです。でも「40時間」だと適応障害とはいえませんか?

A.そのようなことはありません。まず大前提として、「本当に40時間なのか」という問いがあります。タイムカードや勤務報告書上は「40時間」であっても、実際の勤務時間はそれを大幅に超えていた(要するにサービス残業があるということ)ということはないでしょうか。残業時間というのは、必ず「実」残業時間を元に考えるようにしましょう。

次に、もし仮に「40時間」だったとしても、以下のようなことはないでしょうか?

▼疲労蓄積のサイン

これらの事情を抱えている場合は、疲労が蓄積している、あるいは疲労を十分に回復できていないということが考えられますので、適応障害の引き金となることは十分に考えられます。

私自身は、実残業時間が50時間を超えると翌月に謎の高熱でダウンする-というパターンを何度か経験してきました(80時間を超えると、メンタルが完全におかしくなります)。ですから、一つの危険ラインは「50時間」かな、と勝手に思っているのですが、これは個人差・業務差・組織差が大きいでしょう。大切なのは、「だいたい、この仕事量だと、これくらいの時間働くとパンクする」という基準や感覚を自分の中で持っておくことだと思います。

ちなみに、厚生労働省の基準では、「月45時間」以上の残業により、健康へのリスクが有意に上昇するとされています。「月45時間」というのは、会社員であればほとんどすべての人が日常的に経験しているものでしょう。たとえ「月80時間」といった極端なものでなくても、私たちは日々、健康リスクに曝されながら生活しているということを自覚しておきたいものです。

Q.気分は特に滅入っていないのですが、ストレスによるものなのか身体の調子はずっと悪いです。これは何でしょうか?

A.適応障害は、しばしば「身体の症状」→「心の症状」→「行動の症状」の順番で発現することがあるとされています。1つは心の症状が発症する前段階、適応障害の前駆症状とみることもできるでしょう。

また、「気分の落ち込み」などの心の症状の大きさよりも、身体症状が全面に出て目立っている(心の症状がマスクされてみえない)という場合もあります。

「おかしいな」と思ったら、できるだけ早めに病院へ相談するほうがよいでしょう。

Q.社用携帯を持ち歩くことは、精神衛生によくありませんよね。

A.その通りですね。「定時後だろうが休日だろうが、社用携帯が鳴ったら(パブロフの犬よろしく)対応してしまう」という人はたくさんいらっしゃると思います。私も休職する前までは「休日にも電話が気になってしまう症候群」の立派な一員でしたので、「厭だけど、気になるのでついつい電話を見てしまう」「電話をみておかないと、却って後で面倒くさいことになる」という心理状態はよくわかります。

しかし、「休めるわけ、ないだろう」と思い込むのが危険な兆候であるのと同じく、「電話を確認しないわけ、ないだろう」と思い込むのもまた、適応障害に片足を突っ込んでいる危険な状態であると、今ならよく分かるのです。実際は、オフタイムは電源を切るなり、電話に出ないなり、いくらでも"やりよう"はあるのです。究極の話、「あの人は、休みの日には絶対電話に出ないから」と思われてしまうくらいになって、はじめて「普通」といえるでしょう。法的には、休日なのに電話に出るという対応を"強制"する場合は、待期時間分も含めて給与が発生する話にもなってきます。出かけ先で仕事の話をしたら、誰かがそれを聞いていた-なんてこともあるかもしれません。コンプライアンスの観点からも、「オフタイムの電話対応」は避けるべきでしょう。

ところで社用携帯を持たされている人の多くは、「バイブ音」が空耳で聞こえて、携帯を確認したけれど何もなっていなかった・・ということを経験されているでしょう。これも結構危険な兆候らしく、目安として「空バイブ」が聞こえてくるようになったら、強制的にでも「オフタイムは携帯をみない」という生活をされることをお勧めします。

Q.新型コロナウイルスに罹患、またはワクチンを接種してからしばらくして、適応障害になってしまいました。因果関係はありますか?

A.人間の身体は複雑系ですから、「A(原因)をしたからB(病気)になった」ということを直線的に断言することは、一般的には非常に難しいと言えます (「鼻をほじりすぎて鼻血が出た」「冷たい水を飲み過ぎて下痢をした」という因果関係が明快なものもありますが・・・)。あれだけ身体に悪いと言われ続けている煙草ですら、「ヘビースモーカーなのに長生き」という人はいくらでもいるわけです。

まずここで、コロナやワクチンの議論に入る前に、「社会が変容」したことそのものに思いを巡らせてみましょう。新型コロナウイルスによる社会変容が長期化したことそのものが、まず大きな環境の変化です。常にマスクと消毒という窮屈な社会生活を強いられることは、それだけでストレスになるでしょう。またこれまでテレワークなど微塵も考えることがなかった人がいきなりテレワーク下におかれたり、オフィス 再編によってオフィスが急激に縮小して職場のスタイルそのものが変わったり、少なからず多くの人がこれまでにないストレスを抱えていることは想像に固くありません。このこと自体が、適応障害の誘因になっていると考えても不思議なことではありません。

一方で、新型コロナウイルスの後遺症やワクチンの副反応で深刻な後遺症が発生するという情報も、少しずつ明らかになってきました。実際に 新型コロナウイルスの後遺症や、ワクチンの副反応として、以下のような症例が報告されているといいます。

▼全身症状

▼呼吸器症状

▼精神・神経症状

▼身体症状

これらの症状は、まさにメンタルヘルス疾患で自覚される抑うつ症状、自律神経失調症と極めて酷似しています。コロナ禍以降、日本のメンタルヘルス疾患の罹患者は2倍以上に増加したとされています。「環境の激変」というファクターのみならず、新型コロナウイルスへの感染、またはワクチン接種を契機とした「コロナ因」の適応障害は、エビデンスこそこれからの知見を待つほかありませんが、肌感覚としては少なくとも「あり得ない話ではない」と感じるところです。

Q.適応障害になってから、物忘れが酷くなりました。認知症と関係はありますか?

A.適応障害になると脳の認知機能が低下しますので、若干「物忘れ」が増える、というのはよくあるケースです。特に、「人の名前が出てこない」「忘れ物が増える」「度忘れする」などの現象が多いようです。ただし適応障害による物忘れは、「忘れたこと」自体は容易に思い出せるため、その現象自体を悩めることが特徴とされています。

一方、認知症による健忘症は、「忘れること」自体を忘れてしまったり、人に指摘されても何のことかわからなくなる(ピンとこなくなる)ことが多いとされ、「忘れること」自体が(当の本人は)気にならないというのが特徴とされます。またしばしば、過去のことはよく覚えていても、最近のことは忘れてしまうというケースも見られるようになります。

したがって、適応障害による「物忘れ」と、認知症による「健忘」は、別のものと考えてよいでしょう。後者のような状態が続く場合は、早めに主治医に相談することをお勧めします。

Q.身近な人が、本人のメンタル不調をはかる基準のようなものはありますか?

A.ここ3か月で、直近1か月と比べて、「本人の訴え」と「印象(自分の印象、周囲の印象)」がどうかを観察してみましょう。1つでも該当するものがあれば要観察、複数個が該当するようであれば(2週間単位で見て増えているようであれば特に)産業医面談や通院を勧めることを検討します。

▼本人の訴え

▼本人の印象

Q.職場で周囲が変調に気づけるような「適応障害のサイン」はありますか?

A.適応障害やうつ病は、大まかに15人に1人が、一生に一度はかかる可能性があるとされています。すなわち、「誰もが経験する可能性がある」病気です。まずはそのことを念頭に置いた上で、ここ1か月くらいで、 様子・行動や、仕事のアウトプット、そして勤怠が、明らかに以前とは異なっている場合(特に、日に日に悪化している場合)は、変調のサインであるといえるでしょう。

▼様子・行動のサイン

▼仕事のサイン

▼勤怠のサイン

Q.こんな仕事の仕方になっていたら、適応障害かもしれない・・・というサインはありますか?

A.「なんだか、今までと違う」という直観は、当たっていることが多いものです。周囲や本人の「おかしいな?」「変だぞ」という気づきは、「気のせいか」と放っておくと、やがて対処不能になってから「やっぱりおかしかったのか・・」と気づいて後悔することにもなりかねません。

自分自身でも、同僚でも、部下でも以下で挙げるような異変のサインに気づいたら、抱えずに早めに誰かとコミュニケーションをとることがとても重要です。自分自身であれば上司と、同僚であれば本人や上司と、部下であれば本人と、です。自分自身であれば上司に「どうも最近調子がすぐれなくて・・・」と相談しましょう。同僚であれば「〇〇さんが疲れているようで心配だ」と上司に伝えるとか、本人に「疲れているようだけど、大丈夫?」と聞くといったことです。上司であれば部下に、「ちょっと疲れがたまっているようだが、大丈夫か?」と声掛けをしてみましょう。

■仕事の状況、これはおかしいぞ!のサイン一覧

元からそういうキャラ(忘れ物が多い、ケアレスミスが多い)である場合はあまり心配いりませんが(それはそれで別の意味で心配ではありますが)、「今までと比べて」おかしい、というのが重要なサインです。

▼休みがちになった

▼遅刻が増えた

▼トイレの頻度が多くなった、トイレの時間が長い

▼身だしなみが乱れてきた

▼忘れ物が増えている

▼ケアレスミスが増えている

▼重要書類を紛失した、事故を起こした-など本人のキャラクターに不相応なミスが起こっている

▼今までそういうキャラではなかったのに、急に上司に盾突くようになった

▼同僚と喧嘩をしている

▼市販薬の継続的な服用をしている

▼テンションが妙に高い

▼テンションが妙に低い

▼感情が不自然である

▼同じ職場で、気の置けない同僚がメンタル要因による退職や休職をしてしまった

Q.こんな働き方をしていたら、適応障害かもしれない・・・という基準はありますか?

A.パーソル総合研究所「はたらく人の幸せ/不幸せ診断」で提唱されている、労働するに当たっての諸因子「幸せの7因子」「不幸せの7因子」から援用して、「幸せ」が棄損されていたり、「不幸せ」が蓄積していたりしないかを、以下の観点でセルフチェックしてみるとよいでしょう。

▼「幸せ因子」の棄損

  1. 自己成長(新たな学び)
    仕事がコンフォートゾーンを超越して「マンネリ化」しており、「新しい学び」を得られる機会がなかったり、その意欲が沸かなかったりする状態。
  2. リフレッシュ(ほっと一息)
    仕事が緊張の連続で、ほっと一息つくような瞬間がほとんどない。家庭でも休息する時間がとれない状態。
  3. チームワーク(ともに歩む仲間)
    職場の人間関係が悪く、協働が難しい状態。
  4. 役割意識(自分ゴト)
    自分の仕事に「意味」を見いだせない。自分の果たしている役割に意義を感じられない状態。
  5. 他者承認(「見てもらえている」)
    自分自身や自分の仕事が周囲から感心を持たれておらず、評価されている実感を持てない状態。
  6. 他者貢献(誰かのため)
    自身の仕事が(自分以外の)他者への貢献につながっている実感がない状態。
  7. 自己裁量(マイペース)
    仕事において自分の意見や考えが反映できず、自分の意思やペースで計画したり、業務を遂行することができない状態。

▼「不幸せ因子」の蓄積

  1. 自己抑圧(自分なんて)
    自分のスキルに比して能力不足を感じている。自分の強みを活かすことができていないと感じている状態。
  2. 理不尽(ハラスメント等)
    自分が他者からハラスメントを受けたり、嫌な仕事を押し付けられたり、理不尽なことをされたりする。あるいは他者がそのようにされていることを見聞きしている状態。
  3. 不快空間(環境イヤイヤ)
    職場環境が劣悪(狭い、暗い、臭い、汚い、うるさい、遠いなど)で、仕事へのモチベーションが棄損されている状態。
  4. オーバーワーク(ヘトヘト)
    平日は通勤・食事・睡眠を除いたプライベートの時間が2時間もないくらい、「自分の時間」がほとんど持てないほど仕事に生活が侵食されている。休日も顧客対応などで神経が張りつめているなど、過労によって心身が疲弊しきっている状態。ワーク・ライフがまったくバランスされていない状態。
  5. 協働不全(職場バラバラ)
    職場内でメンバー同士が非協力的で、足の引っ張り合いやバラバラの活動が日常的に行われている状態。
  6. 疎外感(ひとりぼっち)
    親しく雑談や日常的な相談をする同僚がおらず、職場内で孤立を感じてしまっている状態。
  7. 評価不満(報われない)
    今の職場において、自身の努力が正当に評価されていないと感じている状態。

Q.温和だった人が急にイライラするようになりました。適応障害のサインでしょうか?

A.普段温和だった人が、急に情緒が不安定になったり、感情コントロールができなくなったりしている場合、適応障害などによる抑うつ症状や自律神経失調症として、脳の認知機能や、感情を抑制する機能が低下している可能性があります。

本人のストレス状況が客観的に見て強い場合は、まず適応障害の可能性を疑って、状況によって休養や通院をお勧めできるとよいでしょう。

Q.同僚や部下の変化に気づいたときは、どう接したらよいでしょうか。

A.声をかけ、心配であるという気持ちを伝え、話を聴いてみてください。往々にして「大丈夫です」などという答えが返ってきますが、鵜呑みにせず、気になることがあれば会社の産業保健スタッフや病院に相談することを促しましょう。

このとき、「がんばれ」「なんとか乗り切れ」といったむやみな励ましや、「そんな気持ちじゃだめだ」「誰もが大変なんだ」という非難をすることは、つらい気持ちを追い込むことになり、逆効果です。また、よかれと思っていたずらに「解決策」だけを提案し続けてしまうと、「ちっとも話を聞いてくれない」と思われて心を閉ざしてしまうこともあります。

Q.部下の異変に気づいて面談の場を設けたのですが、黙り込んでしまって話をしてくれません。どうすればよいでしょうか?

A.適応障害が、かなり重症化している可能性があります。本人が不調を認めない場合は、無理に話をさせようとせず、守秘義務のある産業医やカウンセラーなどの専門家、あるいはメンタルクリニックへの受診を勧めることを早急に検討しましょう。いったんは「様子を見る」という手もありますが、 放っておいても事態が好転することはまずないでしょう。いずれにしても、「話してくれなくなる」まで放っておいた上司とのラポール形成は絶望的な状況ですから、早めに第三者の手に委ねることが必要です。

なお、訥々とでも、「実は・・・」と自分の感じている問題点を話してくれるような場合は、事態がまだ引き返せる段階にあると思ってください。余計なアドバイスはせずに、しっかり話を聞き、「どんなことに悩んでいるか」の問題を一緒に整理するようなスタンスで臨むと、まだストップを掛けられれる可能性がある状態です。

一方、面談の場を設けた途端、(普段のその人の性格からは信じられないようなレベルで)堰を切ったようにマシンガントークが止まらない、という状態の場合は相当にフラストレーションが溜まっている状態だと思いましょう。驚くと思いますが、これもこうなるまで放っておいた上司とのラポール形成不備の問題ですから、とにかく「正面から聞く」に努めるほかありません(ただ、こうなってしまうと、もはやストレスが臨界点に達していることは明らかですので、おそらく遠からず「休職」ないしは「退職」する可能性が極めて高くなります)。

Q.ストレスの強い状況になると、すぐに転職活動をはじめて、結果的に何社も転職を繰り返してしまっている社員がいます。傍から見ていて危うさを感じるのですが、どうしたらよいでしょう?

A.大前提として、他人の人生ですから、家族でない限り基本的には自由にさせたらよいと思います。 冷たいようですが、そこまで他人に構う必要もないでしょう。見守るしかありません。

ただし、転職を繰り返す人の中には、適応障害の症状(認知の歪み)によって、「このままではいけない」という焦りから、その不安感情を打ち消す行動として、ほぼ無目的に資格を取りまくったり、すぐに転職活動をしてしまったり、という形で感情を費消してしまうケースがあることは事実です。

不安感が嵩じると、「焦燥感」に転化します。そしてこの「焦り」は、「何かをしなくては」というさらなる焦りを生み、正常な思考ができなくなることがしばしばです。

うまく行く場合はいいのですが、こうした行為を繰り返していると疲弊感情の中で集中力が続かず、失敗することで余計に自己肯定感を棄損することになります。 「20代のうちはうまくいっていたが、30代になったらそうもいかなくなった」ということもあるでしょう。本人の気づきを待つしかないとはいえ、社会的にはなかなか深刻な問題だと思います。

このQ&Aでも繰り返し述べましたが、抑うつ状態が強いときに新しいことをはじめるのは、「骨折しているのにマラソンに出る」のと同じくらい無謀なことであるということは認識しておいたほうがよいでしょう。

Q.休職を繰り返して、結局退職してしまった同僚がいます。何かできることはなかったのでしょうか?

A.適応障害が発生する職場は、多かれ少なかれ、「病む原因」が潜んでいることは事実です。もともと「負の圧力」が強い職場であれば、休職者や退職者が出た場合、その負の感情が連鎖して、休職ドミノが発生することは決して珍しいことではありません。ただし、これは構造的な問題であって、個人レベルで「何かできることはなかったのか」を考えたところで、なかなか難しいところがあります。せいぜい、次の業務監査などで職場で感じている問題点を論理的に伝える、くらいではないでしょうか。あまり考えても詮方ないことのような気がします。

さて、休職を繰り返して退職まで至った場合、究極的には「その職場と本人がそもそもミスマッチであった」という可能性は否定できません。退職してしまった方が悪いということでは決してなく、あくまでも「相性」の問題だったという捉え方をしてみるとどうでしょうか。人のお付き合いと同じく、「別れたほうがよい」という組み合わせは存在します。無理にくっついてお互いが疲弊するよりも、きっぱりと別れてしまうほうが正解、ということもあるわけです。そう考えると、その退職してしまった同僚の方の今後の人生にとって、もしかするとプラスだったのかもしれない、と想像することも可能です。

いずれにても、「残念だな」と思うのは自然な感情であると思いますが、「どうすればよかったのか」とあまり詮索しても答えは出てこない可能性のほうが高いでしょう。

Q.家族が気づける「適応障害のサイン」には、どのようなものがありますか?

A.誰もが日常生活の中で不調になったり、憂鬱な気分を抱いたりすることがあります。しかし、「どうもいつもと何か違うぞ」という状態が2週間くらい続いとしたら、要注意のサインです。適応障害は身体症状⇒心理症状⇒行動の変化と遷移していくことが多いですから、変化に気づいたら、相手がどの段階にあるかも確認してみましょう。

▼身体症状の変化

▼心理症状の変化

▼行動の変化

Q.家族の変化に気づいたときは、どのように接したらよいでしょうか?

A.心の不調のサインは、自分ではなかなか気づきにくいものです。また、気づいていたとしても、「家族や職場に迷惑をかけられない」と、自分自身で明に暗に抱杞憂え込み、そのまま放置してしまうということも起こりがちです。適応障害の予防、または早期発見・対処のためには、身近な家族の「気づき」がきわめて重要なポイントとなるのです。

いつもと違う様子に気づいたら、まずは「最近疲れているようだけど、大丈夫?話を聞くよ」といったスタンスで、本人の話を聞きましょう。ただし、本人があまり話したくないようであれば、無理強いすることは逆効果です。「話したかったらでいいよ」という調子で、しかし、「気にしている」「見守っている」という距離感が必要です。なお、話に対して逐一「それは考えすぎだと」といって否定したり、「これはこうしたらいいんじゃない」などと提案で返すと、「この人は何も話を聞いてくれない」「自分の思うことを言っているだけだ」と解釈されて、余計に殻に籠ってしまう危険性があります。まずは「話を聴く」というスタンスが何より重要でしょう。

そのうえで、つらい症状が続いており、本人が相談を希望している場合は、上司や産業医に相談してみることを促しましょう。もし本人が相談を躊躇していたり、あまり多くを語らないときは、家族がまず相談窓口などに相談してみる、というのも1つの方法です。

様子を見ていても、本人が辛そうだったり、いままでとは違う症状が2週間以上続いているようでしたら、病院(精神科や心療内科)へ受診することを勧めます。身体の病気と同様に、「早期発見・早期対応」が予後を良好にする秘訣です。このとき、あまり「うつ病」とか「適応障害」という言葉を直截的に伝えてしまうと、本人の警戒心を高めてしまうことがあります。そうではなく、「ひどく疲れている様子が心配」「眠れていない状態が心配」「めまいが続ている状態が心配」など、「症状」にフォーカスを当て、その症状解消のためにできることはないか、という観点で通院を進めるとスムーズにいきやすいでしょう。なお頑なに通院を拒む場合、または通院に極度の不安を訴える場合は、初診に「付き添う」ことも検討します。

Q.適応障害は、放っておいても「気の持ちよう」で治りますか?

A.治りません。他の病気と同じように、早期発見・早期対応を行わないと、症状は次第に悪化していきます。一般的には、状態がより悪くなったり、症状が長引いたりしてからの治療は、時間がかかるばかりでなく、予後も不良になりやすい(復職しても再発しやすくなる)といわれています。

Q.休まずに働きながら適応障害を治すということはできませんか?

A.相当難しいと思います。今は何とか仕事ができていて、家のことはできているから大丈夫・・と思っていたのもつかの間、無理を続ければあっという間に 「会議中にフリーズする」「電話ができなくなる」 「会社の入り口で足が止まる」「電車に乗れなくなる」「仕事に行けなくなる」「家から出られなくなる」 「ベッドから起き上がれなくなる」「身体を動かせなくなる」など、症状がどんどんエスカレートしていきます。ストレス源から完全に離れ、しっかりと休職を取らない限りは、適応障害の症状は悪化の一途を辿っていきます。それはまるで、坂道を転げ落ちるかのような 、猛烈なスピードになるはずです。

Q.眠れないだけなので、睡眠薬をもらって、休職せずにとりあえず働きつづけたいのですが・・・

A.現実には、睡眠薬で何とか睡眠時間だけは確保して仕事を何とか続けている・・・というケースはあるでしょう。しかし、「働き方」「仕事の質・量」が変わらないままであれば、睡眠薬の量が増えたり、さらに無理をしたり・・・と、結局は何も変わらないまま現状が悪化するということが容易に想像できます。今は何とか仕事ができていても、それが砂上の楼閣である可能性は高いということです。できればストレス源から完全に離れて、しっかりと「休む」ことを優先したほうがよいでしょう。

Q.適応障害が長期化しやすい人の特徴はありますか?

A.適応障害の治療の基本は、「ストレス源から離れて休養すること」「適切な投薬により症状を寛解させること」、そして「認知行動療法などで認知の歪みに気づくこと」が挙げられます。この基本から外れれば外れるほど、抑うつ症状が長引き、治療が長期化する傾向にあります。例えば、休養中も会社のことが気になって毎日メールチェックをしてしまう、主治医の指示に背いて処方された薬を飲まない、カウンセリングなどを受けても頑なに実践しない、などです。要するに、治療に対する「素直さ」がないと、なかなか治るものも治りにくいと言えるでしょう(頑固さは、ややもすると適応障害の症状として発現している可能性もあります。心の硬さを取っていくためにも、まずは何よりもしっかりと休養することが重要です)。

また、適応障害のストレス源が強烈であったり(「強度」の強さ)、抑うつ症状を発症してから休養に入るまでの期間が長かったり(「期間」の長さ)しても、その分、寛解に至るまでには時間がかかってしまうケースが多いとされます。何事も早期発見・早期処置が肝要です。心身の異変に気づいたら、できるだけ早めに医療機関を受診することをお勧めします。

Q.ぐるぐるぐるぐる悩みが頭の中を駆け巡ってしまい、考えがまとまりません(夜、眠れなくなります。/夜中や早朝に起きた時に寝付けなくなります)。腹式呼吸やマインドフルネスなどの解決法が有効なことは百も承知なのですが、それを訓練するだけの精神的余裕はもうありません。どうしたらよいでしょうか?

A.「過去や未来のことを考えて、思考が無限ループ」する状態、本当に辛いですよね。仰る通り、こういうときに解決策としてよく提示されるのが、「腹式呼吸」だったり、「マインドフルネス」だったりの、「今、ここ」だけに自分の意識を集中させる術です。もう「耳にタコができる」くらい、聞いていますよね。もはやこれをアドバイスされることが分かっているがゆえに、質問 することすら憚られる、そんな状態の方も多いのではないかと思います。

実際問題として、「マインドフルネス」の習得にはそれなりの時間がかかります。禅の発想も取り入れられていることからお分かりの通り、マインドフルネスの習得には「修行」的な要素もあって、効果を実感するまでには、「覚悟」「時間」「余裕」も必要なのです。しかし適応障害で苦しんでいる人にとっては、正直なところ、それを実践するだけの「気力」がもう残っていないんですよね。よく分かります。マインドフルネスは、「元気な時」に「元気な人」が実践する方がよいのだと思います。

適応障害で「無限の思考ループ」に陥っている人が、その負の状態から脱却する一番の解決策は、何が何でもとにかく一度休んでしまって「ストレス源から遠ざかること」です。しっかりとストレス源から離れ、そのことを考えないでよい環境に身を置くと、まずは「考えない」状態を比較的短時間で実現できます。そして、「これが<頭がすっきりする>ということか」「頭の靄が消えた!」「考えないって、こんなにラクなんだ!」と、あるべき姿(理想像)を一度イメージできるようにしておくことが大切です。イメージがないものを実現させるのは至難の業ですからね。

そのうえで、興味がある人は「腹式呼吸」や「マインドフルネス」などで「理想像」を常に実現できるようなコントロールをしたらいいと思います。しかし、ほとんどの人にとって、それをするだけのモチベーションはあまりないでしょう。そこで提案するのが、「考えるヒマを与えない」という方法です。

「よい暇」は人間性が涵養されますが、「悪い暇」は「暇だと、碌なことを考えない」という現象を惹起します。一度しっかり休んで、理想状態が分かってきたら、休んでいる間に「良い暇の過ごし方」を身につけ、「悪い暇」をやっつけてしまいましょう。

一番良いのは、趣味に没頭することです。自分が集中できる趣味に、休みという「暇」を活かして徹底的にのめり込むのです。「寝食を忘れてでも取り組む」趣味がある方は、黙っていても雑念が取り払われることでしょう。

趣味なんてないよ、という方。次にお勧めするのが、適度に苦しい運動をすることです。負荷としては、20分程度、「話しかけられたら応答はできるが、自分からは積極的に話しかけたくない」くらいの辛さのものがよいと思います。軽いジョギングや水泳が該当すると思うのですが、これを週2回くらいすると、運動中は「疲れて考え事どころではない」ですし、運動後は「不思議と頭がすっきり」します。夜は夜で疲れているのでよく眠れるという嬉しいおまけがついてきます。

このように、「ぐるぐるループをしない時間」を意図的に作り出すことで、思考のクセのようなものがほぐれてくるのではないかと思います。まず休む、そして休んでいる間に「没頭できる時間」を創出する、ということですね。

Q.休んだら、却って具合が悪くなりました。こんなことなら、休まないほうがよかったのでは?

A.実は私もそうでした。医師に聞くと、適応障害で休職に入ったときに、とてもよくある現象だそうです。マラソンのゴールテープを切った直後に、選手がその場で倒れ込む映像を見たことはありますよね。あるいは、多忙な時に休日に限って熱がでるみたいな現象に経験はありませんでしょうか。それと全く同じだそうです。限界まで走って、「休める」となったとたんに、心身が緊張を解き放ち、一気に押さえこんでいた不調が爆発するのです。2週間くらい、何も考えずに寝る・食べるだけのダラダラ生活を送っていると、少しずつですが必ず回復してきます。


【3.休み方について

Q.休職までのプロセスって?

A.体調不良の状況や、会社によっても異なりますが、だいたい次のプロセスを踏むことが多いでしょう。

▼休職までのプロセス

  1. 2週間くらい、心身の不調が続き、日常生活に支障を来している
  2. 直属の上司に体調不良の相談をする
    →産業医との面談、1週間程度の休養、通院などを勧められるはずです
  3. 通院により、主治医から休職の診断書が出る
  4. 上司に通院結果を報告する
  5. 人事の指示により、長欠届や休職届を提出する
  6. 上司などと当面の仕事の引継を行う(病状により、このプロセスは上司が引き取る場合もある)

Q.上司と相談せずにいきなり休職したいのですが・・・・

A.その心理状態は理解できるものの、上司への事前相談をすっ飛ばして、「診断書」→「いきなり休職」となるよりは、通常の業務報告のプロセス(報告・連絡・相談)と同様に、「上司に体調不良を告白する」→「有給休暇を取り、通院する」→「医師の診断書を得る」→「上司に報告し、休職」という段階を踏むことがもっともスムーズかと思われます。

「上司と相談したくない」という発想が出てくること自体、おそらく適応障害の症状の1つだと思われます (何かあったら上司には真っ先に相談するのが社会人の基本のはずだからです)。もちろん、本当に症状が悪くてどうしようもないときは「休む」ことが優先ですから、「いきなり休職の診断書を引っ提げて突然休む」あるいは「家族から連絡を取ってもらう」ことも手段としては否定されるべきものではありません。ただし、これをやってしまうと心象的にはかなり気まずく、いざ回復した時に復職しづらくなってしまうこともあります。

「実は体調が悪くて・・・」と告白するのはとても緊張するかもしれませんが、コンプライアンス全盛の時代、それで変な対応をすれば上司の立場がきわめてまずくなります。案ずるより産むが易しで、しっかり相談すると 、いろいろと取るべき方向性も見えてくるはずです。

繰り返しにはなりますが、余程のことがない限り、上司とは「事前に相談しておく」ことをお勧めします。

Q.でもやっぱりなかなか「休む」ということを相談できません。どうしたらよいでしょうか?

A.適応障害でただでさえ心が弱っているところへ、相手に自分の「弱み」を見せるのだから尻込みしてしまうのも当然です。まずは自分自身に、行動ができなくなる5つの「心の壁」があることを理解しましょう。

▼恐怖心

▼遠慮、恐縮

▼見栄、プライド、虚栄心

▼完璧主義

▼不信感、あきらめ

いかがでしょうか。恐怖心、遠慮、プライド、完璧主義、不信感-これらの感情がないまぜになって、自分の本心を自己開示できない状態になっているのが「休む」と相談できない心の正体です。まずはこういう心が作用しているということを否定するのではなく、受容しましょう。

これらの感情は、ストレスからの自己防衛反応です。こんな反応をしてしまっている自分をまずは労りましょう。「自分の心」と向き合うと、それが相談の原動力になるかもしれません。

もちろん、どうしても相談ができないという場合は「いきなり休職の診断書を引っ提げて突然休む」あるいは「家族から連絡を取ってもらう」ことも手段としては否定されるべきものではありません。ただし、これをやってしまうと心象的にはかなり気まずく、いざ回復した時に復職しづらくなってしまうこともあります。

Q.体調不良や休職について、どのように上司に相談したらよいでしょうか?

A.まずは、「体調不良が続いていること」「体調不良が悪化していること」を伝えましょう。例えば「○月からよく眠れていない」「めまいが続いている」、そしてそれが「一向に改善せず、悪化してきている」という具合です。まず間違いなく上司からは「一度休め」とか、「病院に行ったのか?」といった声掛けがあることと思います。もしそれがない場合は、こちらから「一度お休みをいただきたい」ないしは「一度病院に行きたい」といったことを提案しましょう。

■「まず上司と相談し、長欠にならない程度に有給休暇を取り(概ね数日~1週間程度)、その間に病院の診断を仰ぐ」ケース

上司と事前相談の上、通院するケースです。休暇中にはまず病院にかかることを最優先にして、その結果をすぐ上司に報告します。その期間中に上司は「長欠になる可能性が高いこと」を想定し、 善後策・応急体制を検討するはずです。

■「すでに病院で診断書をもらっている」ケース

上司との事前相談なしで診断書が先となったパターンです。あまりお勧めはしませんが、仕方ないこともあるでしょう。これ以上上司の心象を悪くしないためにも、以下のように切り出すほうが無難でしょう。

体調不良を心配する家族の勧めで○月○日に病院にかかったところ、「○○」という診断書をもらいました。自分だけでは判断がつかないので、家族にも相談したところ、「医師の指示に従ったほうがよいのではないか」と言われています。急なことなのですが、この診断書に従って、○日からお休みをいただきたいのですが。

Q.上司に長欠を相談したり、病院を受診する基準のようなものはありますか?

A.「2週間くらい、心身の不調が続き、日常生活に支障を来している」ようであれば、何かしらの行動をすぐに起こしたほうがよいと思います。 もう少し具体的に基準にしてみましょう。「心身の不調」「直近3か月の仕事の状態」「周囲の人の見解」の3点から検討してみます。

まず2週間くらいを振り返ってみて、以下のような心身の不調が1つでもあれば、基本的には「今すぐ休むべきサイン」だと言えるでしょう。

▼心身の不調

次に、「直近3か月の仕事の状態」について見てみましょう。下記のような状況が複合的に重なっている場合は、明らかに勤務状態が適応障害の引き金になっていると判断されるでしょう。

▼直近3か月の仕事の状態

そして、「周囲の人の見解」も重要な判断要素となります。

▼周囲の人の見解

いかがでしょうか? これらのことがある場合は、まず相当な危険信号だと思いましょう。それ、おかしくなっています!にも書きましたが、「休みたいのに、休めない」とか、「周囲が『休め』と忠告しているのに『休めるわけないだろう』と激昂する」ような状態になっている場合は、ほぼ間違いなく適応障害に両足を突っ込んでいる状態になっている、と思っても差支えないでしょう。

■最も大切な基準

さて、様々な「基準」らしきものを縷々申し述べてきましたが、一番大切なことがあります。それは何か。
- 「自分が休みたいかどうか」です。「休めるわけがない」という思い込みはこの際置いておいて、自分の心の声が「休みたい」と言っているのかどうか。これが、実は一番大切な基準なのです。

Q.本当に具合が悪いのか分からなくなってきました。実は思い込みだったりして・・・何か決定的な基準ってありませんか?

A.おそらくそうぐるぐると余計なことを考えてしまっている時点で抑うつ症状の一種なのではないかと思うのですが、それはさておき、風邪ならば「熱をはかる」とか、「咳が止まらない」などで明確に「具合が悪い」と客観視できるのですが、確かに精神疾患の場合はそれが「みえない」場合もあるのは事実です。

したがって決定的な基準というのはなかなか見出せないのですが、やはり、自律神経失調症が「2週間」くらい改善しないとき、不安感などの症状がどんどん増悪しているとき、「休め」と周囲から言われているのに頑なに「休まない」と意固地になってしまっている時などは、「危険」なサインなのではないかと思われます。 そうなったら、あとは医者に掛かりましょう。

Q.長欠・休職が決まってから、上司や職場とはどのような調整をしますか?

A.大きく分けて「業務の引継」「長欠中の連絡の取り方」「長欠関係書類のやり取り」の調整が発生します。

■業務の引継

たとえ体調が許す場合であっても、可能な限り、1回で済ませることが望ましいでしょう。長欠が決まったら、決まった当日の午前中で引継を済ませられたら理想です(午後からは速やかに休みに入る)。職場の同僚や取引先を含めた関係各所への連絡は原則上司にすべて任せ、現在抱えている案件 の 簡単な洗いだしや、必要な書類の在り処を伝えておくくらいにしましょう。余程の特殊業務でない限り、「引継書」のようなものを新たに作成する必要もありません。
その後、細かいところの確認が同僚などから入ることもあると思いますが、どんなに長引いても「1週間以内」で終わらせることが肝要です。また引継の際はできる限り出社を避け、メールまたは電話(短時間)のやり取りを、時間を決めて行います。抱えていた業務の範囲にもよりますが、確認の窓口を上司に一本化して、複数の同僚から五月雨式に質問が来ないようにすることも重要です。

■連絡の取り方

労働衛生管理上、会社からは社用携帯やPCの使用が禁止されるケースが多いです。ということで、会社には私用の携帯電話番号やメールアドレスを伝え、それを使ってやり取りすることになります。なお、 このご時世ですから、現実には社用携帯やPCを家に持ち帰っていることが多いと思いますので、ついついそれを見てしまうのはそのままでは必定といえます。ここは強い意志で電源をOFFにし続けましょう。
本人からの連絡は原則メール、上司から電話が必要な場合は事前にSMS等で時間調整をする、というのが一般的です。頻度としては「人事担当者(衛生管理スタッフ)」とのメールのやり取り(通院時の報告など)が2週間に1回程度、上司からの様子伺いの電話が2~3週間に1回程度、といったところでしょうか。特に指示がない限りは、こちらから連絡を取ることは基本的にはありません(原則、 無理にしなくてよいです)。

■長欠関係書類のやり取り

長欠となる場合は、一般的には「長欠届」のような書式と、その根拠となるもの(主治医の診断書)が必要となります。会社の定める方法に従って、書類を揃えて送付しましょう。 多くの場合、追跡可能な郵送方法(書留、宅配便、レターパックなど)が要求されます。またその際の郵送料は個人負担となることが一般的です。
よくあるのが、「1か月の休養」という診断書を一度提出して、その後、「延長」していくというパターンです。この場合は、都度診断書を会社に提出する必要があります。人事担当者から毎回連絡があると思いますので、必要に応じて準備しましょう 。
これは余談ですが、慣れない上司はよく、診断書が「1か月」だから「1か月で戻ってくる予定」と部署内でアナウンスしてしまうことがありがちです。しかし、「とりあえず」1か月の診断書が出されているだけで、一般的には少なくとも「3か月」程度休職することが多いですし、場合によっては半年、1年 、それ以上と伸びることもあります。長欠が解消できるタイミングは「わからない」というほかないのです。

Q.休職に入る際には、どのような引継をすればよいですか?

A.大前提として、引継ができなくても気にしすぎる必要はありません。急な人員の欠缺が出ると職場はしばしば一時的なパニック状態になり、短期的には必ず仕事が滞るものですが、中期的には部署内でカバーし、長期的には組織的にカバー(人事異動など)して対応するものです。最優先は「体調の回復」であって、「仕事の穴を埋めること」ではないのです。

そのうえで、もし体調が許すのであれば、「1回、半日以内」で済むような簡潔な引継が望ましいでしょう(上記Q&A記載の通り)。

内容としては、当面(1か月程度)のtodoリストと懸念点や、抱えている仕事の進捗段階(何ができていて、何ができていないか)、当座で連絡すべき取引先のリストなどを簡単にまとめられるとベストです。自分のPCにしか入っていない資料は、可能な限り部署共有フォルダなどにコピーしておくとなおよいでしょう。

これが難しい場合は、少なくとも直近1~2週間のスケジュールと、できれば「何がどこにあるか」をメモ程度にまとめて引き継ぐことで十分です。

できれば会社に出社するのではなく、またビデオ会議等をするのでもなく、これらをまとめた情報を、文書ファイルにメモとして残す→メールする→必要に応じて電話で補足説明、という形をとるのが精神的にはもっとも負荷が少ないでしょう。

引継の際は窓口が複数あると五月雨式に同僚から連絡・相談が入ってしまうこともあります。これを防ぐためにも、引継は上司、または上司と相談した業務を掌握できるリーダー格の同僚などに一本化できることが理想です。

Q.体調が悪く、仕事の引継がほとんどできませんでした。罪悪感でいっぱいです。

A.適応障害に限らず、誰でも急に仕事に穴をあけてしまうことはあります。ある意味で「お互い様」です。復職したら、カバーしてくれた上司・同僚には心から感謝を伝え、職場で徐々に恩返しをしていけばよいのです。引け目を感じすぎると、心が休まらず、治るものも治らなくなってしまいます。

ここで感じる罪悪感は、おそらく適応障害の症状として発現している可能性があります。もちろん、「病気だから仕方ないだろ」と開き直る必要もありませんが、まずは自分自身が健康になることが第一です。必要委譲に落ち込む必要はありません。

Q.休んだら、周囲に「甘え」だと思われませんか?

A.そう思われたところで、休まなければあなたの体調不良は変わりません。思いたければ勝手に思えばよいのです。「周囲が甘えと思うのが嫌で休みませんでした」という結果として、「もっと体調を崩して再起不能になりました」となっても、誰も助けてはくれません。自分自身で、自分の身は守らなければならないのです。周りにどう思われようとも、あなたはあなたでしかありません。

ちなみに、事実として「働き過ぎ」が故に心身を壊しているのですから、「甘え」ではありません。自分自身が「甘えではない」と思えていれば、それでよいのではないでしょうか。

Q.普段から「突然の休職」に備えておくことも大切ですね。

A.はい。「自分のPCにしか入っていないファイルがある」とか、「ブラックボックス化した業務を多数抱えている」、「忙しくて業務報告に挙げられていないグレーな事項がいくつかある」という属人化状態はきわめて危険です。

業務のファイルはこまめに部署共有フォルダにバックアップする、業務の手順書を整備しておく、業務報告はこまめに入力する、グレーな事項で業務報告に残したくない事項は別途メモを残しておく、といったことをしておくだけで、第三者がまさかの時に業務を代行したり、引き継いだりする際の有効な保険となります。

また、日ごろから共有の予定表に業務の詳細予定を1か月ほどは記載しておくとか、todoリストも文書化して残しておくなど、「記録を見える化する」工夫も有効です。

Q.休職時に、会社に診断書を提出したくありません(同僚に病名を伏せておきたいです)。

A.まず、就業規則上、長欠・休職の場合は診断書の提出は必須となります(通常、直属の上司経由(※)または人事部あてに直送することが多いです)。出さなくてよい、という扱いをすることはまず一般的ではないでしょう。

診断書は、もっともセンシティブな個人情報ですから、その記載内容は人事労務管理上必要な人だけ(レポートライン上の上司、人事責任者、労務担当者、産業医や企業の委嘱している心理カウンセラーなど)だけが厳重管理の下で共有することが原則です。

個人情報保護の観点から、上司含め診断書記載の情報を知り得たすべての社員は、個人情報の守秘義務が課せられます。したがって休職に入る際に、上司のほうから「どこまでメンバーに伝えてよいか」「伝え方はどうするか」を綿密に確認されることが普通です。この時に、「自分で伝えてよい範囲」を明確にして上司と共有するようにしておきましょう。もし上司からこのような提案がなかった場合は、必ず自分の希望を伝えるようにします(同僚に病名を伏せたい、という希望を伝えることは権利として認められます)。

(※)なお上長経由で診断書を提出するケースであっても、パワハラ・セクハラなどでどうしても上長を経由したくない、という場合は、まず人事担当者などに状況を相談することをお勧めします(状況次第では、人事部長や産業医等への親展扱いで提出することが可能なケースも考えられます)。

Q.長欠・休職が決まってから、会社に確認しておくべきことはありますか?

A.人事担当者から休職者向けの書類一式(諸制度についての説明含む)が自宅に郵送される場合がほとんどかと思いますが、状況に応じて、次のことを確認するようにしましょう。

▼休職時に会社と確認しておくこと

  1. 今後の休暇の流れ(有給消化期間→療養休暇期間→休職期間)と、それぞれの残日数について
  2. 長欠中の給与・諸手当などの支給方法や条件について
  3. 傷病手当金の手続き方法について(無給になる場合)
  4. 復職までの流れについて

休職してすぐは体調も悪く、すべてを一度に確認することはできないかもしれません。上記はあくまでも概ねこの順番で確認していければ安心という目安ですので、焦らなくても(必ずしもすべてを休職に入るタイミングで把握していなくても)大丈夫です。

Q.同僚が「休職1か月」という診断書をもらって休みました。翌月には復職するものだと思って準備をしていたのですが、実際は「休職期間を延長する」ということになりました。「延長する」というのは普通ですか?

A.ごく普通です。「いったん、1か月の診断書を出して様子を見る」というのは非常によくあることです。普通の病気やケガですと、「1か月休む」と聞くと、きっかり1か月後に戻ってくるというイメージがあるので健常者から見ると驚くのですが、メンタル要因では特に、1か月程度で復帰できることは極まれで、診断書が複数回更新されるということが普通にあります 。

したがって、メンタルの場合は「いつ戻ってくるかはわからない」「最低でも3か月、長ければ1年半くらい戻ってこないこともある」と思って(また戻ってきてからもしばらくは軽減勤務ですから)基本的には「当面は、いないもの」として考えておいたほうがよいでしょう。

Q.休職期間を決めてから、計画的に休みたいのですが・・・

A.「仕事脳」ですと、休暇の期間が未定ということは「あり得ない」ことのように思ってしまい、はっきりと「何か月休む」かが予め分かっていないと不安で休職できない、という悩みは非常によくあります。

しかし、適応障害の寛解の過程には個人差があり、「どのくらい休職するか」を計画することはまず不可能といってよいでしょう。「1か月の休職」という診断書が出ても、それが再延長されるということはいくらでもあります。最初の診断書通りに、ぴったり休んでぴったり復職ということはほぼあり得ません。それくらい、非常に見通しが立てにくい疾患なのです。

この中途半端な状態が不安な場合は、主治医と相談して、一般的なケース(あるいは可能性の高いケース)で仮の見通しを立ててもらうことをお勧めします。例えば「3か月くらいは休む人が多い」ということであれば、会社には「3か月くらいは休むケースが多い」と予め伝えておいたうえで、予定が変わる可能性があること、診断書が延長されたらすぐに連絡することなどを上司や会社の担当者と共有しておくとよいでしょう。

多くの場合、会社はたくさんの事例を持っています。「最初の診断書通りに戻ってくる」とは普通、思っていませんので、その点は安心しましょう。大切なのは、「いつ戻ってくるか」という見通しの正確さではなく、「今どのような状況なのか」を都度、継続的に、しっかりと会社と共有することです。

Q.休職期間のイメージがわかずに不安です。どのくらい回復したら仕事に戻れるのでしょうか。

A.このQ&Aでも記載している通り、「就業規則通りに働けること」が復職の大原則です。しかしながら病気が治るまでの過程は個人差が大きく、「休職期間はこのくらいです」と一概には言えません。最初から正確な予測をすることはほぼ無理だと言ってもよいでしょう。この「不確定な状態」を「抱えながら生きる」ことが難しくなるのも、適応障害特有の認知の歪みによって起こっている可能性もあります。まずは「メンタル疾患は、治癒の見通しがなかなか立ちにくいものだ」という事実を受け容れることが重要です。

ちなみになぜ時期が明確にできないかというと、仕事に必要な体力・気力には、個人差もあれば職場の環境の差もあり、変数があまりにも多すぎるからだといえるでしょう。

特に長期にわたって休職する場合、自分が思っている以上に体力・気力が落ちていることがほとんどです(仮にその期間毎日運動をしていたとしても、です)。ただ仕事をするだけでもしんどいのに、これに加えて通勤、さらに復職者特有の気遣いなども必要になってきます。「仕事に必要な体力・気力がどれくらいあればよいのか」は、定量化がきわめて難しく、方程式のように定式化するのが極めて困難なのです。

Q.休職中の休み方って?

A.適応障害による「休み方」はかっちりと理論化されていて、一般的には3つの時期に分けるようです。「とにかく休む時期」→「少しずつ身体を動かす時期」→「復職の準備をする時期」というようにです。

詳しくは「ストレスで休養するときの休み方」をまとめるに記載しましたので、ぜひご参照ください。 ここでは、それぞれの時期の特徴と休み方、次のステップに進む目安についてまとめています。

私は、最初の「とにかく休む時期」と、「少しずつ身体を動かす時期」の2つの時期を徹底的に休むことが極めて重要だと感じました。心身の健康を回復させる(人間性を取り戻す)のは「適切に休むこと」によってのみ実現します。基本的には、「本当に好きなことをして過ごす」のでよいと思います。今はリモートワークや変則勤務も普通になりましたから、平日にブラブラしていても世間の目はまったく気になりません。 ここまで会社に貢献して、さらに税金も保険料も払ってきたわけですから、ここはある意味で「権利」と割り切って、大手を振って休みましょう!!

休養がしっかり取れない(身体は自宅なのに、心が会社にある)と予後は不良になりがちと言われます。骨折した時はギプスを巻いてそこを動かさないように「絶対安静」にするのと同じで、適応障害は「心の骨折」だと思って、まずは「心を動かさず、休める」ことに徹しましょう。

Q.「とにかく休む」とは、具体的にはどうすればよいのですか?

A.適応障害は、論理思考をする「脳」が、ともすれば非論理的にみえる「心身」の声に蓋をしたまま「無理」を重ね、やがて心身が正常な活動をストップしてしまった状態と捉えることができます。適応障害で発現する抑うつ症状は、心と身体の悲鳴であるといえるでしょう。この、文字通りの「心の声」を無視したままでいるわけにはいきません。

そこで、「抑うつ症状」そのものを無理に治そうとするのではなく、その症状にまずは向き合い(声を聞き)、いわば「どっぷり浸かる」ことが「とにかく休む」ことにおける一番大切なことになるのです。ともすると、不快な抑うつ症状は社会復帰のためにも「治さなければならない」と思ってしまいがちなのですが、そう思うこと自体が、脳が心身を支配し、失感情と失体感から回復できていない証拠となるのです。

「症状に向き合う」とは、例えば「起き上がれない」のならば「起き上がれない状態のままでいる」、「誰とも話したくない」のであれば「誰とも話さないままでいる」ことに、「浸かる」ことです。いったん、「正常であらねばならぬ」ということをあきらめるといってもよいです。そもそも、「ねばならない」というのは、すべて脳が生み出した「すべき思考」とでもいうべき「義務感」です。しかし、繰り返しになりますが、まずやることは心身の声に耳を傾け、まず心身が本心から「したい」と訴えていることをすることです。「心身の声を聞く時間」を、たっぷりと取ることです。そしてそれはおそらく、「何も有意義なことをしない時間」を確保する、ということになるでしょう。この「何も有意義なことをしない時間」こそが、「とにかく休む」の本体です。

心の底から「何も有意義なことをしない」ことに慣れてくると、本心が顔をのぞかせてきます。最初は脳に押さえつけられることにおびえていた心身が、「本当は仕事ばかりではなくて、家族と過ごしたかったんだ」とか、「夜くらいは自分の好きなことをする時間に充てたかったんだ」とか、「上司に嫌われたくない一心でどんな仕事でも引き受けてきたけれど、本当はもう限界だったんだ」とか、「出世することだけが目的になっていたけれど、実はこの仕事自体にはあまり魅力を感じていなかったんだ」など、びっくりするほど饒舌に「本音」を語ってくれるようになります。今までの働き方と正反対の本音に戸惑いますが、これこそが「無理」の正体です。「そうか、そうだったんだね。今まで我慢して偉かったね、よく頑張ったね」と、勇気を出して本音を語った心身をほめてあげましょう。「本当はもっと休職していたいんだ」とか、「このままずっと休んでいたいな」など、休職前では考えられなかったような「本音」も出てきますが、否定してはいけません。それが、偽らざる「今の自分」だからです。

このように心身がリラックスしてきて、心身が「本音」を語るようになってしばらくすると、必ずすることがない自分に気づいて、「退屈」になってきます。そして「退屈」になると、自ずと「行動」できるようになってきます。「私はそろそろ動かなければならない」でも、「私はそろそろ動いたほうがよい」でもなく、「私はそろそろ動きたい」という自発的な行動欲求が芽生えてくるのです。休職中に何らかの行動を始めるのは、この「~したい」という気持ちが生まれてきてからでも十分なのです。

「何もしない」時間は、いわば「充電」の時間です。せっかく充電しているというのに、その横で、充電以上の「放電」をしているようでは、いつまでたっても寛解することはありません。徹底的に休む。それは、「何も有意義なことをしない」ということなのです。

Q.休職してすぐ、同僚から心配してメールが来ました。返信すべきでしょうか?

A.返信できる元気があれば、してもよいでしょう。しかし、返信することを悩むくらい体調が悪ければ、無理に返信する必要はないでしょう。相手も返信が来ないことを半ば織り込んでメールをしているはずです。

Q.休職中の同僚に、メールなどで「元気?」と聞いてもよいですか?

A.仲が良い同僚には、メールの1本でも送りたくなる気持ちはよく分かります。しかし、1つの返信で何時間も悩んでしまうほど、休職者の心が病んでいる可能性もあります。休職中は原則として「仕事のことを思い出させない」ことが最重要です。よほどの緊急が発生したとき以外は、原則として何も連絡を取らないようにしましょう。それが、むしろ「やさしさ」です。

Q.休職中、平日の昼間からブラブラ歩いていると近所の目が気になります。どうしたらよいでしょうか?

A.最近はテレワークのおかげで、大の大人が家にいてもそれほど不自然な状況ではなくなりました。また、世の中には「平日休み」の仕事もごまんとあります。都市部であれば、「そういう人もいるよね」で特に問題なく片づけられるわけですが・・・地方ではそうもいかないこともありますよね。

周囲の目が気になるようであれば、無理に外出したり、変にカミングアウトしたりしなくてもよいと思います。例えば通常の通勤時間と同じ時間にスーツを着て外出し、生活圏とは少し離れた「個」が目立ちにくい場所(スーパー銭湯、大きな町のショッピングモール、隣町の図書館、個室の漫画喫茶など)で一人静かに時間を過ごすのも一手でしょう。

Q.休職が長引く性格のようなものはありますか?

A.はい。「適応障害になりやすい」性格類型があるのと同様、「休職が長引きやすい」性格類型も存在します。例えば、一般的には以下のような性格が当てはまります。「適応障害になりやすい」性格類型とほぼイコールと捉えてよいでしょう。当てはまる方は注意(否定ではなく、特性を理解した上で過ごす ということ)が必要です。

▼休職が長引きやすい性格の例

Q.休職中、これをやったら体調がよくなった、というお勧めのアクティビティはありますか?

A.個人差があると思いますが、とにかく「頭から仕事のことをきれいさっぱり忘れて、違う脳の使い方をする」ということに「徹すること」が大切だと思います。違う脳の使い方をしていると、脳が覿面に休まってきます。脳が休まってくると、日々の物事に「発見」や「感動」することができるようになり、次の行動の活力につながってきます。私の場合は、身体が動くようになって、少し「ヒマだな」「動こうかな」と思ったタイミングで、次のようなことをしました。

▼心身の体調回復のための活動例

○寺社巡り(週に1~2回)
近所や、少し遠出をして、神社やお寺に参拝しました。「何かお願いごとをする」のではなく、また徒に「御朱印を集める」ことに躍起になるのでもなく、ただただ無心で祈り、感謝を捧げることで、心に平穏が訪れます。

○電動自転車でサイクリング(週に1~2回)
電動自転車は、坂道も疲れずに走行できるので、自然と行動距離が広がります。近場だけでなく、電車で遠出をして駅周辺のレンタサイクルを借りてみるというのも景色が 変わってお勧めです。

○スーパー銭湯巡り(週に1回)
最近は岩盤浴や天然温泉もついているスーパー銭湯も増えてきました。身体を芯まで温めることで血流も増え、心身をリラックスさせることができます。空いている平日ならば人混みのストレスもありません。岩盤浴の汗をシャワーで流したら、高濃度炭酸泉にゆっくり浸かって、露天風呂で旅行気分。風呂上がりにマッサージ機で全身をほぐしたら、さっぱりした天ぷらそばでも食べてお腹を満たす。昼下がり、リラクゼーションルームで無糖炭酸水でも飲みながら雑誌を読んで ワイドショーでもボーっと眺めていたらいつの間にかうたた寝をしていた・・・なんていうのが最高の過ごし方です。あとどうでもいいのですが、肌荒れしていた背中がツルッツルになりました。

○美術館・博物館・資料館・展望台巡り(月に2~3回)
普段はじっくり通うことのできない文化施設を巡るのもお勧めです。仕事漬けで鈍り切った感性を刺激し、新たな発見や知的興奮を得るのに最適なアクティビティです。平日ならばよりゆったりした時が流れていますから、自分のペースで心行くまで鑑賞ができます。ミュージアムショップも空いているのでついつい見入ってしまいます。

○漫画喫茶巡り(週に1回)
できれば完全個室タイプの漫画喫茶に半日籠って、敢えて普段は読まないような、「出会ったことのないジャンルの漫画」を手にとって、一気読みするのも一興です。「自分の知らなかった世界」に手軽に浸ることができます。

○読書(毎日)
脳が休まってくると、まとまった本を集中して読むことができるようになってきます。できれば仕事とは無関係のジャンルの本、普段は買わないような種類の本などを手に取り、読書の世界にどっぷりと入り込みましょう。 風景の写真集のようなものも感性が刺激されて、お勧めです。普段はなかなかそのようなものを鑑賞する時間はありませんからね。

○音楽(毎日)
お気に入りの音楽を、1日中iPodで聞きまくるということをしました。これも、実はなかなか時間が取れないことの1つですね。すっきりします。

○どうぶつの森(急性期に、ほぼ毎日)
ここぞとばかりに、島の大改造をしました。どっぷりと「自分の考えた理想の島、家」を作れるので、箱庭療法的な精神安定効果がある-と、プレイしていて本気で思いました。 シムシティやA列車で行こうなどでも同様の効果があるかもしれませんね。

Q.休職中にしてはいけないことはありますか?

A.治療や回復を妨げるすべての行為です。

第一に、「義務感」に駆られてすることすべてです。「本当はやりたくないのに、仕方なくやる」という行為が一番よくありません。運動したくないのに運動したほうがいいと思って運動する、せっかくの休みで手持無沙汰だから資格の勉強でもしないといけないと思って勉強する、などです。本当にしたければすればよいし、したくなければしない、まずは一度、自分の気持ちに正直になることが一番です。

あとは、「会社のメールを見る」といった、会社の仕事を思い出す行為も絶対NGです。会社のものからはいったん、徹底的に離れましょう。 中途半端に仕事のメールチェックをしたり、同僚と連絡を取り合うといったことを続けていると、治るものも治らなくなります。

このほか、主治医の指示に反する行為(薬を正しく飲まない、再診に出向かないなど)、主治医に正しく症状を伝えない行為(本当は眠れていないのに「眠れています」と虚偽の報告をするなど)は治療の方向性を大きくゆがめますので厳禁です。

このほか、当然ながら「過度の夜更かし」だの「連日連夜お酒を飲みまくる」といった不健康なことを繰り返したり、体調が十分に回復していないのに「トライアスロン大会に出場する」「海外にヒッチハイク旅行に出かける」など、極度に身体を疲れさせるアクティビティを重ねることは、予後を著しく不良にします。

ちなみに、よく「職場の人に見つかると心象が悪い」とか言って「旅行はダメ」などとピンポイントでNGを出すような言葉も見かけますが、職場の人がどう思おうとまったく関係ありません。体調が回復してきており、それが心身のリフレッシュになるのであれば、旅行に行きたければ自由に行けばいいのではないか、と思います(私自身は、「リフレッシュ」よりも「疲労」の方が大きくなると思って旅行には行きませんでしたが)。

Q.特に体調が悪いとき(急性期)にしないほうがよいことはありますか?

A.一番は「会社に関連することすべて」です。とにかく「仕事」を想起させるものからは完全に離れます。この時期(概ね1か月くらい)を徹底的に休めるかどうかで、予後が大きく変わってくるといっても過言ではありません。ここを十分に休めると、回復も比較的早く、復職後も再発をしにくくなるとされています。

このほか、急性期においては、できるだけ「適応障害」や「うつ病」に関する書籍やネットの情報を検索することは避けましょう。「休む」とは、要するに「考えない」ということなのですが、ついつい「空白」を埋めるために「自分の病気」のことばかりを考えてしま いがちで、こうなると自分の症状に必要以上に意識が集中してしまい、却って症状がリフレイン(反復)することになるからです。できる限り、「検索する」以外のこと(とにかく寝る 、読書など別のことをするなど)に徹することをお勧めします。

また、しばらくニュースなどに触れないこともお勧めします。世の中には悲惨なニュース、センセーショナルな話題、心に突き刺さるショッキングな情報があふれています。マスメディアはそういったトピックスを、増幅して拡散する装置です。ネットメディアはその情報を更に「個人化」して、ピンポイントに手元に届ける装置と言えるでしょう。元気な時は「対岸の火事」で、野次馬的に眺めていられたものが、メンタルが弱っているときは「自分ゴト」になってしまうことが往々にしてあります。「情報」と「自分」が同一化してしまい、 ショッキングな話題にますますメンタルが弱ってしまうのです。本来は「天下国家のこと」「世間のこと」は、自分の「今、ここ」とは直接関係ないはずなのですが、休職していると社会との接点が基本的には絶たれてしまうため、メディアの情報がそのまま、自分の「今、ここ」と、 逆説的ですが却って直結しやすくなるのです。 「部屋に引きこもっている」と、どうしても「世界」と「自分」がバーチャルに疑似的に直結してしまい、あたかも世界が自分につながっている(本当は数十億分の一の存在でしかないにも関わらず・・)錯覚に陥ってしまうのですね。

こうしてみると、休職によって社会の接点が絶たれた状態で、「意識の空白」ができやすいときに、「情報を意識的に入れない」ということが大切だ、ということが分かります。実はこれを悪用するのがカルト集団だったりします。すなわち、「弱った心」×「社会と隔絶」という状態にあるときに、何か「情報」を入れると、その情報に、自己が取り込まれやすくなる、ということですね。 悪い人たちは、そこに付け込むわけです。-ですから、特に弱っているときには「自己啓発」など自分を「改造」なり「改革」するエネルギーを持ったものに関連する物事に、安易に近づかないことも重要かと思います。

Q.休職中に「仕事に関すること以外」でやめておいたほうがよいことはありますか?

A.体調がある程度よくなるまでは、「SNS断ち」をすることをお勧めします。他人の自己顕示欲のストレートな攻撃、羨望を集めるようなセレブ生活を見ていると、そういうキラキラした正解と、「休んでいる自分」「社会から隔絶された自分」とのギャップの大きさにやられてしまい、他者を羨み、妬み、嫉み、やっかみ、結局のところ自分にその憎悪の念が還ってくることになるからです。

具体的には、「LINEの通知をオフにする(時間を決めて見る)」、「YouTubeのチャンネル登録リストをいったん整理する」、「Twitter、Facebook、Instagram、TikTokをしばらく見ない」といったところでしょうか。体調が悪いときに、わざわざ他人からの「どうだうらやましいだろう」という自慢 大会を見にいく必要はありません。ただひたすら、自分の心が回復するのを静かに待ちましょう。

Q.休職中に「行っておいたほうがよいこと」はありますか?

A.ストレス源から離れて十分に休養を取り、正しい服薬によって症状を抑えることは必須です。この上で、心身の状態がよくなってきたら、復職に向けてリハビリを進めていきましょう。以下の取り組みを行うことがお勧めされます。

■生活リズムを整えること(体調管理)

「睡眠」「食事」「排泄」などをできるだけ一定にすることに挑戦しましょう。体内時計のリズムを整えることで自律神経が安定すると、身体的に安定して体調回復を早めるだけでなく、精神的にも安定し、抑うつ症状の緩和・回復につながることが期待されます。
このときは、レコーディングダイエットの手法が参考になります。すなわち、「記録を取る」ことで意識にセットされ、活動の後押しになります。その日の天候と気温、起床時間・食事時間・排泄時間・睡眠時間、その時の気分や体調の変化などを記録に残しておくと、自分の状態や症状の変化が明確になり、主治医・産業医への説明の際や、自身の体調管理に役立つでしょう。もっとも、「記録を取る」こと自体が精神的な負担になってしまっては元も子もないですので、「気づいたことや変化を手帳やノートに記録しておく」ことだけでも十分でしょう。
ただし、あくまでも体調がよくなってきてからはじめることが肝要です。体調が整わないうちにリズムを整えようと躍起になると、却って回復を遅らせることにもなるからです。

■適応障害に対する学びを得ること

公的なソースや医師の著した書籍などで(このQ&Aの最後に参考文献を掲載しています)適応障害についての正しい知識を学びましょう。発生機序、症状、留意点などを把握しておくことは、回復や再発防止のためにも有効です。
ただしセルフラーニングはあくまでもセルフラーニングであって、時間と資力を注いでプロになった方々の知識を超えているということはまずないですから、ゆめゆめ「プロと対等」と思わないようにしましょう。情報が溢れれば溢れるほど、「似非プロ気取り」の素人が跋扈し、しばしば我流に陥って、よくない結果になるというのがオチです。せいぜい、「守破離」でいうところの「守」に入ったばかりでしかない、という自覚が必要です。ちょっと情報をかじったからと言って、すぐにその道のプロになれるほど甘くはないと心得たいものです。

■自分自身の心の声に気づき、適切に対処できるようになること

自分の今の状態を、体調・気分・行動の観点で見つめてみます。「今ここ」の自分の状態と向き合うことで、症状悪化の兆候をとらえることができるようになり、体調の悪化を未然に防ぐことができるようになります。
さらに体調が回復してきたら、「なぜ休職したのか」について、自分自身の振り返りをすることも有効です。休職したときの気分や体調、そこからの変化を客観的にみることで、より自分の感情に対して適切に対処することができるようになるとされています。例えば様々な場面で自分の状態や気持ち、行動について書き出すことは自分の認知傾向を表現し、整理することにもつながり、再発予防に効果的であるといわれています。
ただし、体調回復が不十分なままに過去のストレス状況について思い出すと、「悪い記憶」がフラッシュバックしたり、悪いことを反芻したりして、体調を損ねてしまうこともあります。安易に自己判断はせず、主治医や心理カウンセラーと相談の上進めていきましょう。

Q.自分自身の心の声に気づき、適切に対処できるようになるための「自分自身の振り返り」は、どのように行えばよいですか?

A.ただやみくもに振り返るというよりは、例えば次のようなプロセスで整理していくと体系的に自分の認知傾向を捉えることが可能です。また、振り返りプロセスを経ることで、復職の準備にもつなげることが可能です。

▼最初に不調を自覚したときの状況

▼最初にメンタルクリニックを受診したころの状況

▼長欠に入った時の状況

▼長欠中の状況

▼治療状況

症状がさらに回復してきたころには、次にような振り返りもしておけると、そのまま「産業医面談」などでも活用することができます。

▼症状が回復してきたころの状況

▼復職に向けての気持ち

▼今後の心構え

Q.家で休養していてもなかなか気分が晴れません。

A.特に休職して最初のうち(2週間程度)は、とにかく体調が悪く、気分も塞ぎ、「何もしたくない」という状態が続くことが多いでしょう。これはこれまでの緊張感や疲労から解放されたことによる現象ですので、気にする必要はありません。

少し元気になってきたら、朝日を浴びる、日中は10分でも外にでて散歩をしてみる、スーパー銭湯に行く、図書館で仕事と関係のない書籍や軽めの雑誌を読んでみる、個室の漫画喫茶などで自由気ままに過ごす、など負荷が軽く、人とそれほど接する必要もない気分転換を気軽に試してみるとよいでしょう。

もし、治療を開始して1か月程度経っても「気分が晴れない」ということが続くようでしたら、主治医と相談することをお勧めします。

Q.「よい気分転換」の方法は、どのようなものがありますか?

A.気分転換には、2種類のタイプがあります。「静的」なものと、「動的」なものです。「静的」なものは、芸術鑑賞、森林浴、読書など、身体の大きな動きをあまり必要としないもの、「動的」なものはスポーツ全般、旅行など、身体の大きな動きが発生するもの、と大まかに分けることができるでしょう。

それぞれ好みがあるので、「静的だからよい」とか、「動的だからだめ」というものではありません。ただし、一般論として、「動的」なものは肉体的な疲労を伴うことが多いですから、適応障害を発症してすぐのいわゆる「急性期」にあまり動的なアクティビティに偏って気分転換をしてしまうと、心身ともに「余計に疲弊してしまう」ということがあります。休む直前、休職してすぐなどは、できるだけ「静的」な気分転換に努め、徐々に身体が動かせるようになってから、「動的」なアクティビティを取り入れたほうがよいでしょう。

Q.よく「図書館通い」を勧められるのですが、長時間図書館にいるのが苦痛です。

A.そもそも「他人がいる環境」にいることがまだ難しい、あるいは「長時間同じ場所にいることがつらい」ということであれば、まだ十分に症状が回復していない可能性があります。積極的に外出すべき時期なのかどうかは、主治医とよく相談することをお勧めします。

なお、「図書館に通う」こと自体は、当然ながら適応障害を治すための必要条件ではありません。「図書館通いがよい」からといって「図書館に通わなければ治らない」と曲解することは避けましょう(カフェでも、公園でも、漫画喫茶でも、1日の一定時間、「外出すること」そのものに意味があると思いましょう)。

Q.お酒は飲めなくなりますか?

A.そもそもアルコールはダウナー系の"薬物"なので、メンタルが弱っているときに飲むと、余計に「落ち込み」や「焦燥感」を刺激します。また、寝つきが浅くなることから睡眠そのものにも悪影響を及ぼします。「飲めなくなる」というより、「わざわざ飲まないほうが、予後もよい」というところでしょう。

ただし、寝酒で睡眠が浅くなる、深酒をする、不安を紛らわすためにアルコールに依存する、といったことにならないような、「たしなむ程度」であれば、気分転換にはなるので「別に構わない」とする見解もあります。かと思えば、アルコールそのものが気分を下げて症状を悪化させるので「原則ダメ」とする見解も強くあって、結局は「諸説あり」的な感じです。

しかし、いずれにしても抗うつ薬などの副作用を強くしてしまうことは医学的に事実なので、少なくとも積極的には飲まないほうが間違いなく「無難」というところに落ち着くかと思います。 少なくとも痛飲するようなものではないと思っておきましょう。

Q.煙草はどうでしょう?

A.言わずもがなで、非推奨となるでしょう。煙草に含まれるニコチンは交感神経を刺激しますので、心拍数増加・血圧上昇などを引き起こし、自律神経のバランスにも悪影響を及ぼすからです。

Q.でも、イライラした時に煙草を吸うとすっきりしますけれど・・

A.喫煙者からすると、「イライラしたときに煙草を吸うと頭がすっきりする」とか、「煙草を吸うことで深呼吸になるので、それがストレス解消になるのだ」という見解を疑いなく持たれることでしょう。しかし、実際はストレス解消というよりは、それがニコチン中毒の状態です。

すなわち、喫煙が習慣になると脳がニコチンに依存し、「ニコチンが切れると」脳がニコチンを要求して落ち着かなくなり、イライラするのです。そしてそのイライラは煙草を吸うことで解消(脳がニコチンを補給されて満足した状態です)するため、あたかも今までのイライラやストレスが雲散霧消したように感じるということです。

すなわち、ニコチンが切れること自体が脳にとって深刻なストレスになっていて、煙草を吸うことでニコチン切れのストレスを解消するというマッチポンプ状態になっているだけであり、決して「煙草を吸うことで日常のストレスを解消している」わけではないことに留意したいところです。

ですから、適応障害になるほどの深刻なストレス状態にあっても煙草によってそれに気づくことが遅れる場合もあります。この意味からも、煙草は非推奨といえるでしょう。

Q.カフェインはどうですか?

A.カフェインには脳を刺激し、覚醒を促す作用があります。一説には日本人の4人に1人くらいはカフェイン過敏であるとも言われていて、体質に合わないカフェイン摂取で体調を崩す(胃腸障害、不安、パニック発作など)こともよく聞かれることです。ストレスが溜まっているが、仕事を頑張ろうと思ってコーヒーや健康ドリンクなどを摂取して、却って体調を崩してしまうというケースもあるのです。

一方でカフェインにはリラックス効果もあり、すっきりして気分がよくなったり、心地よい気持ちになったりする人もいます。こればかりは、個人の体質・体調が影響するということになるでしょう。

しかしいずれにしても、カフェインは薬物です。過剰摂取で頭痛、抑うつ、不安、不眠、胃腸症状(吐き気、下痢)を引き起こします。また依存性があり、日常的に多量に摂取している人は急に摂取をやめると禁断症状として、猛烈な体調不良に襲われることもよく知られています。

したがって、適応障害の人にとってカフェインは、禁忌とまではいわないまでも、症状を悪化させる可能性があるため、体質的に受け付ける人でもあくまで適量をたしなむ、体質的に弱い人はカフェインレスを心がけるといったことがよいのではないかと思います。

ちなみにカフェインは、コーヒー、栄養ドリンクなどだけでなく、緑茶や烏龍茶、紅茶やコーラなどにも含まれています。1日の摂取量が過剰にならないよう、意識してみるのもよいでしょう。カフェインレスを意識しただけで、不安や不眠、抑うつ症状が軽快したという事例も実際にあるといいます。

Q.休職中に副業をしたり、資格を取るのはどうでしょう?

A.まずは目の前の病気を治す(寛解させる)ことに専念するのが一番です。一般的に心の病気になると、頭も少し悪くなる(脳の血流が抑制されているので、働きがよわくなる)のが普通です。こういう時にわざわざ脳や心身に負荷をかけても、大抵はよいことがないのです。

まず資格ですが、休職中で時間があるからと言って休養に時間を充てずに「試験勉強」「暗記」など、過度に脳を使う行為をしていては、休まるものも休まりません。大抵は合格へのプレッシャーなどから、余計に体調を悪くしてしまうでしょう。そもそも、「時間があるから何かしなければいけない」と思うこと自体が、適応障害の症状が治っていないのだと疑うべきです。 やるべきことはただ1つ、「頭を休ませること」です。だのに、変に頭を使わないほうがよいでしょう。

また副業ですが、これも危険です。「お金が心配だから」と安易に副業を探し、結果として「ラクに儲けられる」という謳い文句の怪しい情報商材などに手を出してしまい、お金を根こそぎ奪い取られる-などという悲惨な事例は、 おそらく枚挙に暇がありません。少し考えれば分かることですが、適応障害で社会から離脱してしまっている状態の人がまともに稼げる状態にあるわけがないのです(だから「休職 」しているのです)。 社会生活から離脱するくらい「頭が弱くなっている」ことを自覚し、「まずはちゃんと治そうよ」としか、言いようがありません。 そもそも、休職しているのに働くのならば、会社にとってみれば「じゃあうちで早く働けよ」ということになりますからね。

Q.休職中にうまい投資話を聞きつけました。お金もないですし、一口乗ろうと思っています。

A.大前提として、「うまい話」を赤の他人が教えてくれることは絶対にありません。例えば「○○万円もうかる」のであれば、人に勧めるのではなく、自分自身がやれば良い話だからです。なぜ「うまい話」を人に持ちかけるのかというと、それはその「うまい話」を売ることそのものが、 売る人にとって「儲かる」からに他なりません。このスキームさえ理解しておけば、「うまい投資話」などあり得ないと気づくことができるでしょう。

またそもそも、一般庶民は、大口の投資家(機関投資家を含む)と比べて資金力が圧倒的に過小です。ガリバーと小人が闘うようなもので、ましてや休職中の(しかも頭をやられている)病人が投資をしたところで、巧く行くはずがないのです。例えビギナーズ・ラックがあったとしてもそれだけです。下手をすると、骨の髄まで絞り取られることになるでしょう。

ということで、心身の調子が整うまでは、余計なことはせずに、「休養する」ことに専念しましょう。脳の機能が回復してくると、「どうしてこんな儲け話なんかに気を取られていたんだろう・・」と思う時がきっとくるのではないかと思います。

Q.休職中になにかでかいことをしたいです。

A.焦らずに、「小さなこと」からはじめることをお勧めします。寝起きでいきなりフルマラソンをしたら、危険です。冬場の風呂でいきなり熱湯を浴びるのも危険です。何事も「急」は危険なのです。じっくりと、「できること」からはじめることが心身をベストにしていく秘訣です。

最初は「毎朝、日の光を浴びる」、「1日1回でもいいから外出して散歩する」など、本当に最低限のことでいいのでちょっとしたルーチンをつくりましょう。いきなり大きなことをしようとしても失敗します。「千里の道も一歩から」です。

Q.休職中に友人と会うのはまずいですか?

A.いいえ。あくまで体調優先ですが、無理のない範囲で気の置けない友人と語らいの場を設けることは、よい気分転換になるでしょうし、復職に向けて対人コミュニケーション力を回復するうえでも有効なプロセスだと言えるでしょう。

ただし、「人と会うこと」は、楽しいことではあっても心身に負荷がかかり、疲労するため、症状が悪化する恐れもあります。あまり無茶はせず、療養に専念できる範囲にとどめておくことが肝要です。

Q.休職中に旅行に行くのはまずいですか?

A.いいえ。体調が回復してきているようであれば、無理のない範囲で出かけることはよい気分転換になるでしょうし、非日常の世界に身を置くこと自体が、復職に向けて必要な「心の固さ」をほぐすことにもつながります。見方によっては「湯治」とか、「転地療養」の一種とも言えるでしょう。

もっとも、旅行はどんなに楽しくても、普段とは異なる環境やスケジュールによって多少なりとも緊張や興奮はするもので、心身には負荷がかかりやすく、疲労もするため、 無自覚のうちに症状が悪化することも懸念されます。「極端な長距離・長時間旅行は避ける」という部分は意識しておいたほうが無難かと思われます。決して無理は禁物です。

なお、休職中に旅行をしていることを会社や同僚が知ってしまった場合、その行為の価値とは無関係に、心証を悪くするというリスクは常に孕んでいます。むやみにFacebookやTwitter、Instagramなどに「旅行だー!」などと呑気に投稿をすると、誰が見ているか分かりませんので 十分注意しましょう。わざわざ自分の評判を落とす必要はないのです(裏アカウントも意外とバレている可能性がありますよ)。

Q.休職中に、内なる鬱々とした気持ちを解消したいです。

A.上述の通り、まずはとにかく「しっかり休む」ことで、エネルギーを回復させましょう。少し身体が動くようになったら、疲れない程度に散歩などからはじめます。さらに元気になってきたら、ジョギングなどの軽めの運動、半日くらい街をブラブラとウォーキングしてみるのもよいでしょう。いつまでも身体も動かさずに鬱々としていると、気分までくさくさしてきます。ストレス「発散」というように、うちに溜まったストレスは適度に放出していったほうがよいといえます。

ところで、直近で「大声を出す」ようなことはありましたか?適応障害になるタイプの人は、気持ちを内側に、内側に閉じ込めてしまう傾向の人が多いように見受けられます。マグマを溜め込めばいつか大爆発するのは必定です。うまくマグマを小出しにしていくのが心の安寧を保つコツといえるでしょう。ここはいっそのこと、心行くまで、叫ぶ(シャウトする)ことをお勧めします。

人それぞれ、得手不得手があるかと思いますが、少し元気ならば、「カラオケ」はどうでしょうか。誰かと行くのではなく、「ひとりカラオケ」でよいでしょう。できるだけ元気な曲を、思い切り大声で唄うのです。唄っているうちにもやもやした気分が晴れるかもしれません。もう1つ大声といえば、遊園地やテーマパークの「絶叫マシーン」もよいでしょう。例えば、東京ディズニーランド(R)の「ビッグサンダーマウンテン」「スプラッシュマウンテン」、東京ディズニーシー(R)の「タワーオブテラー」などは、周りに気兼ねなく(周りも叫ぶので)気軽に大声を出せるアトラクションだと言えるでしょう。下りたころには、乗り物酔いとともに心地よい疲労感があるはずです。

どうもそういう気分ではない、というあなたは、「海」へ行きましょう。海の波を眺めながら、「うおおおおおお」と叫べば、心の中の荒れ狂うブラックな何者かが、きれいさっぱりなくなっているかもしれません。

Q.休職中、職場の人に年賀状を出すのがしんどいです。どうしたらよいでしょう?

A.近年は資源保護や虚礼廃止、個人情報保護、働き方改革、経費削減等々の恩恵で、幸いなことに職場内での年賀状のやり取りも減っていく傾向にあります。・・・ということは 、少なくとも職場において年賀状は、「絶対になくてはならないもの」ではそもそもないと言えますから、メンタルが弱っているときは猶更、「もらいたくもないし、出したくもない」というより「出す必要がない」ものだと断言できるでしょう。

結論としては、少なくとも「自分から出す必要はありません」。せっかくの年末年始に会社を思い出してしまうばかりか、「本来、必要のない」ことで心を病んでしまっては、もったいないことです。しかし問題は、「相手から届いてしまったとき」ですよね。

まず、同じ職場の方が気を遣って送って下さった場合ですが、心の中で「ありがとう」と感謝の言葉を唱えつつ、「ごめんなさい」と念じて、返信は書きません。「どう返信するものか」文言にまず悩むことになりますし、「元気です」というのも変ですし、年明け早々 「申し訳ございません」とお詫びをしたり、「まだ具合が悪いです」と挨拶したりするというのもおかしな話です。ここは復帰してから、個別に「年賀状ありがとうございました。当時は体調が悪くて返信もできずに失礼しました」と、口頭で非礼をお詫びすれば十分でしょう。

次に、あなたが休職をしていると知らない方が送ってくださった場合です。そもそも、それくらいの関係性なのでもう年賀状を送り合う必要性もないのですが、こちらも基本的には心の中で「ありがとう」と唱えつつ、「ごめんなさい」と念じて、返信は書かなくてもよいでしょう。どうしても気になる場合に限り、通り一遍の書面に、「本年もご指導ご鞭撻のほど宜しくお願いいたします」と手書きして投函するのもなしではないと思いますが、基本的には心身の調子を優先することをお勧めします。こちらも復帰して、相手とコミュニケーションをとるようなことがあったら、個別に「実は休職をしていまして・・・当時は体調が悪くて、年賀状の返礼もできずに失礼いたしました」と、口頭で非礼をお詫びすれば十分でしょう。

もちろん、「年賀状を書くのが大好きで仕方ない!」という方は好きに書けばよいと思うのですが、それはそれで「貰った側」も「え?休職中なのに年賀状は出せるの」と困惑するかもしれません。 あるいは、「無理しなくてよいのに・・・」と気を遣わせることにもなります。いずれにせよ、積極的に「出しましょう!」というような性質のものではないと言えます。

Q.休職中に、友人から誘いが来ました。会う気持ちが起きません。どうしたらよいでしょうか。

A.調子が悪いときは、無理に友人と会う必要はありません。調子がよくなって「会ってもいいかな」「会いたいな」と思ったら、その時に会えばよいでしょう。わざわざ高熱があるときに友人と会わないのと同じで、自宅療養というある意味で「大病」を患っていることを思えば、むしろそれが普通です。

Q.友人には、適応障害のことを今すぐカミングアウトすべきでしょうか?

A.わざわざ話す必要はありません。ただ、余程信頼関係があって、相談したい、ということであれば伝えてもよいでしょう。しかし、「すべき」という結論にはならないと思います。

逐一、「今日の自分は下痢をしています」とか、「人間ドッグで肝臓がE判定だったからヤバいんだよ」などと友人に報告する人はあまりいないでしょう(そういう性癖や関係性ならば別ですが)。元気な時に今まで通り接すれば、それでよいと思います。

むしろ治ってから「あのとき実は適応障害になって大変だったんだよ・・」と伝えるなど、実はいくらでも方法はあるのです。「今すぐ」カミングアウトするほどの切迫性は、余りありません。

Q.適応障害で休職すると、同僚や友人から白い目で見られますか?

A.見られません。白い目で見るような奴はまともな同僚、友人ではありませんから、相手にしなくてよいでしょう。ほとんどの人は、ただただ心配します。

「自分は白い目で見られているに違いない」と思い込むのはおそらく適応障害の症状で、認知の歪みや妄想が出てしまっている可能性があります。休養と服薬、認知行動療法などで症状が落ち着いてくると、このような悩みは雲散霧消するでしょう(今まで、あなたはメンタルで休職した人を白い目で見ていましたか?それがそのまま、あなたの鏡となるでしょう)。

Q.上司の立場から、休職者にはどのようなコミュニケーションを取るとよいのでしょうか?

A.全体として、「あなたを必要としている」「私、待つわ。いつまでも待つわ」というメッセージを伝え続けるイメージで臨みましょう。頻度の塩梅は非常にデリケートなのですが、「連絡を取りすぎる」と休職者にはプレッシャーを与えるだけですし、「連絡を取らなすぎる」と「自分はやはり不要だ」と休職者を精神的に追い込むことになります。 「駄々っ子」のように扱いが難しいところですが、休職者を出している時点ですでに管理責任が問われる状況下にありますので、「降りかかった責務」と思うほかないでしょう。

休んですぐの頃は、会社から連絡がくるだけで本人にとっては相当なプレッシャーとなり、病状を悪化させる恐れがあります。まずは体調を見て、慎重に連絡をしていきます。SMSなどを使って連絡するアポを取り、その時間に 短時間、「声を聴く」程度の電話をするなどがよいと思います。

体調が回復してきたタイミングで、2~3週間に1回程度、コミュニケーションを取るようにします。「通院の翌日」や「診断書を更新するタイミング」など、「節目」が双方にとって分かりやすいかと思います。予め、頻度や方法については休職に入るタイミングで共有しておくとよいでしょう。

もっとも、「上司のストレスそのもの」で休職している場合は、直接のやり取りが憚られる場合もあります。いずれにしても連絡を取る場合は、可能な限り、産業医や人事担当者などともタイミングや内容について、連携を取るようにします。

Q.休むことが大切なのは理解できるのですが、現実問題として家庭があるから休めないのですが(生きていくために仕方ないのですが)。

A.私も全く同じ考えをしていたので、その心情はとてもよく理解できます。お金を稼ぐためにも働き続ける必要がある(だから休めない)というのは、当然の考えだと思います。しかし、だからこそ猶更、 ここで完全に倒れてしまうわけにはいかないのです。足を骨折してすぐに100メートルをダッシュで走る人がいないように、心が折れているのにその心労を更に積み重ねなければならないといういわれはどこにもありません。 心が完全に壊れてしまったら、回復するまでには年単位の時間がかかることもあるのです。

仕事人生は長いです。過労の末に再起不能になるのか、一度立ち止まって心身を整えて再起するのかという選択をしたときに、「より可能性の多い」選択肢を選んだほうが、長期的に見れば幸せになれる可能性が高いと考えます。

Q.休んで今の仕事を放っぽりだすと周りに迷惑が掛かります。性格的にどうしても「休む」ことに踏ん切りがつきません・・・

A.とてもよく分かります。が、倒れるまで働いて再起不能になったら、結局今の仕事をもっと悪い形で放っぽりだすことになってしまいます。何とか再起可能性があり、まだ調整のつく(連絡のつく)レベルで休養に入ったほうが、よほどマシだと言えないでしょうか。

そもそも、「突然異動する」「適応障害に限らず、様々な要因で仕事を休まざるを得なくなる」といったことで、「取り掛かっていた仕事に突然穴が開く」ということは人生で誰でも起こり得ます。その時に、「その人が抜けたために何とかならずに職場が崩壊した」という話はまず聞きません。ほとんどのことは「何とかなる」のが世の中ですし、「お互い様」というものまた世の中です。

体調を崩したのは、ここまで税金を納め、会社に少なからず貢献してきたが故のストレスがもとなのですから、もっと堂々と休んでよいと思います。休むことは我儘などではなく、労働者の「権利」であるくらい思っても良いでしょう(それを口に出したら角が立ちますが、こんなことを口に出すような人はそもそも適応障害にならないと思いますので敢えて書いています)。

よりストレートにいうと「もっと自分中心でいい」ということになります。自分の人生は自分でしかコントロールできません。他人はあなたの人生に責任を絶対に追わないのです(それこそ 「お互い様」です)。ですから、休むことそのものが「仕事」ないしは「自己管理(セルフコントロール)」であると割り切って、本当に辛いときはしっかりと休めばよいのです。

Q.休んだら、同僚に迷惑をかけますよね。どう思われるか不安で休めません。

A.業務から離脱してすぐに人員補充が為されることはまずありませんから、多かれ少なかれ同僚には直接間接の迷惑を必ず掛けることになります。ただ、これはどんなことでも突然起こり得ることです(病気、怪我、家庭事情など)。ある意味で、「お互い様」というところがあります。

そして、どんなことであれ、世の中にはいろいろな感じ方をする人がいます。「かわいそうに」と思う人もいれば、「迷惑だ」と思う人もいるでしょう。ただ、他人がどう感じるかということと、あなたの体調というのは実はまったく無関係です。もちろん、「(迷惑をかけて)申し訳ない」と思うのは自然な感情ですが (そしてまったくそう思わないのはもはやサイコパスですし、そういう人はおそらく適応障害にはなりませんので)、過度に恐縮する必要はありません。

そもそも、休まないことで余計に体調を崩して再起に時間がかかってしまったり、体調が悪いまま勤務を続けた結果、深刻なミスをしでかしてしまうほうが、余程「迷惑だ」という考え方だってあり得るのです。

Q.やはり職場に迷惑を掛けるのは辛いです。

A.迷惑を多少なりとも掛けるのは当然ですし、辛いのもまた人情ですが、変に頑張り続けた挙句、職場で倒れて、再起不能になるほうが余程「迷惑」という考え方もあります。元気になって、元通りのパフォーマンスを発揮するほうが、長期的に見れば有益ではないでしょうか。

そしてそもそも、人員に穴が開いた場合、それを調整するのは「組織」の役目であって、「個人」の問題ではないことも心得ましょう。代表取締役でもないのに、いち組織人が、「組織の代表」を勝手に背負う必要はないのです。組織である限り、どんなときでも、代わりは必ずいるのです。

Q.職場に相談したら、職位に悪影響が出ませんか?

A.労働安全衛生法の「労働者に対する不利益扱いの防止」によって、メンタルヘルス要因により以下のことが明示的に禁じられています。

▼労働安全衛生法による不利益扱いの例示

Q.でもやっぱり休めない(休みたくない)!でも・・・このままではおかしくなりそう!!どうしよう!!!

A.実際は、「一度休む」ことをぜひとも念頭に置きたいのですが、どうしても休めない(休みたくない)!という場合は、次のプロセスを踏んでみましょう。少しだけ気が軽くなるかもしれません。

  1. 大前提として、絶対に自分を責めない。「自分に常にありがとうと言え」とまでは言わないまでも、「頭がぐちゃぐちゃになっている自分はなんてダメなんだ」などと 無益なことを考えることはやめる。
  2. 「職場で自分が嫌だと感じていること・苦手なこと」を、素直にノートに書き出してみる(心の声を吐き出させる)
  3. 「職場で自分がやりたいこと・得意なこと」を、素直にノートに書き出してみる(自分の特長を整理する)
  4. 上司と「体調不良が酷い」、ついては「業務の軽減をしてほしい」と伝える。その際は、「自分が嫌だと感じている業務・苦手だと感じているい業務」が「精神的に負担になっている」と明確に伝える。
  5. 上司と具体的に、「業務調整」を相談する。

これをご覧になって、「それが出来たら苦労しないよ」という反論が間違いなくあるでしょう。しかし、「休む」という選択を取れない以上は、「業務軽減」という「引き算」で臨むしかありません。仕事は常に「たし算」で降ってきます。ここをいかに「引く」かが、最大のポイントになるでしょう。この交渉ができない(そんな気持ちが沸かない)くらい疲れている場合は、「休む」ことがきわめて現実的な選択肢となってきます。

Q.自分にしかできない仕事を抱えているので、休めません。

A.大丈夫です。「自分にしかできない仕事」というのは、基本的に幻想です。そもそも、そこまで属人化してしまった仕事をしているとしたら、それは組織上の大問題でもあります(もしくは、業務手順から逸脱した恐ろしく非効率なことをしているのかもしれません)。しかし、突然の業務離脱というのは、異動はもとより、病気や怪我、家庭事情などでいつでも、どこでも起こり得ることです。

もちろん、「なかなか得難い人材」は居ますが、仮にその人物がいなくなったところで、業務はその当人がいなくなったとしても、1週間、1か月もすればそれなりにしっかりと回っていくものです。「今〇〇さんが抜けられたら困る」という「〇〇さん」が異動しても、3か月もすれば「〇〇さん」のことなどほとんど思い出さなくなる、ということは組織に居れば誰もが経験していることでしょう。

適応障害で業務離脱が発生した場合、概ね1週間は応急措置が取られます(最悪の場合、直属の上司が一時代行することもよくあります)。そこから1か月で部署内で役割の割り振り・再配置が行われ、3か月~半年かけて全社的なルーチン(異動による人員補充)で対処されるということが一般的でしょう。「あなた」が抜けた穴は必ず組織的に対処され、変わりない日常に吸収されていきます。そのとき、あまりにも属人化してしまっていた業務は、スポイルされてむしろ最適化(効率化)されるということだってあり得ます。

「自分にしかできない仕事」という発想に陥るのは、適応障害によって引き起こされる典型的な視野狭窄そのものです。これは妄想でしかありませんから、そこまで あなたが組織を背負って自分をボロボロにする必要など全くないのです。

Q.休めっつったって、金がいくら掛かるか心配で休めないっての!

A.現実問題として、長く休めば休むほど手取りは減っていきますので、「傷病手当金があるから大丈夫」と安易に言えないところは確かにあります。 休んでいるからと言って基本的に軽減措置もない住民税や社会保険料などの負担もありますしね。「いくらお金が必要か」「どのように生活設計を見直すか」ということは、適応障害に必ずついて回る課題であることは間違いありません。そこでこのQ&A集では、リアルな「お金について」の疑問をまとめております。ぜひご覧ください。ここでは、給料、傷病手当金、 労災、税金、社会保険料、治療費、ボーナス、有給休暇、ローンといった「気になること」をできるだけ網羅的に記載しています。

もっとも、再起不能になってしまうと肝心の稼得能力すら失ってしまうことになりますので、そうなる前に適切に休んだほうがよいことは間違いありません。 他の場所でも書いていますが、「休めない」と思っていること自体が、適応障害の症状である可能性があることは、しっかりと意識しておきたいものです。 適応障害による抑うつ症状は、とにかく視野狭窄を起こしやすいものです。しっかり一度休むことで、改めて生活設計について考えるクリアな頭脳も戻ってくるはずです。

Q.体調不良ですが、キャリアを守るためにずっと休めずにいます。しかし、本音では休まないとどうしようもないと悩んでいます。どうしたらよいでしょうか。

A.前提として、「休めない」という思考回路になってしまっている時点で、適応障害の症状が進行していることが考えられます。だいいち長期間体調が安定しないということは、会社が求める職責を全うできる状態にない、と考えることもできます。命あっての物種ですから、自分の体調にあったキャリアプランを見つめなおす時期にあるのかもしれません。

「休めない」と働き続けた挙句、長期間離脱してしまっては、結局、キャリアを棄損することになってしまいます。一度積み上げてきたキャリアから一瞬でも降りることはとても辛いことですが、一度しっかり休むことで、健康を取り戻し、今までの経験、能力、スキルを活かしたキャリア再構築ができるようになるかもしれません。

Q.「適応障害は、放っておけば治る」っていうことはないですか?

A.まずないでしょう。放置すると確実に重症化・慢性化して、本人にとっての損失はもちろんですが、社会的な損失も拡大する一方です。放置は百害あって一利なし。その他の病気と同じく、「早期発見・早期治療」が鍵です。

早期に休養し、必要に応じて服薬し、適切なタイミングで認知の歪みを修正することで、劇的によくなります。「まずは休む」これが最大のくすりです。

Q.休職中に解雇されることがないか、心配です・・・

A.会社は、業務に起因する疾病が原因で休業している労働者を、休業期間中および復職してから30日以内に退職させることができません(労働基準法)。したがって、休業期間中の退職勧告や自主退職の勧めには、応じる必要はありません。

なお、ここでの「業務に起因する疾病」とは、判例の限りでは、「当該の業務に内在する危険が現実化したものであると認められるとき」であって、「労働災害の認定要件」ほどの厳格さが求められていないと解釈できる点には、雇用者側は特に留意が必要です。

ただし、打ち切り補償(平均賃金の1200日分)をした場合、療養開始後3年を経過した時点で労災の「疾病補償年金」を受け取っている場合、および、天災等やむを得ない事由で事業継続ができなくなった場合についてのみ、例外とされます。

Q.休職するということは、職責が果たせないということ。降格や降職、退職を申し出るべきでしょうか。

A.いいえ。おそらく、適応障害の症状によって認知の歪みが生じ、「職責が果たせないということは、自分は降格(降職・退職)すべきだ」といった「0か100か思考」に陥ってしまっているように感じます。これまで組織に十分貢献してきたからこその今の地位・立場であることを忘れてはなりません。

すぐに自分を痛めつけることを考えるのではなく、むしろ、これからも従前の地位・立場で会社から本来期待されてきた職責を果たすためにも、治療によってまずは治すことを優先しましょう。会社は、「今まで通り働いてくれるあなた」をまず期待しており、「降格・降職、退職」などは端から望んでいないと思ってください。

治療が進み、症状が落ち着いてきてもなお、今の職責であること自体が適応障害の原因であると思われ、それが苦しいと自覚している場合に、主治医や産業医とも相談のうえ、はじめて直属の上司を含めた会社側と話し合うべき話題といえるでしょう。

「職場に迷惑を掛けない」というのは実は「あなた都合(あなたの安心)」であって、本来は「自分」と「会社」それぞれにとってのベストを探ることが大切です。そしてそれは、「体調が悪いとき(=脳の働きが弱っているとき)」に行うものではありません。まずは適応障害の治療を優先し、脳の働きが十分に回復してから検討すればよいことなのです。

Q.部下がどうみても体調が悪そうなので、「もう休め」といっても頑なに休もうとしません。なぜでしょうか。

A.長時間過酷な環境で働き続けていると、抗ストレス反応によって「ランナーズ・ハイ」のような状態―いわばプチ躁状態―となり、自分の心身の変調にますます気づかなくなるか、気づいていても自分の評価が落とされることを気にして無意識に「無視」するようになり(「休むと上司に認められなくなる」「出世できなくなる」という恐怖心から、いわば自己防衛によって「休む」という選択肢に自ら蓋をするようになってしまうのです)、やがて正常な思考力と感情を喪失します。

このような心理状態に陥ると、現象としては「風前の灯」となります。すなわち、「燃え尽きる直前」ということです。

プロセスとしては上記のメカニズムが働いているわけですが、その根底には、「休む」ことに対する「不安と恐怖」、弱みを見せられないという「プライド」、そして(多くは身体症状から発症するという特性に根付いた)「まさかこの症状が精神病のわけがない」といった誤解、そして「まさか自分が精神病になるとは」という油断、など様々な心理過程が存在するのです。 まずはこの感情の機微を理解するところからはじめましょう。

Q.上司です。どうしても休まない部下がいます。休ませるには、どう導いていったらよいでしょうか。

A.適応障害で燃え尽きる直前の人ほど「休めない」し、「休めるわけない」から、「休まない」というきわめて頑なな心理状態を呈します。「失体感」「失感情」により、完全に自身の心身の変調に気づかなくなっている状態です。

こうなってしまうと、「休め」という命令形、「休んだら」という提案形は逆効果で、ますます「休まない」という殻に閉じこもっていくことになります。

ここは「北風と太陽」の寓話の通り、「強制」ではなく、「本人が自分で行動をとる」アプローチをとっていくことが重要になるでしょう。具体的には、「気づかせる」アプローチが有効です。

まず、疑問形で「問題」を提起します。「眠そうだけど、ちゃんと眠れている?」「顔色が悪いけれど、無理していない?」などと投げかけます。たいていの場合は「大丈夫」などの素っ気ない返答が返ってくるでしょうが、間違いなく本人の中で「あれ?そう見えるのかな?」という「疑念」が浮かんできます。

次に、疑問を感じた理由を伝え、「共感」を示します。「このところずっと忙しそうだったから、実は気にしていたんだ」とか、「負担が増えているよね。いろいろ任せてしまって申し訳ない。」などと伝えてみましょう。本人にとっては、「へー、気にかけてくれているんだ」という「発見」を得ることができます。

ここで、最後に解決策を伝え、「出口」を示すことが重要です。実は、「眠れてる?気にしているよ。ごめんね」まではコミュニケーションが取れていても、ここで終わったしまえば単に「世間話」で終わってしまうのです。疲れがピークになっていると、「あの上司は、自分の責任逃れのために気にしている"フリ"をしているだけだ」と、変な逆恨みを買うことにもなりかねません。

ここからは一歩踏み込んで、「辛かったら、〇〇の仕事は引き取ることもできる。遠慮なくいってくれ」とか、「調整はこちらの責任でするから、今大変になっていることを話してみてくれないか」というところまで突っ込んで話ができると、いよいよ本人は、「あ、本気で考えてくれている」という「気づき」を得ることができるのです。

こうなってはじめて、「どうだろう、休んでみてはどうか?」という提案も受け入れられる、というものです。健全なラポール形成のプロセスともいえるでしょう。

Q.休職中の部下がいます。どう接したらよいですか?

A.「体は家、心は職場」という状態にさせないことです。物理的に職場から離れるだけでなく、心理的にも離すことが肝要です。

具体的には、休職の初期に「連絡を可能な限り取らない」(同僚からの様子見の連絡も含む)ことです。様子見も、また引継も、どんなに時間をかけても最初の1週間(1回あたり30分くらいまで)とし、できれば半日で済ませるくらいのイメージが重要です。

休み始めの休職者は、「休んでいいのか」「みんな働いているのに」「もう戻れない」「サボっている」「ダメ人間」「申し訳ない」といった感情に支配されており、ここに仕事の情報が1ミリでも触れることで、ストレスを連想し、不安と恐怖に支配され、休職がいたずらに長引くことにつながります。

またこの期間を使って、メンバーへのヒアリング(どうしてこの状況が起こってしまったのか。何をすればよいか)を間断なく行い、業務体制の見直しを行うべきであることは言うまでもありません。 ちなみに、ここでのメンバーの協力姿勢(有益な真実を語ってくれるか)は、日ごろの上司の鏡像そのものといってよいでしょう。

Q.家族が適応障害で休職しています。どう接したらよいでしょうか。

A.「心の」病気だと思うとついつい身構えてしまうのですが、これが「風邪」「インフルエンザ」だったらどうでしょうか?身体の病気の時と同様、心の病気でも、基本は「静養」です。静養とは、「心と体を休めること」。すなわち、「安心して休息する」ということです。では、安心して休息するために必要な接し方とはどのようなものでしょうか。

■正しい理解

まずは、「正しい理解」です。適応障害とはどのような病気なのか?を、科学的なソースから理解することからはじめましょう。
最も基本的な情報源は、厚生労働省「こころの耳」にある「ご家族の方へ」です。

■むやみに励まさない

次に、「むやみに励まさない」です。これは有名すぎてむしろ一人歩きをしてしまっている感がありますが、なぜこの行為がNGなのでしょうか。それは、ストレスに対処しようと「頑張りすぎて」適応障害になってしまった直後の人には、 余計なアドバイスなどによって励ますことでさらに「まだ頑張るのか」とか、「そんな風にはできない」とか、「こんなに気を遣わせてしまって、何もできない自分は価値がない」などと 思うことで、症状をより悪化させてしまう可能性があるからです。
ただしここで「むやみに」という副詞をつけていることに留意してください。何が何でも「がんばれ」というのはいかにも無神経ですが、かといって、がんばるべき状況でも励まさないというのも不自然です。復職の道筋が見えてきた時期などは、むしろ「新しいあなたに期待しているよ。ほどほどにがんばってね」くらいの声掛けは、むしろあってもよいでしょう。

■無理に連れ出さない

そして、「無理に連れ出さない」ということも重要です。適応障害の回復には、とにかく休む「ダラダラ期」、身も心も別世界において精神を開放する「活動期」、そして復職の準備をしていく「復職準備期」に分かれていますが、「ダラダラ期」に無理に特別なことをしてしまう―ということが実によく起こるのです。
本人は辛くて休んでいるのですが、家でダラダラしていると、ついつい、「家でくさくさしていないで、気分転換をしよう」「旅行にでも行こう」「運動しよう」「おいしいものでも食べに行こう」などと家族は考えてしまいがちです。
しかし、心のエネルギーが消耗、ともすると枯渇している状態では、普段は喜ぶ、楽しむ―といったことが楽しめず、さらに体力・気力ともに消耗することで疲労感を増し、さらに周囲の気遣いにうまく応えられない自分に嫌悪感を募らせてしまうこともあります。すると、症状はますます悪化してしまいます。本人が「休んでいること」に飽きて、「何か活動をしたい」という気持ちになるまで待つことが肝要です。

■負担の大きい「責める」コミュニケーション方法を避ける

ただでさえ自分を責めやすくなっている休職者にとっては、「責められる」ことが何よりも大きな精神的負担となることがあります。上記でも記載した励ましも、エスカレートすると「叱咤」になります。また、物事の原因や責任を追求すること、命令口調で指示を出すこと、批判・批評をすることなども負担が大きくなるコミュニケーションとされています。

■大きな決断はさせない

治療上重要なのが、「大きな決断をさせない」ことです。適応障害においては、悲観的な発想しか頭に浮かんでこなかったり、「0か100かでもう道が残されていない」と思い込んでしまったりするなど、しばしば、極端な「視野狭窄」が起こります。「職場のみんなに迷惑をかけている」「家族にも不便をかけてしまっている」という自責の念から、退職や離婚などを口走ることがしばしばあります。
「何をバカなことを言っているんだ」と責めたくなるところですが、これは病気が引き起こした思考です。その気持ちは受け止めつつ、「まずは体調を整えることを優先にしましょう。そのあとのことは、体調が落ち着いてきたら、一緒に考えよう」と繰り返し伝えましょう。

■生活リズムを後押しする

完全休養に入って1か月程度たち、最初期の症状がほぼ寛解してきた段階で、起床時間・睡眠時間、食事時間、服薬のタイミングなど、本人が希望する範囲において「生活リズム」の確率をぜひサポートしてあげてください。「できなかったことを責める」というよりは、「できるように導く」イメージで、本人に代わって時間管理を行うことで、比較的早期に生活リズムを取り戻していけるようになります。

■孤独にさせない

適応障害になると、心身の不安定を自分だけで解決することがとても難しくなってしまいます。そばにいる人(家族など)が余計なアドバイスをするでなく「伴走」していることは、本人にとっては何よりの勇気となります。ループ思考にハマって希死念慮を強化させないためにも、「孤独にさせないこと」は重要です。
なお、単身者(独身、単身赴任など)が休職することになった場合、特に睡眠や食事などに不安があるときは、可能な限りはいったん、家族と同居することを勧めてください。

Q.家事ができなくなりました。

A.適応障害の急性期は、家事もできないほど辛い症状が続くこともあります。可能な限り、家族の誰かが代行するようにしたいものです。一般的に、完全休養と投薬の効果で、1か月以内には家事ができるくらいには回復することがほとんどです。もし1か月程度経っても「まったく何もやる気が起きない」状態が続いているとしたら、別の疾患(うつ病など)を疑うべきかもしれません。

なお、食事は「宅配サービス」やコンビニ・スーパーの惣菜を利用し、掃除は「ルンバ」の使用や外部清掃サービスへ委託、洗濯は乾燥まで全自動で可能な素材のものを着る-といった工夫で、乗り切ることができます。 そしてここが重要なポイントですが、1か月くらい自堕落な生活を送ったところで、人間は元気に生きていけるものです。長い人生の1か月くらい、ほとんど家事ができなくても大丈夫です。

Q.体調が悪く、家族に家事や育児の負担をかけてしまっています。このままでよいのでしょうか。

A.家事も仕事ですから、辛いときに無理をすると症状を悪化させる危険性があります。まずは体調が回復するまでしっかりと休養に努めることを優先しましょう。

家族に申し訳ないという気持ちはわかりますが、それは体調が回復し、何かできるようになってから協力すればよい話です。罪悪感、後ろめたさ、責任感などから請け負ってしまっても「無理なものは無理」です。感謝は忘れずに、できる範囲で協力することを心がけましょう。

Q.家族も正直、辛いです。気を付けるべき乗り越え方はありますか?

A.とにかく気を遣う存在。辛い。もう決してムリはしてほしくないが、早く治って元気に働いてほしいという複雑な気持ち-これが家族から見た適応障害です。家族の大変さといったら、想像を絶するものがあります。

1つの希望は、適応障害は不治の病ではないことです。「適切な休養と投薬」で症状が劇的に解消し、「適切なリハビリ」で<必ず>寛解していく病気です。ありきたりな言い方になりますが、過度に腫物扱いするのではなく、まずは「寄り添って」あげてください。

寄り添うためのポイントは「正しい理解」です。適応障害は、「波」のある病気です。休養と投薬で体調がよくなっているように見えても、内心では不安が渦巻いているということもよくあります。本人も、「どうしたらよいか」分からなくなっていることもあります。

ダラダラしているように見えても矯正することはせず、「時間」を与えてあげることが重要です。復職までには最低でも3か月。長くて1年、1年半とかかります。そこから半年~数年という再発を防ぐためのリハビリ期間があります。このように長期の闘病が必要ですから、見ようによっては「大病」です。ぜひ、「待つ」ことをしてあげてください。

なお急性期(もっとも体調が悪い、休職から1か月くらいの時期)は、家事を可能な限りサポートし、ムリに「運動」「旅行」などのアクティビティは誘わずに、本人のやりたいようにさせることが一番です(寝たいだけ寝る、ダラダラしたいだけダラダラする)。

1か月程度して体調が目に見えて回復してきたら、徐々に家のこと、外出などを(本人の申し出に基づいて)応援してあげるようにしましょう。このときもできるだけ、本人のやりたいようにさせることが一番です。ついつい「元気なとき」の調子で叱咤激励をしたくなりますが、ここはぜひ、待っていただければと思います。

とにかく、「適切な休養」で必ずよくなるのが適応障害です。相応の時間はかかりますが、ぜひ「待つ」ことを意識して接してあげてください(永久にダラダラできる性格の人だったら、そもそも適応障害にはなりません)。

Q.適応障害で休職している配偶者と喧嘩が絶えません。限界です。

とにかく家族も辛いのが「適応障害」です。下手なことを言ってしまって間違いを犯さないか気を遣うし、かといっていつまで家にいるのか分からないし。元気なようでいて不意に落ち込むときもあるし。家の雰囲気も暗くなるし。家計も心配だし。イライラするけど、その気持ちもぶつけられないし。よくなってほしいけど、その糸口が本当に見つかるのだろうか。一言で言えば、邪魔。早く会社に行けという気持ちも湧いてくる。でも本心ではよくなって欲しい。前のような状態にはなってほしくない。いろいろな感情が渦巻いて、本当に気が休まることがありませんよね。

配偶者が適応障害になって、家でずっと顔を突き合わせることで家庭内で喧嘩が絶えない-という状態になってしまうほど追い込まれてしまったら、双方にとって「家庭」そのものが新たな適応障害の原因になりかねません。

この場合は、本人の体調が回復している(日常生活を送れる)場合において、主治医やカウンセラーとも相談のうえ、一時的にどちらかが実家に帰る、数日間ホテルに泊まる、平日はウィークリーマンションに滞在し、週末は一緒に過ごす、などの「一時別居」をすることも真剣に検討してよいかと思います。本当は著しい「環境の変化」は適応障害の大敵なのですが、「耐えられないほどの喧嘩が続いている」となると、話は違ってきます。

こうなってしまったら、距離が近すぎるとお互いを刺激しすぎてしまうという「ヤマアラシのジレンマ」の逸話を持ち出すまでもなく、いったん「距離を取る」のが最適解となってくるでしょう。

Q.休職について家族の理解が得られません。

A.家族が休職を快く思わず、納得していなかったり、疑問を呈されたりする状況は、「心の安定」が何より必要な休職期間中において、あまりよい状態であるとはいえません。休職者本人の説明でなかなか納得してもらえない場合は、ぜひ主治医との診察に同席してもらったり、家族向けのカウンセリングを受講してもらったりして、理解を深めてもらうように働きかける必要があるでしょう。

Q.子どもに休職のことを伝えるにはどうしたらよいでしょう?

A.子どもは敏感に親の変化を察します。ですから「隠す」というのは得策ではありません(不信感を持たれるだけです)。しかし、かといってあまりにも深刻に「仕事の負の側面」をあけっぴろげに見せても、子どもの将来の勤労意欲を棄損するかもしれません(仕事は酷薄なものだという印象ばかりが強くなる危険性があります-まあ、それもまた事実の側面なのですが)。ここは子どもの年齢や理解度などを加味して、「方便」か「正直に伝える」かの二択がよいでしょう。

「方便」を使う場合は、今はテレワーク時代ですから、「しばらく家で仕事をできることになった」というのがシンプルだと思います。 しかしこの場合も、「家にいる」こと自体をタブー視することは、却って事態をややこしくするでしょうからお勧めできません。

「正直に伝える」場合は、「お父さん(お母さん)は最近働き過ぎていたから、しばらく会社からお休みをもらえることになったんだよ」と配偶者からさりげなく伝えてもらうのがよいでしょう。これならば、「嘘」をついていないという意味で良心も痛みません。 またある程度の年齢であれば、状況を察して配偶者ともそれなりの会話をかわすことができるでしょう。


【4.通院について

Q.病院選びで何かポイントはありますか?

A.適応障害の場合、少なくとも半年~年単位での長期間の通院になるはずですから、何よりも「通いやすい(自宅から近い)」ことが第一選択でよいような気がしています。 あまり調べるのに凝って遠くの医者を選んでしまうと、定期的に通うのがしんどくなりますからね。一般的に復職してからも通院は半年、1年といった単位で続くはずですので、「働いていてからも定期的に通えそうか」という観点は、忘れないようにしておきましょう。

また、セカンドオピニオンを求めてドクターショッピングを繰り返すのも、結局は似たような診断となって、「骨折り損のくたびれ儲け」になることが多いようです。まずは最初に選択した医師の指示に従ってみましょう(医師の診断を殊更に不安に思うこと自体が、適応障害の症状かもしれません)。

Q.病院(精神科・心療内科)のレビューを見ていると、通院が不安になります。レビューはどこまで参考にすべきでしょうか?

A.通院先を決める前に必ず確認するであろう「病院のレビュー」は、「精神状態の悪い人がその時の気分で投稿すれば、それは低評価になりやすいですよね」という、逃れられない宿命があります。ですから、参考にはしても、思い切り割り引いて見てよいと思います。 そもそも、感じ方や好き嫌いには個人差がありますからね。 また一般的な病院は要するに「治る病院」「症例数の多い病院」が「よい病院」とされることが多いわけですが、精神科系の宿命として、そもそも「なかなか症状が治らない」こともあるわけです (※)。症例数などがそのまま参考にならない可能性があることも、ことをややこしくしているように思います。

その結果、「話を聞いてくれない」とか、「待ち時間が長い」とか、「受付の雰囲気が悪い」といった、「その病気を治すことに直結しない」部分でのレビューが溢れかえることになるわけです。

例えば「医者が目を合わせないでパソコンのほうばかりみている」というのは非常によく見る代表的な「悪いレビュー」の1つなのですが、これを「ドライ」と感じる人もいれば、「目を合わせなくて済むのでラクだ」と感じる人もいるわけです(私はどちらかというと後者です 。弱っているときは、そういう人と話しているほうが圧倒的にラクですし。ずっと目を見られたらイヤという人もいるのです)。

それから「受付の態度が冷たい」というレビューもすごくよく見るのですが、「窓口」ってそもそもそういうものだと思いませんか?これと対になる「あたたかい窓口」ってどんなものなんでしょう? いちいち長話に付き合って一向に会計が終わらない窓口を「あたたかい」とでもいうのでしょうか?・・・そう考えてみると、あまり気にならなくなりませんでしょうか。 程度の問題ですが、事務的に対応したり、例外を許さなかったり、みたいな対応が必要な時だってあるのです。

老いも若きも 「おもてなし」なんて言っちゃって、何事にもサービス過剰で、自分たちで生きづらくしているんですよね。一般論として、何事も「誰かが何とかしてくれるかも」と、過度な期待はしないほうが精神衛生上よいかと思います。何事も背負い過ぎず、適度にやり過ごすと吉。中庸が肝心。そんなもんかと思います。

(※)ある病院の低評価レビューでは、書き出しで「もう7年通っていますが・・・」とありました。うん、それ確実に治ってないからでしょ・・と突っ込まずにはいられませんでした。「具合が悪い人が書いている」ということは絶対に忘れてはならないポイントと言えるでしょう。しかも大抵は匿名ですからね。「参考にはしても、鵜呑みにはしない」、というスタンスが何より大事です。

Q.避けたほうがよい精神科・心療内科の特徴はありますか?

A.上述の通り、レビューは「心の具合が悪い人」が書いていますから、100%当てにすることは危険です。レビューだけで判断するのではなく、最終的には「百聞は一見に如かず」の言葉通り、自分で経験するしかないという部分はあります。ただ、実際問題として治療方法によって回復に差が出る可能性はありますから、「地雷」はできるだけ引き当てたくないのも人情・・・ということで、避けたほうがよい病院の特徴を挙げてみたいと思います。

■初診

▼問診票がない、または問診時間が極端に短い

▼今後の流れや生活上の注意点を一切述べない

■再診

▼数か月たっても、基本的に投薬しかしない

▼前回からの変化を確認しない

■投薬

▼薬の効果や副作用、服用上の注意点を説明しない

▼薬の量が多い

▼症状の不調に薬の増量で対処されることが多い

■情報

▼ウェブサイトでの情報発信が不足している

▼リアルな口コミが悪い

■予約

▼予約が極端に取りにくい

Q.上記の裏返しが、「理想的な病院」ということになりますね。

A.そうですね。せっかくなので、上記の反対を記載しておきましょう。

■初診

▼問診票がある、または問診時間が適切である(15~20分程度)

▼生活上の注意点を丁寧に説明してくれる

■再診

▼数か月経つと、減薬や通院タイミングの変更を提案してくれる

▼前回からの変化を必ず確認する

■投薬

▼薬の効果や副作用、服用上の注意点を必ず説明する

▼薬の量が適切である

▼薬の増量・減量をする場合は、必ず納得のいく説明をしてくれる

■情報

▼ウェブサイトでの情報発信が十分である

▼リアルな口コミがよい

■予約

▼予約が比較的取りやすい

Q.かかる医師の判断基準のようなものはありますか?

A.「精神科」「心療内科」「メンタルクリニック」自体は、国家資格の医師であれば標榜することができますので、かかる医者が精神科に精通した専門医かどうか、という観点で病院を探すのは観点としては正攻法だといえるでしょう。

具体的には、Webサイトで以下の資格についての有無を確認するとよういでしょう。

Q.精神科専門医とは何ですか?

A.日本精神神経学会が認定した学会認定専門医です。資格取得には2年間の初期研修と、3年以上の精神科後期研修が必要となります。

Q.精神保健指定医とは何ですか?

A.旧精神衛生鑑定医のことで、精神保健福祉法で定められた国家資格です。精神医療における非自発入院の判定を独占的に行える資格者で、医療観察法における医療観察制度の精神保健審判員になることができる資格者でもあります。

認定には、「精神科3年以上を含む5年以上の臨床経験」を有した上で、指定の講習を受け、指定された複数の症例(5例)に対するケースレポートの提出、そして口頭試問(合格率は5~6割とされます)を経る必要があります。

Q.初診の予約がなかなか取れません。

A.実際問題として、需要と供給がまったくバランスされていないことを感じます。予約が1か月後、ということは普通に起こり得ることですので、「少し体調が悪いな・・病院にかかったほうがよいかも・・」と少しでも感じたら、その時点で早めに予約に動かれることを強くお勧めします。

Q.薬漬けになるんじゃないかと不安で、病院に行けません。

A.確率として、医学的な介入があったほうが早く回復する可能性は高いと思います。そもそも、「薬が不安」と過剰に思うことそのものが、適応障害のもたらす不安症状の1つかもしれませんしね。少なくとも「私は」医師の指示にしたがって服薬を続け、結果として復職まで至りました。

すごく身も蓋もないことを書きますと、「どうせおかしくなっちゃったんだから、この際、少しでも治る確率があることをしたほうがよくない?」ということなのですが・・・

ただこれは、リスク×効果の許容度をめぐる哲学的な問題ですよね。科学や論理というより個人の「感じ方」 の問題ですから、基本的に誰もが納得する「正解」はないと思います。科学的に言えば、何事にもリスクはありますから、「絶対100%安全」というのは誰も保証できないわけです。しかし、だからと言って怪しいスピリチュアルな方向に何十万も費やしてしまったり、エビデンスのない民間療法に頼ったりするほうがよほど医学的には危険だというのが私の偽らざる感覚です(ただこれも感覚でしかない、というところがポイントですが ・・・例えプラセボでも「治る」なら、その人にとっては「薬」と言えなくもないわけですからね)。

Q.「このまま薬を飲み続けるのはよくない」と家族が主張し、私も言い返せませんでした。どうすればよいのでしょうか?

A.説明ができないということは、あなた自身の中に「このまま薬を飲み続けるのはよくない」という気持ちがあって、同じ疑問を抱いている可能性があります。疑問を抱きながら治療に専念することは治療効果を減らしますから、早めに主治医に相談することをお勧めします。素人判断がもっとも危険です。

当初から家族が聞く耳を持たない、なかなか理解してくれないで困っているというときには、再診の際に同席してもらい、主治医に説明してもらうことも検討しましょう。

Q.民間療法では治りませんか?

A.適応障害を含むメンタル疾患においては、治すのは自分自身であって、周囲はその「手助け」をする存在です。極端な話をすれば、「この壺が効きます」といって、それで本人が「納得」して「安心」して、なぜか心が軽くなった!というのであれば、その人にとっては「治った」ということもあり得るわけです。ただしそこには、科学的なエビデンスはありません。これはプラシーボといえばプラシーボですし、「偶然」といえば「偶然」です。

民間療法が何らかの「癒し」となって、所与のストレスを解消する可能性は否定できません。しかし、科学的には「休養」と「投薬」という医学的アプローチと、「認知の歪みを修正する」という心理学的アプローチが第一選択であって、あくまでも治療の補助、安心材料としての活用をするほうが、結果的には予後を安定させることにつながるでしょう。

Q.でもどうしても精神科にかかることに抵抗があります。民間療法で何とかなりませんか?

A.適応障害になってしまったとき、科学的・医学的な根拠に基づいた精神科医療を受けることは、国民皆保険制度によって、この国でもっとも安価に医療の恩恵を受けることができる制度です。これを第一選択にしない時点で、かなり認知的にはダメージを追っていると思ってよいでしょう(要するに、脳が病気になっているということです)。早期に対応すれば、間違いなく「高額なお金を掛けずに治療を開始できる」のが適応障害です。適切な休養と投薬、認知の歪みの修正こそが適応障害治療の王道であって、高額な投資をするとか、「何かグッズを買うことで治る」といった科学的なエビデンスはないと思ってよいでしょう。

繰り返しになりますが、本人が「納得」して「安心」して、「治った」という気持ちになれば、どんなものであれ、それがプラシーボ、「気のせい」、偶然、であったとしても、それは「治った」と解釈することもできるでしょう。ですから、何らかの民間療法が治癒につながる可能性を否定するものではありません。しかしながら、やはり、科学的なエビデンスはありません(エビデンスがあれば、国が認めることによって原則、保険適用になるはずだからです)。

しかし世の中には、藁をもすがる思いでやってくる人に対して高額なサービス、物品等を売りつけるという商売は、残念ながらたくさんあります。売り手が儲かるからです。ふと、心が揺れそうになったときは、一度立ち止まって、自分が「商売のタネ」にされていないか、よくよく考えてみることをお勧めします。

1つだけ言えることは、これだけモノやサービスが氾濫している世の中で、「敢えて宣伝しているもの」は、売り手が「買ってほしいもの」であって、買い手が「買いたいもの」ではない、ということですね。

Q.適応障害の症状は自分でコントロールできるのでしょうか。

A.ひとたび発症すれば、症状そのものを自分だけでコントロールすることは極めて難しく、一般的には休養と服薬、認知行動療法などによって症状の緩和や軽減、心身の回復を図っていきます。 コントロールできるようであれば、そもそも発症しない、ともいえるでしょう。

Q.「病院に行くのは嫌だ」と思い、症状がひどいときに心理カウンセラーに相談しましたが、特に症状は回復せず、結局病院に行って診断書をもらい、休職しました。カウンセラーにかかるタイミングが違ったのでしょうか?

A.個人差はありますが、適応障害の治療は、まず休養してストレス源から離れる→投薬により心身の症状を落ち着かせる→症状が落ち着いてきたら認知行動療法などによって心の在り様に気づくという経過を経て寛解を目指していきます。

ここでストレス源から適切に離れず、また心身の症状が激しく現れている段階で「認知を変えよう」と思っても、心がそれを受け入れる準備ができていない可能性があります。

すなわち、心に余裕があるときに「0か100か思考は控えよう」と言われると「本当だ、その通りだ」と素直に耳を傾けられるのですが、心に余裕がないときに同じことを言われても、「そんなこと知ってるよ」と素通りする危険性があるのです。これはちょうど、「休め」と言われたときに「休めるわけ、ないだろう」と心に余裕がないときほど反発する精神構造と極めて酷似している現象です。

このようなタイミングでは、せっかくのカウンセリングの効果も低くなってしまうことが考えられます。体調不良を自覚したらできればまずは主治医をみつけ、適切な「休養」と「投薬」からスタートし、体調を落ち着けてから認知行動療法 (カウンセリング)へ進んだほうが、予後もよいといえるでしょう。

Q.カウンセリングだけでは治りませんか?

A.個人差はあるという前提ですが、抑うつ症状が強く、体調がすぐれないときにはせっかくカウンセラーと話をしても、それが有効に機能しないことがあり得ます。心がコンクリートのように固くなっているときは、いくら「認知の歪みを見直してみましょう」といっても、その「歪み」に気づけないことがほとんどだからです。休養と投薬によって心がほぐれてきて初めて、カウンセリングも有効になってくるといえるでしょう。

Q.カウンセリングでは、何をしますか?

A.適応障害に対するカウンセリングは、カウンセラーと患者が、その患者にとって重要な「認知の歪み」を修正していくための話し合いを重ねていきます。

これまでの経験(人間関係、出来事)、認知の傾向(性格、心理)、現状の認識(気分、気になること)などをやり取りしていく中で、患者の抱える課題を整理し、「気づき」を促していきます。

本人が自分自身の認知の癖に気づくことで、はじめて「対処法」が浮かび上がり、ストレス状況に対する捉え方をアップデートしていくことができるようになるわけです。メンタルクリニックの行う「医学的アプローチ」と対照的に、「心理学的アプローチ」によって適応障害にコミットメントしていくものだといえます。

医学的アプローチが「マイナスを0に戻す」ものだとすると、心理学的アプローチは「0をプラスにしていく」ものだとも捉えることができます。

Q.カウンセラーには、どのような種類がありますか?

A.いわゆる「心理カウンセラー」には、様々な種類があります。心理カウンセラーを名乗るための法的な制限はないため、事実上無資格のカウンセラーも存在します(無資格だから悪い、ということではありません)。

代表的なカウンセラー資格には、次のようなものがあります。カウンセラーを総称して、「心理職」と呼ぶこともあります。

■公認心理師

心理カウンセラーの領域では、日本で唯一の国家資格です。メンタル不調者に、心理学の知識に基づいた専門的な助言・援助を行います。
「公認心理師法」によって、「心理査定」「心理療法」「面接」「メンタルヘルス教育」など仕事の内容が定義されています。

■臨床心理士

「公益財団法人日本臨床心理士資格認定協会」が認定する、民間資格です。臨床心理学の知識に基づいて、メンタル不調者の問題解決のサポートを行います。

■産業カウンセラー

「一般社団法人日本産業カウンセラー協会」が認定する、民間資格です。心理学の知識に基づいて、労働者のメンタルヘルスの課題に対応するカウンセラーです。

■認定心理士

「公益社団法人日本心理学会」が認定する、民間資格です。「大学で心理学の基礎知識や標準的な技術を習得していること」を証明するもので、特別な資格試験のあるものではありません。

上記4つがよく耳にする心理カウンセラーの資格です。このほかにも、以下のような心理カウンセラー資格があります。

▼そのほかの心理カウンセラー資格(例)

Q.カウンセラーにかかる際の注意点はありますか?

A.以下の点に留意しましょう。

■「資格」と「経歴」の確認

上述の通り、心理カウンセラーは事実上無資格でも「心理カウンセラー」を名乗ることが可能です。例えば「大学で心理学をかじっていました」とか、「自分はメンタル不調を乗り越えました」という経験ベースとか、特に資格の根拠がなくても「カウンセラー」を行うことは自由なのです。 極端な話、私が「適応障害経験者」として、「AD経験アドバイスカウンセラー」を名乗っても、特に問題はないということになります。
もっとも無資格だからといって、即、「自分に合わない」ということはありません。しかし、かかるカウンセラーの先生がどんな資格を持っていて、どのような相談歴があるのかは事前に確認しておくことをお勧めします。

■抑うつ状態がある程度回復してから相談する

カウンセラーにかかることで得られるもっとも大きな効用は、「話を聴いてくれた」という安心感とともに、「認知の歪みに気づけた」という「気づき」そのものにあります。
しかし、抑うつ症状が強く、体調が芳しくないときには心が固くなっており、「認知の歪み」そのものに気づけなくなってしまうことがしばしばあります。これでは効果が見込めませんから、まずは医療的な措置(休養と投薬)を受け、症状が落ち着いてきて 、心がある程度ほぐれてから相談にかかるようにしましょう。

■安易なカウンセラー・ショッピングをしない

「ドクター・ショッピング」がしばしば予後を不良なものにするのと同様、「カウンセラー・ショッピング」も危険な行為です。
もちろん、自分にとって「合わない」カウンセラーは(人間同士ですから)あり得ます。そのような時は当然、担当を変わってもらうべきでしょう。しかし、「自分には合わない」と思い込んでしまうこと自体が、「認知の歪み」などによって引き起こされている可能性については、冷静に意識をしておきたいものです。

Q.「精神保健福祉士」という職業がありますが、カウンセラーとは違うのですか?

A.違います。どちらもメンタルヘルスに関わる仕事ですが、精神保健福祉士は「精神保健福祉法」に基づく、精神保健福祉領域の「ソーシャルワーカー(社会福祉支援)」の国家資格です。精神障碍者の社会復帰支援のため、福祉施設や医療機関などで勤務しているケースが多いです。

Q.カウンセラーと話をしていたら、直後に体調を悪くしてしまいました。何か原因はありますか?

A.環境調整(ストレス源から離れる)→十分な休養→投薬による症状の改善を経て、カウンセラーと認知行動療法に取り掛かるとき、よく行われるのが「何が原因で適応障害になったのか」という振り返りです。振り返りを明確にして、「自分」と「環境」の双方の原因に向き合うことは、寛解のためにも、また再発防止のためにも重要なプロセスです。

しかし、体調が不十分でないときに「振り返り」をはじめてしまうと、これまでのストレス状況がフラッシュバックして、せっかく落ち着いていた症状がぶり返してしまうことがあります。おそらくこれが原因と言えるでしょう。一言で言えば、「カウンセラーにかかるのが早すぎた(あるいは「振り返りのプログラムを実施するには早すぎた)」ということです。

主治医・カウンセラーと相談し、カウンセリングやリハビリに向けた活動のリスケジュールを行うことが望ましいといえます。

Q.精神科・心療内科の響きがハードルが高くて・・・

A.ハードル、高いですよね。でもこれは大丈夫です。行くと普通に老若男女、多くの人が待合室にいます。そして、誰も彼もが「普通の人たち」です。現代社会でみな、傷つき闘っているんだなぁ・・・と頭が下がります。そして、その一員として安心すらします。

以前、痔になったときも肛門科に行くのは躊躇しましたが、これまた普通に老若男女、多くの人が待合室にいました。そして、誰も彼もが「普通の人たち」です。「社会はふつうの人たちの集合体だ」という当たり前の事実に気づかされます。

Q.精神科・心療内科への通院を勧める目安はありますか?

A.周囲から見ていて、次の4つのいずれかが該当した場合は、ただちに通院を勧めるとよいでしょう。

▼通院を勧める目安

  1. 本人からの「体調不良で休みたい」という申し出がある場合
  2. 現在の業務に適応できていない場合
    具体的には、「勤怠の不良」(突然の遅刻・早退・欠勤が続いている)、「ミスの増加や繰り返し」、「期日を守れなくなる」、「電話や人前でスピーチするなどの業務上必要なコミュニケーションができなくなる」、「集中力の低下」、「本人の能力・スキルに不相応なパフォーマンスの低下」がある場合。
  3. 心身の変調が日単位・週単位でみて悪化している(進行性の悪化がみられる。あるいは波があったとしても、悪化した場合の谷間が大きくなっている)。
  4. 発作を起こした(過呼吸やパニック発作、自傷行為、自殺未遂、卒倒・気絶など)

Q.精神科、心療内科、メンタルクリニックの違いってなんでしょう?

A.それぞれみていきましょう。

■精神科

「精神科」とは、精神疾患を扱う診療科のことです。抑うつを引き起こす病気から依存症、発達障害まで、様々な精神障害を扱う領域です。しかし、「精神科」という響き自体が極めて誤解や偏見を招きやすい言葉になってしまっているため、受診の抵抗感を下げる目的から、敢えて「心療内科」を標榜する精神科も今は多いと言えるでしょう。

■心療内科

この「心療内科」とは、本来の意味では心身症を扱う診療科のことを指しています。心身症とは、ストレスによって引き起こされる心身の不調、精神の不調によって引き起こされる体の不調のことを指します。今は、 受診のハードルを下げるため、精神科と併せて「心療内科・精神科」とひとくくりに表現する病院や医院が多いと言えます。

■メンタルクリニック

「メンタルクリニック」とは、正式な診療科目ではなく、「心療内科」「精神科」を取り扱う医院の呼称です。また、ここに「神経科」 や広義の「内科」「総合診療科」などを含む場合もあります。これも、受診のハードルを下げる目的でつけられた名称だと言えます。 しばしば、「心のクリニック」などと表現する場合もあるようです。

Q.神経科や神経内科というのは、メンタルクリニックとは違いますか?

A.まず、神経科と神経内科は別物です。なかなかややこしいので、確認しておきましょう。

■神経科

神経科は自律神経失調症や神経症(ストレスなどからくる心の病気)を扱うため、メンタルクリニックに含まれることがしばしばあります。

■神経内科

脳・脊髄・脊椎、末梢神経、筋肉を専門とする「内科」です。脳血管障害、痴呆など、神経疾患の診療科であり、基本的にはメンタル疾患は扱いません。しかし、「めまい」や「頭痛」などの検査で最初に神経内科で検査を行った結果、「異常なし」となり、結局精神科 や神経科で確認したところ「メンタル疾患だった」ということは往々にしてあります。自律神経失調症のうち、めまいや頭痛が酷い、という場合はまず神経内科で脳や神経系の検査をすると安心です(めまいの場合は、耳鼻科でも検査を行って「耳性のめまい」でもないことを確認できるとなおよいでしょう 。さらに肩凝りや身体の歪みからめまいが起こっていることもあるので、「整形外科」でも骨や筋肉の状態を診てもらうケースもあります)。

Q.家族が通院を拒みます。

A.「精神科・心療内科」という響きへの抵抗感、また精神疾患と診断されることへの拒否感などがあるからでしょう。できれば早めにメンタルクリニックの診断を受けることが望ましいのですが、まずは目の前の「症状」を緩和することを企図して、診療のハードルが低い「内科」や「神経内科」の受診を勧めることからはじめるのも一考です。このほか、家族として「心配している」ことを伝え、「産業カウンセラーを強制的に予約してしまう」とか、「企業や公的機関の相談ダイヤルに家族として相談する」といったことも検討しましょう。

一人で心療内科の診察に行くことに逡巡している場合は、一押しとして「初診に同席する」ことも相手の不安感を緩和するためにしばしば有効な手段です。

Q.家族が通院に付き添う時のメリットと、注意点はありますか?

A.明らかに通院を勧める目安を満たした症状を発していながらも本人が頑なに通院を拒む場合、または通院することは納得していても実際に行動に移す過程で極度の不安を訴える場合は、家族が付き添うこともあります。付き添うことのメリットは、第一に本人にとって「一人ではない」という安心感を得られることです。一緒に主治医の話を聞くことで、必要な本人のサポートについて、直接理解することができることも大きなポイントです。また、主治医にとっても家族からの客観的な情報が得られ、治療に活かせることもあるという副次的な効果が期待できます。

一方、治療はあくまでも「本人」と「主治医」の間で第一義的に行われるものですから、家族が前に出すぎることがないよう、注意が必要です。

Q.家族は病院でどのようなことをすればよいでしょうか。

A.本人が説明できないことを追加で説明する、本人が聞けないことを追加で聞くなど、治療に向けた主治医との情報共有のサポートをしていきます。

具体的には、本人の生活状況や症状、これまでの対応についての情報提供を行うこと、そして、発症の原因と症状、治療方針、処方薬の効能と注意点、復職の見込み、休職時の留意点などの説明を受けることです。

Q.病院(初診)では、まずどのようなことを聞かれますか?

A.例えば、以下のような内容が聞かれます(症状により、聞かれない項目もあります)。このすべてを診察時間だけで聞き出すことは難しいので、精神科や心療内科では、問診票で以下のような項目を事前に記載することも多いです。心に余裕があれば、予めメモをしてからかかるとよいでしょう。

▼初診時の問診例

Q.病院(再診)では、どのようなことを聞かれますか?

A.例えば、以下のような内容が聞かれます(症状により、聞かれない項目もあります)。このすべてを診察時間だけで聞き出すことは難しいので、 再診であっても問診票を必要とするクリニックもあります。

▼再診時の問診例

Q.病院で確認したほうがよいことはありますか?

A.病名、発症の原因、治療の方針、処方薬の効能と注意点(副作用など)、今後のスケジュール(復職の見通し、次回の通院日、寛解する時期の見通し)、休職時の過ごし方について確認しましょう。

Q.適応障害は、どのように診断されますか?(※2022年1月よりWHOの診断確定基準が新しくなりました)

A.適応障害の臨床的な診断は、米国精神医学会「精神疾患の分類と診断の手引き(※1)」(DSM-5)と、WHO(世界保健機関)の「疾病および関連保健問題の国際統計分類」(ICD-11)が 国際的な基準となっています。

(※)「精神障害の診断と統計マニュアル」とも。

まずDSM-5において「適応障害」の診断は、

A.はっきりと確認できるストレス因に反応して、そのストレス因の始まりから3か月以内に情動面または行動面の症状が出現する。
B.症状が、臨床的にみて次のいずれかまたは両方に当てはまる。
(1)そのストレス因に不釣り合いな程度や強度を持つ著しい苦痛。
(2)社会的・職業的、その他の(生活上の重要な)機能の重大な障害。
C.症状は、他の精神疾患の基準を満たしておらず、既存の精神疾患の悪化でもない。
D.死別によって抱く症状ではない。
E.ストレス因から離れると、症状が6か月以上継続することはない。

に則ってなされ、原則として、上記のA~Eすべてに該当する必要があります。

臨床上は「例外」もありますから(例えばストレス因の始まりから「4か月以内」だったら適応障害ではないと言えるのか?というとそんなことはないはずです)、実際の運用上は、「もともと普通に働けていた人が、明確に説明のできるストレスに曝され、心身の症状が発現し、かつ、身体症状がその他の身体疾患によって引き起こされたという可能性が否定され、当該のストレスによって心身の不調を来たした」と論理的に判断できるようであれば、いったんは「適応障害」と診断されることになるでしょう。

もちろん、これは仮説にすぎません。治療の過程で、「症状が半年以上続いており、実はうつ病だった」とか、「隠れた発達障害が判明した」とか、「実は躁うつ病であった」とか、別の要因(甲状腺の病気など)で抑うつ症状が発生していた、などのケースももちろんあって、その場合は診断名が変わる可能性もあります。

また、2022年1月発効のWHOの新しいガイドライン(ICD-11)では、適応障害におけるDiagnostic Requirements(診断要件)のEssential (Required) Features(不可欠[必須]の特徴)の項目に、The reaction to the stressor is characterized by preoccupation with the stressor or its consequences, including excessive worry, recurrent and distressing thoughts about the stressor, or constant rumination about its implications.(ストレッサーに対する反応は、過度の心配やストレッサーについての反復的で悲観的な考え、またはその意味についての絶え間ない反芻を含む、ストレッサーまたはその結果へのこだわりによって特徴付けられる。)という表記が記載されました。

簡単に言えば、ストレスおよび、ストレスに対する反応(心身の諸症状)に強くとらわれてしまい(頭から離れない、四六時中考えている)、通常の日常生活・社会生活を送れなくなってしまった状態を以て「適応障害」と診断する、ということになります。そして、その背景には、「認知の歪み」や周囲のサポートを得られない状態などの複合的な要因が重なっている場合が多いと指摘されています。

ICD-11によって、これまでDSM-5では明記されていなかった「ストレスへのとらわれ」と「適応への失敗」が適応障害診断の必須要件として規定されたことで、単に「強いストレスで心身の症状が出ている」だけでは、今後適応障害と判断されないケースが出てくるかもしれません(例えば「急性ストレス性〇〇」といった症名をつけた状態で一定期間様子を見るなどの対応を取られる可能性もあり得ます)。旧来の心身症状だけでなく、「ストレスへのとらわれ」という部分に着目したという点で、適応障害の診断ステージは一歩上がったといってもよいでしょう。今後、様々な病院や文献で、ICD-11に基づいた新しい「適応障害臨床」が行われていくことになるでしょう。

Q.ストレスへの「とらわれ」とは、具体的にどういうことでしょうか?

A.ICD-11の診断基準では、「ストレスへのとらわれ」を示すものとして、「ストレスへの過度の心配」「ストレスについての反復的で悲観的な考え」「ストレスを引き起こした原因についての絶え間ない反芻」を含む、ストレッサーまたはその結果(症状)へのこだわり、と明記しています。そして、これこそが、適応障害の確定診断基準である、としていることがポイントです。

すなわち、不眠や頭痛、めまいなどの「症状そのもの」というより、さらに深層心理において、「ストレス及びその症状」に対する「こだわり」が生じていないかどうか、にフォーカスしていくという視点です。

ストレスの経験は、実際の体験と感情が強固に結びついた感情的記憶となります。ここに「認知の歪み」や周囲のサポート不足が重なることで、負の感情的記憶が固着化し、強い印象となってストレスそのものへの執着をもたらします。すると、ますますそのストレス、およびストレスに連関する状況、そしてストレスによって引き起こされた心身の状態に注意が向くようになるため、そのことがいつも頭から離れなくなってしまうのです。これが、ストレスへの「とらわれ」のプロセスです。 このプロセスは、実際に適応障害を経験した私もよくわかります。

ストレスにとらわれた結果、ストレスに敏感となり(易刺激性)、「過度の心配」「極度の警戒」「ストレスの反芻」「反復的で悲観的な苦痛な思考」が惹起されるようになります。身体は防衛本能で、ストレス源そのものやそれを連想させるものを次第に避けるようになります(これが、例えば「 仕事への不安感で会社に行けなくなる」「仕事のことを考えて夜、眠れなくなる」といった症状を呈することの本態であるといえるでしょう)。

このようにして、過度の心配や反復思考は、心身の影響のみならず、直接あるいは間接的な回避行動によって社会生活にも影響を及ぼすようになり、そのことでますます負の感情的記憶が肥大化して、さらなるストレスを生み、余計にストレスに敏感になって、苦痛が際限なく増大していくことになってしまうのです。まさに「とらわれ」の悪循環と言えます。

「とらわれ」は、「そのことで頭がいっぱいになってしまう」ということです。「とらわれ」は視野を狭め、精神を内向させ、認知を歪ませてしまいます。すると(歪んだ)主観が支配する世界で物事を見聞きし、判断することになるため、どんどんと客観視ができなくなってしまい、まさに現実社会との「適応」が障害されるようになってしまうのです。

Q.適応障害と診断されてショックです。

A.原因不明の体調不良に「名前」がつくことで、ようやくその治療がスタートできます。まずは「名前が付いた」ことに安心しましょう。仕事のこと、家庭のことなど先行きを考えるととても不安になりますが、「休むこと」が一番のくすりです。どんな病気にも言えることですが、治療に専念する環境を整え、まずは「休む」ことに集中することが重要です。

Q.適応障害と診断されたら、家族にはどのように伝えるべきでしょうか?

A.仕事の業務報告とまったく同じで、「事実」と「要望」、「感情」を分けて伝えることが重要です。そうでないと、聞き手へのミスリードを起こして、コミュニケーションに齟齬が生じてしまうでしょう。

まず、「自分の現在の症状」と「医師の診断内容」という「事実」を伝えることからはじめ、家族には「まずは休むことに専念する」ことへの「理解」と「協力」を「要望」します。そのうえで、自分自身の今の気持ち(不安感、焦り、安堵感など様々な「感情」)を伝えるようにします。

客観的な事実と、自分の心情を吐露することとを明確に分類することで、聞き手は安心してあなたに接することができるようになるのです。

どうにも自分で説明することが難しいと予想される場合は、初診や再診の際に家族に同席してもらうことも検討したい点です。

Q.適応障害と診断されたら、職場にはどのように伝えるべきでしょうか?

A.仕事の業務報告とまったく同じで、「事実」と「要望」(場合によっては「感情」)を分けて伝えることが重要です。ただし相手はビジネス上の付き合いですから、家族ほどには「すべて」を伝える必要はありません。業務上必要な事柄に絞り、心情の過度な吐露など、余計なことは必要以上に伝える必要はないでしょう。

基本的には、まず、「自分の現在の症状」と「医師の診断内容」という「事実」を伝えることからはじめ、職場には「まずは休むことに専念する」ことへの「理解」と「協力」を「要望」します。繰り返しになりますが、家族とは違ってあまり自分自身の今の気持ちを開陳しすぎる必要はありません。

Q.適応障害の治療は、どのように行われますか?

A.ストレス源からの回避、症状の改善、ストレス受容力の強化、復職支援、再発防止と進んでいきます。順番にみていきましょう。

■ストレス源からの回避

適応障害の最大の薬は、「ストレス源から離れること」そのものです。主治医が診断書を発行することを契機として、「自宅療養」を行います。

■症状の改善

主治医の指示に基づく自宅療養と投薬によって、辛い抑うつ症状を寛解させていきます。 早ければ1か月もすると、少なくとも急性期(強烈な心身症状に苦しむ時期)からは脱することができるでしょう。

■ストレス受容力の強化

休養により、急性期(もっとも体調が悪い時期)を乗り越えてからは、主治医、カウンセラーや職場の保健スタッフなどが連携して、認知行動療法などの「ストレスの捉え方」を学習させます。

■復職支援

休養や認知行動療法の進展を見極めて、 通勤訓練などの復職プログラム、産業医面談、復職後のフォローなど、復職前後のサポートを行います。

■再発防止

再発防止に向けた軽減勤務、経過観察を行います。 適応障害の再発率は5年で60%とも言われ、極めて再発しやすいメンタル疾患です。そして、再発をすればするほど、繰り返せば繰り返すほど再発率は高くなるとされています。一度再発してしまうと、本人のパフォーマンスを100%に戻すことが極めて難しいと臨床的にはささやかれてもいて、本人のQOL棄損はもちろん、企業としても社会的にも大きな損失となります。したがって、「再発を予防すること」と「再発を繰り返させないこと」は、適応障害の治療の最大の目標とも言えるのです。

Q.適応障害は「完治」させられますか?

A.メンタル疾患は再発の可能性があり、「完治」という言葉を使うことが非常に難しいのが現実とされています。そこで一般的には「完治」という表現を使わず、症状が落ち着いて(非常に軽くなったり、一時的に消失したりして)日常生活に支障がなくなった状態(寛解)をまず実現し、その状態が長期的に安定して定着すること(完全寛解)することを目指します。

Q.「寛解」と「治癒」は違いますか?

A.違います。寛解は病気が寛(ゆる)く解けている状態であって、「このまま治る可能性もあるし、再発する可能性もある」ことを指します。一方の「治癒」は「完全に治ること」を指します。メンタル疾患は再発の可能性は常にありますから、 安易に「治癒」という表現をしないことが普通です。

Q.「再発」と「増悪」の違いは何ですか?

A.「再発」は、一時的に症状が治まったり、消失したりしていた状態(緩解)がまた悪化する(従前の状態に戻る)ことを指し、「再燃」とも言います。一方の「増悪(ぞうあく)」は、もともと悪かった状態が、さらに悪くなることを指します。なお「憎悪(ぞうお)」とは字面も意味もまったく違うので、注意が必要です。

Q.自分が本当に適応障害なのか、疑問です。

A.治療は、納得しなければ専念できるものではありません。「自分が病気であること」を受容して初めて、治療がスタートするといっても過言ではありません。診断に疑問点があれば、まずはその診断を行った主治医に質問するようにしましょう。その回答に納得が行かない場合はセカンドオピニオンを選択肢て納得するまで診断をしてもらうということもあるいは取り得る手段ですが、プロの判断に素人が深い疑念を抱いてしまう時点で、適応障害の影響で心が固くなってしまっている可能性があるという点には常に留意しておきましょう。

また、「頭痛」「めまい」「胃痛」「動悸」「不眠」「肩凝り」など、自分に起こっている様々な症状の原因を、1つずつ「潰す」という方法も、疑問解消のために有効にはたらくことがあります。例えば頭痛であれば 内科や神経内科、めまいであれば神経内科と耳鼻科(場合によっては整形外科も)、胃痛であれば胃腸科、動悸であれば循環器内科、不眠であれば神経科、「肩凝り」であれば整形外科・・・といったように、原因を突き詰めていくのです。非常に手間が掛かりますが、この方法で「原因不明」となれば、いよいよメンタル疾患である可能性が明確になってくるというわけです。もっとも、「自分の病状にとらわれて、その原因を探ることに血道をあげる」という行為自体が、適応障害の影響で心が固くなってしまっている可能性があるという点には常に留意しておきましょう。

Q.自分からはうまく説明できそうにないので、医師から家族に「適応障害」の詳細について説明してもらうことは可能ですか?

A.医師には守秘義務があるので、本人の許可なく本人不在の状況で医師が家族に病状を説明する、ということは原則できません。説明を求めたい場合は、家族に初診や再診などに同席してもらうことをお勧めします。

Q.毎回診察時間が短くて不安です。

A.精神科・心療内科の外来は、1時間ほど待って、初診は10~15分くらい、再診は長くても5分くらいですかねー。私も最初は「こんなに短くて大丈夫なのかしら」と不安に感じたこともあったのですが、よく考えると内科や耳鼻科なんてもっと短いですよね。まあそんなもんかなー、と。別に病院側の肩を持つつもりはないですが、それでも長ければよいというものではないですからね。有名な話で、同じ手間賃で、「5分で直してくれる鍵屋」と「直すのに1時間かかる鍵屋」、心情としてどちらのほうが得したと感じるか、という命題と似ているような気もします(技術は前者が圧倒的に優秀なのに、なぜか損した気持ちになりませんか?)。

いずれにしましても、冷静に考えて今の保険診療体制で「何十分も話を聴いてもらえる」という方式は、人的コストを考えるとどうみても無理があります (精神科の問診は30分まで保険点数が同じなんですから、初診はともかく、再診で20分も見てくれるなんて、まず不可能なことなのです)。本格的に「1時間話を聞いてほしい!」ということであれば、自費診療のカウンセリングを選択することになると思います(結局、 「普通車が嫌だったらグリーン車をどうぞ」というのと類似した構造の話なんですよね、これって。世知辛いといえばそれまでなんですが)。

あとは一般論として、何事も「誰かが何とかしてくれるかも」と過度な期待はしないほうが、精神衛生上よろしいかと思います。 最終的に病気を治すのは自分自身であって、医師は「自然治癒力を高める」ための医学的パートナーです。治療の主体者は自分自身なのです。

Q.診察時間が短いのには、理由がありますか?

A.はい。あります。大前提として、初診や症状が重い人ほど診察時間は長く、症状が安定している人ほど診察時間は短くなる傾向にありますが、ここではもっと根源的な話をします。「保険点数」の観点です。

実は通院の精神科専門療法(問診のことですね)の保険点数は、5分以上30分未満で「330点」、30分以上で「400点」となっています。医療報酬の点数は1点が10円ですから、「5分」で3300円、「60分」でも4000円ということになります。つまり「5分話すのと、60分話すのとでは、700円しか変わらない」ということになるのです。これを見て明らかでしょう。今の保険診療体制で「精神科医に話をたっぷり聞いてもらう」というのは、経営的に(経済合理性からみて)絶対的に不可能なのです。

ここは割り切りましょう。「診断書と薬が欲しければ、保険で精神科医へ」「長時間話を聞いてほしければ、自費でカウンセラーへ」ということです。 ここをしっかり認識さえしておけば、病院に過度な期待を抱かなくて済みますから精神衛生上もラクになります。

Q.主治医が忙しそうで、診察時の会話が「体調」と「薬のやり取り」だけになってしまうことがあります。具体的なアドバイスをもらう方法はありますか?

A.漠然とした会話ではなく、具体的な相談をすることです。すなわち、「今後の治療の見通しはどのようなものですか」「現時点で、日常生活でやってはいけないことはありますか」といった治療方針や生活上の見通しについてや、今後の仕事についてです。

主治医は産業医とは違い、あなたの職場のこと、仕事内容については「よく知らない」というのが実際のところです(もちろん、業界や業種などによる傾向は事例を持っているわけですが)。ですから、むしろ「仕事で1日に5時間程度はパソコンでExcelを操作するのですが、時間制限をしたほうがよいですか?」とか、「週に1回程度、自動車で出張があります。まだ長距離運転が不安なのですが、よい対応方法はありますか?」など、仕事については特に、「具体的なシチュエーション」で質問するとよいでしょう。

Q.主治医やカウンセラーとどうしてもウマが合いません。別の先生・カウンセラーにかかってもよいものでしょうか?

A.その医師やカウンセラーにかかること自体がストレスで辛いのであれば、無理をする必要はないでしょう。「ウマが合わない」と過剰に思ってしまうこと自体が、適応障害の症状である可能性は頭に入れておきつつ、本当に必要だと信じるのであれば、アクションを取ること自体は別のよいのではないかと思います。しかし、いたずらにドクターショッピングを繰り返すと、結局は似たような診断を受けることとなり、「骨折り損のくたびれ儲け」になることもあるようです。短期間で何件も梯子をする、というのはいかにも予後が心配な行動と言えるでしょう。

なお、独りよがりの判断をできるだけ避けるためにも、主治医に課題がある場合はカウンセラーに、カウンセラーに課題がある場合は主治医に、など、専門的な見地から「別の先生でも問題ないのか」、ぜひ 第三者に見解を聞いてみるとよいかと思います。

Q.主治医とどうしても信頼関係を築けません。セカンドオピニオンを求めるべきでしょうか。

A.どうしても主治医と合わず、それがストレスになっているようであれば、主治医を変えてもらったり、別の病院にかかることはよいでしょう。その際はできれば独断ではなく、事前に家族などに相談したり、診察時に同席してもらうなどして、客観的な評価も参考にしたほうがよいでしょう。適応障害の症状によって正常な判断ができない状態になってしまっている可能性があるからです。

Q.何度も転院を繰り返してしまっています。何か原因はあるのでしょうか。

A.適応障害の症状によって、正常な判断ができていない可能性があります。繰り返すということは、パターンとして「医師」と「なかなか信用できない患者」という役回り―何らかの「心理的ゲーム」といわれる現象―を引き起こしてしまっている可能性もあります。まずは一度、「自分がどうして主治医と関係性をうまく構築できないのか」「うまくいかないことだけでなく、うまくいったことは何か。それはどういう点においてか」ということを確認してみることをお勧めします。そのうえで、できれば家族に相談したり、診察時に同席してもらったりして、客観的な評価も参考にしたほうがよいでしょう。

Q.主治医が冷たく感じます。

A.大前提として冷静に考えてみてください。変にベタベタされても怖くないですか?患者さんの訴える境遇に1つ1つ「わかる、わかる。辛かったですよね」とやっていたら、お医者さん自体がそれこそ病んでしまいます。距離を置いて客観的に、冷静に見てくれるからこその専門家 (プロ)であって、患者さんといたずらに感情的に関わって、変に依存関係になってしまうのも考えものでしょう。「話を聞いてくれるからよい医者なのか」というと、必ずしもそうではないかもしれません。あまり、「あたたかい、冷たい」だけで判断しないほうがよいのではないか、と思います。

あとはそもそも、適応障害の症状でそうセンシティブに感じてしまっている可能性があります。 調子がよくなってくると、主治医の態度の機微がまったく気にならなくなる、というのはよくあることだともいえるでしょう。あまりにも主治医の一挙手一投足が気になるようなときは、「余程、敏感になっているんだな。まだまだ体調が悪いんだな」とむしろ思ってさえよいかもしれません。

Q.医師にどんなに境遇を訴えても、「仕事、どうされますか?」としか言われず、最後まで「休みましょう」とは言ってくれませんでした。もしかして、私は休むまでもないくらい軽い、ということでしょうか?

A.違います。「仕事、どうされますか?」と聞いている時点で、「こりゃあ、診断書出せるな。ただ、仕事を休むかどうかを最終的に決めるのは患者さん次第だ。さあ、自分の口から「休みたい」って言ってごらん」ということを含意しているのです。でもこの対応を「こんなに辛いと言っているのに、休めとは言われなかった」と<解釈>してしまう患者さんはいます。この曲解も、人の言葉の裏を読むのに疲れた、適応障害の症状かもしれませんね。

そもそも病気を治すのは患者自身であって、医者はその治癒を助ける医学的パートナーです。ですから、どんなに辛い境遇を訴えても、主治医は原則、「仕事、どうされますか?」と本人の意思を問うフレーズしか言わないはずです。積極的に「仕事、休んでください」というと、「私権の制限」になってしまうことはこうやって言葉にしてみると明らかですよね。そんなことは普通しない(できない)のです。 医療的な措置として「休まなければ危険だ」とストップを掛けられる以外は、最終的に「休む」ことを決めるのは本人でしかないのです。そして医師は、その意思を尊重します。 「休みたい」と言っている患者に対し、「いやいや、まだ働けるでしょう」とは普通、言わないのです。

Q.「適応障害」と「うつ病」、診断書上で扱われ方の違いはありますか?

A.明確にあります。適応障害の場合は、必ず「外部環境(多くは職場環境)」"も"発病の原因に含まれるので、会社も必然的に対応や調整が必要になります(安全配慮義務があるため)。一方でうつ病の場合は、必ずしも「職場環境」を原因に含まない場合もあるので、会社が積極的に環境調整に対応しないことも、理屈上は起こり得るからです (あくまで理屈の上で、ですが)。会社が環境調整をするべき誘因を創り出すという観点でみると、「適応障害か、うつ病か」は重要な違いがあると言えるでしょう。

また、「適応障害」と「うつ病」は別の疾病ですので、例えば「同一疾病で〇年以内に休職した場合は、休職期間を通算する」というような就業規則が適用されている会社の場合は、当該期間中に例え違う職場環境によって「適応障害」を発症して休職してしまったとしても、それは「同一疾病 (類似の疾病)」と見なされ、休職期間を通算される可能性があります(公私様々な生活保障の期間が短くなることを意味します)。しかし、例えば「適応障害」が長期化し、実は環境要因以外の「うつ病」を発症したという診断書があれば、 「同一疾病」ではなく、「適応障害」と「うつ病」それぞれの疾病で休職期間が計算されるといったケースもあり得ます(この場合は、それぞれフル期間で公私様々な生活保障を受けることができる"可能性"があります)。ですから、生活の保障という観点でも、「適応障害」と「うつ病」を書類上、厳密に区分することがきわめて重要になってくるのです。

Q.お医者さんの待合室にいると少し元気になってしまいます。家や会社での体調とまったく違うのですが、「特に問題ない」と誤診されないか不安です。

A.「医者に着くと安心して元気になる」という現象はよくあることです。そして、適応障害になるような人ですから、多少は「外ではよそゆきの顔になる (平たく言えば「内弁慶である」 )」ことくらい、百戦錬磨のお医者さんはお見通しです。調子よく「元気になりました」と言っていても、言葉の端々、行動の細かいところで「不安」や「焦り」が見られると、「あ、元気になっていないな」「取り繕っているな」というのはすぐに分かってしまいます。相手はプロですから、そんなことぐらいでは「特に問題ない」とは絶対に思われないので大丈夫です(そもそも病院に来ている時点で調子が悪いことは自明です)。このような心配は、元気な人からすると「そんなわけないだろう」と笑い飛ばせるのですが、適応障害真っ只中だと結構深刻な悩みだったりします。よくわかります。ただ、医者はプロフェッショナルです。いくつもの症例を見ていますので、「本当の体調」はまず確実に見抜けるはずです。そこは、安心して委ねましょう。

Q.適応障害で入院をすることはありますか?

A.きわめて稀ですが、抑うつ症状が重症の場合、原則として本人の希望を汲んで入院を勧められる場合はあり得ます(いわゆる「強制入院」ではなく、任意入院であることがほとんどです (※))。

▼入院が勧められることがあるケース

(※)任意入院(自発入院)以外の非自発入院を判定は、国家資格である「精神保健指定医」を有する医師が独占的に行えることとされています(精神保健福祉法)。

Q.適応障害に処方される薬には、どのようなものがありますか?

A.自律神経失調の諸症状には、対処療法的に胃薬や止瀉薬(下痢止め薬)・下剤(便秘薬)、鎮暈薬(めまいの薬)、頭痛薬などが使われることがあります。しかし 、第一選択としてもっともよく処方されるのは、「向精神薬」でしょう。

適応障害で処方される向精神薬は、「抗うつ薬」「睡眠薬」「抗不安薬」が代表的です。抑うつ症状を改善する抗うつ薬にはSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)やSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)などがあります。「不安感」を改善する抗不安薬には非ペンゾジアゼピン系(依存性がない、効果がマイルド)からペンゾジアゼピン系(依存性がある、効果が強い)の各種、 「不眠」を改善する睡眠薬にも即効性が高いものから持続性の高いものまで様々な種類があります。一般的には、依存が少なく離脱困難になりにくいマイルドな薬からはじめて、効果をみて、いわゆる「強い薬」に移行していくことが多いです。

上記の「西洋薬」以外では、体質改善を目的とした「漢方薬」の処方も行われます。漢方薬は1剤で複数の症状に対応していることがほとんどですので、内服の絶対量を減らすことができるだけでなく、副作用や多剤併用を抑制できるという効果も期待できます。

Q.適応障害に用いられる抗うつ薬には、どのような種類のものがありますか?

A.適応障害の投薬治療の基本となるものが抗うつ薬です。脳の神経伝達物質(セロトニンやノルアドレナリンなど)の減少が抑うつ症状の原因(の1つ)と考える「モノアミン仮説」に基づいて開発されています。ただし、この仮説だけでは抑うつ症状のメカニズムをすべては説明できておらず、最新の学説である「ウイルス原因説」を含め、メンタル疾患の発生機序は完全には解明されていないというのが実情です。

実際、「抗うつ薬」だけを使った治療での抑うつ症状の改善割合は約50%、寛解に至る確率は約30%とされています(※)。このことから、適応障害は「薬を飲めば必ず治る」ということではなく、「休養」と「投薬」「認知行動療法」の組み合わせで症状を改善していく治療法をとることが 、少なくとも現代医学においては標準選択となっています。

(※)なお、投薬効果を高めるために、「非定型抗精神病薬(セロトニン・ドパミン拮抗薬)」や「気分安定薬」などと「抗うつ薬」を組み合わせる「薬物治療増強療法」という療法が取り入れられることがあります。増強療法は抗うつ薬による治療で十分な効果が認められない場合の効果が期待されます。

以下、抗うつ薬の種類について詳しく見ていきましょう。まずは伝統的な抗うつ薬である「三環系・四環系抗うつ薬」です。代表的な薬も箇条書きで示します(以下同)。

■三環系・四環系抗うつ薬

古くから使われてきた抗うつ薬です。現在はSSRIやSNRIなどの新規抗うつ薬の効果が不十分な場合に選択されることが多いです。なお、三環系よりも四環系のほうが副作用が少ないとされています。
セロトニンやノルアドレナリンの再取り込み阻害作用(脳内の濃度を濃くする作用)がありますが、同時にそれ以外の神経伝達物質が受容体と結合する働きも阻害してしまうため、「抗コリン作用」によって「口の乾き」や「便秘」、「抗ヒスタミン作用」によって「眠気」などの副作用も強い薬です。

続いて、「新規抗うつ薬」について見てみましょう。

■SARI

「セロトニン遮断再取り込み阻害薬」です。脳の神経伝達物質の中でもセロトニンの再取り込みを阻害することで、神経細胞間のセロトニンの濃度を増やし、情報伝達を増強して抗うつ効果を発揮すると考えられています。

■SSRI

「選択的セロトニン再取り込み阻害薬」です。こちらも、セロトニンの量を増やし、神経細胞間の情報伝達をスムーズにすることで抗うつ効果を期待している薬です。

■SNRI

「セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬」です。こちらはセロトニンだけでなく、ノルアドレナリンについても再取り込みを阻害することで、神経細胞間のセロトニンとノルアドレナリンの量を増やし、情報伝達を増強します。

■NaSSA

「ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬」です。SSRIやSNRIとは異なる機序、専門的には「アドレナリンα2自己受容体への遮断作用とセロトニン5-HT2及び5-HT3受容体阻害作用により」脳内のノルアドレナリンやセロトニンの働きを改善する薬です。

Q.適応障害に用いられる抗不安薬には、どのような種類がありますか?

A.抑うつ症状のうち、不安や緊張などが強い場合に用いられることが多い薬です。症状を抑えるために効果の強いベンゾジアゼピン系の薬を使用することが多いですが、依存性があるため適応障害においては長期投薬をされることはまれで、しばしば不安が強いときの頓服薬として処方されることが多いです。

■非ベンゾジアゼピン系

依存性はないですが、効果もマイルドです。

■ベンゾジアゼピン系

効果が強めですが、依存性があります。一般的に、長期連用は避けることが望ましいとされる薬です。 不安症状が強い場合は、最初の1~2週間程度服用して、症状が落ち着いてきてから不安感が特に強いときの頓服処方に切り替える、といった使われ方をすることが多いです。

Q.適応障害に用いられる睡眠薬には、どのような種類がありますか?

A.睡眠薬(睡眠剤とも)は、抑うつ症状のうち、睡眠障害(熟眠できない、入眠できない、早朝覚醒など)を改善する薬です。抗不安薬にも使われるベンゾジアゼピン系の薬剤のうち、睡眠を起こす作用が特に強いものについては睡眠導入剤、睡眠薬としても使用されています。

昨今では、副作用が少なく、依存性もないかほとんどない、より「安全」とされる非ベンゾジアゼピン系の睡眠薬も導入されています。これらは切れ味のよさというよりは、睡眠リズムを整える とか、入眠をスムーズにするという作用を期待しての投薬となることが多いようです。

■ベンゾジアゼピン系

切れ味が鋭く、効果も比較的長い睡眠薬です。 依存性も認められることから長期連用は望ましくなく、最初の2週間程度服用して、症状が落ち着いてきてから不眠時の頓服処方に切り替える、といった使われ方をすることが多いです。

■非ベンゾジアゼピン系

まずは、「入眠そのもの」というよりも、睡眠の「質」を高め、睡眠リズムを整えていくことを目的に置いた新しいタイプの睡眠薬についてご紹介します。効果はマイルドですが 依存性もないとされ、「初めて睡眠薬を飲む」とか、「睡眠薬の依存性が怖くて不安である」という場合は最初に試してみる価値のある安全性の高い薬です。
次に「睡眠導入剤」です。「寝つき」、すなわち睡眠の導入に効果が見られる以下のような睡眠薬を、特に「睡眠導入剤」と呼んでいます。効果がある時間は数時間程度と短いですが、「寝つきをよくする」ことでスムーズな睡眠を期する薬と言えるでしょう。 こちらも依存性はあってもベンゾジアゼピン系と比較すると低いとされています。

Q.適応障害に用いられる漢方薬には、どのような種類がありますか?

A.一剤で複数の症状に対応している漢方薬は、全身のバランスを整えることで適応障害の諸症状を改善していく効果があります。即効性がなく、効き方がマイルドな半面、西洋薬にあるような依存や離脱症状などの危険な副作用はないとされています。西洋薬は即効性が高いため、特に発症初期の「抑うつ症状が強く、QOLの観点からもただちにつらい症状を取り除く」ことにはきわめて有効ですが、しばしば依存などの問題を孕んでいます。理想的なのは西洋薬でパキッと強い症状を落ち着けてから、漢方薬で心身のバランスを改善していくというアプローチでしょう(もちろん、西洋薬のみのアプローチ、漢方薬のみのアプローチもあり得ます)。

■適応障害に用いられることの多い漢方薬(例、50音順)と適応症

ほてり感、怒りっぽい、イライラしている、落ち着かない、のぼせ感、鼻血、不眠、胃炎、女性ホルモンの変動による精神不安定、めまい、動悸、湿疹、皮膚炎、皮膚のかゆみ、口内炎、目の充血、顔の発赤

疲労、顔色が悪い、血の巡りが悪い、不眠症、不安、悩みがある、寝汗、微熱、熱感、食欲低下、胃もたれ

のぼせ感、肩凝り、疲れやすい、不安、いらだち、動悸、めまい、便秘、冷え症、虚弱体質、女性ホルモンの変動による精神不安定、不眠症

軽い悪寒、頭痛、鼻づまり、食欲不振、軽い抑うつ状態、神経質でちょっとしたことで落ち込んだり悩んだりする

胃炎、胃酸過多、過敏性腸症候群、鼻炎、気管支炎、腰痛・下肢痛、精神不安、筋緊張、手足の冷え

不安、動悸(特にお腹周り)、不眠、便秘、高血圧、のぼせ感

疲れやすい、倦怠感、貧血気味、口渇、動悸・息切れ、神経過敏、女性ホルモンの変動による精神不安定、不眠(特に眠りが浅いタイプ)、微熱、寝汗

腹痛、便秘、胃炎、高血圧、肩こり、頭痛、のぼせ、いらだち、ほてり感

不安感、のどの異物感、抑うつ、神経性胃炎、咳、しわがれ声、息苦しさ、動悸、不眠、不安神経症型の抑うつ症状全般

めまい、立ちくらみ、頭痛、頭重感、冷え症、胃腸虚弱

怒りっぽい、興奮しやすい、イライラする、かんしゃくを起こしやすい、不眠、歯ぎしり、女性ホルモンの変動による精神不安定、筋緊張

怒りっぽい、興奮しやすい、イライラする、かんしゃくを起こしやすい、不眠、歯ぎしり、女性ホルモンの変動による精神不安定、筋緊張、抑うつ、胃腸障害(抑肝散よりもより胃腸が弱い人に向く )など

胃弱、胃炎、消化不良、食欲不振、胃痛、吐き気・嘔吐、みぞおちのつかえ感、易疲労感、貧血、手足の冷え

Q.抗うつ薬がなかなか効きません。

A.一般的に抗うつ薬は即効性が低く、効果が現れるまでに2週間程度かかると言われています。「効果がないから」「休んだら却って具合が悪くなった(別のところで書いたように、実はそれが普通です)」と自己判断でやめるのは危険です。

一方で、併用される事の多い睡眠薬は即効性が基本的には高く、概ね最初の服用から効果を感じることができるでしょう。また、不安障害やパニック障害などが症状で発言している際に頓服で併用されることの多い抗不安薬も、同様に効果が出るのが早い薬とされています。

Q.抗うつ薬を飲んでから、どうも気持ちが悪い気がします。

A.抗うつ薬は胃腸症状(吐き気、便秘・下痢など)の副作用が出やすいものがあります(個人差があります)。飲み初めの1~2週間、ただでさえ体調が悪化しているうえに、ちょうど「効果を感じにくいとき」に気持ちが悪くなるものですから、むしろ具合が悪くなった、という気分になることは容易に想像がつきます。副作用が強すぎて辛いときは、遠慮なく医師に相談しましょう。 症状がひどい場合は胃薬などを処方してもらったり、薬の種類を変えてもらったりすることもあります。

Q.抗うつ薬を飲んでも、特に副作用はありませんでした。効いていないということですか?

A.いいえ。副作用は、基本的に「体質に合わない」ために起こるのであって、効く/効かないとはまた別の話です。特にこれといった副作用を感じることなく、抗うつ薬が十分に作用するというケースがほとんどです。安心してください。

Q.抗うつ薬の副作用が、後から出ることはありますか?

A.はい、あるようです。数か月程度たってから副作用として消化器症状などが出てくるケースもあると言われています。とくにこれといった問題がない状態で原因不明の胃腸症状が続くなど、副作用を疑うような症状が出た場合は、一度主治医や薬剤師に相談してみることをお勧めします。

Q.抗うつ薬の危険な副作用はありますか?

A.吐き気などが比較的よくみられる副作用です。このほか、次のような症状が発現した場合は、すぐに医師・薬剤師に相談しましょう。

■セロトニン症候群

薬の飲み初めや薬剤の増量を行ったときに起こる精神神経症状です。

●精神症状:不安、イライラする、興奮する、混乱する、動き回るなど
●錐体外路症状:手足が勝手に動く、震える、身体が硬直する・固くなるなど
●自律神経失調症状:高熱が出る、異常発汗、下痢、頻脈など

■賦活症候群(アクティベーションシンドローム)

薬の飲み初めや薬剤の増量を行ったときに起こる、躁的な病変です。

●精神症状:不安感、焦燥感、過興奮、敵意、攻撃性、衝動性、アカシジア(じっとしていられない)、躁状態、情緒不安定
●自律神経失調症状:パニック発作、易刺激性、不眠

■中断症候群

薬の急な減量・中断を行った場合に起こる自律神経失調様の症状です。「中止後症状」ともいいます。

●精神症状:不安感、焦燥感、倦怠感
●身体症状:頭痛、吐き気
●自律神経失調症状:ふらつき、めまい、頭痛、頭の中がピリピリする感じ、不眠

Q.調子がよくなってきたので、自己判断で薬をやめてもいいですか?

A.休養と投薬で体調がよくなっているだけで、まだ本当に体調が良くなっているわけではない可能性があります。製薬会社の肩を持つわけではありませんが、自己判断で薬をやめるのは、再発や慢性化の危険もあり、きわめて危険な行為とされています。 これも、確率として、医学のプロの診断を仰いだほうが早く回復する可能性は高くなるのではないかと思います。

Q.薬を飲みたくありません。

A.一般的に「適応障害」の場合、適切な休養が治療の第一選択とされ、投薬が絶対というわけでもないと言われています。「まずは休養すること」が最優先とされますから、薬を飲むこと自体が不安な場合は、一度主治医と相談することをお勧めします。

ただし、「薬を過度に不安に思うこと」そのものが適応障害の認知の歪みによる症状として現れている可能性もあります。実際は、不安感が強い場合は抗不安薬などでまずその不安感情をラクにしたり、睡眠障害が起こっている場合は睡眠薬によってまずは「眠れる」生活サイクルを作ったり(眠れないと必ず人はおかしくなります)、診断上、やはり「抗うつ薬」を併用して様子をみておきたいと判断した場合は最初から抗うつ薬を出されることもあるでしょう。まずは素人判断の前に、主治医の診断に従って服薬することが最優先といえるでしょう。

Q.復職後も通院は必要ですか?期間や頻度は?

A.はい。一般的には「寛解」するまでは通院・投薬治療が必要です。期間は、症状や復職後の回復状況にもよりますが、短くても6か月程度、長ければ数年単位での通院が必要な場合があります。頻度は、2週間~1 ・2か月に1回程度となることが普通です。主治医や職場と相談し、スケジュールとしては可能な限り最優先で通院を継続できれば、予後も良好になります。調整も仕事の一種と割り切り、通院時間は定期的に必ず確保するようにしましょう。

Q.休職中に通っていた病院が遠方にあるため、復職後の通院に支障が出ます。転院は可能でしょうか。

A.当該の病院でしか治療ができない状態であれば、定期的な通院はやむを得ないでしょう。一方で、症状が良化しており、経過観察が中心であれば、紹介状を書いてもらったうえで近所の病院へ転院することは不可能ではないといえます(場合によっては「治療」と「経過観察」を分業することもあり得ます)。いずれにしても、自己判断はせず、まずは主治医とよく相談しましょう。

Q.復職後、平日に通院することが難しくなりました。週末や夜間はなかなか予約が取れず、困っています。

A.産業医、上司、会社の健康保健スタッフと相談し、可能な限り同じ病院に通院できるように業務上の配慮をしてもらうことを検討しましょう。月に1回、通院の時間帯だけは「時間有休」「フレックス勤務上の不就労時間帯とする」「やむを得ず時間帯欠勤とする」などの方法が考えられます(会社の就業規則にもよります)。

対応が難しければ、主治医と相談し、通院曜日・時間帯について調整し、それでも難しい場合は転院を検討せざるを得ないでしょう。何をおいても、通院時間そのものは最優先でしっかりと確保することが重要です。

Q.復職したらもう薬は不要ですか?

A.いいえ。復職は、あくまでも「働きながら日常生活を送れるようになった」ことを示すだけで、「治療の終了」を意味していません。治療は、症状が長期的に安定し、主治医が「完全に寛解した」と判断するまで続きます。治療継続期間(短くて半年、長くて数年単位でかかることもあります)は、服薬も続くと思ったほうがよいでしょう。

Q.薬はどのようにしてやめられるのでしょう?

A.症状が寛解し、本人の意思もあり、主治医が問題ないと判断した段階でまず「減薬」していくことになります。何よりもまずは「症状が安定していること」が条件です。「症状が安定している」とは、抑うつ症状が寛解しており、体調変動の波も少なくなっており、社会生活を問題なく送れているということです。そのようなタイミングで、まずは頓服薬から、続いてメインで使用している薬を減らしていくことになるでしょう。いきなり全部やめると、「離脱症状」(頭痛、めまい、動悸、発汗、しびれなど)といった不快な症状に苛まれたり、睡眠薬の場合は「反跳性の不眠」が起こってしまうケースもあるので、普通は「様子を見ながら」慎重に減薬していきます。 減薬や断薬の自己判断は危険とされます。必ず主治医と相談して取り組みましょう。

Q.薬はいつまで飲み続けるのですか?

A.抑うつ症状が改善し、社会復帰を果たして寛解した状態になっても、油断はできません。メンタル疾患は残念ながら再発しやすいという特徴があるため、寛解してからも半年~数年程度は薬物治療を継続し、抑うつ症状の再発を予防しながら、「調子のよい状態」を維持することが大切です。調子のよい状態をキープできればできるほど、心の「易刺激性」も回復に向かい、それだけ予後は良好になるとされています。

これはちょうど、怪我をしてかさぶたができたら、そのかさぶたをそっとしておくことと似ています。変にいじらず、またかさぶたの部分には負荷をかけず、きれいにかさぶたがはがれるまで「大丈夫な状態」を維持しておくことが大切だと思います。ただでさえデリケートになっているかさぶた周辺を刺激すると、再び出血してしまう、ということは自明のことです。

Q.薬を長く飲むと、「依存」したり、「耐性」がついたりしませんか?

A.依存性があったり、耐性がついたりする薬はもちろんあります。ただし、用法用量を守り、指示通りに通院している限りにおいては、社会生活に影響を及ぼすほどの「依存」「耐性」がつくことはないとされています。依存や耐性を過度に気にしてしまうことそのものが、適応障害の症状の1つの可能性があります。まずは、「抑うつ気分が軽くなり、活動する元気が出る」とか、「毎日しっかりと寝ることができる」という状態を作ることを優先しましょう。

なお、復職ないし症状が寛解してから半年~1年半程度は何らかの薬を飲みつづけることが一般的です。長く感じるかもしれませんが、 よく考えてみると、ステロイド剤や抗生物質などの「治ってからもしばらくは飲み続けたほうがよい薬」や、花粉症などの抗アレルギー薬、高血圧の薬など「何年にもわたって飲む薬」は、意外とたくさんあります。症状があるうちは、やはり、薬の力に頼ることも大切なのではないか、と思います。また依存や耐性という意味では「お酒」や「煙草」のほうが余程強いんじゃないの、という気もします。

Q.薬の「依存」では、どのようなことが起こりますか?

A.よくある誤解は、アルコールなどの濫用によって起こるような「薬物依存」をイメージしてしまうことです。あたかも、精神病薬に心身が支配され、「それなしでは生きていけない」という状態になるような状態を想起してしまうのです。しかし、ここでの「依存」というのは、適正に処方された範囲で起こる「常用量依存」のことを指します。常用量依存は、ベンゾジアゼピン系の抗不安薬、睡眠薬、抗うつ薬で起こる不快な諸症状のことを指します。

では、この「常用量依存」では、どのようなことが起こるのでしょうか。代表的な3つの症状を挙げてみたいと思います。

1つが、薬で押さえられていた症状が出てきてしまう「再発」「再燃」という現象、2つめが「反跳性不安」「反跳性不眠」、そして3つめが「離脱症状」です。

■再発・再燃

薬剤に耐性がつくことで、当初の抑うつ症状がぶり返してしまった状態です。

■反跳性不安・不眠

急な断薬で、不安や睡眠が却って悪化してしまう、という現象です。

■離脱症状

新たな副作用を発現させる現象です。こちらも急な断薬で起こりやすく、具体的には次のような症状を起こすことが多いです。

▼精神症状

不安感、焦燥感、気持ちの昂り、記憶障害、集中力の低下、抑うつ、イライラ感、不眠、離人感

▼身体症状

めまい、ふらつき、食欲低下、筋肉痛、痙攣、悪心・嘔吐、振戦、心悸亢進、頭痛、頭がピリつく感じ、皮膚のかゆみ

▼知覚異常

知覚過敏(光、音、歯)、身体のゆれ(動揺感)、味覚の異常(金属や血の味がする)

これらの離脱症状は、一般的には1~2週間もすれば消失すると言われています。しかし、「遷移化」といって中止までに減薬開始から2年ほどを要するケースもありますので、離脱症状が起こらないような減薬(必ず医師の指示の下で減薬する、急な断薬は避ける、減薬は段階的に行う)が必要です。

■その他の症状

なお、上記で挙げた「常用依存」による症状以外に、「奇異反応」と「偽性離脱症状」と呼ばれる現象が発生することがあります。

▼奇異反応

▼偽性離脱症状

Q.薬の依存が起こる原因は何でしょうか?対策はあるでしょうか?

A.「長期使用」と、「急な断薬」が原因となることがほとんどです。

まず「長期使用」についてですが、「離脱症状を起こしやすい薬」の場合、3~4か月程度の服用でその頻度が高くなるとされ、高容量・多剤併用があるとそのリスクも高くなるとされます。もう1つが「急な断薬」です。主治医と相談して、徐々に、時間をかけて、少しずつ服用量を減らしていくことが重要です。

それよりもまず大切なことは、可能な限り、「依存を起こしにくい薬剤を、できるだけ短い期間服用する」ことです。

Q.やはり「依存」が怖いです。

A.いたずらな長期服用を避ける、急に断薬しない、段階的に減薬する-の3点を守れば、極端な常用依存で苦しむ確率を、確実に減らすことができます。依存を恐れるあまり薬による治療を拒否するのは、せっかくの治療の機会を自ら捨て去っているのと同じです。 自己判断ではなく、専門家による診断への「正しい理解」「正しい対応」で、 まずは適応障害に伴う辛い心身症状の解消を目指していきましょう。

Q.薬を飲み忘れました。どうしたらよいでしょう?

A.1回程度ではすぐに深刻な影響が生じることはありませんので、まずは安心してください。基本的には、まとめて服用することはせず、「気づいたとき」に飲むようにすれば大丈夫でしょう。

ただし、例えば次の薬を飲むタイミングに近いとき(服薬の数時間前程度)に飲み忘れに気づいた場合は、まとめて複数分飲むことは避け(1回分飛ばして)、以後、規則正しく服用するようにします。

抗うつ薬の場合、成分の血中濃度が安定するまでに数日を要する場合もあるとされるので、多少の時間のずれは許容してでも、気が付いたときに「1日の回数」を守ることが大切とされます。

また睡眠薬の場合は、就寝前に飲むことが重要ですので、飲み忘れた分は飛ばして(朝飲むようなことはせず)、次の日から規則正しく服用するようにします。

なお、飲み忘れが続いたときは、それを防ぐ手段(枕の上に置いておく、など)を取り、「飲まないこと」が習慣化しないように留意しましょう。安易な飲み忘れは、回復を遅らせる原因となります。

Q.どうしても薬を飲み忘れてしまいます。飲み忘れを防ぐよい方法はありますか?

A.飲むタイミングで必ず目に留まるように準備をすることが肝要です(もちろん、「風景」になってしまうおそれはありますが・・・)。

▼飲み忘れを防ぐための方法


【5.お金について

Q.休職中の給料(収入)はどうなるのでしょう?

A.会社によって扱いが異なります。会社が独自に定める「病気(療養)休職期間」に入る前に有給休暇期間(積立有給制度を取っている企業もあります)の消化をまず求められたり、休職前のワンクッション期間として数か月程度給与が減額される疾病休暇制度(あるいは 一定期間だけ「欠勤扱い」となって、給料から一定割合の控除がなされるケースもあります)が設けられたりしている場合もあるので、余裕があるときに自社の制度を確認しておきましょう。

これらのクッション期間を経て会社の定める休職期間に入ると原則「無給」(一般的には住宅手当や扶養手当などの諸手当も含めて不支給のことが多い)となりますが、当該の期間は健康保険から「傷病手当金」が標準報酬日額の2/3支払われます。さらに会社によっては「就労不能保険 (GLTD)」や「共済組合などによる給付金」など、福利厚生で保険金などが支払われることもあります。 ただしまったくその制度がない場合もありますので、こちらも、自分の会社の制度をしっかりと確認しておくとよいでしょう。

これらのセーフティネットにより、ざっくりとですが、当面の間(制度の運用によるが、 概ね1年半~2年程度(※))は基本給の6~8割くらいまで収入(額面)が担保される可能性があります。なお、疾病手当金や保険は支払いタイミングがずれる場合があります。支払いサイトが「給与と同じ」と捉えないでおくほうが無難でしょう。

いずれにしても、 このような非常時に備えて、「有給は計画的に取得し、年度内である程度残しておくこと」「毎月の家計において、突発的な減収分をカバーできるだけの余裕資金を残しておくこと(例えば預金に回していた分を休職中は生活費に補填することで、資産の目減りを最小限に抑えられます)」は、日ごろから意識しておかれることをお勧めします。

(※)就労不能保険(GLTD)の場合は、生涯単位(多くは60歳まで)で所得保障を受けられる場合もあります。ただし精神疾患の場合に限り、保障期間を「数年」と限定しているケースもありますので、自社の制度詳細を必ず確認しておきましょう。

Q.適応障害において、公的な休暇・休職制度はないのですか?

A.ありません。したがって、有休消化期間を終了してからは、企業個々の就業規則によって扱いが大きく異なります。病気による休職制度自体を設けていない場合もありますので、必ず自社の就業規則を確認するようにしましょう。

Q.休職可能な期間は決まっていますか?

A.企業ごとに異なっています。有休消化期間(40日)→疾病休暇(欠勤)期間(3か月)→療養休職期間(1年半~2年)というかなり長期のスパンでセーフティネットを設けている企業もあれば、有休消化期間→療養休職期間と、有休消化後は即、休職期間に入る決まりとしているケースもあります。必ず自社の就業規則を確認するようにしましょう。

Q.休職期間を満了すると、どうなりますか?

A.企業ごとに扱いは異なりますが、就業規則上、自己都合退職となることが一般的です。休職期間は一定期間内の同一疾病においては通算されるため、短期間で休職を繰り返すと休職期間を使い切ってしまう可能性もあります。

Q.傷病手当金の詳細について教えてください(2022年1月より、期間算定における大きな制度改正が行われています)

A.まず給付要件ですが、労災でない疾病(私疾病扱い)で就労不能となり、休職に入ってから「3日以上連続して、4日め以降に入った状態」であることが必要です(この連続した3日のことを「待期期間」といい、この期間には土休日を含みます)。

■給付期間

給付期間は、支給開始日から起算して、暦日計算で1年6か月(土日祝日を含む)となっています。この支給期間が、2022年1月より「通算化」されることになりました (※)。これまでは、支給開始日から起算して1年6か月(期間換算の停止なし)でしたので、この期間中に一度復職して給与が発生し、同一疾病により再発して休職、となると、復職していた期間の分、再発してからの支給期間が短くなる(支給日数が消化されてしまう)という何とも不都合な問題が発生していました。しかし、今回の「通算化」によって、復職していた期間(給与が発生していた期間)については、「1年6か月」の計算から除外(支給日数を消化しない)されることになったのです。つまり、「就労不能となって休んでいた日数分だけ、疾病手当金が受け取れるようになった」ということです。

(※)ただし疾病手当金の給付開始が2020年7月1日以前の方については、経過措置として「前の規定」(復職後は勤務期間でも支給日数を消化扱い)が適用されるので、要注意です。

■給付金額

気になる給付金額ですが、「支給開始日以前12か月間の標準報酬月額」の平均額÷30(日)×2/3が、休業した日単位(土日祝日を含む)で支給されます。ただし、有給休暇や特別な疾病休暇制度により会社から報酬を得ている場合で、報酬金額が給付金額と同額かそれを上回る場合は、その期間中は疾病手当金は支給されません (当該の期間は、支給開始日にはカウントされません)。また、報酬金額が給付金額よりも少ない場合は、その差額のみが支給されます(この場合は、支給開始日のカウントに入ります)。
なお、健康保険加入から12か月未満の場合は、「健康保険加入期間の標準報酬月額の平均額」と、「当該の健康保険加入者全員の標準報酬月額の平均額」とを比較して、いずれか低いほうを算定基礎額として計算することになっています。

Q.適応障害を再発し、再び休業しました。傷病手当金を再度受け取ることはできますか?

A.以前に傷病手当金を受給した時と同一の傷病を理由とする場合、以前の傷病手当金の受給を開始した日から1年6か月(通算)以内であれば、再度傷病手当金を受給することが可能です。1年6か月(通算)を超えていた場合は、再受給できません。

なお、今回の再発が、以前とは別の傷病であると勤務先の健康保険組合が認めた場合は、以前の期間とは無関係に、「新たに」受給できる場合もあります。

Q.復職後、時短勤務になりました。傷病手当金は支給されますか?

A.傷病手当金の受給期間中に時短勤務で復職した場合、時短勤務で支給された金額が従前の傷病手当金の範囲内であれば、原則としてその差額を受給することは可能です。

Q.「傷病手当」を受けている途中で会社を退職しました。退職翌日から加入していた健康保険の被保険者としての資格は喪失することになると思いますが、給付はどうなりますか?

A.退職日(資格喪失の前日を指します)までに継続して1年以上の被保険者期間があり、かつ、資格喪失時に疾病手当金を受けているか、または受ける条件を満たしている場合は、残りの期間において疾病手当の給付を受けることができます。

ただし、退職日に合わせて1日でも「出勤」した場合は、給付を受ける条件を満たさないことになりますので、資格喪失日(退職日翌日)以降の傷病手当は打ち切られます。

Q.適応障害で退職した場合、健康保険はどうなりますか?

A.原則として退職翌日からは健康保険の資格は喪失します。ただし、退職前に2か月以上継続して勤務していた場合、健康保険は「任意継続被保険者」として健康保険を継続することが可能です。継続する場合(※)は、従前の健康保険組合の給付を最大で2年間利用することが可能です。

任意継続の手続きを行わない場合は、市町村の「国民健康保険」に加入することになります。

(※)申請は退職してから20日以内に手続きを行う必要があります。

Q.適応障害で退職した場合、厚生年金はどうなりますか?

A.通常の退職の場合と同様に、退職と同時に厚生年金を脱退して、国民年金に加入することになります。

Q.労災が認定された場合の「休業補償」について教えてください。

A.私疾病ではなく、「労災」が認定された場合は、健康保険による「傷病手当金」ではなく、労災保険から「休業補償給付」が支給されます。

労災保険の休業補償には3つの要件があり、

1.業務による疾病の療養中であること(労災認定された疾病の療養中であること)
2.労働できる状態にないこと
3.賃金を受け取っていないこと

のすべてを満たしている場合において、給付が続きます。

この場合、休業1日につき、給与基礎日額の80%(休業補償給付60%+休業特別支給金20%)が支給されます(土日祝日を含む)。給与基礎日額とは、労働基準法で定める「平均賃金」のことで、医師の診断により業務上の疾病にかかったことが確定した日の直前3か月間の賃金総額をその期間の歴日数で除した1日当たりの賃金額を指します。

これは「賃金総額」ですから、諸手当や残業代を含めて計算します。ただし、臨時金、ボーナス、現物給付は含みません。

なお支給は、休業開始から「通算(※)」3日間(有給取得日・休日・欠勤日も含む勤務しなかった日すべて)は会社が給与基礎日額の60%を補償し、休業4日目以降から、当該疾病の休業日数分の休業補償(給与基礎日額の80%)が労災保険から支給されることとなっています 。

(※)健康保険による「疾病手当金」は待期期間が「連続3日間」であるのに対し、労災保険による「休業補償給付」は待期期間が「通算3日間」であることに注意してください。

Q.労災が認定された場合に補償されるものには、休業補償のほかに、どのようなものがありますか?

A.上記の休業補償(※)給付のほかに、以下のような給付を受けることが可能です。いずれも厳密な支給要件がありますので、詳しくは厚生労働省「労災保険給付の概要」(PDF)をご参照ください。

▼療養補償給付

▼傷病補償年金

▼障害補償年金または一時金

▼介護保障給付

▼遺族補償年金または一時金、および葬祭給付

(※)業務災害の場合は「補償」の用語がつき、通勤災害の場合はつきません。本稿では、適応障害の特性から、一律で「補償」をつけた形で表記しています。

Q.労災の「休業補償」は、いつまで給付されるのですか?

A.労災保険の休業補償の3要件(労災認定された疾病の療養中であり、労働不能の状態で、かつ賃金を受け取っていないこと)を満たしている限りにおいては、休業補償の給付は継続されます。

ただし、療養開始後1年6か月経っても疾病が治らず、その状態が規定の障害等級(1~3級)に該当した場合は休業補償は打ち切りとなり、「傷病補償年金」に切り替わります。

また、治療を続けても、疾病の改善がこれ以上見込めない状態になる「症状固定」状態になった場合は、治療終了と判断され(労災の表現では「治癒」)、休業補償が打ち切られます。この場合は、規定の障害等級(1~7級)に該当するときに限り、「障害補償年金」および「障害補償一時金」が支給されます。

Q.労災の「休業補償」を受けている途中で会社を退職しました。給付はどうなりますか?

A.退職を理由に補償が打ち切られることはありません。

Q.「傷病手当金」や「休業補償給付」などには税金が掛かりますか?

A.いいえ。健康保険による「傷病手当金」のほか、労災による「休業補償給付」など労働基準法の規定により受ける療養のための給付については、すべて非課税所得となります。

Q.休職時の天引きの税金や社会保険料はどうなるのでしょう?

A.無給の期間中は、給与がありませんから当然に「所得税」は掛かりません。また、「雇用保険料」の負担もありません。なお「傷病手当金」や「休業補償給付」は非課税所得で、賃金ではありませんから 「給与」とは無関係です。

ただし、以下の税金や社会保険料は、原則として会社が指定する方法で、無給状態であっても休職前と同額を支払う必要があります。 最大で6~8割となった収入(額面)の中でこれら税金は従前と同じ額を支払う必要がありますので、「全額が自分の手元に残るわけではない(休職期間中の手取りも、額面収入を下回る)」ことはよくよく留意しておきましょう。

▼原則として休職中も支払う必要がある税金・社会保険料

ご存知の通り、これらはどれもバカにならない金額になりますので、日ごろから給与明細で「毎月どれくらいの税金と社会保険料を支払っているのか」はしっかりと確認しておきましょう。そのうえで、「毎月の家計において、突発的な減収分をカバーできるだけの余裕資金(預金や投資に回すお金)を残しておくこと」がとても重要です。

なお、支払いタイミングは給与と同じではありません。会社によって以下のような支払方法が取られます。

▼社会保険の場合

▼住民税の場合

なお、傷病手当や休業補償給付の請求から支給までの間の従業員やその家族の生活困窮を防ぐ目的で、「傷病手当」や「休業補償給付」相当額を会社が一時的に代払い(この場合は後日返還することになります)する場合があります。このケースでは、傷病手当や休業補償給付を会社が代理受領することもあります。

このような代理受領を会社が行った場合、会社は保険料や税金を控除した後に、傷病手当や休業補償給付(の残り)を個人の口座に振り込むこともあります。 これらは会社との取り決めによりますので、不都合があれば担当者と相談するようにしてください。

Q.休職中は無給なので、標準報酬月額も下がりますか?

A.原則として、下がりません。

ここで少し詳しい方だと、「え?でも、毎年7月に、4月・5月・6月に支払われた給与の平均額から標準報酬月額を算出して、9月から標準報酬月額が適用される(定時改定という)のだから、この期間に休職したら、少しは下がるんじゃないの?」と思われるかもしれません。しかし「保険者算定」の仕組み上、4月・5月・6月に休職していた場合、「一部休職」の場合は当該月を除いて計算し、「全部休職」の場合は「従前の標準報酬月額と同額とする」というルールが定められているのです。

要するに、休職前の標準報酬月額がそのままスライド適用されることになっていますので、休職によって厚生年金保険料、健康保険料などが減額されることは、原則としてないのです。

Q.(上の質問の続き)でも、標準報酬月額には「定時改定」のほかに、給料が下がったときに適用される「随時改定」という措置もあったはずです。それでもやっぱり下がらないんですか?

A.下がりません。休職による「無給」は、単純に「ノーワーク・ノーペイ」の原則で所定の給与が支給されていないだけで、ただちに社内制度上の「減給」を意味しないからです(そもそも、労働安全衛生法により、「心の病」を理由とした不利益な扱いは禁じられています)。

標準報酬月額が随時変更となる要件は、「固定的賃金の変動がある」「変動後3か月とも17日以上の賃金支払い基礎日数がある」かつ「変動月から3か月間の報酬の平均額と現在の標準報酬月額に2等級以上の差がある」という条件を、<すべて>満たしている必要があります。ちなみに「固定的賃金の変動」とは、昇給・降給、給与体系の変更、固定的な手当の支給額の変更、時給や歩合率などの基礎単価の変更などが該当します。繰り返しになりますが、休職による無給は、所定給与を「不支給」としているだけで、制度上の給与体系の変更を意味していないのです。

いずれにしましても、「休職」では標準報酬月額がそのままスライド適用されますので、休職によって厚生年金保険料や健康保険料などが減額されることは、原則としてないのです。

Q.治療には、月どのくらいかかるものなのでしょうか?

A.保険適用の通院(月1~2回)で2000円弱/回、投薬で1回1000~2000円弱、診断書が実費で1通3~5000円ほどかかります(ただし診療情報提供書は保険適用)。諸々込みで、ざっくりと月4000~8000円くらいといったところでしょうか(なおこれはカウンセリングやリワークプログラムを併用しない場合です)。 初診の頃を除き、通院・投薬だけで月1万円までいくことはほとんどないと思いますが、多めに予算を見積もっておくとそう外れないかと思います。 薬は積極的にジェネリック医薬品を選択し、医療費を少しでも押さえていきましょう。

家族のことや、他の病気にかかることなども考えると、「医療費年間10万円ライン」は見えてきますので、領収書(交通費を含む)はしっかりとっておき、確定申告で医療費控除・還付も忘れずに受けましょう (ただし「診断書」や、異常の見つからなかった場合における「健康診断費用」については医療費控除の対象外です)。

なお、利用する医療機関等にもよりまちまちですが、カウンセリング(自費診療)を利用した場合は5000円/回くらい、リワークプログラム(原則保険適用)が2~3000円/日くらい別途かかるので、プログラムの利用状況によっては合計で月に2~3万円くらいの出費がかかる場合もあるでしょう。 カウンセリングやリワークプログラムを利用する場合は、この点の予算化にも留意しておきましょう。

また細かい話ですが、医療機関や就労支援施設等へ向かう交通費、診断書などを会社へ郵送する費用(普通郵便ではなく、レターパックや宅急便等の追跡可能な手段を使うことになるので、数百円/回程度)も別途掛かります。

Q.毎月の医療費が家計の負担です。

A.世帯所得により、精神医療費の軽減が受けられる「自立支援医療」制度があります。入院、保険外診療、カウンセリングなどを除く精神医療が対象です。

また、入院費などでかかった医療費が高額になった場合は、「高額療養費制度」もあり、自己負担上限額を超えた分について、加入している医療保険から原則として後日、補填をしてもらえる制度もあります。

詳しくは厚生労働省「こころの病気への助成について」をご参照ください。

Q.現実問題として、休むときはそれなりの家計防衛が必要ですよね?

A.はい。よく、「疾病手当金があるから当面は安心」とか、「医療費の公費助成があるので活用しましょう」-という言葉を見かけますが(当座はその通りなのですが)、それでも敢えて言うならばやはり収入は下がりますし、一部の税金や社会保険の負担も変わりません。 諸手当も原則、入ってこなくなります。精神疾患は「いつ完治するか」が見えにくいですから、しばらくの間、それなりの家計防衛をする必要はあります。要は、生活水準を見直す必要は多かれ少なかれ出てくるといえるのではないか、と思います。

いきなりお金の心配をすると「焦り」ばかりが出て体調の回復を妨げます。まずお勧めは、有給消化期間で思い切り休むことです。それから1か月ほどして少し頭が回るようになってきたら、家族と一緒に「疾病休暇期間」「疾病手当の期間」「GLTD制度や共済制度で補填される期間」などを指さし確認し、「いくらもらえるのか」「いくら出費が必要なのか」、そして「生活費からみて単月収支、年間収支のバランスはどうか」などを確認 していくとよいでしょう。

Q.どんな家計防衛が必要ですか?

A.ただでさえ体調が悪い時期ですから、あまり「節約」という言葉を意識しすぎて神経質になると、余計に具合を悪くしてしまいかねません。かといって、「貯蓄を食いつぶす」のも精神衛生上、よくありません。もっとも理想なのは、減収分が健常時の強制貯蓄額の範囲に収まっている場合です。この場合は、貯蓄をいったん抑制することで、生活水準を当座はキープすることができますから、環境変化を最小限に押さえることができます。しかしそうもいかないこともあるでしょう。「あまり神経を遣わずに」、しかし、「確実に」家計を守っていく方法を考えてみたいと思います。

まずは大前提として、「今後の収入見込み」と「支出見込み」を可視化しておきましょう。家計簿をつけていればおおよその出入りは分かりますが、もし無データであれば、直近の3か月くらいの平均はざっくりと見えるようにしておきたいものです。

ではここから、具体的に見ていきましょう。収入がほぼ固定となる以上、いじれるのは支出面ということになります。支出を分解すると、「固定費」と「流動費」に分かれます。

■流動費

まず流動費ですが、一般的に「やりくりする」のはこの「流動費」です。食費や日々の生活に必要なお金が該当しますが、ただでさえ体調の不安定な時に、「10円」「20円」を気にして右往左往してしまっては、もっと体調を悪くしてしまう可能性があります。「我慢」を強いられる「節約」は、ストレスにもなるのです。だいいち、食費を切り詰めたところで栄養状態を悪化させ、せっかく「休養」しているというのに、取り返しのつかないことになりかねません。

■固定費

そこで、出血を「根元から絶つ」必要があります。それが「固定費」の見直しです。せっかく時間があるので(休職していると、平日に手続きをする時間がとれるのです ・・・)、すこし体調が整ってきたら、普段は忙しくてなかなか向き合うことのできなかった「固定費」の見直しに着手していきましょう。

▼光熱費

▼水道代・下水道代

▼通信費

▼サブスクリプション・サービス

▼習い事代

▼新聞・テレビ代

▼住宅関連費

▼保険料

▼自家用車の維持費

▼クレジットカード年会費など

▼ちょい買いペットボトル飲料

▼美容・衛生系

これらは、普段は忙しくてなかなか着手できない課題でもあります。時間がある「休職期間」を逆手にとって、固定費の見直しをすることで、筋肉質な家計を作っていきましょう。

Q.家計防衛のために、未然に備えておけることはありますか?

A.「備えあれば憂いなし」といいます。メンタル要因の「もしも」のときのために、備えておけることには以下のようなことが挙げられます。

まずは、一定数の有給休暇を残しておくことです。「有休を全く使わない」というのも問題ですが(今は「5日」は取得義務がありますね)、少なくとも「1か月」くらいは一切お金の心配をしなくても過ごしていけるだけの日数を確保しておけると、いざメンタルダウンをしてしまったときでも、安心して休養に専念することができます。ダウンして最初の1か月は「ダラダラ期」とも言われ、とにかく「何もしない」ことが治療の根幹となります。ここでしっかりと休むためにも、「安心して休める」状態を準備しておくことをお勧めします。

次に、フローとストックの両面から、余裕資金を確保しておくことです。

■フローの観点

フローの観点では、「減収の担保を想定しておく」ということが重要です。「給与から一定額を強制的に貯金をしている」という場合は、その毎月の貯金額そのものが、減収分の担保になります。このような資金がない場合は、家計の見直しによって、「どの支出を見直せば、減収分を担保できるか」をシミュレーションしておくことをお勧めします。一般的に、手取りの1~3割を貯蓄に回せると、家計も安定するとされています。

■ストックの観点

フローと連動するストックの観点では、「生活防衛資金」を目的外貯金(生活費、旅行、自動車、教育、不動産購入「以外」の貯金)として確保しておくことです。
どのくらいの金額を「生活防衛資金」としてストックしておくべきか、簡単にまとめてみましょう。

▼属性別目標ストック金額(生活防衛資金として)

Q.ボーナスはどうなる?

A.会社によります。休職したとしても、「勤務した日数に応じて評価する」ことが一般的かと思いますが、期間中営業日○割以上の休職で一律評価にするとか、全期間休職の場合は支払わない、など細かくルール化されていることが多いようです。事前に規定を確認しておきましょう。当然ながら評定は下がることはあっても上がることはまずないでしょうから、休職期間中にローンで「ボーナス払い」などを組んでいる場合は、十分に注意しておきましょう。

いずれにせよ、当面はあまり期待しないのが吉と言えましょう。

Q.手当はどうなる?

A.会社によりますが、「有給消化期間」および「疾病休暇・欠勤期間」は諸手当も含めて全額支給、「休職期間」は諸手当も含めて全額不支給、というのがよくあるパターンです。 ただし欠勤期間であっても、 「職務手当」は支給、「交通費」「在宅勤務手当」や「みなし残業代」は不支給・・などと項目ごとに条件が定められている場合もありますので、詳しくはそれぞれの就業規則を確認してください。

なお、休職期間に入ると、扶養手当や単身赴任手当などはもとより、「住宅手当」「都市手当」など住居に関わる手当も支給停止となるケースがほとんどです。借り上げ社宅の場合、賃貸契約は維持したままで賃料は全額負担、というケースもあります。住宅関係のお金は税金・社会保険料と合わせて負担がきわめて大きくなりますから、「どの手当が、 いつのタイミングで不支給になるのか」は必ず確認をしておくようにしましょう。

Q.来年度の有給休暇ってどうなる?

A.法的には「前年度に全労働日の8割の出勤」が翌年度の有給付与の要件になります。この「出勤」の解釈が、会社によって異なるので必ず確認をしましょう。

長欠の場合、有給期間や、会社が特に定める疾病休暇期間(特別に欠勤扱いとする場合もある)と、就業規則上の「休職期間」とを分けて考える必要があります。様々なパターンがありますが、当然に「有給期間」は「出勤日」に含まれ、疾病休暇期間や休職期間は「出勤日」に含まれないのが一般的です(つまり、休職期間が短かければ翌年度の有給休暇は付与される可能性が高くなります)。当然に、「休職期間」に入ると、就業規則で「当該期間は継続勤務期間に通算しない」と定められている場合が多いです。

ただし会社によっては、労働者保護の立場から、特別に「疾病による欠勤」や「休職期間」の全部または一部を、全労働日の計算から除外する措置を取っている場合もあります(この場合は、比較的長期間の休職でも翌年度に有給が付与される確率が高まります)。人事規程を確認するようにしましょう。

なお、「全労働日」とかかる「出勤期間」については、「リフレッシュ休暇の取得に必要な勤続年数の算定」、「昇格や昇給に必要な評価期間の算定」、 「異動検討の参考資料となる部署滞留期間の算定」、「退職金の計算」などに影響する可能性があることにも合わせて留意しておきましょう。

Q.休職で有休を使い切ってしまったため、復職後の通院は欠勤扱いとなってしまいます。何とかなりませんか。

A.会社の制度として、復職後の通院を特別に時間有休とすることができたり、フレックスタイム制度で「不就労(勤務時間外)」とすることができたりする場合は問題になりません。しかし、このような制度がない場合は「ノーワーク・ノーペイ」の原則により、通院時間については欠勤となり、毎月の給与又は賞与の際に当該時間分が控除されることになります。

上司との相談により、通院時間分をずらして勤務する(スライド勤務)が特例として認められる可能性もありますので、まずは一度上司と相談してみることをお勧めします。

Q.適応障害は、住宅ローンを組むとき(例えば団体信用生命保険加入など)に影響しますか?

A.します。団体信用生命保険(団信)は、住宅ローン借り入れ後、返済中に死亡・高度障害となった際に、残債が免除(生命保険で一括返済)される制度です。団信の審査では、必ず「健康状態の告知」をする必要があり、リスクの高い疾病を予め弾く審査を受けます。適応障害の場合はまさにこの「リスクが高い疾病」と判断されます。適応障害で団信に入ることは一般的にはきわめて困難であり、住宅ローンそのものを借りられない確率も高くなります。

具体的には、「告知日から3カ月以内の治療、投薬歴」のほか、「告知日から3年以内の手術または2週間以上の期間にわたる治療歴」について、すべてを正確に告知する必要があります。この期間に該当するケースでは、団信の審査が下りないと考えたほうが無難でしょう。

なお虚偽の報告をした場合は、いざというときに保険金が支払われない(ローンは残る)ことになりますし、悪質な場合はローンの一括返済を求められることもあります。

Q.適応障害でも、(通常の団信以外で)住宅ローンを組むことは可能ですか?

A.可能な場合があるとされています。金利は高くなるものの、「ワイド団信付住宅ローン」という審査基準を緩和した商品開発が行われているからです。もちろん審査がありますので100%ではないものの、一般の団信とは違い、適応障害を含めた健康リスクの高い方でも組むことができる(ことの多いとされる)住宅ローン商品です。ただし確約はできませんので、詳細は、 まずは借入予定の金融機関と必ず相談するようにしましょう。

なお、やろうと思えば「団信なし」で「フラット35」を組むことは仕組み上可能なのですが(この場合は当然に金利も下がります)、余りにもリスクだけが異常に高すぎるため(おそらく、一般人が取り得る金銭的なリスクの中でも、レバレッジをかけたFX投機と並んで最上級のリスク要因の1つといえるでしょう。無保険の住宅ローンなど、安心して日常生活を送ることはまずできなくなりますし、そもそも適応障害になった人が取るべき選択肢では、少なくとも絶対にありません)、何らかの保険加入は原則絶対的に必須と考えておくべきでしょう。

Q.適応障害は、生命保険などの加入に影響しますか?

A.します。基本的には上記の団体信用生命保険の記述に準じますので、「更新」はできたとしても、希望の保険に希望のタイミングで「新規加入」できないことは十分にあり得ます。一部で審査基準を緩和した商品も開発されていますが、一般的に保険料は割高となります。詳細は、 まず加入したい保険のWebサイトを直接確認するとよいでしょう(いきなり比較サイトを使ったり、フィナンシャルプランナーや営業担当者に相談してしまうと、そのまま営業を受けるだけですので、一度自分で直接情報収集をすることをお勧めします)。

Q.メンタル要因による労災の認定基準について教えてください。

A.精神疾患において労災が認められるのは、労災の認定要件である「業務遂行性(労働者が事業主の支配下にあったこと)」および病気の「業務起因性(業務を原因として発生したこと)」を前提に、原則として次の3つの要件をすべて満たす場合です。

1.認定の対象となる精神障害(適応障害も含みます)を発病している
2.発症の概ね6か月以内に、業務による強いストレス(心理的負荷)が認められる
3.業務以外のストレス・心理的負荷や個体側要因により発症したとはいえないこと(※)

(※)「業務以外のストレス」とは、以下のものが挙げられます。
・自分の出来事(離婚・別居、精神疾患以外の病気・流産・怪我、夫婦間のトラブルや不和、自分の妊娠、定年退職)
・自分以外の近親者の出来事(近親者の死亡や健康問題、世間体を問われる事態の発生、親戚づきあいのトラブル、家族の婚約、子どもの進学・受験、親子の不和、子どもの問題行動や非行、家族が増えた(子どもが生まれた)・減った(子どもが独立した)、配偶者の就職・転職・退職)
・金銭関係(多額の財産の損失、突然の大きな出費、収入の減少、借金返済のトラブル、ローンを組んだ)
・事件・事故・災害(天災、犯罪被害、交通事故、違法行為)
・住環境の変化(騒音や異臭などの環境トラブル、引越し、不動産の売買、家族以外との同居)
・業務以外の他者との人間関係(友人や先輩とのトラブル、親しい知人の死亡、失恋や異性問題、近所トラブル)

ではここで、「業務による強いストレス」がどのようなものなのか、確認してみましょう。 強いストレスについては、「特別な出来事」と、「具体的出来事」に分けて、次のように判断されます。

■特別な出来事

まず、「特別な出来事」は、それ単体で「強いストレス」と評価されます。
心理的負荷が極度のものと極度の長時間労働の2つが該当し、具体的には業務上の重大な事故・疾病(生死にかかわる極度の苦痛を伴う病気やけが、他者への損害)、業務上の性犯罪被害(特にセクハラの域を超えるもの)、発症前1か月の月160時間を超える極度の長時間労働などが挙げられます。

この「特別な出来事」がない場合は、発症前の概ね6か月以内の「具体的な出来事」を総合評価して、発症の概ね6か月以内に、業務による強いストレスを受けたかどうかを判断します。

■具体的出来事

ストレスを引き起こす「具体的出来事」は、厚労省によって7つの類型・37の分類がなされており、心理的負荷の強度を「強」「中」「弱」とする具体例が示されています。

類型1:事故や災害の体験
「重度の病気やけがをした」「悲惨な事故や災害の体験を目撃した」などが挙げられ、病気やけがの程度や、後遺障害の程度、社会復帰の困難性等が判断されます。

類型2:仕事の失敗や過重な責任の発生
「業務に関連した重大な人身事故や重大事故を起こした」「会社の経営に影響する重大なミスをした」「会社で起きた事件・事故の責任を問われた」「自分の業務で多額の損失を発生させた」「業務に関連した違法行為を強要された」「達成困難なノルマが課された」「ノルマが達成できなかった」「新規事業の担当になった、会社の立て直しの担当になった」「顧客や取引先から無理な注文を受けた」「顧客や取引先からクレームを受けた」「大きな説明会や公式の場での発表を強いられた」「上司不在時の代行を任された」などが該当します。

類型3:仕事の量・質
「仕事内容や仕事量の大きな変化を生じさせる変化があった」「1か月に80時間以上の時間外労働を行った」「2週間以上にわたって連続勤務を行った」「勤務形態に変化があった」「仕事のペース、活動の変化があった」などが挙げられます。

類型4:役割・地位の変化
「退職を強要された」「配置転換があった」「転勤をした」「複数名で担当してた業務を1人で担当するようになった」「非正規社員であるとの理由により、仕事上の差別や不利益扱いを受けた」「自分の昇進や昇格があった」「部下が減った」「早期退職制度の対象となった」「契約満了が迫った」などが挙げられます。

類型5:パワハラ
「上司等から身体的・精神的攻撃等があった」ことが挙げられます。

類型6:対人関係
「同僚等から、暴行またはいじめ・いやがらせを受けた、「上司・同僚・部下とのトラブルがあった」「理解者・上司の異動」「昇進で先を越された」などです。

類型7:セクハラ

これらのうち、ストレスが「強」とされるのは、業務上の事故・災害による被害(重度の病気やけがをした)、仕事の失敗や過重な責任の発生(仕事のミスや過失により重大な事故を起こしたり、会社の経営に影響するミスをして事後対応にも当たったりした)、役割・地位の変化(退職の強要)、パワハラ(身体的・精神的な攻撃)、対人関係(暴行、酷いいじめ、いやがらせ)などが挙げられます。
ストレスが「中」とされるのは、業務上の事故・災害の体験(悲惨な場面を体験したり、目撃したりした)、仕事の失敗や過重な責任の発生(会社で起きた事件や事故の責任を問われた、自身の業務で多額の損失を発生させた、違法行為を強要された、達成困難なノルマが課された、酷薄なノルマが達成できなかった、新規事業を担当した、業務立て直しの担当になった、顧客や取引先から無理難題を受けた、顧客や取引先からクレームを受けた)、仕事の量・質(仕事内容や仕事量の大きな変化を生じさせる出来事があった、1か月に80時間以上の残業を行った、2週間[12日以上]にわたる連続勤務を行った)、役割・地位の変化(配置転換があった、転勤をした、複数で担当していた業務を一人で担当することになった、仕事上の差別や不利益扱いを受けた)、対人関係(上司や同僚、部下とのトラブルがあった)、セクハラなどが挙げられます。
なお、「中」が1つの場合は一般的には労災認定になりませんが、「中」が複数個あり、総合評価としてストレスの強度が「強」とされる場合は、労災認定されることになります。

「強」や「中」に該当しないものが「弱」となります。例えば責任の発生(大きな説明会や公式の場で発表を強いられた、上司不在時の代行)、仕事の量・室の変化(勤務形態の変化、仕事のペースや活動の変化)、役割・地位の変化(自分の昇格・昇進、部下の減少、早期退職制度の対象、契約満了が迫った)、対人関係(理解者や上司の異動、昇進で先を越された)などが挙げられます。
ストレス強度の評価について詳しくは、厚生労働省「精神障害の労災認定」(PDF)をご参照ください(心理的負荷評価表による判定基準が記載されています)。 例えば、「強」が1つでもあれば、「強」、「中」+「中」=「中」または「強」、「中」+「弱」=「中」、「弱」+「弱」=「弱」となるといった計算方法の基本や、項目ごとの細かい評価基準を確認することができます。
なお、長時間労働については、以下の場合はストレス強度が「強」と評価されます。

▼ストレス強度が「強」とされる長時間労働

また、月100時間程度の恒常的な時間外労働があった場合に、ストレス強度が「中」以上の「具体的出来事」があり、その後概ね10日以内に発病した場合または事後対応に多大な労力を費やした後発病した場合、ストレス強度が「弱」程度の「具体的出来事」があり、その前後にそれぞれ月100時間程度の恒常的な時間外労働があった場合なども挙げられます。

これらを簡単にまとめると、「月80時間以上の残業」「12日以上の連続勤務」「達成困難なノルマとペナルティ」「極度のいやがらせ・いじめ」「パワハラ・セクハラ」は、放置していると労災として会社が訴えられるリスクが極めて高いリスクファクターにもなる、ということです。

Q.休職中に利用できる社会保障の諸制度について知りたいです。

A.「国立精神・神経医療研究センター」がWebサイトに掲載しているリーフレット「休職中に活用できる社会保障制度を理解しよう」が、網羅的に掲載された情報になっており参考になります(リンク先はPDFファイル)。このQ&Aには掲載していない、退職した場合の「雇用保険」、日常生活や仕事に支障が生じた場合の「障害年金」等の諸制度について詳しく記載されています(※)。状況に応じてご参照ください。

※上記のリンクは、「傷病手当金」の情報のみ、旧制度に基づいた記述になっていますのでご注意ください。上述の通り、2022年1月より「1年6か月」の定義が、就労不能となって休んでいた日数分(暦日)に変更となっています 。


【6.復職の目安について

Q.復職までのプロセスってどんなものでしょう?

A.体調が回復し、「会社のことを考えても体調に変化がなくなる」ことが、復職までのプロセスを意識する第一歩です。復職のプロセスは、会社によって順番は若干異なるかもしれませんが、一般的には次のような形を取ります。

▼復職までのプロセス

  1. 会社の定める復職条件を確認する
    会社によって異なりますが、「フルタイムで復帰することが条件」など、復職にあたっての要件が厳密に定義されている場合があります。「フルタイム復職」が要件なのに、主治医の診断書に「最初は半日勤務を要す」と書かれていると、産業医は復職許可を出せません。必ず、「どんな条件で復職が可能なのか」を人事担当者などに事前に照会しておく必要があります。
  2. 会社の定める復職条件に照らし、主治医と復職について相談をはじめる
  3. 会社の定める復職条件に照らし、主治医から復職許可の診断書または診療情報提供書を発行してもらう
  4. 診断書を人事担当者に提出する(会社の指示する方法で、直属の上司とも共有する)
  5. 産業医面談を行う
  6. 産業医面談の見解を踏まえ、人事部が復職条件(復職日、軽減勤務など)を提示する

なお、診療情報提供書の発行には時間を要することがあるほか、普通は産業医も常勤でない限り月に数回の出勤と限られていますので、主治医と復職についての相談をはじめてから、産業医面談を経て実際に復職するまでは、順調に進んでも3~4週間程度かかる場合があります。これはそういうものですので、この期間は「準備期間」と思って、決して復職を焦らないようにしましょう。

Q.主治医と復職について相談をはじめる目安ってどんなものでしょう?

A.主治医と復職について相談をはじめる目安は、以下のようなものが挙げられるでしょう。

▼復職相談をはじめる目安

個人差や状況の違いはあると思いますが、1つでも当てはまらないものがある場合は、復職の時期にあるかどうかはよくよく主治医と相談しましょう。

Q.「復職の意欲」を伝えたところ、主治医からは「まだ判断できないなぁ」とはぐらかされてしまいました。そもそも「復職の意欲」って、どんなものでしょう?

A.主治医や産業医が復職を判定するにあたって、最も慎重に判断するのが「復職の意欲」です。適応障害になるような人はもともと真面目な人が多いので、少しでも抑うつ症状が良くなると「復職したい」と口にするようになります。実際はストレス源から離れ、休養をして、薬を服用しているから「元気」になっているだけという場合がとても多く、そもそも「焦り」から「(本心ではまだ休んでいたいが)復職しなければならない」という義務感を、「復職したい」という「意欲」に偽装してしまっていることがほとんどなのです。そのような中途半端な状態で復職すると、容易に再発することになってしまいます。

身も蓋もないことを言ってしまうと、仕事というのは、どんなに美辞麗句で飾ったとしても、所詮は「稼得手段」でしかありません。そして稼得行為は往々にして、「誰かがやらないこと(やりたくないこと)を代行することでお金を貰う」という性質があります。要するに、仕事は「義務的なもの」かつ「従属的なもの」であり、それ自体に自発的な意欲を喚起する要素は本来内在していないのです。しかし、現代社会の一種のレトリックがはたらき、「仕事」=「意義があること」=「社会貢献」=・・云々、要するに「よいこと」というポジティブな修辞が為され-いわば全面的に換装されて-「仕事をしたい」という言葉が生ぜしめるという倒錯が生じているのです。「洗脳」と言っても過言ではありません。

ですから、心の声に素直に耳を傾けてみれば、適応障害で深く傷ついた心が、容易に「働きたい」という気持ちにはならないはず、なのです。したがって、休職の初期(1~2か月程度)の段階で「復職したい」と言っても、それは単に「焦り」であり、心身の悲鳴を脳が巧妙にマスクしてしまっている状態ですから、なかなか素直に専門家からそれが首肯されることは少ないのではないか、と思います。

しかし人間は、高度に社会化された存在です。本当の意味で心身ともに休めている(完全に仕事から離れて休養し、感動体験を積み重ねることで心身のエネルギーが回復する)状態が続くと、「ただ休んでいる」ことに、真の意味で「飽きて」きて、「社会とつながる」こと、すなわち「仕事」をしてもいいかな、という気分になってくるのです(「しなければならない」ではなく、「してもいいかな」です。用法の違いにぜひ注目してください)。この「飽き」と「してもいいかな」の気分が、きわめて重要です。どうでしょうか、「飽きるまで休む」って、普通の社会人だと想像も付かないのではないでしょうか。しかし、実際に「休むことに飽きて、何かをしたくなってくる」時期が必ず来るのです。ここまで待てるかどうか、要するに「徹底的に休むことができるか」が、その後の回復を決定的にするのです。

ということで結論としては、「休むことに徹すると、そのうち『飽き』がくる。『働かなくては』ではなく、『働いてもいいかな』と思える時も来る。そのタイミングが、『復職の意欲』というものです。そうなるまでは、時期尚早だと思ってよいでしょう」「したがって、まずはとにかく徹底的に休みましょう」というのが、本項の答えとなります。

Q.「まだ復職が難しい」と判断される目安のようなものはありますか?

A.次のような状態が1つでも見られる場合は、復職を考えるべき段階にない(休養が必要な状態)と判断できます。

▼復職までの流れをいまいち理解できていない

▼生活リズムが整っていない

▼昼夜逆転した生活になっている

▼日中も含めて寝ていることが多い

▼規則正しい生活をすると、却って体調が悪くなる(頭痛やめまいなど)

▼仕事のことを考えると気分が悪くなるので、なるべく考えないようにして過ごしている

▼仕事に関連した悪夢を見て、夜中や早朝に目が覚める

▼復職についてアクションを起こそうとするが、焦ってしまって(頭が空回ってしまって)着手できない

▼「よくなったこと」よりも、「まだ治っていない部分」に意識が行ってしまう。

▼かかる病院やカウンセラーを頻繁に変えている

Q.「生活リズムが整っている」ことを確認できる方法はありますか?

A.生活リズムが整ってくると、自然と体内時計のリズムも整います。すなわち、「決まった時間に眠くなり、決まった時間に自然と目が覚める」(睡眠)、「決まった時間にお腹が空く」(食事)、「決まった時間にうんちが出る」(排便習慣)といったことが普通になってきます。この状態が1週間程度問題なく続くようになれば、「リズムが整ってきた」と考えてよいでしょう。もっとも、毎日の体調は健常な人であっても変動があるのが当然です。過度に気にしすぎないほうがよいでしょう(さすがに昼夜逆転は就業にとっては憂慮すべき状況ですが、例えば休日の起きる時間が1時間程度のずれてしまうといった現象は、特に問題ありません)。

Q.復職をしなければと、どうしても焦ってしまいます。

A.焦る気持ちは痛いほど分かりますが、職場復帰を焦らないことが大切です。適応障害は心に傷を負った状態であり、その回復には時間がかかります。このQ&Aでも取り上げている「3か月」というのはもっとも短いケースで、実際には復職まで半年~1年半ほどかかるケースもごく普通です。

しかし、社会から隔絶された状態でいると、本人も、ときに家族も、「このままでは職場で居場所がなくなるのではないか」とか「周囲にこれ以上迷惑はかけられない」といった心配や不安を抱えることがほとんどです。そして、その感情はごく普通のことです。ただし、この焦る気持ちは、適応障害の症状として表れている可能性もあります。

中には、「いつまでも休んでいると、却って悪化する」とか、「仕事をしながら治すという手もある」「一度顔を出してみないか」といった周囲からの「悪魔の誘い」もあるのですが、体調が回復していない段階で職場復帰をするのは、「再発してください」と言っているようなものだと重々覚えておいてください。

湧き上がってくるような「焦る気持ち」は決して否定せず、受け容れましょう。ただ、十分に回復していない状態で職場復帰をしたところで、せっかくよくなりかけていた抑うつ症状が悪化し、すぐに出勤ができなくなったり、仕事が手につかなくなったりして再休職ということは、非常によくあることです。そして休職を繰り返すと、休職を長くしていたときよりも、却って悪い印象を周囲に与えることになるでしょう。

「がんばって1か月で戻ってみたけど、またすぐに休職してしまった人」と、「しっかり半年休んで戻って、復帰後1年かけて寛解させた人」とでは、後者のほうが周囲も安心して接することができる、というのは自明でしょう。

なお適応障害(心の病全般)に特徴的なのは、回復に波があることです。これを「三寒四温」に例えることも多いです。症状がよくなったと感じても、まだまだ不安定で、「よいとき」と「悪いとき」を繰り返しながら、徐々に寛解に向かっていくというイメージです。

したがって、少しばかり調子が良くなったからといって、急に復職を目指すのではなく、体調の波を見極め、ある程度状態が安定するのを待つことも大切な休養であると心得ましょう。

あなたが復職の意志を示した時、もし主治医や職場の保健スタッフから「まだ判断できないなぁ」とはぐらかされたときは、客観的に見て「時期ではない」ということです(否定はメンタルを病んでいる人にとって受けるダメージが大きいですから、大抵はそうと取られないようにはぐらかされることが多いはずです)。

Q.主治医から、復職に向けて復職支援プログラム(リワーク)の利用を勧められました。費用が心配です。どのくらいかかりますか?

A.リワークプログラムは、施設によりかかる費用が異なります。多くの場合、リワークプログラムは精神科医療機関で実施されているため、健康保険の適用となることが多いです(3割負担)。また、所得状況により自己負担が原則1割となる「自立支援医療制度」を使用できる場合もあります。

金額については医療機関、リワークプログラム実施機関へ、公的な援助についてはお住まいの自治体へ、それぞれ確認されることをお勧めします。

Q.リワークとは何ですか?

A.リワークとは、Return to Workの略で、メンタル疾患で休職している労働者に対し、職場復帰に向けたリハビリを実施する機関で実施されている医療プログラムです。「復職支援プログラム」や「職場復帰支援プログラム」といった表現をする場合もあります。

基本的には、復職を想定した訓練を行います。プログラムに応じて、「決まった時間に施設に通う」(通勤の訓練)、仕事を模したオフィスワークや軽作業(作業療法)、再発防止のための疾病知識習得・心理療法などが組み合わされます。施設によっては、集団生活に順化するためのレクリエーションや簡単な集団運動などが取り入れられることもあります。プログラム中では、従前の働き方・考え方を振り返り、再発しないための準備も行っていきます。

Q.リワークプログラムは必ず受けなければなりませんか?

A.いいえ。あくまでも治療の根幹は「休養」と「服薬」で、必要に応じて心理療法やリハビリが取り入れられます。ただし、休職期間が長引けば長引くほど、仕事に必要な体力や精神力も低下し、復帰までの心理的ハードルが高くなることも考えられます。したがって比較的長期間休養している場合は、不安感解消・仕事に必要な体力や勘を取り戻していくという意味でも、リワークが勧められることが多いようです。

また、一人でリハビリを行うことに不安を感じる場合も、主治医や産業医と相談してリワークを紹介してもらうこともよいでしょう。

なお近年では、企業内で復職支援プログラムを準備しているケースも増えてきました。組織内に医療機関や社員のヘルスケア専門の部署を設けている企業の場合、自社版にカスタマイズした復職支援プログラム(通勤訓練のほか、心理カウンセリングによる認知行動療法などを含む)を提供したり、EAP(Employee Assistance Program/従業員支援プログラム)の一環としてメンタル疾患を起こした従業員にリワークを提供したりすることもあります。

この背景には、従業員のメンタル疾患による「再休職の多さ」という現実があります。復職後に安定的に継続勤務をしてもらうために、リワークの受講完了(リワーク担当の医師や心理カウンセラーによる判定)を復職の条件としている企業も今や珍しくありません。この場合は、リワークは「必須」ということになります。

Q.リワークにはどのような種類がありますか?

A.実施主体によって、大きく4つの形態があります。1つずつ解説します。

■医療機関が実施するもの(医療リワーク)

病状の回復と安定を目指す治療の一環として、医療機関が行うリワークです。再発を予防し、元気に働き続けるための復職支援に特化したプログラムが提供されます。医療専門職(医師、看護師、精神保健福祉士、作業療法士、心理士など)によるリハビリについては、健康保険制度や自立支援医療制度を利用でき、費用の全額負担を伴わないことが一般的です。次のような枠組みで実施されることが一般的です。
時間の区切りでは、以下のようなものがあります。

▼精神科デイケア

▼精神科ショートケア

▼精神科デイ・ナイト・ケア

▼精神科ナイトケア

内容の区切りでは、次のようなものが挙げられます。

▼精神科作業療法(OT)

▼通院集団精神療法

■地域障害者職業センターが実施するもの(職リハリワーク)

各都道府県に設置されている「独立行政法人高齢・障害・休職支援機構 地域障害者職業センター」が実施しているリワークです。「職場復帰支援(リワーク支援)」の名称で、職業カウンセラーが、休職者・主治医・雇用主をコーディネートすることで三者をつなぎ、3~4週間程度の「職業リハビリテーション」を実施します。休職者の職場適応のための休職者・雇用主の支援という意味合いが強く、治療プログラムではないという点が最も大きな特徴です。労働保険に よって賄われるため費用はかかりませんが、公務員の利用はできません。

■企業が独自で実施するもの(職場リワーク)

従業員のメンタル疾患の多発と相次ぐ再発に苦しむ企業は多く、再発防止を人事目標に据えることは珍しいことではなくなりました。企業が自社の休職者のために費用を負担して実施するリワークを「職場リワーク」と呼び、最近増加しています。「試し出勤」を制度化していたり、心理カウンセラーによる認知行動療法のプログラム受講完了を復職の条件として休職者に課していたり、企業によって様々な取り組みがなされています。

■民間が実施するもの(民間リワーク)

ほかのリワークにはない特色(農作業、田舎でのシェアハウス生活など)が用意されていることもありますが、多くの場合は自費負担となる可能性が高いことには注意が必要です(自治体により公的な支援を受けられる可能性はあります)。

Q.リワークの期間は、どのくらいですか?

A.数週間~年単位と、施設や症状などによって様々です。平均的には3か月~7か月程度とされています。

Q.リワークに参加するための条件はありますか?

A.適応障害の初期の辛い症状が緩和し、リワーク実施施設まで安全に通い続けられる状態になれば参加が可能です。復職に向けて活動をする自発的な意思があるかどうかも重要でしょう。

リワークを紹介したり、リワーク施設を併設したりしているような病院であれば、主治医に相談してみることもお勧めです。

Q.リワークの対象者は誰ですか?

A.基本的には休職者本人ですが、復職後にフォローアッププログラムが半年程度設けられていたり、制度によっては家族や上司などが参加するプログラムが用意されていたりすることもあります。

Q.リワークはどのような形態がありますか?

A.例えば、次のような形態があります。これらの形態を組み合わせてプログラムが用意されることがほとんどです。

▼デスクワーク

▼グループワーク

▼ミーティング

▼内省と記録

▼心理教育

▼心理療法

▼運動療法

▼リラクゼーション

▼作業療法

▼芸術療法

Q.リワークでは、具体的にどのようなことを行いますか?

A.次のような内容で行われます。

■個人プログラム

主に机上での作業で、文字・数字・文章・図表を扱います。ときにパソコンも使いながら、一人で一定時間模擬的なオフィスワークを行うことで、仕事に必要な集中力や作業力を回復・向上させていきます。

■集団プログラム

複数の構成員でチームを組ませ、役割分担をしての共同作業を行い、対人関係スキルの回復・工場を目指します。

■教育プログラム

症状の自己理解を目的として、基本的には講義形式や質疑応答形式で、自分の病気について学びます。「正しい理解」と「再発の兆候に気づき、素早い対処をする」ことを目的としています。

■心理療法プログラム

認知行動療法、集団カウンセリング(グループでの話し合い)などの心理療法を行います。

■リラクゼーション等プログラム

上記に該当しない、運動やリラクゼーション、芸術活動など、「心の固さをほぐす」「体力の維持・回復を促す」ことで症状の緩和・改善を図ることを目的としたプログラムです。

■面談プログラム

リワーク担当者と休職者との個人面談などです。

Q.リワークで得られる効果は、どのようなものがありますか?

A.復職に向けた、就労に必要なスキルを回復することができます。次のようなものが挙げられますが、これらはそのまま、「復職後、安定して働き続けるために必要な力」そのものと言えるでしょう。

■生活リズムの改善

決まった時間にリワーク施設へ通うことで、自然と生活リズムが整いやすくなります。生活リズムの回復は、安定的に就労するための基本中の基本です。

■就労に必要な体力の回復

就労には体力が必要です。リワーク施設へ通うこと自体が通勤に必要な体力の回復に役立ちますし、プログラムの中で体操や軽い運動を続けることで、活動量が増え、体力もついてきます。

■自信や自尊心、社会参加意欲の回復

プログラムの中で「自分のできること」が増えることで、自信を回復することにつながります。また、他者との交流が、自分の存在意義や社会参加意欲を喚起するきっかけともなるでしょう。

■居場所、相談できる場を確保できる

これまでの経緯を把握している心理スタッフに話を聞いてもらったり、同じ症状と闘っている仲間同士で共感したり、つながったりしあうことで、安心したり、相談しやすくなり、孤独感が解消することも多くあります。「居場所」があることは、社会復帰のための重要なファクターの1つです。

■対人スキルやコミュニケーション力の回復

プログラム内で他者との交流を重ねることで、少しずつ集団生活や対人コミュニケーションに慣れて、対人関係構築力を回復しやすくなります。

■就労に必要なビジネススキルの回復

プログラムの中で、就労に必要な作業力・集中力、対人コミュニケーション、段取りのつけ方などを再構築することができます。

■再発の抑止

リワークを通じて自身の病気への理解、認知の歪みに対する気づきなどによって、自己管理が従前よりも上手にできるようになることで、再発の抑止を期待することができます。

Q.作業療法士とはなんですか?

A.日常で必要となる「食事」「洗顔」「料理」などの、応用的動作能力のほか、就学・就労・社会参加といった社会的な適応能力を維持・改善し、その人らしい生活の獲得を目的としたリハビリテーションを行う専門職です。メンタルヘルス領域においては、患者のメンタルケアを行うことも作業療法士の仕事の1つに数えられます。

Q.作業療法士と、理学療法士の違いはなんですか?

A.理学療法士は「立つ」「座る」「歩く」など、身体機能の大きな動きのリハビリテーションを行うことで、運動機能回復を図り、日常生活の自立をサポートします。

一方の作業療法士は、「箸を持つ」「服を着る」「手を洗う」「字を書く」などの、応用的な動作能力のリハビリテーションを行い、「その人らしい」生活の回復をサポートしていくことが相違点です。また、メンタルケア領域のリハビリも担う点が異なっているといえるでしょう。

Q.復職時の産業医面談ではどのようなことを聞かれますか?

A.目的は2つで、「本当に復職が可能なのかを見極める」ことと、「復職時に制限すべきことを判断する」ことが挙げられます。

■復職が可能かどうか?

まず「復職が可能かどうか」ですが、主治医の診断書も参考に、以下のような項目をヒアリングされるイメージです。ある程度答えられるように事前にメモをしておくとよいでしょう。

▼ヒアリング項目(例)

産業医には守秘義務がありますので、「会社に言わないでほしいこと」は、遠慮なくそう伝え、取り繕うことなく、本音で答えましょう。会社の業務をイメージした上で、適切な助言をもらえるはずです。

■復職時に制限すべきことは何か?

次に 「復職時に制限すべきこと」については、以下のことをやや掘り下げて確認されます。

▼ヒアリング項目(例)

こちらも、素直に感じたことを答えるのでよいでしょう。

これらを踏まえた上で、産業医は「今後のためのアドバイス」をしてくださいます。ちなみに私の場合は、「再発をしないことが何よりも重要」であるということと、そのためにも不足がちな「運動」を必ず組み込むこと、をかなり強めの口調で言い渡されました。

Q.産業医が復職を判定する基準はどのようなものでしょうか?

A.「主治医からの復職許可の診断書」があることを大前提に、まずは本人が仕事に安全に復帰できる状態かどうか、一般的に以下の基準で判断されることが多いようです。

▼回復の実感を伴っている

▼就業意欲が明確である

▼生活リズムが整っている

▼就業するために最低限必要な力が整っている

▼最低限の業務遂行能力が回復している

▼一人で安全に通勤ができる

▼再発防止に向けて、正常な自己認識を持っている

▼プライベートで別の問題が発生していない

▼正常な通院・服薬を続けられている

判断基準は概ね以上ですが、実は、「本人との面談」だけでは復職が許可されることはありません。必ず、上長や人事担当者も交えた協議を行い、「受け容れる職場の環境が整っているか」「上長の理解が得られているか」いう部分も加味した上で、最終的な「復職判定」となります。

慎重な企業では、1対1の産業医面談を受けて、産業医・上長・人事担当者と環境調整協議を行い、本人・産業医・上長・人事担当者との4者面談で復職時期や条件を指さし確認した後、さらに本人・上長との最終調整の面談を経て、双方納得の上で、上長と人事担当者とで最終調整という段階を踏んで、はじめて復職が許可されるケースもあります(復職を最終的に判断するのは 、産業医ではなくあくまでも会社側です)。

Q.産業医面談のときの服装はどうしたらよいですか?

A.対面の場合・リモートの場合ともに、その会社で勤務する時の一般的なドレスコードでよいでしょう。就職活動の面接ほど気張る必要はないでしょうが、かといって「就労可能であることを証明する面談」でもあるので、「パジャマ」などの「アットホームすぎる服」、短パンTシャツサンダルなどの「カジュアルすぎる服」は避けたほうが無難です(パジャマで登場した場合はおそらく、「この人、 少しも治っていない」と思われるはずです)。

Q.産業医面談がリモート面談なので、正しく話が伝えられるかどうか、不安です。

A.対面だろうがリモートだろうが、問題はありません。巧く「伝える」というより、状況がしっかりと「伝わる」ことのほうが大切です。

Q.主治医から復職が可能と判断されたときに、家族ができることはありますか?

A.復職に向けた不安感情が発露しやすい時期です。このときこそ、本人を観察し、異変の兆候があれば躊躇なく主治医などに相談するようにしてください。

▼異変の兆候チェックリスト

Q.復職の際、どのような軽減勤務が課されるのでしょうか?

A.フルタイムでの復職が条件となっている会社であっても、 当面の間(半年~1年単位)は「就業措置期間」とされ、主治医・産業医・人事による管理下に置かれます。この期間においては、「仕事の成果」や「本来の職責を果たす」ことではなく、「心身ともに職場に馴化して、再発せずに働けるようになること」が最大の目的となります。就業措置期間では、決まった時間での出退勤が継続することを最優先として、「仕事中心の生活リズムに慣れる」ことからはじめ、職場環境そのものへの慣れ、体力・気力の回復、職場の人間関係(上司・同僚・取引先)の再構築、そしてそれらの結果として、仕事に必要な技能を再習得・再学習していくことが求められます。

就業措置期間の最初期にほぼ100%付帯されるのが「残業禁止」「休日勤務禁止」の2つです。このほかに、職務特性に合わせて「出張禁止」、「渉外業務やクレーム対応禁止」「乗り物の運転禁止」、「フレックス勤務禁止(勤務時間管理)」「半日勤務」「6時間勤務」など様々な条件が付帯されることがあります。一般的には、定期的に行われる産業医面談によって、これらの条件が徐々に緩和されていくことになります。例えば2か月後に「残業」解禁、半年後に「休日勤務」解禁、1年で通常通りの勤務を許可、などです。

このような勤務上の制限(業務時間・業務内容)のほか、作業の進め方(同時並列作業ではなく、当初は直列で完結する業務を与えること)や現状の力量に併せて段階的に難易度を調整すること(一般的には1か月で本来の職責の3割、3か月で5割、半年で9割とされています)などについても産業医より意見が付されることが、しばしばあります。

Q.就業措置期間に課される軽減勤務には、どのようなものがありますか?具体的に教えてください。

A.復職後にとられる就業措置期間は、社員に当然に求められる2つの職務姿勢、すなわち「就業規則に基づいた勤務ができること(特に、指定の事業所に通勤し、フルタイム勤務ができること)」かつ、「上司から指示命令された業務を遂行できること」の2点を復職者にも求めることを原則としつつ、再発防止の観点から、健康状況をみながら一定の配慮を行うという労働安全衛生措置の1つです。

この期間においては、総業務時間(職責も含む)は漸増するように配慮すること、そして、心身の負荷が著しく高い業務や、生命や健康に関わる危険業務を一時的に避けることが何よりも求められます。その配慮に基づいて、例えば、以下のような措置が取られます。1つずつ理由と措置の内容を見ていきましょう。

▼勤務時間制限

▼残業制限

▼休日勤務制限

▼早朝深夜勤務、シフト勤務制限

▼フレックス勤務の制限

▼出張制限

▼転居を伴う異動の制限

▼危険業務の制限

▼渉外業務の制限

▼クレーム対応の制限

▼乗り物の運転制限

なお、これらの就業措置と相反して分かりにくいところなのですが、一方で「復職」とは、組織の指揮・命令系統に基づいて労務提供が可能な状態であることを(少なくとも形式的あるいは手続き論的には)意味します。したがって、復職直後であるから、という理由「だけ」で、「〇〇の業務を禁止する(制限する)」といった、あまりにも仕事内容に踏み込んだ、具体的な制限がかかることは一般的ではありません。

復職者の仕事内容そのものは、レポートラインで見ても上司の指揮命令系統(労務管理)に属する問題なので、就業制限を踏まえつつ、「今の体調でできる仕事は何か」を吟味、取捨選択しながら、あくまで上司が「指示」する形を取っていくことになります。

Q.復職は原則、「現職復帰」といわれました。なぜ原則、現職復帰とされているのでしょうか。できれば同じ部署に戻りたくないのですが・・・

A.原則現職復帰とされている理由は、大きく分けて3つあります。

■法的な理由

労働安全衛生法により、「心の病」を理由として従業員に不利益な扱いをすることが認められていないためです。「解雇」や「契約の更新をしないこと」 はもちろん、「退職勧奨」、不当な「配置転換」や「職位の変更」などが明示的に禁止されています。したがって、心の健康を理由に、従業員の意に反して異動を強制することは、会社には原則的にできないということになります。

■再発防止のため

復職してすぐは、環境に慣れるために大変なエネルギーを要します。ただでさえ疲労しがちなときに、いきなり慣れない環境への「異動」で対応してしまうと、そのこと自体が再発のリスク要因となってしまうためです。したがって慣れた人・慣れた仕事内容・慣れた職場環境にまずは戻して様子を見る、ということがもっとも普通に行われています。現部署から異動させることで適応障害の再発を防げるかどうかは分からない以上、会社としては慎重にならざるを得ない訳です。

■人事上の都合

基本的に、ほぼすべての職場はギリギリの人員で回しているものです。現部署にとっては無事に元の人材が戻ってきてくれることを期待するでしょうし、そもそも、人事異動の時期でない限り、「別の部署に人を追加であてがう」のはかなり難しいものです。さらに身も蓋もない話をしてしまえば、休業明けすぐで、就業上の配慮がいる人材を積極的に欲しがる奇特な部署はそもそもありません。

上記の複合的な理由から、タイミングが合わない限りは、「復職のタイミングで希望の部署に異動する」ということはかなり難しいということが想像できるかと思います。ただし、パワハラやセクハラなど、明らかに対処すべき事案がある場合や、休職前の職場環境にあまりにも適合できずに異動が望ましいと明らかな(本人もそれを強く希望している)場合は、当然にこの限りではありません。最終的には、主治医・産業医・会社との調整が必要になってくるでしょう。

なお、「現職復帰」したのちに、落ち着いたころのタイミングで、より本人に適合的な部署への異動が行われるということは普通に起こり得ます。復職してみて、やはり現部署での仕事が辛いなど、何かしらの違和感を感じるようであれば、就業措置の期間中に上司や産業医などに 、遠慮なく、また躊躇せずに逐次相談しておくようにするとよいでしょう。

Q.復職時は、やはり部署を変えて戻りたいのですが・・・

A.「隣の芝生は青く見える」という言葉があります。今の職場が大変だったからと言って、希望する新しい職場が本当に自分にとってよいかどうか、は一概には判断できないところがあります。

新しい職場では、人間関係や仕事、職場のローカルルールや業務手順の習得などを一から構築していく必要があります。そのこと自体がストレスとなることは確実で、再発の大きなリスク要因となります。また、新しい職場について得ている情報が本当に正確かどうかという観点も忘れてはなりません。 中に入ってみないと分からないことはたくさんありますよね。

会社や上司と部署変更を相談するにあたっては、主治医や産業医とも、「どのような職場環境や働き方が望ましいか」「今の職場環境でできる改善点はないか」「復職時の部署変更に治療的な効果は見込めるのか」といったところを十分確認したうえで、「自分自身がどうしたいのか」「なぜ部署変更を望むのか」を明確にしたうえで話し合うようにしたいものです。

Q.自分の勤める会社は「フルタイムで復職」が復職の要件でした。なぜでしょう?

A.復職は、原則として「就業規則通りに働ける」状態を指しています。就業規則上、時短勤務が法定の育児や介護以外で定められていない場合は、論理的必然性として、その他の、すなわち、「(病気による)時短勤務制度が存在しない」ということになります。会社の考え方によりますが、「フルタイム勤務ができないくらい体調が悪い場合は、まだ休んでいてくれ」ということがメッセージとしてある、ということでしょう。逆に言えば、「フルタイムで戻れるくらいに体調を整えてから戻る」ことを明確に要請していることになります(ただしこの場合でも、フルタイムで復職を原則としつつ、残業禁止などの軽減勤務は付加されることが普通です)。

Q.(上記の質問の続き)とはいえ、いきなりフルタイムで戻るのは不安です。

A.「フルタイム復職」は、 論理的には上記の回答が理由となりますが、心情的にはフルタイムで戻るのはとても不安ですよね。その「不安」は、必ず主治医や産業医に相談しましょう。もし、この「不安」が適応障害の症状として発現している場合は、まだ「復職は時期尚早」ということでしょうし、場合によってはリワークプログラムや出勤訓練などを別途で実施し、復職への病的な「不安」を解消するべくしばらくリハビリが必要な状態かもしれません。一方で、その不安は、長期離脱していた人ならば当然に誰でも抱き得る「不安」かもしれません。この場合は、復職してしまえば「喉元過ぎれば熱さを忘れる」「産みの苦しみ」「取り越し苦労」 な「不安」といったところでしょう。繰り返しになりますが、これは誰もが通る不安ですので、その気持ちを持つことはむしろ自然です。

病的な不安なのか、自然な不安なのか。 この辺りの見極めは、復職後の再発防止の観点からきわめて重要なファクターとなります。ちょっとした心の変化は、ためらわずに主治医・産業医にお話しするようにしてください。

Q.休職中に退職や転職をしようとしたら、主治医から「大きな決断はすぐにしないほうがいい」と言われました。なぜでしょうか?

A.正常な判断が期待できない心理状態にある可能性が極めて高いからです。

もちろん、会社自体に嫌悪感を持ってしまっていたり、今の組織に所属すること自体への魅力、生きがい、意味を見出せなくなってしまったり、ともかく「今の会社に勤めていること自体が適応障害の症状を 増悪させている」場合は、当然ながら「退職」や「転職」も視野に入れるべきでしょう。しかし、適応障害の症状そのもので「一刻も早く今の環境から離れたい」という焦燥感から、性急に物事を進めようとしている可能性もあるため、休職期間中にまずは一度「クールダウン」の期間を設けることをお勧めします。

退職や転職は、「かかるストレス」「生活(金銭面を含む)への影響」「家族など周囲への影響」が非常に大きいものです。ただでさえ病身の休職中に、「余計にストレスがかかること」にわざわざ追加で取り掛かるメリットはあまりありません。今後のことは心身のコンディションが十分に回復してから、時間を掛けてじっくり検討していきましょう。

特に転職先を決めずに勢いで退職してしまった場合、いくら「失業保険」等があるからといっても、休職中は思うように活動することは難しいのが普通です。しかし病院への通院は続けなければなりませんから(健康保険証は退職翌日から使用できなくなります。誤って使用してしまった場合は後日7割分の返金が必要になります)、金銭的にも辛くなってくるでしょう。

抑うつ症状の渦中にいるときは、大抵は視野が狭窄しているものです。「なんだかわからないけど、辛い」という状態です。混乱した状態で変化の大きいアクションを起こしても、大抵は具体的な解決策が打てず、何か新しいことをしたところで、次の「なんだかわからないけど、辛い」を生み出すだけとなり、余計に物事を複雑にする危険性があります。

まずはしっかりと休んで、心身に余裕ができてくることを待ちましょう。余裕が出てくると、徐々に「自分が辛かったものの正体」が見えてきます。「会社そのものが辛い」のか、「業務内容が辛い」のか。はたまた「人間関係が辛い」のか。朧気ながら「辛いもの」の正体が見えてきたところで、多くの人は復職準備に入っていけるようになります。そして復職準備~復職の時期になると、より具体的に「本当は辛かったけれど、我慢していたこと」が見えてくるようになります。「人間関係が辛い」であれば、「上司との定期的な面談がプレッシャーだった」とか、「隣の席の〇〇さんの言動が苦手だった」などです。「業務内容が辛い」であれば、「取引先の世間話に付き合うのが嫌い」とか、「ずっと外出できない〇〇の時期が苦手」というものがあるでしょう。このようにして、「自分が本当は深層心理でマスクしていたこと」を解きほぐしていけるようになってはじめて、「それを我慢する」のか、「解消すべくアクションを起こす」のか、「それでも解決しないなら異動なり、転職なりを選択するのか」を冷静に考えることができるようになります。

このように、まず休む→余裕を持つ→真因を探る、というプロセスを丁寧に踏んでいくことで、同じことの二の舞にならない選択ができると言えるでしょう。

またよくある問題として、精神が不安定な時期に勢いで「退職届」を出してしまったが、いざ体調がよくなってみると(冷静になってみると)「浅はかなことをしてしまった」と後悔する、というケースもあります。会社側が退職の申し入れを承諾し、法的に雇用契約の解約が成立したとみなされる場合は、あとで労働者側が「撤回」を申し入れても、会社がそれを応諾する義務はなくなります。「本当に退職してよいのか」「今、このタイミングで"今の環境から逃れたいという一心"で、いわば"勢いだけ"で行動してしまっていないか」は、よくよく 、本当によくよく振り返ったうえでアクションを起こすようにしましょう。

身も蓋もないことを言えば、少し頭が弱くなっているときに、わざわざ生活が激変するような大変なことをして、余計に大変な思いをする必要はないよね、という話です。

Q.復職が近づくにつれ、不安が高まってきました。

A.それが普通です。「ちゃんと元通りに仕事ができるだろうか」「どうせ奇異の目で見られるんだろうな」「また悪くなったらどうしよう」「今でこんなに不安なら、これからもっと不安になるぞ」など、ありもしないことを想像して不安になるのです。

しかし、自分のことを思い出してみてください。今の時代、職場に1人や2人、休職明けの人を迎えたことがあるでしょう。その人たちが戻ってきたときに、あなたはその人の一挙手一投足を確認したことがあるでしょうか?していませんよね。そうです。職場は忙しいので、わざわざそこまで他人のことに関心を払えないのです。だから大丈夫です。だれもあなたのことを監視していませんし、それほど興味も持っていません。 隣の男のネクタイや靴の色を3日後になっても覚えているでしょうか?他人への興味など、その程度のものです。謎の自意識過剰は、 この際捨てましょう。

経験者としての復職した日の率直な感想を書いておくと、「周囲はすごく普通(いつも通り)」で、しかも「(思っている以上に)優しかった」です。何というか、うまく表現できないのですが、「復職直前の不安が最大で、それ以上の不安は復職後には襲ってこない」ものです。だから、一度復職の日にオフィスに入れれば大丈夫です。安心してください!

ちなみに私は、最初の出社時に会社の入り口で「このまま海に行ってしまおうぜ・・・」と悪魔のささやきがあり、それを「いやいや、とりあえず出社しましょう」と天使が瞬時に止めてくれました。正直、かなり危なかったです。 でもそれが普通です。誰もが通る道ですので、安心して最初の出社に臨んでください。

Q.正直なところ100%体調が回復していないのですが、復職してよいのでしょうか?

A.それが普通です。就業時の7割くらい(いや、もしかすると5割、・・・・・・下手すると3割くらいかもしれません)調子が戻ってきたら、あとは現場でリハビリをするということです。いくら心理トレーニングを積み重ねたところで、「実践(社会生活)」で活かされなければ、 それは絵に描いた餅なのです。

そして、ここが考えどころなのですが、そもそも、「100%の状態」ってあるのでしょうか?

「普通に働けるけど、喘息を持っている」とか、「普通に日常生活は送れるけど、ヘルニア持ち」とか、人は常に何かを抱えて生きているものではないでしょうか。「花粉症持ち」 「カフェインに弱い」「下戸である」「頭痛持ち」「胃弱持ち」「下痢しやすい」「生理痛持ち」 「扁桃腺が弱いから風邪をひきやすい」「歯が弱い」「近視・乱視・遠視・老眼」などはその典型ですよね。取り立てて病気がなくても、深刻な「悩み」を 日常生活で抱えている人はたくさんいます。「何もない」人はむしろいないのではないかと思います。

中には「完治」する病気もありますが、適応障害などは「寛解(ひとまず病状がおさまって穏やかであることですね)」した状態で日常生活を送っていくタイプの病気だと言えるでしょう。ですから、社会生活が送れなくなるほどの「苦痛」は緩和しつつ、普通に生活を送れることを可能にしていくこと。それが、適応障害の治療なのかもしれません。

そもそも、「100%を目指す」「元気か病気の状態か白黒つける」というのは、適応障害になりやすい思考形態そのものです。そうではなくて、「健康と病気の状態は実はグラデーションである」「体調は何も100%でなくても社会生活は普通に送れる」ということに気づけると、なんだかラクになってきませんか? 「適応障害と、うまく付き合っていく」という考え方が大切でしょう。

Q.体調が100%治らずに職場に戻ることにはやはり抵抗があります。

A.「0か100か思考」の陥穽にハマっていると思います。病気の状態と健康の状態はグラデーションであって、「100%健康」という状態は、ほとんど稀有なことなのではないかとさえ思います(一方で、「100%病気」という状態もほとんどあり得ないことです)。実際は、「少し爆弾は抱えているけれど、日常生活は難なく送れています」という「未病」状態を、多かれ少なかれ、ほとんどの人が抱えているのではないでしょうか。

問題そのもの「が」なくなることを求めるのではなく、それが問題「で」なくなるように努力の方向性を持って行ったほうが、格段に生きやすくなるのではないかと思います。

Q.職場復帰前のリハビリは、どのようなことをしますか?

A.職場復帰に備える活動が、適応障害におけるリハビリです。病状等によっては専門のリワークプログラムに参加することもありますが、自分自身でも取り組むことはもちろん可能です。

足を骨折したとき、最初は骨を固定して、絶対安静をします。これが適応障害でいう「休養」に当たります。骨がくっついて動かせるようになったら、ここからは可動範囲を広げ、日常生活が送れるように訓練をしていきます。これが「リハビリ」ですね。

適応障害のリハビリは、主に次の2点を、少なくとも2週間以上継続して行えることが重要になってきます(継続性)。仕事は1か月はおろか、何年も続くものですから、就業を意識したリハビリには、必ずこの「継続できること」が問われてくるのです。

まず最も重要なのが、「規則正しい生活を送ること」です。起床時間・睡眠時間が職場のリズムと合致していること、長時間(2時間など)の昼寝をしてしまっていないこと、食事が決まった時間に取れていること・・・といったものですが、これは仕事に必要な体力・精神力・回復力を維持するためのもっとも基本となるものです。

これを前提として、「就業を意識した日中の活動を送る」ことに挑戦します。例えば次のような訓練方法があります。慣れてきたら、少しずつ段階を上げてみるのもよいでしょう。

▼就業を意識した日中活動の例

もちろん、これらの準備をすべて行う必要はありません。しかし、復帰に向けた準備を十分に行わずに復職してしまうと、結局、早期に消耗を来して戦線を離脱せざるを得ないということもあります。 かといって、体調が十分でない状態で無理をしすぎるのもよくありません。主治医、上司、産業医、人事担当者、保険スタッフと相談し、 自分にとって必要な準備をしてから復職に臨みましょう。


【7.復職してからについて

Q.復職した時に、菓子折りは必要ですか?

A.不要です。私もすごく悩みましたが、結果的に持っていきませんでした。

仮にお菓子を持っていっても、「お菓子を買う元気があったら、早よ働け」と思う人がいるでしょう。逆にお菓子を持っていかなければいかないで、「周囲に散々迷惑をかけておいて菓子折り1つもないなんて、なんて非常識な」と思う人もいるでしょう。しかし、圧倒的大多数は「どうでもいい」と思っています。実際、自分が思っているほどには、他者は自分のことなんて少しも考えていません。 休職していたとて、「たまに」あなたを思い出してその時だけ心配して、いざ戻ってきたら「よかったー」で終わりです。自分自身、他者に対してそうでしょう?

そして、実際変にかさばるお菓子をもらっても、例えば辛党の人はすごく困るわけです(お菓子は、カバンに入れて持って帰るのも一苦労です)。それからリモートでそもそもほとんど出社していない人もいます(お菓子は、ロッカーの中で肥やしになります)。要は、「人それぞれ」ですから、そんなところに神経を注がなくてよいのです。むしろ、再発をしないことのほうが重要です。わざわざ菓子折りを持って行って、1か月後に再発した・・なんて言ったらシャレになりませんからね。

そもそも、私疾病で済まされがちな適応障害ですが、その実は、労働災害に限りなく近い疾病です(ほとんどの経験者は一度はそれを思うでしょうが、まあ、今後のためにわざわざ会社と争わないようにおとなしくしているだけですからね)。いくら「認知上の歪み」が原因の1つとはいえ、間違いなく「仕事によって発症した」のは厳然たる事実なのですから、そういう意味でも、あまりそのあたりは会社に気を遣う必要はありません。堂々としていればよいのです。

ただし、それでも「菓子折りを買う」行為そのもので復職前の不安が解消するのであれば、買っても別に悪いものではないと思います。ただ、少なくとも「絶対に必要」なものではないということです。まあ、こうやって悩むということは、潜在的に「別にいいか」と思っているということですからね。悩まずに買う人はそもそも好きに買っているでしょうから・・・。

まあ、言いたいことは「私的な旅行で長期不在にしていた」のとはワケが違うということです。

Q.復職したら、迷惑をかけた同僚に何かすべきでしょうか。

A.上記の「菓子折り」ではないですが、物質的な何かをするということよりも、寛解するまで治療を継続し、毎日元気に働いて、安定して継続的に仕事をすること-つまり、穴をあけないこと-が、何よりの恩返しであり、また、感謝を伝えることにもなるでしょう。

もちろん、ここまで・そしてこれからの有形無形のサポートを「当たり前」と思わず、日々感謝の気持ちをもって、お礼を伝える、やれる範囲で率先して協力するなど、「できること」を積み重ねていくという姿勢をみせることは大切です。

Q.復職挨拶のポイントを教えてください。

A.内容は簡潔に、しかし謙虚に、「お詫び」と「今後」について述べる程度でよいでしょう。

まずタイミングですが、初日の出社時にまず上司(直接)、続いて出社している同僚(直接)、朝礼などでの全体挨拶(スピーチまたは一斉メールなど)、その後必要に応じて関係のあった他部署の社員(メール)、取引先(メール)・・・と挨拶していく形になるかと思います。負担になるでしょうから、特に指示のあった場合を除いて電話をする必要はありません。

以下、それぞれへの挨拶方法について述べていきます。

■上司

復職前に何度かやり取りをしているはずですので、特別な挨拶は不要です。「おはようございます。本当にご迷惑をおかけしました。今日から引き続き宜しくお願いいたします。」でよいでしょう。

■同僚

穴埋めをしてもらってきたことへの感謝が第一です。「ご無沙汰しております。おかげさまで今日から復帰しました。いろいろとご迷惑をおかけしました。忙しい中、○○の件など代わってもらってありがとうございました。今日から引き続き宜しくお願いします」などでよいでしょう。

■部署全体

朝礼などで挨拶をするケースが多いと思います。以下のような挨拶を行うとよいでしょう。

「ご無沙汰しております。(適応障害で○か月、お休みをいただいておりましたが、)おかげさまで本日から復職することができました。休職中は、本当にご迷惑をおかけしました。忙しい中、急遽○○の仕事を代わっていただくなど、皆様にはたくさんのことをカバーしていただいたと聞いております。大変感謝しております。まずは少しずつリハビリをしながらの勤務となりますが、1日でも早くキャッチアップして、チームに貢献できるように再び頑張りたいと思います。宜しくお願いいたします」

上記の括弧内、「何で休職していたか」については、最もプライベートなことなので言いたくなければ特段伝えなくても問題ありません。また、一般的には上長から何か紹介があってからスピーチ(一斉メール)することになるかと思いますが、その際に、「しばらくは軽減勤務があること」(残業禁止など、具体的な内容を含む)を付言してもらうようにするとよいでしょう。このことを含め、「どのような内容で全体挨拶するか」は、復職前に上長と一度相談しておくことをお勧めします。なお相談が適わなかった場合は、ご自身で以下のように付言しておくと、状況を周囲に受け容れてもらいやすくなるでしょう。

「なお、お忙しいところ恐縮ですが、当面の間はリハビリ期間として通院しながらの勤務となります。○か月間は残業禁止とされていて、お先に失礼することもあるかと思います。その分、しっかりリハビリに励んで調子を取り戻していきたいと思いますので、しばらくの間、ご堪忍いただければ幸いです」

■他部署の社員

先方との関係性にもよりますが、復職当日にメールをする緊急性はあまりなく、数日たって落ち着いてからのメールで問題ないでしょう。

件名:復職のご挨拶
本文:ご無沙汰しております。おかげさまで、○月よりお休みをいただいていたところ、○月○日より復職に至りました。休職中、○○様には大変ご迷惑をおかけしました。申し訳ございません。まずは少しずつリハビリをしながらの勤務となりますが、1日でも早くキャッチアップできるよう、精進して参る所存です。以上、ご挨拶方々ご報告まで申し上げます。今後とも宜しくお願い申し上げます。

■取引先など

原則として上長や現担当者と相談して、必要に応じて対応しましょう。先方も忙しいので「メール」でよいと判断されることも多いと想像しますが、もちろん、取引先によっては「電話」「手紙」や「訪問」を必要とする場合もあるでしょう。また連絡も上長が代わりに行う場合もあれば、担当者が代わっていればその担当者から連絡する場合もあるでしょうし、そもそもそういったことを 「不要」とする場合もあります。なおここではメールの文例を挙げますが、復職当日にメールをする緊急性は低く、1週間くらいして、ある程度落ち着いてから(復職の準備も落ち着いて、要は継続勤務が可能になったと思われるタイミングで)のメールでも特に問題はないでしょ う。新担当者がついている限りにおいて、緊急性は低いといえます。

件名:復職のご挨拶
本文:株式会社○○ ○○部○○課 ○○様 平素よりお世話になります。○月より、急遽お休みを頂戴しておりました○○です。おかげさまで、○月○日より復職に至りました。急な休職となり、○○様には大変ご迷惑をおかけいたしました。心よりお詫び申し上げます。メールにて不躾ながら、○○様には先ずご挨拶をとご報告申し上げた次第です。今後ともどうぞ、宜しくお願い申し上げます。

Q.復職した日(~数日程度)にやることは、どんなことがありますか?

A.概ね、以下のようなことして徐々に心身を慣らしていきます。挨拶と必要な打ち合わせにはじまり、社用PCや携帯の再設定など必要な機材の整備、 社内で起こった・起こっている出来事の情報収集、当座のスケジュール管理、復職系事務、メールの確認と回答、人事処理、精算、身辺整理などが「まず取り掛かるべきこと」でしょう。少なくとも復帰当日から、いきなり「成果」「責任」を求められるようなことは原則発生しません。

▼復職してから数日でやることリスト

  1. 出社して、上長や同僚と挨拶、世間話をする
  2. 上長と面談。休業中の出来事についての概説を受け、復職事務、今後のスケジュールや業務内容について簡単に打ち合わせをする
  3. 朝礼などで全体に挨拶スピーチ(朝礼がない場合は部署内に復職の挨拶メール)。
  4. 同僚との当面の業務についての簡単な打ち合わせ。休業中の出来事についての報告を受けたり、今後のスケジュールや業務内容についての確認をする
  5. PCや社用携帯などの再設定
  6. 溜まっているメールの確認・整理
  7. ビジネス会話のリハビリを兼ねて気の置けない同僚との昼食
  8. 社内の電子掲示板などの情報の確認・整理
  9. teams, Slackなどの情報の確認・整理
  10. 当面(1~3か月程度)のスケジュールの確認
  11. 復職関係書類の記入、関係部署への送付など
  12. 要返信メール等の処理
  13. 人事系の処理(勤怠入力や評価目標再設定など)
  14. 精算系の処理
  15. 個人ロッカーやデスクトップなどの身辺整理

Q.復職してからのポイントはなんでしょう?

A.何よりも仕事を軸とした生活のリズムに慣れ、「再休職」しないこと、に尽きます。

適応障害の再発率は、一説には1年で3割、2年で4割近くにも上るという統計があります(5年単位では6割とも言われます)。 また、一度再発してしまうと7割の人が再々発となり、再々発してしまうと9割の人がさらに再発をするとも言われます。

また 一般的に、一度の休職は「誰でも起こり得ること」として、長期的な視野では組織的に受け容れられる (多少はタイミングが遅れても、本人の本来のパフォーマンスが回復すれば普通に昇格・昇進なども可能)のに対し、二度目以降となると、 本人の本来のパフォーマンスも100%にはなかなか回復が難しくなり、「二度あることは三度ある」ということで、組織的にもどうしても警戒されるようになってしまいます(昇格・昇進なども、 それだけハードルが高くなる)。そして何より、貴重な労働力が長期間にわたって無力化してしまうことで、会社、そして社会的な損失もはかり知れません。

これらのことからも、「再発させないこと」がいかに大切なことかが分かります。

そこで近年は、いきなり従前のレベルで業務をさせたり、早期の復職をさせることには会社側もかなり慎重になっています。復職後のペースも、「最初の1か月は本来の職責の3割、次の3か月で5割、半年で9割まで持っていくこと」というのが標準的なものとされています。 さらに最初の数か月間は、「残業禁止」「休日出勤禁止」「出張禁止」「運転禁止」「渉外業務禁止」など、労働時間や移動の負担を制限するケースがほとんどの場合で行われるようです。

さらに慎重な企業では、フルタイムでの復職は認めず、「半日勤務2週間、6時間勤務2週間」などの慣らし勤務からスタートすることもあります。それくらい、最初の2週間、そして1か月は再発しやすい要注意時期とされているのです。さらに4か月、そして6か月、と慣れたころに「再発の山」がやってくると言われます。しかし、6か月を乗り越えると、再発の可能性は それまでと比べると大きく下がっていくようです。したがって、「まずは6か月間でペースを取り戻す」ということが重要とされています。

とにかく、復職後は「すぐに前と同じことをしない」こと、が肝要でしょう。使いすぎて壊れた道具を接着剤でくっつけても、すぐには使えないのと一緒ですね(そして、前とまったく同じ環境で同じ使い方をしたらまたすぐに壊れます。一度壊れたら、今度は「気を付けて」使うものです)。

日常生活では、「規則正しいリズムで生活すること(特に食事と睡眠)」および「適度な運動(週2回、20分ずつ程度の、少し息が上がるレベルのジョギングなど)」が基本のキとされます。

再発防止に関連する以下の記事も参考にしてください。

▼参考リンク

Q.復職してから、家族ができることはありますか?

A.復職後も、「疲れ」から不安感情が高まることがあります。日常的に本人を観察し、異変の兆候があれば躊躇なく主治医などに相談するようにしてください。

▼異変の兆候チェックリスト

Q.復職後に、復職者が職場で気を付けるべきことはありますか?

A.謙虚に、かつ、あきらめましょう。

「謙虚」というのは、<申し訳なさを出しつつ、堂々と軽減勤務にいそしみましょう>ということです。「自分は病人だから仕方ないだろう」という態度を表に出してしまうと、周囲から反発されますからね。まあ、そんなことに気づかない性格の人が適応障害になることもあまりないと思いますが・・・。

「あきらめましょう」というのは、<再発防止こそが自分の最大の仕事であると心得よ>ということです。しばらくは「業績評価」の呪縛から離れ(完全復活するまでは、出世やボーナスは端から期待しないでおきましょう!)、 「残業禁止」などの軽減勤務を厳守し、「出力120%」ではなく、「常に7割運転を維持する」という、持続可能な働き方を身につけていく「訓練期間」に充てましょう。そもそも適応障害になる人はまじめな人が多いでしょうから、「率先垂範」「即レス」「抱え込む」という「過労ワード」の逆、「言われたらやる」「自分のタイミングで反応する」「他人にやってもらう」という「お前はやる気あるのかワード」を実践するくらいで実は「ちょうどよい」塩梅かもしれません。 「割り切る」ということですね。

Q.復職したら、「浦島太郎状態」になりませんか?

A.なります。会社というのは、感覚として、「1か月」も休めば「知らない言葉」「新しい制度」「思いもよらぬ事件」があちらこちらで起こっているものです。 ただし、復職してからしばらくはのんびりとメールや社内掲示板を見る時間を作れますので、じっくりと1か月くらいかけて状況把握につとめていけば大丈夫です。

Q.自分の復職を、会社や同僚は望んでいるのでしょうか?

A.はい。心配無用です。よくよくご存知の通り、職場は常にギリギリの人数で回っています。「猫の手も借りたい」わけです。一人でも職場に人が増えることは、ウェルカムとしか言いようがないのです。

休職の後ろめたさ、ブランクによるパフォーマンス回復への心配、キャッチアップできるかどうかの不安、再発の不安など、「不安感」が強いのでしょう。しかしこう感じることは、むしろ普通です。「出勤できなくなること」は、誰にでも起こり得ることです。「お互い様」です。この気持ちを忘れずに、自分が復職者を受け入れる立場になった時に、やさしく接したらそれでよいのです。

Q.薬の副作用で、仕事に支障が出ることはありませんか?

A.可能性はあります。種類・飲み合わせ・個人差など様々な要因で、副作用は起こり得るからです。特に日中のふらつきや眠気が強い場合など明らかに仕事に差し触る場合は、躊躇なく主治医と減薬や服薬タイミング、薬剤の変更を相談するようにしましょう。運転や機械類の操作が発生する場合は特に注意が必要です。

Q.復職者に対し、上司がやってはいけないことはありますか?

A.大きく分けて4つあります。

■見て見ぬフリをすること

「無関心」は問題を目の前からスポイルするだけで、何の解決にもなりません。「臭いものに蓋」をしたところで、臭いは絶たれていないのです。

■「根性」や「甘え」など精神論に置き換えること

適応障害は外部要因(環境)と内部要因(個人の性質)、負荷時間の累積で発症する病気です。ここには、まず必ず外部要因があることがポイントです。また、個人要因も、決して個人の「甘え」ではなく、むしろ「頑張りすぎてしまう」性格の歪みや考え方の偏りが原因になることが多いです。さらに、人格障害や、俗にいう"大人の発達障害"が背後に潜んでいることもあります。
例えば「自閉症スペクトラム」(以前は「アスペルガー症候群」など、様々な症名があったものを統合的に呼称)であれば、知能的には問題がなくても、コミュニケーションの困難やこだわりの強さ、限定された興味、過敏性などがみられます。また いわゆる「HSP」であれば、傷つきやすい、くよくよと考えすぎる、落ち込んでしまう、不安が強い―などの傾向があります。これらは、本人の「生きづらさ」、周囲の「扱いづらさ」に直結するものといえるでしょう。
これらは、いずれも医療的アプローチと環境の調整が必要なものです。ここまで見ると、単に「根性」や「甘え」だけに矮小化することは危険であることが実感されるのではないでしょうか。

■「この程度なら大丈夫」と自分の価値観で判断すること

人口も経済も右肩上がりの時代とはそもそも置かれた環境が異なります。「自分の価値観が絶対」というのは、いかにも料簡が狭いと言わざるを得ません。

■「過度に心配しすぎる」こと

関心を持つことはよいのですが、関心を持ちすぎるとそれは単に「過干渉」になります。部下にとっては負担になるばかりでなく、弊害として関係の「個人化」が進むこともあります。本来、メンタルヘルスは組織的に対応すべき課題です。これを、過度に「上司と部下」だけの関係に閉じ込めると、組織的な対応が遅れる原因ともなります。

Q.復職した部下がいます。どう接したらよいですか?

A.上司としての義務、そして最大のミッションは、何よりも「再発させない」ことです。

復職とは、制度上は「就業規則に基づいて働けるよ」ということですが、その実は「この人は自宅安静はしなくてもいいよ」という意味でしかなく、決して「以前と同じように働けるよ」ということを意味していないことをまずは理解しましょう。すなわち、「回復した」ととらえないことが肝要です。冷酷かもしれませんが、「員数」ではあってもまだまだ「戦力」ではないのです。

復職者は、あくまで「医療の管理下」(犬で例えればリードがつながれた状態)においての軽減勤務が続きますから、いわゆる「戦力化」するのは、どんなに早くても6か月~1年程度はかかると思いましょう。要するに、「高い能力を要する業務を、いきなり課してはならない」ということになります。 少なくとも1か月、3か月というレベルでは、とても以前のようには「使い物にならない」のです。

復職直後は、復職者は「長期離脱」からの不安で「自分だけダメだ」という劣等感、「周囲がよそよそしく感じる」という孤立感、そして「申し訳ない」という罪悪感を抱きがちです。

「まずは出社してくれるだけでありがたい」「あせらず、今は成果は気にしなくていい」「周囲と比べず、まずは体調を整えて」―というメッセージを、上司は繰り返し伝える必要があります(同僚の気遣いは、過剰になると「負担」になりますが、上司の気遣いは、過剰と思うくらいが「心理的な安全性」に直結します)。

なお、少なくとも「勤務制限」のある期間については、「定時の出社と帰宅」「生活リズムの安定」「仕事や職場への慣れ」「体力や気力の回復」「人間関係の再構築」「仕事のスキルの再学習」だけを目標とし、仕事での成果は一切、求めないことが重要です。

一見大丈夫そうに見えても、内心では相当無理をしているのが最初の半年間です。少なくとも週1回、こまめな声掛けを心がけましょう。つい業務負荷を過剰にしてしまった、とか、不用意に責任のある業務を与えてしまった、ということが ゆめゆめないようにしたいものです。

Q.復職した部下に与えるのに注意したほうがよい仕事はありますか?

A.復職直後の復職者は、プレッシャーに対して極端にセンシティブになっていることが多いです。したがって、「他者を巻き込む仕事」「期限がある仕事」「ノルマがある仕事」を与える場合については特に慎重になるべきでしょう。就業措置の期間はこれらの仕事をメインで持たせることは避け、少なくとも 半年、理想的には1年くらいかけて「元通りの業務量」に戻していくことが望ましいといえます。

他者を巻き込む仕事というのは、「担当取引先を持つ」「人前でプレゼンテーションをさせる」といったものを含みます。少なくとも数か月は影響範囲が大きい業務をメインで担当させるべきではなく、まずはサブやバックヤードにつけて、間接的なサポートから、少しずつ担当範囲を拡大し、段階的に業務量を戻していくことが必要です。最初は自己完結できる簡単なルーチン業務(定型の部署内の連絡など)からはじめ、部署外、さらに社外が絡む案件については慎重に与えていくようにしましょう。

期限がある仕事にも注意が必要です。最初はできれば〆切のない仕事(資料整理や自己研鑽など)からスタートし、影響範囲ができるだけ小さいもの(部署内など)から段階的に拡大していくことが無難です。

また、ノルマがある仕事は復職直後には与えないことが望ましいといえるでしょう。評価上、どうしても定量的な指標を課さなければならない場合は、担当数を絞る、誰かとペアにつける、一時的にサブ担当として扱う、など本人が(少なくとも就業措置期間内では)数字のプレッシャーを必要以上に感じない環境づくりをすることが望ましいといえます。

ここで、上司が我慢ができると復職者はめきめき復調し、時間はかかりますがやがてこれまで通りのパフォーマンスを発揮してくれるようになります。問題はここで我慢ができなかった場合です。多くの場合、1年以内に再発させてしまい、部署全体の生産性を大きく棄損する結果になってしまいます。スポーツ選手と同じで、「故障した選手は徹底的に休ませて、しっかりリハビリした上で、戦線復帰させる」のが結局は近道なのですね。

Q.通院のための有休申請をするとき、上司から「取得理由」を聞かれます。正直に答えたほうが良いのでしょうか?

A.復職後の勤務形態について上司の理解があり、特に伝えても問題ないと思うようであれば、「病院に行くためです」と正直に答えてもよいでしょう。

しかし、ほんらいは有休取得時に理由を伝える義務はありませんので、上司との信頼関係上、回答に躊躇するようであれば、細かく回答する必要はありません。例えば通院と伝えたくなければ、「休養のため」などの表現で原則問題ないでしょう。

Q.復職後は、どんな働き方をしていけばよいでしょうか?

A.何よりも、自分を大切にすることです。変に自己実現とか、やりがいを求めるのではなく、「自分を大切にする」ことを主軸に置いて仕事を捉えるということですね。仕事というのは、多かれ少なかれ、「他の人がやりたくないこと・できないこと」を自分が代行することで稼得をするという要素があります。その「代行」の範疇を超えて、他者の奴隷になる必要は微塵もありません。他者の評価に振り回されることなく、また他人の要求に必要以上に応えることなく、組織の歯車ではなく、いち個人として、淡々と日常を過ごしていけばよいかと思います。

淡々と日常を過ごしていくためには、「マルチタスクからの脱却」が一番です。なんにでも率先垂範するのはやめて「言われたらやる」、即反応するのはやめて「自分のタイミングで対応する」、そして、自分が抱え込むのではなく「極力他人にやってもらう」ということが細く長く生きていくための重要なポイントになるでしょう。

Q.「即レスしない」「通知をオフにする」といったことの重要性は分かるのですが、周囲の反応が心配です・・・。

A.重要な案件の場合、しばらく反応がないと必ず直で電話が来るので大丈夫です。その時に「確認できていませんでした」と言えば問題ありません。そのうち、「あの人はメールが遅いから」「定時後はメールを見ないから」「休日は連絡が取れないから」というキャラになっていきます。一度「連絡が取りづらいキャラ」が確立すれば、向こうもそういうものだと思って接してくるので余計にやりやすくなります。あまり心配しなくてよいでしょう。

なお、気の置けない同僚には、「体調を崩してからは、通知をオフにしている」ことを日ごろから(申し訳なさそうに)伝えておくといいです。必ず理解してくれるはずです。

というのも、適応障害が発生する職場というのは、往々にして、他の同僚もギリギリの状態で疲弊していることが多いものだからです。「もう無理かも」「限界だー」と誰もが思っています。したがって、ある意味で率先して倒れてくれた復職者は、「私たちの思いを代弁してくれた人」と捉えられていることもあります。

「どんな症状で倒れたの?」「休みの間は何をしていたの?」「有給ってどうなるの?」「お金は出るの?」という情報は、非日常感があるだけでなく、「いざ自分が休職した時」のリアルなシミュレーションにもなるので、話題として最高です。昼休みや帰り道など「準オフ」な場でそういうことをあけっぴろげに語ってくれる人は、結構な需要があるのです。ということで、日ごろから同僚に情報開示をしておけると、「即レスしない」「通知をオフにする」といったことも、「ああ、そりゃ大変だったものね。仕方ないよ(いいなあ、私も通知オフ、したいなぁ)」と前向きに応援してくれます。

Q.自分の病状・軽減勤務などを上司・同僚に説明するときの注意点はありますか?

A.周囲は、復職者と「どう接したらいいか」が当初分からず、戸惑うことがあります。数か月もすればすっかり慣れてくるものですが、最初がぎこちない部分もどうしてもあります。

軽減勤務などに関わる「言いにくいこと」はまず上司から全体に周知してもらい、あとは業務に関わる個別の部分で例えば「申し訳ないのですが、私は〇時には帰らなければならないのでお先に失礼します」などと具体的に伝えていくことで徐々に、理解してもらうように立ち回ることになるでしょう。上司とは通院直後などのタイミングでこまめに・定期的に状況を報告するようにしましょう。。

病状・今後の治療の見通し・軽減勤務の内容について伝えるときは、「冷静に」「事実のみを」「簡潔に」かつ「謙虚に」伝えることが重要です。だらだらと説明するのではなく、「元気に出社できている」「月に1回は通院が必要」「6月末までは残業が禁止されている」「しばらくご迷惑をおかけするが、キャッチアップできるように精進します」といった形で、分かりやすくポイントをつけて伝えられるとよいでしょう。

上記のポイントを踏まえた上で、上司・同僚が知りたいことは要するに「本当に元気なの?」「何ができるの(何ができないの?)」「何をサポートしたらよいの?」の3つです。ここを押さえたコミュニケーションをしていきましょう。

■本当に元気なの?-病状について

上司も同僚も、「本当に大丈夫?」「また悪くならない?」「元気そうに見えて、辛くない?」ということにおそらく一番不安を抱えています。
職場では定期的に、「通院の状況」「今の気持ち」を開示するようにします。要は、「前向きに働けていること」「投薬・通院・認知行動療法などによって病状をしっかりコントロールできていること」が明確にさえなれば、上司も同僚も不安を払拭(あるいは軽減)できるのです。

■何ができて、何ができないの?-仕事の進め方について

職場メンバー最大の関心事は、「で、何ができるの?」ということに尽きます。どれだけ仕事が振れるのかが分からなければ、おっかなくて声をかけるのも躊躇するのです。
ここは上司とも相談の上ですが、例えば「以前のように取引先の担当を直接持つことはまだできないが、そのサポートは可能である」とか、「5時以降の勤務はできないが、朝は8時から出社できる」など、「できること」「できないこと」を具体的に伝えられることが重要です。

■何をサポートしたらよいの?-軽減勤務の留意点について

今、自分がどのような配慮をしてもらったらよいのか、を簡潔に伝えます。「残業禁止」であることの多い復職直後であれば、例えば「定時以降のメール返信・電話対応はできない」ことになります。「今、残業を禁止されていて、定時以降はメールに反応してはいけないことになっています。ごめんなさい!」と伝えれば、それに対してどうこういう人はいないでしょう。

Q.復職直後より、復職して1か月くらい経った時の方が体調が何となく悪い気がするのですが・・・

A.そもそも働くと疲れますので、そういう感覚を抱くほうがむしろ正常です。 また徐々に様子が見えてきて、周囲の人と「できる量」の差にも気づきやすい時期ですので、キャッチアップしなければという「焦り」や「不安」のようなものも芽生えてきやすいのがこの時期です。

もともと心の病は、「回復」「悪化」の波を繰り返して回復していきます。復職直後はまだ心身が緊張状態にあるので、「心の声」「身体の声」がマスクされてしまい、意外と元気に働けてしまうこともあります。1か月というのは少しだけ職場に慣れてきて、生活リズムも整いつつある時期で すから、ここまでの疲れの蓄積なども覿面に出やすいのです。このタイミングで「そろそろ元気になってきたから」と無理をしてしまうと(または周囲が負荷をかけすぎてしまうと)、典型的な「再発まっしぐら」になります。まずはその「体調の悪さの自覚」「不安感への気づき」を大切に、引き続き慎重に軽減勤務に勤しむようにしてください(1か月で本来の職責の3割、3か月で5割、半年で9割の業務量であることは常に記銘しておきましょう)。

ところで、「体調の悪さに気づく」「不安感を自覚する」ということは、それだけ「心の声」「身体の声」を敏感に察知する感性が芽生えているということになります。この感性を失ってしまうと(心の悲鳴をキャッチできなくなることを「失感情」、身体の危険信号に気づかなくなることを「失体感」と言います)、心身の「危険サイン」をまったく受け取ることができなくなり、適応障害に掛かりやすい状態になってしまうのです。逆説的ですが、「体調の悪さに気づく」ことそのものが、「適応障害が寛解に向かっている」ことの何よりの証左なのだと思いましょう。

順調に回復しているサインとして、「頭の中のもやもや」の「色味」を確認してみる、というものがあります。適応障害に苦しんでいた時は、正体が不明な「黒い」靄が頭を覆っていなかったでしょうか。しかし復職してからは、「何となく疲れた」「何となく不安だ」とふと感じる時の靄が、「透明」ないし「白」になっていませんか?仕事なので多かれ少なかれ「もやもや」を抱えるのは当たり前なのですが、その「色」が、明らかに「暗い色」から、「少し見通せる色」になっているのであれば、順調に回復していると考えてよいでしょう。このあたりの感覚は個人差があると思うのですが、「もやもやの色が明るくなってきているかどうか」というのは、心身の調子を図る1つのバロメーターだと 経験者として、感じています。

Q.復職したものの、やはり気分の波があってつらいときがあります。もう迷惑をかけたくないので休みたくはないのですが、どうしたらよいでしょうか。

A.つらいのに頑張りすぎてしまった結果、休みがちになったり、再び休職に入ってしまうほうが、よほど迷惑をかけることになります。大切なのは「持続可能な働き方」によって、継続的・安定的に一定のパフォーマンスを上げることです。

したがって、心身のSOSサインに気づいたら、すぐに体調や気分がすぐれないことを上司に報告し、対処法を一緒に考えるようにしましょう。「今日の午後は思い切って休む」「3日間くらい一度まとめて休む」といったことや、一時的に業務量を軽減するといったことも検討できるかと思います。もし自分から相談しにくい場合は、産業医や保健スタッフに相談するのもよいでしょう。

Q.軽減勤務(就業措置)の「延長」がなされることはありますか?あるとすればそれはどのようなときでしょう。

A.あり得ます。このまま軽減勤務を緩和ないしは解除した場合に、再発する恐れがある場合です。

一般的には、復職後数週間~1か月単位、およびその後定期的に産業医との面談機会を設定されるケースが多いです。ここで、「本来の軽減勤務を守れていない」(残業禁止にも関わらず残業を繰り返してしまっているなど)、想定される波を超えて症状が悪化している(再び眠れなくなっている、 体調不良が頻繁に起こっている、生活リズムが不規則など)といった「再発の兆候」が見られた場合は、軽減勤務の延長がなされる場合もあるでしょう。 また、まだ本人の中で「不安感」が強く残っているなど、「もう少し様子を見たほうがよさそうだ」と判断された場合は、体調や生活リズム等に関係なく、躊躇なく予防措置的に「延長」されることが多いようです。

ところで、もっとも危険な「再発の兆候」は何でしょうか。それは、意外かもしれませんが「元気に働けすぎている」ことです。復職1か月くらいの段階で、「思ったよりも調子がよく、目標を持ってバリバリ働けています!」とか、「特に悩み事もなく、楽しく働けています!」というのは、再発にリーチがかかっているきわめて危険な状態と言えるでしょう。

一般的に、適応障害は「好・不調の波」を繰り返して寛解していく病気です。復職してから「ずっと元気で働ける」というのはまずあり得ず、多かれ少なかれ、必ず「不安」なり、「疲れ」なりを感じつつも「何とか働ける」という状態を経て、徐々にに元気に働けるようになっていきます。最初の1か月で本来の職責の3割、3か月でも半分、半年でようやく9割、というのがよく言われる復帰のペースですが、「適応障害」になる人は真面目な人が多いでしょうから、実際はここに(自分の思っている状態に)意識的に7掛けをしてもよいくらいです(1か月で2割、3か月で3割、半年で6割ということ)。

このような状態だのに、「全然疲れていません!」とやってしまうと、早々に、休職前の精神状態(失体感、失感情的状態)に戻ってしまったと判断されてしまうでしょう。あるいは、「アピールのためにわざと元気なフリをしている」とも捉えられかねません。産業医面談では、正直に「悩んでいること」「不安なこと」を打ち明けたほうが、却って「正常に回復のプロセスを歩んでいる」と思われることは確実です。

Q.就業措置期間は、どのくらいですか?

A.就業措置期間(フォローアップ期間)の目的は、何より適応障害の再発を防ぎ、従業員を安定就労に導くことにあります。したがって、どんなに順調に回復していても、復職後少なくとも6か月程度は「フォローアップ」(症状や就業制限の有無にかかわらず、定期的な産業医面談や、カウンセラーによるサポートを実施する)が設定されるケースが多いようです。

ただし、症状の重さ、これまでの経緯(休職を繰り返しているなど)、本人の希望、服用している薬の量や強さなどを鑑みて、数か月~場合によっては年単位でフォローアップ期間が延長されることもあります。「期間ありき」ではなく、あくまでも従業員それぞれの状況に応じたサポートが、結果として本人の安定就労を後押しすることになるのです。

なお、仮に通院が継続していたとしても、投薬量が安定し(これを「維持量」といいます)、当初の就業制限が解除されてから3か月にわたって安定した勤務(※)が可能となってきた場合は「安定就労を達成」したものとみなし、産業医やカウンセラーによるフォローアップをいったん終了するケースがほとんどです。

(※)「安定した勤務」とは、就業規則で定められた通常の勤務を「疾病による概ね月5日(各社の定めによる)以上の急な有給休暇・欠勤・遅刻・早退」や「無断欠勤・遅刻」などを経ることなくこなし、かつ、健康上の問題を来すことなく上長の定めた職責に臨める状態を指します。

Q.就業措置期間中(残業禁止期間中)の生活リズムはどのようにすればよいですか?

A.極力、規則正しい生活(特に睡眠時間の確保)を励行することです。また、休日も概ね、平日とプラスマイナス90分程度の「ずれ」で生活し、「夜更かし」や「食事を抜く」などの不規則な生活は抑制することが望ましいでしょう。ここでは「8時間労働(通勤時間1時間)」の場合の例を挙げます。

▼通勤する場合の標準時間割

7:00 起床
7:20 朝食
7:50 出勤
8:50 出社
9:00 始業
12:00 昼休み
13:00 業務再開
17:00 終業
18:00 帰宅
19:00 夕食
23:00 就寝

▼在宅勤務の場合の標準時間割

7:00 起床
7:20 朝食
7:50 散歩やラジオ体操等
8:10 休憩
8:50 業務準備
9:00 始業
12:00 昼休み
13:00 業務再開
17:00 終業
19:00 夕食
23:00 就寝

ポイントは、通勤する場合も在宅する場合も、原則として「起床」「朝食」「昼休み」「夕食」「就寝」の時間を変えないということです。また在宅の場合は、朝の本来の通勤時間帯に、散歩やラジオ体操など、身体を動かす時間を組み込むとなおよいでしょう。またこのケースの場合、休日は、起床時間が8:00~8:30くらい、就寝時間 が00:00~0:30くらい(1時間くらいの後ろ倒し)になってもそれほど問題ないでしょう。

ご覧になってお分かりの通り、「残業禁止」となるだけで、普通に働いているとあり得ないくらい健康な生活が送れることが分かると思います。一般的に勤務間インターバルは、通常、 最低でも「11時間」程度確保できるのが望ましいとされますが、この場合は、仮に1時間通勤があったとしても、終業から出社時間まで、約15時間ほどのインターバルを確保できることになります。 大変健康的です。

なお、復職直後は特に疲労が蓄積しやすいですので、上記よりも90分~1時間程度早めに就寝できるとなおよいでしょう(就寝時間を繰り上げ、起床時間は変更しない)。

Q.「最初の1か月で本来の職責の3割、3か月で5割、半年で9割」と言われますが、その感覚が難しいです。

A.はい。そもそも、「本来の職責」をどのレベルに持ってくるかで復職してからの業務負担は変わってきてしまいます。適応障害になるような人は、休職前に本人が抱えていた「職責」が、客観的に見て「120%」とか「150%」、酷い場合は「200%」になってしまっている場合もあります。120%の3割ですら「4割」近くに達しますから、200%モードだった人が「3割」でも、「6割」の職責になってしまっているということもあり得ます。これは場合によっては「危険な水準(再発水準)」なのです。イメージとしては、自分の思う「3割」に、更に「7掛け」をして「ちょうど」とさえ言えると感じています。

分かりやすく営業を例に取ってみましょう。「3割(7掛けして21%)の職責」というのは、「主担当顧客や取引先を持たず、主にバックオフィスでメイン担当者のサポートをする」くらいのレベルです。「5割(同35%)」になってようやく、「サブで担当顧客や取引先を持ち、一人で顧客や取引先とのコミュニケーションを取る」くらいになり、「9割(同63%)」でようやく、「同職責の社員の50%くらいの主担当顧客や取引先を持つ」イメージです。これくらい慎重にいってもしすぎではありません。大切なのは、 「従来通りに働くこと」の前に、まずはとにかく再発を防ぐことだからです。

Q.上司です。部下の業務負荷を上げるタイミングは?

A.産業医や主治医の許可を前提に、具体的な内容は本人と上司とで事前に相談のうえ、「2週間様子を見てオン。それで問題がなければ1か月継続(問題が起こればマイナス)。」を繰り返すことが基本です。

多くの場合、業務の負荷に付随する残業・休日出勤・出張は、3~6か月にわたって「禁止」となることが多いです。残業も、10時間くらいの解禁からスタートし、同様に「2週間様子を見てオン。それで問題がなければ1か月継続(問題が起こればマイナス)。」で、「40時間」が可能であることが見えてきたら、休日出勤や出張を含めて制限を解除していくのが着地イメージとなります。

ただし、軽減勤務が解除されたとしても、安易に「60時間の残業」や「休日出勤の連続」など、過重な時間外業務を強いることは避け、少なくとも1年程度は慣らし運転を続けていくことが望ましいでしょう。

Q.復職後2週間くらいで体調を崩してしまいました。会社を休んでも大丈夫でしょうか?

A.体調が悪いときは、仕事を休むのが大原則です。まずはそれを前提として、「休んでも大丈夫」かどうかは、その原因によります。

まず、インフルエンザのような伝染病、適応障害と無関係な昔からの持病によるもの、普通の風邪や腹痛などであれば、「お大事に」ということになります(上司からすれば気が気でないでしょうが)。この場合は、必要であれば病院に行って、休養に努めれば大丈夫でしょう。もっとも、タイミング的には体調管理がどうだったのかは問われますから、治ったらこれまで以上に規則正しい生活を励行しましょう(言われなくてもそうされるでしょうが・・・)。

問題は、抑うつ症状の再発と思われるような体調不良だった場合(眩暈、不眠、片頭痛、メンタルダウン等)です。この場合は、必ず上長と相談して今後の動き方を共有しましょう。取るべき方法はまずは何よりも休養をとることですが、早めに主治医や産業医に相談することも重要です。

会社によっては、就業規則で、社員の安全管理を目的として、例えば「復職後半年以内に体調不良で1週間以上の長欠となった場合は、ただちに休職を命ずる」というような、「復職直後の体調不良に対しての休職命令」といった措置を講じているケースがあります。

この場合は、要するに「再発」です。単に「少し休めばOK」とはならないことも多いですから、必ず上長と相談して今後の休み方・動き方を共有していきましょう。

Q.復職してから、完全に調子が戻るまでにはどのくらいかかりますか?

A.最初に「休む時間が足りなかった人」について取り上げます。「2週間~1か月くらいで職場に戻ってきた」ようなケースが当てはまります。早すぎる復職は、結局は本当の意味で休めていない場合が多いため、高確率で再発し、予後は不良なことが多いとされます(中途半端な休職を繰り返し、 結果として退職に至る可能性が高くなり得ます)。ただ最近は、組織も「再発率の高さ」から学習をしていて、容易に「極早期の復帰」はさせない傾向にあります。これはきわめて理に適っていると思います。したがって、「極早期の復帰」は、これからはかなり例外的な事例となってくるでしょう。

ここからは、一般的な休職(3か月~1年半)の事例について検討していきましょう。自分も含めていろいろな人を観察していると、その調子の戻り方には「休んでいた期間」が関係してくるように思います。

もちろん個人差は大きいのですが、原因となるストレスに曝露していた期間の「3倍」は休職が必要となり、その休職期間の「2倍」程度は軽減勤務が必要で、概ね本来の職責と同等の業務量に復帰するまでには休職期間の「3倍」、さらに「とりあえずもう再発しないだろう」と自他ともに認識できるようになるためには休職期間の「4倍」の期間がそれぞれ必要だ、という印象です。

例えば「1か月」苦しい時期があったとすると、「3か月」は休職となり、その2倍の「6か月」は勤務制限がかかり、復旧までには「9か月」、寛解までには「12か月」かかる、といった感じになります。おそらくこれがミニマムの構成で、「適応障害になったら、調子が完全に戻るまでは少なくとも1年かかる」と考えてもそれほど言い過ぎではなさそうです。

機械的に比例させることが正しいかどうかは異論もあるでしょうが、これがもし「1年」休職となると、場合によっては「4年」くらいは本調子に戻るまで時間が必要、ということも計算上はあるかと思います。さらにこれが「1年半」であれば寛解までに「6年」くらい様子を見る、ということもあり得るということです。

いかにも悠長な気がするかもしれませんが、それくらい、心の病というものは「長くかかる」ものだ、ということでもあります。そしてこれくらいの時間感覚で本人も周囲も適応障害を捉えておかないと、安易な業務負荷で再発を惹起してしまいかねません。何より、誰にとってもこの時間感覚が希薄であることは、適応障害の高い再発率(「1年で3割、5年で6割」という説もあります)が何よりも強く物語っています。

Q.体調に波があり、復職後も具合が悪いときにはなかなか仕事に取り掛かることができません。どうしたらよいでしょうか。

A.メンタル疾患には波があることが普通で、治るときも好不調の波を繰り返しながら、徐々にその波の振幅が減衰していくイメージです。調子が悪いときは無理をせずに早めに休む(寝る時間を早めるなど)ことを基本としつつ、波が大きかったり、変動の頻度が多かったりする場合は、早めに主治医と相談することをお勧めします。また、上司や周囲にも「波がある」ことをはっきりと伝え、辛いときは伝えるようにしたいですね。

Q.原則現職復帰だったため、復職後に異動を申し出ました。しかし、なかなか聞き入れてもらえません。

A.メンタル疾患を原因として、「仕事を軽減」したり、「環境を変更」したりしたいと思った場合は、上司・人事にその旨を申し出ることで、社内では当然ながら検討してもらうこと自体はできるでしょう。

しかし、タイミングの問題や人材配置の問題で、会社側に適したポストが空いていない場合がほとんどで、なかなか希望通りにいくことは稀だといえるでしょう。まずは何らかの形で、今の職場で与えられた仕事を続けることができる方法はないか、を上司と一緒に探ってみるところからスタートしましょう。

Q.復職後、最初の頃は職場でいろいろと配慮してもらっていたのですが、しばらくしたら以前と同じような業務負荷に戻ってしまいました。まだもう少し負荷を下げてほしいのですが・・・。

A.適応障害は外見からは分かりにくい部分もあるため、表面上元気に働いているとついつい、配慮を忘れてしまうことがあります。ここは遠慮せずに、上司や同僚に「まだ調子が悪い」ということを伝え続けてください。直接伝えにくければ、産業医に相談してみてもよいでしょう。

ただし、「以前と同じような業務負荷に戻る」ことそのものは、それだけでは決して悪いことではありません。その状態で、従前とは違うセルフコントロールができる状態かどうか、という観点で 「働き方」を考えてみてもよいかもしれません(ただし、無理は禁物です)。

Q.ブランクがあると、もう元のように働けないのではないかと不安です。

A.ある程度ブランクがあっても、「スキル」は蓄積していますし、「仕事勘」も取り戻せますので大丈夫です。

適応障害は、3か月~1年半にわたって業務から離脱し、復帰後も半年~数年かけて職責レベルの業務を取り戻していくという意味で、年単位の回復を必要とする、ある意味で「大病」です。 しかし、「約40年の仕事人生」という観点で見ると、そのうちの「3か月」、あるいは「数年」というのは、「長さ」でいうと実は大したことはないのです。

誰でも、数か月も働くと、だんだんと勘のようなものが戻ってきて、普通に馴染めるようになります。だいたい、自分の「得意なこと」や「好きなこと」から回復を実感することが多いでしょう。自分の意外なスキルや技能の再発見にもつながります。

またそもそも、完全に元のように働く(ワーカホリック状態)のがよいのか、という問題もあります。 いずれにしても、あまり気にしなくても、「時が解決する」と思って鷹揚に構えていて問題ありません。

ちなみに、就業措置期間というのは、「再発防止のために、会社が従業員を医療管理下に置く期間」と言い換えることができます。これをさらに卑近なたとえにすると、「飼い犬に鎖をつけて調教する期間」ということができます。「飼い犬(従業員)」が、余計なところに散歩をしてしまわないように、「手の届く範囲」で「管理監督する」ということですね。

その期間は、どうがんばったって、「元のように」は働きたくても働けないのです。鎖につながれた範囲の中でできることをやる―実は、「それでいいか」とあきらめることが緩解のポイントになります。こういう点からみても、心配 しなくて大丈夫だと思いましょう。

Q.復職後、最初からフルスロットルで業務に当たると、どうなりますか?

A.ほぼ確実に、かつ早期に適応障害を再発するでしょう。復職した場合は、原則として段階的にしか仕事に戻ることはできないことは、他の項でも説明している通りです。

Q.完全に以前と同じように働けるようになるにはどのくらいかかるのでしょうか?

A.まず大前提として、「以前と同じように」というのは、「パフォーマンス(アウトプット、成果)が以前と同じ」ということであって、決して以前のような「無茶な働き方」ができるようになるわけではない(推奨されているわけではない)ことに注意が必要です。もちろん仕事ですから、一時的にオーバースペックで頑張らなければいけない側面というのは必ずやってきますが、常に以前と同じような「無茶な働き方をしてパフォーマンスを上げる」ということを志向していないことは必ず押さえておくべきポイントです。

以前と同じパフォーマンスを発揮するまでには、個人差がありますし、離脱していた期間にもよりますが、「療養がすすみ、治療がうまくいって、ベストケースで復職し、最適な就業制限下で社会復帰できた場合」であっても、1年程度はパフォーマンスが100%には戻らないのが普通とされています。したがって例えば数か月~半年ほど経って就業制限が解除されたからといって即、「今まで通りに働ける」というわけではないことには特に留意が必要です。

また、通院をしなくなったり、服薬をストップできたからといって、それも「今まで通りのパフォーマンスで働ける」ということではないことには留意が必要です。寛解状態が継続できていても、概ね1~2年程度(あるいはもっと)くらい経たないと、「病気になる前の状態」には戻らないと思いましょう。それくらい、大きな病気であるという認識が必要です。

本人(あるいは周囲)が「すっかり治った」と思っていても、水面下では好・不調の波が脈打っているのが普通で、実際には長い時間を要するのが適応障害なのです。

Q.なぜ、以前のパフォーマンスを出せるようになるまで、年単位の時間がかかるのでしょうか?

A.簡単に言えば、脳がダメージを受けており、それが元通りになるまでに時間が掛かるからです。くしゃくしゃになったアルミホイルを、元通りのシートに戻しても、なかなか皺が戻らないのと少し似ています(厳密にいえば100%には戻せないともいえるかもしれません)。

適応障害になると、脳の機能が低下します。認知機能、集中力・持続力・持久力、判断力といったものが落ちるのです。「休めるわけない!」と思い込んでしまうのは明らかに認知機能の低下です。ぐるぐるとネガティブな考えが頭から消えないのも認知機能の低下と言えるでしょう。そのような状態では、仕事に必要な集中力は期待できないのです。当然ながら、必要な判断力も鈍ってしまいます。

これらの脳機能が100%復活するまでは、少なくとも「ベストの状態で」復職できた場合であっても、1年程度はかかるとされています。

Q.復職後、上司から指示された仕事の中に、まだ心身がついていかず、どうしても取り掛かる気持ちになれない仕事があります。どうしたらよいでしょう?

A.まずは正直に相談しましょう。復職直後で、かつ、対応ができる範囲であれば相応の配慮をしてもらえるケースが多いでしょう。特に、復職前に経験したことのない新しい仕事だったとしたら、その内容自体が見直しの対象となるはずです。

ただし、「従前には対応できていた業務」であり、かつ、「代替手段がなく、その業務をしないことで、あなたに与える仕事の余地はない」という状況になっているとしたら、問題です。「本当に復職が可能な健康状態なのか」を確認する必要も出てくるからです。 大原則は、「就業規則通りに働けること」かつ、「上長の指示に従って業務に専念できること」が復職の要件だからです。

対応が難しい場合は、上司もその上長や人事労務スタッフとすぐに相談することになるでしょうが、当人も主治医への相談、産業医との面談を必要とされる可能性があります。

なお、総合的に「就業措置としては問題のない範囲」と判断された場合は、大原則として上司の指揮命令に従うことは社員の義務ですし、それに悖ることは「業務の拒否」ということで、職務専念義務に反することになってしまいます。復職者だからと言って「なんでも拒否はできない」というのは、 社会人としての最低限度の矜持の話になってきます。このあたり、塩梅が難しいですね。

Q.復職後にまだ体調が回復し切れておらず、仕事量を減らしたいです。どう相談すればよいでしょうか。

A.上司も人の子ですから、一方的に「できません!」というようでは心証を悪くします。「現在の体調」を伝えた上で、「何が」「どのように」大変なのか理由を伝えた上で、「いつくらいまで」「どんなことを」「どうしたいのか」を具体的に希望として相談してみましょう。この際は、必ず上司の采配構想(どんな風に働いてほしいと思っているのか、そのためにどのような仕事を任せようと思っているのか)を確認し、お互いの「落としどころ」を探るコミュニケーションは不可欠です。

なかなか交渉が難しい場合は、産業医や人事と相談することも有効です。ただし、「頭を飛び越えて」話をしてしまうと、上司も立つ瀬がなくなります。まずは一度上司に相談するというプロセスは踏んでいたほうがよいでしょう(普通の仕事の進め方と一緒です)。

Q.復職後、取引先の担当業務を希望しましたが、担当を外され、サポート的な業務に回されました。どうしても気持ちが落ち込んでしまいます。

A.ショックかもしれませんが、現在は健康面を優先して、まずは目の前のやるべき仕事を確実にこなし、再起のチャンスを伺うのがよいでしょう。

今までの業務から外れて、「気持ちが落ち込む」ということそのものは、今までの業務への矜持が保たれていて、モチベーションもあったということです。そのこと自体が回復のエネルギーにもなります。ですから、まずは体調をしっかり整え、真の意味で「元の仕事に戻る」ことを最初の目標にできればよいでしょう。

今の仕事を続けるうちに、「こういう仕事もよいな」と思えることがあったり、意外なところでまったく別の挑戦をしてみたくなったりもするものです。あまり先入観を持たず、まずは「与えられたフィールドで咲く」ことを志向してみたらよいのではないでしょうか。

Q.復職後、サポート的な業務に移ることを希望しましたが、すぐに従前のように取引先を持ち、担当業務に当たるよう指示されました。以前のようにできるか不安です。

A.まずは上司と相談し、「不安なので相談したい」ということをストレートに伝えることをお勧めします。このとき、「無理です」と0か100かという姿勢で臨んでしまうと、上司も人の子ですから、「じゃあ何で復職したんだよ」と内心、思うことがあるかもしれません。ここは、交渉です。例えば「今すぐに担当を持つのは体調的に不安があるので、まずは〇〇さんと同行して、1か月くらいサポートするような形にさせてもらえませんか?」とか、「いきなり20社を担当するのはしんどいので、半分の10社ではどうでしょうか?」といった形で、落としどころを探るのが無難でしょう。さすがに復職してすぐの部下が「不安で困っている」と訴えているのに、「それでもやってもらわなければ困る」とごり押しするのはなかなか難しいところでしょうから、何とかなるかもしれません(組織なので、何とかならないかもしれませんが・・・)。

Q.復職後、仕事中に暇を感じることが多くなってきました。焦ります・・・。

A.休職中に、「暇」を感じることが多くなってきたときのことを思い出しましょう。休職直後は「ただただ具合が悪い」はずだったのが、徐々に「暇」を覚えてきたのではないでしょうか。休職中に体調が回復する目安の1つが、この「暇を覚える」というプロセスでした。これと全く同じで、復職後に「暇」を感じるようになってくると、それは1つ心身回復の重要なサインであると考えることができます。

問題は、ここで「焦る」ことです。焦りは、認知の歪みです。「暇」というのは要するに「やることがない」ということですが、この状態というのは「自分が不要と思われている」という思考に発展しやすく、健常者にとってはあまりよいことではないかもしれません。しかし、復職者にとっての「暇」は、「必要なプロセス」なのです。むしろ、「暇を感じる暇もないほど忙しい状態」で復職してはいけないのです(この状態は、再発の危険性を高めます)。

長い仕事人生の中で、「暇」を感じられる瞬間というのは、そうそう訪れるものではありません。暇を「チャンス」と捉え、(就業規則の範囲で)できることを楽しんではいかがでしょうか。例えば、社内規定を片っ端から全部読んでみる、仕事に関係のありそうな書籍のインプットタイムを設ける(読書レポートをパワーポイントなどにまとめておくと、いつか役に立つこともあります)、社内のセルフラーニング動画を聴講する、いつも斜め読みしていた過去の会議録などを熟読する、共有のフォルダやファイルを使いやすく整理する、我流になっていたofficeの使い方を勉強しなおす(特にExcelのマクロや計算式などは知っておいて損は全くないですよね)、暗黙知化していた業務プロセスをマニュアルにまとめる、など平時は忙しくて絶対に手が回らなかったことに着手する絶好の機会です。

これらの作業は、作業力、集中力、判断力など、発病から休職によって失われたスキルを回復するためにも有効なリハビリとなるのではないでしょうか。また、いずれも基本的に自分一人で完結できることから「余計な気を遣わない」という利点があります。復職して数か月くらいは、あまり他者を巻き込んだり、期限があったりするような仕事はしないほうがよいとされているので、こういう「自己完結型」の作業がもっとも適しているのです。

罷り間違っても、焦りから「自分から(他者がやっている)仕事を取りに行く」ことはしないようにしましょう。仕事は放っておいても自己増殖していきます。むしろ今は「暇を楽しむ」くらいの余裕をもって臨みましょう。

Q.それでも、暇は不安です。

A.暇を感じたことがないから、余計に不安になるわけですね。「空白恐怖症」のようなものでしょうか。暇が不安を惹起し、不安が焦燥感を引き起こしているようであれば、あまり精神的によい状態とはいえません。暇は考える時間を与え、考える時間は悩みをつくる-だから不安になるのですね。忙しいときには不安を感じる暇などありませんから、結局、多忙な時には「忙しいこと」そのものがストレスであって不安の素なのかと思っていたら、むしろ「暇であること」そのものが不安の種でもあるようにもみえてきます。逆説的ですが、どうやらそういうことになりそうです。はて?

繰り返しになりますが、「暇」を感じることそのものは、心に余裕が出てきた証拠です。「暇を感じるくらい、余裕がある状態で復職できている」ということを先ずは喜ぶべきなのです。罷り間違っても、「暇も感じないくらい、余裕のない状態」で復職してはなりません。この場合、あっという間に適応障害を再発することでしょう。ですから、軽減勤務が巧く行って、「暇を感じることができた」ことそのものが、治療効果の1つだと思うことが肝要です。

そのうえで、こちらも繰り返しになりますが、暇だからと言って自分から積極的に仕事を巻き取りに行ってはいけません。放っておいてもいつか必ず忙しいときがきますので、じっくりと「暇を楽しむ」ことこそが、これから長い仕事人生を歩んでいく上での下地となると思いましょう。

昔のGoogleの「20%ルール」ではないですが、せめて2割くらいは、自分の「やりたいこと」「必要だと思うこと」に投資する時間があったって、罰は当たりません。せっかくの暇を活かして、「今まででは絶対に取り掛かれなかったこと」にチャレンジしてみたらよいでしょう(読書だって、Excelの技術を習得するのだってよいわけです)。間違いなく、これまで以上に創造的な仕事ができるはずです。適応障害になるくらい忙しかった人であれば、多忙な中にエポックのごとく「余裕があること」こそ、思考と創造の源泉になることは本能的にも感じられるのではないでしょうか?

Q.体調がよくなってきました。軽減勤務のため、今の仕事内容が簡単すぎます。仕事を増やしてほしいです(仕事の難易度を上げてほしいです)。

A.「もっと仕事をしなければ」という「焦り」からではなく、本当に「物足りなさ」を覚えてきたということですね。こういう気持ちになったときは、心身が順調に回復してきている証拠だと捉えてほぼ間違いありません。

まずは主治医や産業医と相談し、「業務負荷をさらに上げても大丈夫か」ということをよくよく共有しましょう。自己判断で「もっと仕事をください」と上司に掛け合ってしまうと、慢性的に人手不足の現場では「そうか、本人もこう言っているし、もっと仕事を渡すか」という思考回路になりがちで、結果として従前のような仕事量と働き方に戻り、適応障害を再発させる-という、まったく笑えない話も普通に起きる ものです。

主治医や産業医からのOKサインが出たら、上司と相談するようにします。具体的に「何を」「いつから」「どのくらい」増やすのか、具体的に共有していくようにしましょう。

Q.休職前は特に疑問を持たずに普通に働けていましたが、復職してからどうも「やりたいこと」が見つからなくなってしまいました・・

A.それが普通です。

現代社会は、「やりたいことを見つけよう」とか、「自分の特性を発見して、それを活かす職に就こう」といった「圧」が強すぎますよね。現実問題として、「やりたいこと」だの、「自分の特性を活かす仕事」だのといったものは、そう簡単に見つかるはずがないのです。

そもそも「やりたいこと」なんて時と場合によって容易に変わりますし、「好きを仕事に」なんて、絵空事もいいところです。世の中の圧倒的大多数の人は、生きていくために特に好きでもない面倒な仕事を粛々とこなして、その対価として賃金を得て、日々を静かに暮らしています。別に仕事で自己実現をしなくたって、「仕事以外で」自分の好きなことをしたって構わないわけですから(たまにラッキーな人が、「好きなこと」を煎じ詰めた結果として「職業」にできる場合もあります。ただそれは、「仕事」の結果ではないことに注意が必要です)。

人は「やりたいこと」というよりは、能力・スキルベースで「できること」を考え、その中でも特に「続けられそうなこと」(要するに、自分にとっての苦痛ができるだけ少なくて済みそうだと思えること)を何とか仕事として選んでいます。

そういう仕事であっても、続けていれば「楽しいこと」もあるでしょう。続けてみて、自分の意外な能力を発見したり、氷山の奥底に隠れされていた潜在能力を発揮するといったこともあるでしょう。それこそが自己実現、仕事の醍醐味であるといえるでしょう。

「やりたいことが見つからない」というのは、「やりたいこと」が自然と湧いて出てくるという発想で、いかにも狭い了見です。実際は因果関係が逆で、「できそうなことをやってみているうちに、やりたいことかもしれないと思えてくる」くらいのものではないでしょうか。

適応障害になっているということは、休職前に取り掛かっていた仕事が、自分の能力・スキル、そして「苦痛度」のいずれか、またはそのすべてが、自分の思っていたものよりもオーバースペックであったことを示唆しています。そんな仕事に「やりたいこと」が容易に埋もれているわけが、ないのです。ここはあまり仕事に「やりたいこと」を期待するのではなく、むしろ「仕事の外で」やりたいことを見つけていくほうがよいのではないかと思われます。

ちなみにこの「やりたいことを見つけよう」とか、「自分の特性を発見して、それを活かす職に就こう」といった「好きなことをやろう」という現代に特有の「圧」は、晩婚化にも拍車をかけている概念です。上記の相似形で考えてみましょう。

仕事と同様、「結婚」というのは「相手と歩調を合わせて人生を歩んでいくこと」です。相手は別の人格ですから、100%合致することなど土台無理なのです。しかし、結婚できない人は相手に「自分との合致」を求めてしまいがちです。

結婚は、自分が「やりたいこと」というよりは、2人になることで「できること」を考え、その中でも特に「続けられそうなこと」(要するに、自分にとっての苦痛ができるだけ少なくて済みそうだと思えること)を積み重ねていく行為そのものです。子育てなど、そこに「頑固だが離れることのない最重要な取引先」が加わるようなものです。

価値観のぶつかり合いで何度も座礁しかける結婚生活でも、続けていれば「楽しいこと」もあるでしょう。続けてみて、自分や相手の意外な人格を発見したり、氷山の奥底に隠れされていた潜在能力を発揮するといったこともあるでしょう。それこそが結婚の醍醐味といえるでしょう。

「よい結婚相手が見つからない」というのは、「よい相手(女性からしたら白馬の王子様、男性からしたら"高木さん"のような自分を想ってからかってくれる女性)」が自然と湧いて出てくるという発想で、いかにも危険な発想です。実際は因果関係が逆で、「とりあえず相手と一緒にいる時間を増やしていくうちに、結婚してもいいかなと思えてくる」くらいのものではないでしょうか。

・・・と、異常に話がそれたところで本項のアンサーパートを終えます。

Q.「再発の兆候」のようなものはありますか?

A.復職後の適応障害の再発は、「メンタル面から不調を覚えやすい」という傾向があります。

適応障害の発病前は、「頭痛」やめまい、睡眠障害など身体症状が先行し、徐々に不安や抑うつなどの精神症状に波及するという経過を取ることが多いのですが、発病後(復職後)は、その機序がおおむね逆になることが多いようです。すなわち、「不安」や「抑うつ」といった症状が先に起こり、そのあとに頭痛やめまい、不眠などの身体症状を呈するといったことになります。

これは、ストレス刺激に対して、心身が「もう以前のようにはなりたくない」とか、「また悪くなるのではないか」といった予期不安を抱く防衛反応であるとされています。

したがって、復職後に「眠れている」「頭痛もない」という形で元気のようでいても、内心では「不安がある」「憂鬱である」といった気持ちを強く持っている場合は再発の兆候が表れている可能性もありますので、経過に注意する必要があるでしょう。この場合、「眠れない」などの身体症状が出てしまうと、それは不調の初期症状ではなく、むしろすでに再発が相当程度に進行している可能性もある、といえるでしょう。

Q.再発をしやすい「時期」のようなものはありますか?

A.復職してから寛解するまでには、必ず「波」があって、その波が起こりやすい時期があるとされています。これらが「再発防止の壁」になってきますので、 時期ごとの対策も含めて、1つずつ見てみましょう。

■初日

出勤、出社、挨拶、PCの設定、メールチェックなど「気を遣うこと」「新しく知ること」の連続で確実に疲弊します。特に「出勤」「出社」「挨拶」など、立て続けに心理的ハードルの高いことが続くので、最も要注意のポイントです。まずはここを無事に終えることが、復職のスタートラインです。

→まずはとにかく「会社に出てきてその場に居る」ことができるだけでよしとしましょう。それ以上のことは何も自分に課してはなりません。

■最初の3日間

周囲とのスピード感の違いもあり、疲れが溜まってきます。「疲れるのは当たり前」と思うことと、「周囲に追いつけないのは申し訳ない」とは決して思わないこと、この2点がとても重要です。

→できれば初週は水曜日くらいに復職させてもらい、3日間勤務→土日で休む・・というサイクルとし、翌週から5日間勤務にするなど、「休み」までのサイクルを徐々に伸ばしていけると疲労蓄積を最小限度に押さえられます。 といってもなかなかそううまく調整もできないでしょうから、この期間は、普段よりも1時間早く寝床につくなど、「睡眠時間を長くとる」など、特に意識的に休養時間を多くとるとよいでしょう。

■最初の1週間

徐々に「職場」そのものには慣れてくる頃です。しかし、周囲とのスピード感の差には拭い難いものがあり、疲労以上に「不安」や「焦り」が高まってきます。また、これまでにはあり得なかった「暇な時間」ができてしまい、それ自体が不安に感じることも多い時期です。

→この時期の原理原則はとにかく「会社に出てきてその場に居る」ことだけ、です。それができれば100点だと思いましょう。軽減勤務で空いた時間は、今までは時間がなくてできなかった情報収集、自己研鑽、資料整理などに充てましょう。放っておいてもいずれは忙しくなります。「余裕があること」を「ラッキータイム」として楽しめれば、自然と焦る気持ちも消えていきます。

■最初の1か月

張りつめていた緊張感が和らぎ、疲労を強く感じるだけでなく、今後への不安感(周囲と同じように仕事ができるのだろうか?このままなのではないか?)、焦燥感(周囲と同じように成果を上げなくては)が最初のピークを迎えます。やがて軽減勤務を受けていること自体もストレスに感じるようになり、「自分は組織に不要なのではないか」とか、「忙しくしている同僚に申し訳ない」と感じることも増え、退職や転職を強く意識することも多い時期です。 ここを乗り越えられると、「最初の半年」が見えてきます。

→疲労を感じるのは「心身のサインをキャッチできている証拠」です。不安感・焦燥感も当然起こり得るもので、むしろ「具体的に仕事のことをイメージすることができるようになってきた証拠」です。この時期にこのような疲労感、不安や焦りを感じることは「普通」であり、むしろ「まったく不安も感じません!」「元気バリバリで働いています!」となってしまう方が、躁的な「暴走列車」そのものであって、余程危険です。もっとも、「疲労」「不安」「焦燥感」を抱えたまま以前と同じように仕事をしても盛大に転ぶだけですので、まだまだ仕事はセーブして掛かりましょう。セーブの目安は、本来の職責の「2割」でもちょうどよいくらいだと心得ましょう (目安としては「主担当業務は持たず、サポート業務をしている」状態で十分です)。またその軽減勤務によって「自分は不必要な存在だ」と思い込んだり、「申し訳なさ過ぎて消え入りたい」と思って退職や転職を考えてしまうのは、適応障害がまだまだ寛解していない証拠でもあります(リハビリとして仕事を再開したので、そのストレスで一時的に抑うつ症状が悪化するのはある意味で当然です)。「あ、自分はまだよくなっていないのだな」と自覚して、しっかりと通院し、日々の睡眠を適切にしていけば、必ず思考もよい方向に向かっていきます。この心身の状態を自覚することが先ず重要で、さらにそれを「悪い」と捉えるのではなく、「そうなるのが当然」と捉えることができれば、この時期を乗り越えられるでしょう。必要なマインドセットは「自分の状態を否定すること」ではなく、「自分の状態を受容すること」です(肯定できれば最高ですが、例え肯定できない精神状態であっても、「そういう状態なんだね」と「受容」はしてあげたいところです)。

■3か月

少しずつ仕事勘のようなものが取り戻ってきて、かつて抱えていたすべての職域ではないものの、分野によっては以前のような仕事ができつつあることを自覚する頃です(それはしばしば、自分が最も得意な職掌の範囲だといえます)。周囲もすっかり「もう働ける人」と思って接してくるのですが、「周囲が求めること」と「自分が実際にこなせる量・責任範囲(深層心理が把握している)」とのギャップが大きく、それに悩むことも多い時期です。ここで「周囲が求めること」をそのまま請け負ってしまうと、危険です。

→心身のサインをキャッチして、「自分がこなせない」と感じた業務については、「断る」ことが重要です。上長とはコミュニケーションを密にし、「できないこと、できること」をこれまで以上に明確にしておきましょう(それが結局は、あなただけでなく職場の全員を救うことになります)。 大まかな目安として、この時期に担うべき職責はどんなに多くても従来の「3割」程度までです。これは、営業で言えば「主担当顧客や取引先を持たず、主にバックオフィスでメイン担当者のサポートをする」くらいのレベル感で十分です。

■6か月

職責で言うと5~6割くらいの回復が見られる頃です。働けることでハイになってついついムリをしてしまいがちでもあります。実際はここまでの疲労も蓄積してきていますから、ちょっとしたことでストレスを感じやすくもなっている時期です。

→意識して適度に有休を取るなど、「休むこと」を積極的に意識したいです。また、家族や休職前を知る気の置けない同僚などに「最近、またおかしくなっていないか?」など、言動をチェックしてもらうのもよいでしょう。

■10か月

早ければ職責の7~8割くらいはパフォーマンスを回復している時期です。ここまでくるとほぼ普通(といってもいいレベル)の勤務をしているので、実は精神的な負荷も数か月前とは比べ物にならないほど掛かっているはずです。ついつい、これまでの思考の癖も顔を出し、心の奥底では「辛い」と悲鳴を上げていても、「忙しくて、休んでいる場合ではない」「ここで休んだら周囲に申し訳ない」という以前のような"悪い"考えが頭をもたげるようになります。風邪でも腰痛でもなんでもそうですが、実は「慣れてきた」「でもまだ完璧ではない」という時期、要するに「治りかけの時期」が一番危ないのです。 この時期に体調を崩すと、周囲は「え?もう大丈夫だと思っていたのに・・・」と寝耳の水といったことも多いのですが、実はこのタイミングで再発することは稀なことではありません。 再発防止のための正念場ともいえる時期で、ここを乗り越えられると「最初の1年」が見えてくるといえるでしょう。

→「周囲が求めること」と「自分が実際にこなせる量・責任範囲(深層心理が把握している)」とのギャップを書き出してみましょう。そのうえで上長とはコミュニケーションを密にし、「できないこと」をもう一度共有しておくことをお勧めします。「完全に回復した自分」を演じたい気持ちも高まる頃ですが、敢えて「まだ完璧ではない自分」をさらけ出すことが、結局は自分を守ることにつながります。

■最初の冬

「ウィンター・ブルー」と言われるように、冬は「抑うつ」症状を発現しやすい時期と言われています。咳の出る風邪をひくとしばらくの間は喉の粘膜が敏感になっている(少しの刺激で咳が出てしまう)ことがあるように、適応障害になると当面は心の襞も敏感になっていて、環境変化(日照時間、湿度、気温、気圧など)がセンシティブに反応するだろうことは、容易に想像ができます。「 最初の冬を乗り越えられるか」は、再発防止を占う1つの試金石ということができるでしょう。

概ね、1年経つと、早ければほぼ従前のパフォーマンスを回復していくとされます。すべての季節を乗り越えるという意味で、「1年」というのは本人にとっても自信となるでしょう。実際、これらの「壁」を乗り越えて「1年」再発しなかった場合は、 その後、適応障害はぐっと再発しにくくなるとされています。まずは上記で挙げたような時期ごとの壁を何とか乗り越えて1年を過ごすことを意識してみるのがよいでしょう。 ただし基本は、「1日1日の丁寧な積み重ね」であることを忘れてはなりません。

Q.数か月ほどして、心身ともに普通に働けるようになってきました。気を付けたほうがよいことはありますか?

A.「時間内勤務法」を徹底することです。「休職前と同じペースで働こう」「ここで一気に挽回しよう」などとは絶対に思わず、意識的に、決めた時間で「仕事を早めに切り上げる」ようにしましょう。

徐々に業務量・ペースが以前のように戻ってくると、ついつい、「今日中に終わらせてしまいたい」といって、仕事をダラダラとしてしまうようになりがちです。しかし、できれば「時間」で区切って、今までだったら夜遅くまで取り掛かっていた仕事を、「明日でいいや」と意図的に持ち越すのです。

これには「慣れ」が必要ですが、意図的に「決めた時間内で終わらせる」ようにクセづけておくと、決まった時間内で集中して仕事をこなせるようになり、却って仕事が早くなります。

とはいえ、仕事にはどうしても「踏ん張りどころ」「ここは残業してでも終わらせなければいけないところ」という瞬間があるものです。しかし、この「時間内勤務法」を続けていると、不思議なことに、強い負荷のかかる仕事(実はこういう仕事は、そんなにありません)を受け容れる余裕ができて、いざというときにそれをやるだけのエネルギーを蓄えた上で、そういう仕事に以前よりも心身の負荷を感じずに仕掛かることもできるようになります。

Q.適応障害が再発する要因として、どのようなものがありますか?

A.大別して、外部要因(環境によるもの)と、内部要因(自分自身の認知の歪みによるもの)の2つがあります。

■外部要因

▼十分に回復していない段階での復職

▼不適切な軽減勤務

▼過剰な業務負荷

▼周囲の無理解

■内部要因

▼長欠に基づく不安感情(最初の1~2週間目)

▼軽減勤務による劣等感(少し慣れてきた2~3週間目)

▼回復過程による焦燥感(より慣れてきた4週間目以降)

Q.再発する要因への対処法は、どのようなものがありますか?

A.大前提として、上司・主治医・産業医・人事(保健スタッフ)といった、見守ってくれている人たちと「困ったときに相談」することがポイントです。こんな悩みがある、といったことを抱え込まずに自己開示していく姿勢こそが、再発を防ぐ基本中の基本となるでしょう。そのうえで、上記の「要因」への対処法を項目別に記していきます。

■外部要因

▼十分に回復していない段階での復職

▼不適切な軽減勤務

▼過剰な業務負荷

▼周囲の無理解

「○○さんは働く意欲満々で戻ってきてくれましたが、皆さんよくご存知の通り頑張りすぎるところがあります。だから、それを見抜いた産業医から、しばらく残業は絶対に禁止という強いお触れをもらっています。これは人事命令でもあって、具体的には○月までは残業できません。ということで○○さんは遠慮せずに、というよりも必ずこの時間で仕事を切り上げてください。その分、皆さんにも協力をしてもらうことになりますが、宜しくお願いしたいです。ちなみに、業務量も、最初の1か月は3割くらい、3か月で半分くらい、6か月で9割、という目安を産業医から強く言われています。力のある○○さんのパワーを敢えてセーブすることになってしまいますが、それだけリハビリが大切だというのは、同じにしていいか分かりませんが、学生のときにテニスで肉離れを経験したことのある私にも素人ながらよく分かるので-あ、時間を掛けてリハビリするということがですよ-どうぞこちらも、一緒にみんなで協力していきましょう」

■内部要因

▼長欠に基づく不安感情(最初の1~2週間目)

▼軽減勤務による劣等感(少し慣れてきた2~3週間目)

▼回復過程による焦燥感(より慣れてきた4週間目以降)

Q.再発しやすい人はいますか?

A.はい。次のようなタイプの人は、適応障害を再発しやすい傾向にあるといえるでしょう。

■焦って復職をした

様々な不安を解消するべく、焦って復職をしてしまう場合は再発の恐れが最も高いパターンだと言えるでしょう。適切な休養が不十分、「認知の歪み」の気づき・修正のプロセスが不十分、必要なリハビリが不十分など様々な原因が挙げられますが、「焦燥感」に駆り立てられた復職は、実は何も解決していない状態で元のストレスフルな環境に飛び込むわけですから、職場に復帰しても比較的短期間でメンタルダウンしてしまうことがほとんどです。

■頑固である(素直でない)、わがままである

適応障害の症状で「頑固になる」患者さんはいますが、この場合は適切な休養・投薬・認知行動療法で寛解していきます。問題は、もともとの性格的に頑固である(素直さが足りない)ケースです。頑固であればあるほど、一般的には「生きづらく」なりますから、人と合わせられなかったり、組織の方針にそぐわなかったりして、適応障害を発症してしまうということもあるのです。
このタイプの人は、「自分に合わないから」という理由で頻繁に医師・カウンセラーを変更したり、復職してからも一方的に「この仕事は自分に向いていないからできません」と頑なに上司の仕事の割り振りを拒否したり、要するに「わがまま」さが強い傾向にあります。
「相手が悪い」という気持ちが根底にあり、常に他者の「施し」を期待するため、「自分にも問題があるかも?」とはなかなか想像に至らず、結果として認知の歪みにも気づきにくくなります。すると、例え一時的に症状が収まったとしても、根本の部分が解決していないがゆえに、何かをきっかけにして(職責が重くなる、急なトラブルを抱える、職場の環境が変化するなど)適応障害を再発してしまうことがよくあります。

■復職までに長期間を要した

早期発見・早期対応が重要なのが適応障害です。ひとたびストレスの度合いが強かったり(「強度」)、ストレスを受けている期間が長かったり(「期間」)すれば、それだけ治療に掛かる時間も長くなるのが普通です。そして、治療が長くなればなるほど、社会との隔絶期間も長くなりますから、それだけ復帰した時のハードルも高くなるのです。
会社は四半期単位でPDCAサイクルを回して動いていることが一般的ですから、3か月不在にしているだけで、様々な制度や仕組みが変わっているということはザラにあります。これが半年、1年ともなれば、組織によっては「別会社」なのではないかというくらい、業務プロセスが大きく変わってしまっているケースもざらにあるのです。また、どうしても仕事には体力・持久力、そして知力が必要です。これらは休養しているとどうしても落ちてしまうものです。ビジネス用語、PCスキルなどは、「しばらく使っていないと、さびてしまう」ものの1つと言えるでしょう。
こうしたことからも、復帰までの期間が長引けば長引くほど、キャッチアップまでのコストは相応にかかることが想像できるでしょう。休職期間が長ければ長いほど、慎重にリハビリ、そして軽減勤務を続けていく必要があるのです。

■その組織での勤務期間よりも、休職期間のほうが長くなってしまっている

若手社員に多いケースです。入社して比較的早期に休職になってしまい、結果的に勤務期間よりも休職期間のほうが長くなってしまった、というものです。復職した時には、同期とのスキル差・経験差はかなりのものになっていることもあり得ます(場合によっては、後から入社した後輩にも抜かれてしまうことがあるでしょう)。実際は若手のうちの多少の評価差は挽回できることはいくらでもありますので、これに焦らず食らいつけるのであれば問題ありません。しかし、果たして一度メンタルダウンした状態で、すぐにそのようなモチベーションを持って働けるのかというと、なかなか厳しいところではあるでしょう。せっかく復職しても、「同期に追いつかなければ」「後輩に負けないようにしなければ」と気ばかり焦って、再び休職へ、ということは決して珍しいことではないのです。
また現実問題として、「勤務期間」<「休職期間」の社員が、果たして本当に当該の業務に適性があったのか、というとなかなか厳しいものがあるでしょう。特に新入社員でメンタルダウンして、休職期間のほうが長くなってしまうような場合は、配属のミスマッチを真剣に疑わなければなりません。現職復帰をさせず、別の部門・部署に異動してもらい、そこで「企業との相性そのものがどうなのか」も、本人のためにも、また会社のためにも、慎重にみていく必要があるかもしれません。

Q.再発して再休職しました。まずはどうすればよいでしょうか。

A.初発のときと同じく、まずはとにかく休養によってストレス源から離れ、服薬により症状を落ち着かせます。体調が整ってきたら、主治医や心理カウンセラー、産業医などとよく相談し、「なぜ再発したか」「どう取り組むか」といったことを検討していきます。

Q.復職者に対し、上長はじめ周囲がやってはいけないことは何でしょうか?

A.復職者が余計なストレスを抱き、適応障害再発のきっかけを作ることすべてです。上長は、そのような環境を作らないようにする義務を負います。

よくありがちな周囲のNG対応(就業措置期間中)には、以下のようなものが挙げられます。

■やってはいけない対応

▼腫物を触るように接する

▼何気なく、軽口で悪口・嫌味を言ってしまう

▼「予定が空いているから」「ヒマそうだから」「時間がありそうだから」と無目的に業務を振る

▼大きな責任を伴う業務を与える

▼定められた就業措置(軽減勤務)から逸脱した業務をさせる

▼時間外の飲み会や社内行事(お花見や休日のレジャーなど)への参加を強要する

Q.復職者に「がんばれ」は禁句ですか?

A.適応障害の発症期で、これ以上頑張れない状態になっているときは「がんばれ」という言葉が、「まだまだ頑張りが足りないぞ、もっと頑張れ」と響き、「もうこれ以上頑張れない。自分はダメ人間だ」という思考に直結してしまうので、確かに「がんばれ」が鋭く胸に突き刺さります。このときの「がんばれ」は、余計に本人を追い込むということはあるでしょう。

しかし、復職した直後は、同僚に「一緒にがんばろう!」とか、家族や恋人から「ここからまたひと頑張りだね!」くらい言われても、傷つくどころか、「受け容れられた」「認められた」という気持ちになることもあるでしょう。

要するに、「弱っているとき(マイナスに入っているとき)は禁句だが、そうでないときは別に問題ではない」ということになるように思います。

-といろいろ御託を並べてはみたものの、復職者からすると「がんばれ・・・あ、がんばれって言っちゃった。言っちゃいけないんだよね」という言葉は100万回くらい聞いている(そして自分も過去に何度も言ったことがある) はずですので、「エコ」とか「SDGs」「ふれあい」などと一緒で、「上滑りして耳に一切残らない言葉」と言ってしまえばそれまでであって、「あまり気にならない」というのが正直なところだったりします(私の場合)。少なくとも復職者に対しては、気には留めるものの、過剰に気にし過ぎなくてもよいでしょう。

Q.上長(周囲)はどんなことに留意するべきでしょうか?

A.復職者を「チームのかけがえのない仲間」としてあたたかく迎え入れ、「会社の貴重な戦力」として扱うことです。そのためには、以下の対応が不可欠です。

■復職者が同意する範囲で、メンバーへの情報提供を行う

なぜ復職者が休職したのか、上司としてどんな環境調整に努めたのか、そして復職者に対してどのように接したらよいのかを適切に情報開示します。これがあるのとないのとでは、復職者の再発の確率は大きく異なると言えるでしょう。真っ先に必要な行動の1つです。

■頻繁なコミュニケーション

最初のうちは毎日、1か月くらいしたら週に最低でも1回は、1対1で「体調」「最近の様子」などをしっかり聞くようにします。接触頻度を増やすことでの信頼関係の再構築だけでなく、体調の確認、業務負荷の把握など、再発の兆候をキャッチする機会としても活用しましょう。

■再発の兆候を監視する

上述のコミュニケーションはもとより、勤怠の入力状況、メールや電話などの対応の様子、会議の発言内容など、様々な観点から再発の兆候がないかを監視します。

■産業医や人事との連携

復職して終わり、ではなく、むしろ「復職がスタート」です。少なくとも、復職者の産業医面談(フォローアップ)のスケジュールなどはしっかりと把握しておくようにしましょう。

■軽減勤務の厳守

復職者に課せられている軽減勤務を本人以上に厳守しましょう。ややもすると復職者は「少しくらいなら残業しちゃえ」と、そのままずるずると残業をしてしまう場合もあります。そういう「緩み」に目を光らせて、絶対に指示を厳守するように指導していく必要があります(就業措置に反する勤務状態を放置して、復職者が再休職した場合、その管理責任が確実に問われます)。
またこのとき、罷り間違っても「今日はちょっとだけ残業お願いできる?」などと、上長のほうから軽減勤務を破るようなことは絶対にしてはなりません。これが通ってしまうと、復職者は「自分の体調の事なんてどうでもいいんだ」と激しい恐怖感を覚えるでしょうし、それを見ている周囲の同僚も「とんでもないパワハラだ」「自分も同じことをされる」と感じ、チームの士気が必ず下がります。そして何より、復職者に何かがあったとき(例えば再休職など)、会社が訴えられるリスクも自ら招くことになります。

■通院の優先配慮

復職者は原則、定期的な通院が医学的に必要な存在です。業務時間帯に通院する必要がある復職者には、「通院も業務の一環だから」くらいの勢いで、暖かく送り出すようにしましょう(当然、私疾病での通院は私用ですから有休取得を行わない限り原則無給ですが、企業によっては特別休暇時間扱いとするケースや、フレックスタイム適用の場合は不就労時間として見做す場合もありますので、詳しくはそれぞれの就業規則をご確認ください)。

■チーム内の融和

当然ながら、復職者とチーム内の同僚との間での融和的な関係性の構築を後押しすることも上長の重要な役割です。大抵は、メンバーへの適時適切な情報提供によってチームメンバーも状況を理解し、納得してくれるでしょう(例えば「○○さんは、しばらくは1か月に1~2回は通院しなければなりません。通院が業務時間と重なってしまう場合もあるそうなので、その時は皆さん、ぜひ協力をお願いします」という一言があるだけで、メンバーは受け容れやすくなるでしょう。)。

Q.上司が軽減勤務で産業医から勧告された「残業禁止措置」を軽視(または無視)します。どうすればよいでしょうか。

A.これは明確なパワハラです。産業医の軽減勤務措置の勧告は、労働安全衛生法における権限の行使(すなわち法定権限)であって、会社側は正当な理由がない限り、それを最大限尊重する必要があります。従業員の心身の健康を守る重要な勧告であって、これを軽視することはコンプライアンスに悖る脱法行為のみならず、人道に背く鬼畜の所業です。上司の態度として非常に危険ですし、またまともな人間としても明確に「狂っている」と思ってよいでしょう。会社としても、脱法的な対応を放置して従業員の再休職を来せば、労働訴訟にまで発展するリスクがあることを認識し、このような行為があった場合は人事的な懲罰も含めて早急にかつ厳正に対処する必要があります。すなわち、それだけ大事(おおごと)だということを認識しましょう。

このようなモラルの低い上司に直接相談することは難しいでしょうから、産業医からの残業制限期間中にも関わらず上司から残業を強制されるなどの脱法事案があった場合は、まずは人事担当者、社内コンプライアンス窓口、産業医など相談しやすいところに相談するようにしてください。労組がある場合は、通報窓口に相談することも有効です。組織内で取り付く島がない場合は、直接労働基準監督署に相談することも検討しましょう。

この際は、メールや通話の記録、勤務時間の証拠を押さえておくようにします。直接的な記録を取ることが難しくても、手帳へのメモ、勤務時間が分かるスクリーンショット、同僚へ事実を相談したメールなどを用意してもよいでしょう。このような脱法行為は、誰かが受け容れてしまうことで組織的に許容され、かつ助長されていきます。脱法の芽は、早めに摘み取る必要があるのです。

Q.上司です。復職者の再発防止のためにどのような取り組みをすればよいでしょうか。

A.一見元気になったように見えても、好・不調の波が続いて本人の中では実は不安定ということもあります。すぐに業務量の負荷をかけるのではなく、必ず本人と相談しながら、「今できること」「まだできないこと」について、都度共有していくことが必要です。必要に応じて、産業医のアドバイスを受け、人事とも調整をしながら慎重に対応していくことを心掛けます。

本人とは定期的に、現在の状態、主治医の診断、といった病状のことも含めて、1対1で話し合う時間を設けるようにします。

Q.上司です。復職した部下の仕事量はどのように調整すればよいでしょうか?

A.本人と定期的に面談し、「何のために」「いつから」「何を」「どのくらい」増やすのかを話し合うようにします。この際は、「上司としての考え方」と「復職者の意見」をしっかりとすり合わせ、一方的に「量を増やされた」とか、「負荷が上げられた」ととらえられないようにすることが肝要です。一般的に「1か月で本来の職責の3割、3か月で5割、半年で9割に持っていく」ことが調整の目安とされていますから、この塩梅も
ぜひ参考にしてください。

復職しても治療が完了するまでは、症状に波があり、「調子が悪いとき」と「調子がよいとき」を繰り返しながら、徐々に波が小さくなっていくものです。「もう大丈夫かな」と思ってみると、意外と大丈夫ではなかったり、「まだ厳しいかな」と思ったら意外といけたり、と、不安定な状態を繰り返しながら体調が回復していくイメージです。上司もおっかなびっくりですが、復職者自身が一番焦っていたりします。

この特性を受け容れつつ、長い目で(気を遣い過ぎずに)寄り添って見守る、というスタンスで、健常者に仕事を割り振るよりは丁寧に調整をしていけばよいでしょう。

Q.復職後、どうしても日常生活にフラストレーションや不満を抱えてしまいます。それを考えると鬱になりそうです。何かいい方法はないでしょうか?

A.「考えない」というのも難しいでしょうから、「嫌だな」と思ったときに、その状況を「楽しむ方法がないかを考える」ことがお勧めです。私の場合は、手帳の裏に「恨みコーナー」というのを作って、腹が立った奴や許せない奴の名前や行為を書き出して、そこに思いつく限りの罵詈雑言を書いて鬱憤を晴らす・・ということをしていたことがあります (確かにその時はメンタルが安定していました)。

他にも、誰かに怒られているときに「相手の鼻毛の数を数える」とか、嫉妬したら「どうせ会社の外ではコイツもただの人だしな」と思うとか、いけ好かない取引先と話すときは、「偉そうにしているけど、仕事と関係なかったらこんな奴とは絶対関わらないけどなー。 ま、会社を辞めたら一生関わらないしどうでもいいか」と思いながら話すのもよいでしょう。

嫌なことは0にはできませんから、ベクトルを別に向ける、ということですね。

Q.復職後、どうしても周囲のようなスピードで仕事ができません。何かいい方法はないでしょうか?

A.私も、スピードが大切と思っていた時期がありました。「即レス」「即対応」「相手が思うより早く納品」が大切だと。ただ、これは間違いだったと気づきました。仕事というものは、実はとてもシンプルで、期限内に一定の成果を上げればただそれでよいのです。求められているのは成果物だけで、そのプロセスは「犬も食わない」というのが結論でしょう。

もっともスピード対応・スピード納品タイプの人材は、もちろん相手からはすごく喜ばれるのですが、それはただ「便利だから」なんですね。「成果」とは関係ないので、業績的な評価はそれほど関係ないこともあります。だいいち、早く終われば「こいつは余裕がある」と思われて、その空いた時間で別の仕事をオンされるのが関の山です。自分で自分の首を締めているだけなのです。

一番賢いのは、さっさと終わらせて、ギリギリで納品(その空いた時間で別のことをする)することなのだとようやく分かりました。ただただ、「自分のスピードで出せる成果で評価をしてもらう」ということでよいのです。

Q.復職後、以前のようにやる気が出ません。どうしたらよいでしょうか。

A.2つの方向性で解決策があります。 1つが、「そういうものだとあきらめる」ということ、 もう1つが、「とりあえず動いてみる」ということです。

■「そういうものだとあきらめる」

適応障害を発症する前がワーカホリック状態なのだとしたら、その時は単に「疲労」がマスクされて、いわばリミッターが外れた状態で「頑張れていた」だけというところもあると思うので、正常になったらもうその状態には戻れない、という解釈も可能です。 周囲の多くの人は「やる気があるふり」をしている可能性もありますので、そのあたりはやり過ごすのでもよいでしょう。こういうときに、本音(ぶっちゃけ、これってどれくらい本気でやればいいと思う?)を忖度抜きで確認できる同僚ができるといいですね。

■「とりあえず動いてみる」

復職してしばらくは、なかなか行動自体にハリがなく、動きがスローモーになってしまうものです。足を骨折していきなり全力ダッシュができないのと同じで、一度折れた心がすぐに「やる気満々」になるわけがないのです。・・・が、それをそのままにしてしまうと「固まって」しまいます。だからこそ、実践でリハビリをする必要があるのですね。こういうメカニズムも、骨とそっくりですね。やる気というものは待っていても湧き出てくるものではなくて、どうも、「動き出すと出てくる」という性質があるようです。まずは動く、動くと「作業興奮」が発生し、脳の側坐核が刺激され、ドーパミンが分泌される、というプロセスです。動かないといつまでも脳は動き出しません。パソコンを開く、メールを開く、清算する・・といったことでもいいので、とにかく動くということが大切ということです。

Q.復職後、仕事中に妙に眠くなります。

A.大前提として、疲れたら眠くなるのが普通です。また、昼下がりなどでどうも眠いというのもごく普通です。「眠くなること」そのものはあまり気にしないほうがよいでしょう。時間が許せば、休憩時間などに15分程度の多少のシエスタ(昼寝)をしてもよいのではないでしょうか。

ただし、「始業直後からずっと眠い」「とはいっても、余りにも眠気が強い」「会議中に簡単に寝てしまう」といった異常が続いている場合は、以下のような原因が考えられます。適宜、主治医に相談するようにしましょう。

■睡眠薬が効きすぎている

処方された睡眠薬が効きすぎている可能性があります。主治医と相談し、「睡眠薬を変える」「睡眠薬を頓服にする」「睡眠薬を中止する」といったことも検討しましょう。

■睡眠の質が悪い

実はよく眠れていない(だから日中に眠くなる)という可能性があります。睡眠時間が確保できている場合であっても、テレワークであまり運動していない(朝日を浴びていない)、疲れすぎて脳が興奮している、夜更かしを続けている-といったことがないか、点検してみましょう。必要に応じて、過呼吸症候群、呼吸器疾患などを抱えていないかも確認できるとよいでしょう(その場合は、別の治療が必要になります)。

■糖分を摂りすぎている

復職のストレスで、「甘いもの」(お菓子や清涼飲料水など)を休職中よりも多く摂ってはいませんか?「糖分のドカ食い」によって、食後(間食を含む)に「血糖値スパイク」を引き起こして、急激な眠気を来している可能性があります。思い当たる場合は、食生活を見直してみましょう。
なおこの「疲れたら甘いものをついつい摂りすぎてしまう」ということそれ自体はよくあるストレス解消策の一種ですが、あまりにも頻繁に起こるようでしたら医療的な対応が必要となるでしょう。

Q.復職後、周囲のテンションの高さ、意識の高さなどに正直引いてしまっている自分がいます。このままで大丈夫でしょうか。

A.大丈夫です。そして、それが正常です。

そもそも会社組織は、ある一定の方向に社員の資力を誘導し続けるという性質があります。共通のビジョンを掲げ、会議で活動の方向性を決める。何らかの販促企画が立ちあがったら、みんなで一斉にその活動に取り掛かる。独自の社内用語を使って、チームの結束を高める。どの会社もやっていることですが、一度休んでみると、それが「会社という狭い世界の中で構築された物語」でしかないことに気づかされます。この物語は、「そこでしか通用しない」という意味で、現実世界においては虚構・・・フィクションですらあり得る、とまで言ったら言い過ぎでしょうか。

その「物語」を共有しているメンバーは幸せなのですが、一度その物語から外れた身からすると、醸し出される独特のテンションや意識の高さに「何それ気持ち悪っ」「何言ってんの?」と少し引いてしまうのです。しかしこれは、「いつの間にか組織の論理に過剰適応してしまっていた自分」から真に生まれ変わった証拠です。

しばらくすると、その客観性の高い立場から、「組織人のペルソナ」を纏って「独自のテンションに合わせたフリ」ができるようになってきます。「本心からその会社に染まる(隠された本音では染まりたくない)」のではなく、「(本音では染まりたくないから)染まったフリができるようになる」自分に進化する、ということですね。

元気な時には会社という物語の為す閉じた世界の虚構性に気づくことはありません(あるいは気づいていても器用にマスクしてしまいます)。「外」から見て初めて、その「違和感」に気づき、時には嫌悪感すら抱いてしまうわけです。これまで盲目的に会社を信じてきたプロパー社員にとっては「はじめての感覚」かもしれませんが、転職組からすると「いやいや、世の中結構そういうもんだよ」と納得いただきやすいかもしれませんね。

Q.復職してから、今の仕事が自分に合っていないのではないかと思うようになりました。どうすればよいでしょうか?

A.休職前は普通に仕事に取り掛かれていたのに、いざ戻ってみると「あれ?」と違和感を感じているのですね。

まずは、「やりたいことを仕事にする」という幻想を捨てましょう。仕事は本来、「やりたくないこと」を他者の代わりにやることで対価を貰う行為だと割り切るのです。そうすると、シンプルに、「できる仕事」か「できない仕事」かが見えてくるでしょう。これをもう少し細かく見ると、「 やりたいし、できる仕事(得意な仕事)」「やりたくないが、できる仕事(苦手な仕事)」「やりたくないし、そもそもできない仕事(できない仕事)」に分けられると思います。「得意な仕事」は黙っていてもやれる仕事です。「できない仕事」は、おそらく端から職業にしていないと思われます。すると残るのは、「苦手な仕事」ということになります。そしてこれが、結局は仕事の大部分を占めることになっているわけです。

こうして書き出してみると、 「苦手だ」「嫌いだ」、だから即、「自分に合っていない」というわけではないことは自明ですよね。しかし意外と「自分に合っていない」というのは、「自分が苦手だ」とか「嫌いだ」という意思表明をしているだけのことがあります。しかし、実際は、適応障害になるほど懸命に仕事に打ち込んでいるという時点で、その仕事そのものは「できている」のです。「できる」ということは「合っていないわけではないかもしれない」とも言えます。とんでもない 薄給なら別ですが、それに従事することによって相応の報酬を得られている(その能力が認められている)時点で社会的には「合っている」とみるのが普通でしょう。

屁理屈のようですが、まずは「自分ができることなのか、否か」を見極めたうえで、「苦手なだけで<合っていない>と決めつけていないか」はよくよく吟味する必要があるといえます。

その前提の上で、今取り掛かっている仕事が、どのような価値の生産性向にあるかを考えてみることは有益です。すなわち、自分の能力やスキルの傾向において、どのようなタイプの仕事が合っているのかを検討するということです。ここでは分かりやすく、語句の解説に続けて、「コンビニ店舗を立ち上げる」仕事だった場合の例を示してみます。

■0を1にする仕事(価値創出)

発掘・創造の仕事。目的は事業を立ち上げること。作家的仕事。

店舗開発。店舗経営者のリクルーティング。

■1を10にする仕事(付加価値産生)

発展・育成の仕事。目的は事業を軌道に乗せること。編集者的仕事。

店舗立ち上げ。店舗経営者の開業指導。店舗経営者の研修・教育。

■10を11、12・・・にする仕事(価値の維持、拡大再生産)

維持・管理の仕事。目的は持続可能な成長を推進すること。編集デスク的仕事。

店舗管理。スーパーバイザー。店舗網のエリア担当者。

■マイナスを0にする仕事(ケア、ヘルプ)

再生・回復の仕事。目的は事業を再生させること。"穴の開いた原稿を埋めることができる"応急ヘルパー的仕事。

店舗ヘルプ。店長代行。

■10を10として守る仕事(保守)

保守・サポートの仕事。目的は着実に事業を安定させ、未来へ確実に継続させること。編集サポート的仕事。

店舗管理サポート。バックオフィス。

■数字のあるべき方向性を定める仕事(戦略立案)

ビジョン策定・戦略立案の仕事。目的は事業の方向性を定め、未来へ向かって事業を推進させること。経営戦略的仕事。

事業戦略。営業企画。

いかがでしょうか?上記で挙げたタイプのいずれも、円滑に社会が回っていくために必要な仕事の性向です。「苦手」ということを検討してみてもなお、「合っていない」とご自身の仕事にフィット感が得られないときは、もしかするとこの 価値の生産性向が自分のスタイルと合っていない可能性は十分に考えられます。

そのような場合は、配置転換を希望する、社内公募などで「社内転職」する、転職するなど、「今の仕事とは別の可能性」を探る活動をされてもよいかもしれませんね。

Q.復職してから、今の職場での働き方が自分に合っていないのではないかと思うようになりました。どうすればよいでしょうか?

A.休職前は普通に職場に適応できていたはずが、いざ戻ってみると「あれ?」と違和感を感じているのですね。これは、組織の「仕事の進め方」(チーム・スタイル)に原因があるのかもしれません。チーム・スタイルが自分と適合しているかどうかは、「働きやすさ」とも密接に関わってくる要素です。もし、今のチーム・スタイルにどうしても馴染めない場合は、「仕事」が合致しない場合と同様、「今の職場とは別の職場で勤務する可能性」を探る活動をはじめられたもよいかもしれません。

■サッカー型チーム

環境変化が大きいビジネス環境で見られる形態です。チーム内で役割を分担しつつ、他部署や社外などとも連携を取って1つの完成物を仕上げる、といったプロジェクト型の業務です。多様な属性を持つメンバーとのコミュニケーションが不可欠です。
環境変化が大きいため、社内コミュニケーションツールを使ったチャットでのやり取りなど、即時的な対応・反応・発信を求められることも多いです。
ゲームソフトやスマホアプリなどのICT開発系の業務が典型的です。

■野球型チーム

環境変化が比較的少ないビジネス環境で見られる形態です。しばしばピラミッド型の指示命令系統を持ち、構成員は、一定のプロセスやルールの下で、チームで一体となって定められた職務を遂行します 。
ピラミッド型の組織ゆえに、体系化された「報告」「連絡」「相談」を最も重視するチーム形態だといえるでしょう。そしてしばしば、その報告体系は「作成すること」が自己目的化していき、効率性を阻害することが指摘されています。
官僚機構、大企業のスタッフ部門、飲食店スタッフなど、野球型のチーム・スタイルは多岐に渡ります。

■柔道団体戦型チーム

環境変化が比較的大きいビジネス環境で見られる形態です。フラット型の組織形態をとることが多く、チームは組むものの、個人の裁量で業務を進めることがほとんどで、横で連携することはほとんどありません。個人の業績もそれぞれ独立して評価されます。
業務形態ゆえに報告形態が「上司対部下」の「1:1」の関係性に閉じやすく、結果として個別最適化や特定業務の属人化が発生しやすくなって、全体としては「合成の誤謬」ともいえる現象(チーム全体で非効率を生じてしまう、業務を重複させてしまうなど)には注意する必要があるでしょう。
金融・保険・不動産の営業、コンビニのスーパーバイザー、漫画雑誌の編集者など、チームを組みながらも個人の力量で業績が左右されるような仕事が挙げられます。

■駅伝型チーム

環境変化が少ないビジネス環境で見られる形態です。ルールやプロセスがはっきりしており、「誰が何を担当するのか」も明確になっていることから、必要最小限度のコミュニケーションであっても、スムーズに業務を遂行することが基本的には可能です。
何においてもマニュアルの遵守・徹底が重要な要素であり、その範囲で個人の技能を発揮していくような業務スタイルとなります。
製造業(メーカー)の生産ラインや建設工事現場など、工場や建設系の規格性が求められる業種が挙げられるでしょう。

Q.上司です。「残業禁止2か月」という就業措置があったので3か月目には残業が解禁されると思って体制の準備をしてきました。しかし、実際は「残業禁止を2か月延長する」という結果になりました。そうなるんだったら、前もって教えておいてほしかったのですが・・・。

A.ひとまず「1か月」程度の長さで出されることの多い休職の診断書と同様、就業措置における「残業禁止」などの軽減勤務の判断も、とりあえず「2か月」などと決めて、様子を見ることが多いです。そして、その期間で軽減勤務を解除できないと判断されることも実は多く、当該の軽減判断が複数回更新されるということも珍しくはありません。再発防止が命題のメンタル要因であれば、なおさらです。

したがって、「いつ軽減勤務が解除されるかは未知数」「最低でも数か月、長ければ数年単位はかかる」くらいに捉えて、基本的には「しばらくはあまりあてにしない」のが吉といえるでしょう(適応障害になるような社員は「使いやすい」社員だったケースが多いでしょうから、いやでもあてにしたくなるでしょうが、しばらくは忍耐が必要です。再発さえ防げれば、放っておいてもいつか、戦力として必ず回復します)。戦力として不可欠な社員であるからこそ、戦力回復のために時間を費やす、という投資的発想を持つしかありません。

Q.復職者に飲み会を誘うのはNGですか?

A.無理強いしない限り、誘うことに問題はありません。できれば上司ではなく部下や若手社員に当たる人、よく飲み会幹事役をする人に、「飲み会って大丈夫なんですか?」「飲み会があるときは、お誘いしてもいいんですか?」と聞いてもらうようにして、本人の意向を間接的に確認しておきましょう(直接確認してしまうと、 気を遣って本人が断れない可能性があるためです)。

ここからは本人の自由です。飲み会が好きなタイプは「ぜひ誘って」と答えればよいですし、飲み会が嫌いなタイプはこれ幸いと、「医者にお酒を止められていて・・」「医者に夜8時以降の外出を禁止されていて・・」などと方便で断るのもよいでしょう。

ちなみに、飲み会が好きでも、深夜まで痛飲することはいただけません。深酒は絶対に避け、1次会で帰る、ノンアルコールドリンクを飲む、など体調管理は徹底しましょう(ほとんどの場合は投薬の関係で飲酒禁止となるでしょうから、上司のほうから「〇〇さんは、しばらくお酒は飲めないからな ー」と釘を指してもらうようにすべきです。このご時世、アルハラで何かあったら上司の首はすっ飛びますので、「飲めない」ことは復職後すぐ上司に伝えておくとスムーズです)。

Q.復職後、治療しながら働くことは現実的に可能ですか?

A.多くの人が、メンタルクリニックに定期的に受診しながら、「with適応障害」で仕事を続けています。「病院に行きながら働く」ことへの抵抗があることはもっともですが、虫歯、花粉症、痔疾、糖尿病、 片頭痛、高血圧、子宮内膜症など、持病を抱えながら働いている人は社会にたくさんいるのです。あまり自分の置かれた状況を殊更に特別視せず、「そういうものだ」と受け入れるとよいかもしれません。

Q.組織の中でうまく「適応」して生きていくためにはどうしたらよいでしょう?

A.適応障害は、「組織が個人に求める没個性」と「個人が当たり前に持っている尊厳や自己実現欲求」との狭間に起こる、まさに「適応」の障害です。

組織は、多かれ少なかれ、そこに所属する個人に「駒」や「ソルジャー」になることを要求します。極論をすれば、個人に「滅私奉公」や「献身」を際限なく要求するのが組織です。その動機づけとして「給与」「賞与」「昇給」「昇進」などの報奨が設けられているわけですが、ひとたびその報奨の満足度と、自分の存在意義・存在価値・尊厳といったものとのバランスが崩れてしまうと、簡単に適応障害を発症します。

組織の中で「個人」を主張しすぎると軋轢を生みますが、かといって組織に埋没し、過剰に適応するのも、いつか「無理」を生じることになります。

要するに個人と組織とのトレードオフの関係が常に成立しているわけですが、ここでうまく組織に「適応」していくためにはっきり意識しておきたいことは、常に「自分を大切にすること」です。組織は、決して個人の幸福のためには存在しません。組織が追求するのは、組織自身の利益でしかありません。組織は、いざというときに、あなた自身を守ってはくれません。自分を大切にすることを、生きていく上で一番の軸にすることです。自分を大切にするというのは、自分とつながる家族を大切にすることでもあります。組織は決してあなたの一番ではありません。もちろん、組織のステークホルダーも、あなたの一番ではありません。顧客も、同僚も、上司も、絶対にあなた 自身よりは「重要ではない」と思いましょう。

その前提に立っての理想は、「組織の利益」と「個人の便益」とが合致することです。個人は、組織を自分の便益のために「利用」し、その「利用」が、組織の利益と合致することが理想の関係となります。個人が組織に「隷属」する必要はないのです。

ただし、あの手この手で組織は個人を組織に「隷属」させようとしてきます(そのほうが生産性が高くなるからです)。そしてそれは報酬、昇給や昇進といった報奨や福利厚生、社内表彰といった「目に見えるもの」だけではありません。中には、「ビジョン」や「プライド」といった観念的な方向からも間断なく刷り込みを図ってきます。

とんでもなく忙しい組織において、「この部署は売り上げ日本一を実現できるぞ!」とか、「○○の地を任されているプライドを持とう!」などのスローガンで何とかモチベーションを維持している部署を見ることがあります。しかし、考えてもみてください。売り上げが日本一になったところで、その構成員の給与がいきなり日本一になるわけではありません。またある地域を任されているからと言って、社外から見たら「だから?」と実に滑稽な話であることが分かります。

こういう「まやかし」で何とか従業員を働かせようという組織は実に多いのですが、そういう洗脳に騙されてはいけません。大切なのは、どこまでも自分自身であって、会社そのもの(要するに、他人の金勘定)ではないのです。

洗脳が酷くなってくると、「会社の黒字に貢献するのは、一人ひとりの売り上げだ」みたいな言い方が社内に流布されるようになってきます。これ、まったく違いますよ。経営の数字は経営陣だけが責任を負うものであって、社員がそんな数字をいちいち背負わなくてよいのです(社員が背負うべきは「職掌における自分の職責」だけです。それ以外を背負うのは第一レポートラインからも外れていますし、一言でいうと「越権行為」あるいは「思いあがり」と言います)。しかし、この「背負わせる洗脳」「思いあがらせる(木に登らせる)洗脳」というのは、びっくりするほど普通に行われていますよね。

・・・ということで、この設問の答えとしてはとにかく、絶対に自分に関係ないことまで背負わないことです。否、「背負ったフリをすること」ですね。巧くやっている人は、誰一人として「背負って」なんていません。どこまでも「背負ったふり」をしてやり過ごしているだけ、なんですね。あなたは会社の数字なんて、背負う必要は微塵もないのです。 微塵も、です。

Q.ということは、組織に「適応」しなくていいということですか?

A.少なくとも、心の声を無視してまで無理に「適応」する必要はないでしょう。とはいえ組織人であるならば、アウトローでいることも得策ではありません(それはそれで適応できてい ないことになります)。どこまでも「適応したフリ」をすることが、結果的に「適応」と言えるかもしれませんね。ほとんどの人は、そうやって適応しているはずです。

こんな言葉があります。「今の環境に最も適応した者は、環境の変化が起きた時に、最も滅びやすい者である」と。「今」の環境に適応することだけが大切なことなのではないのです。環境の変化が訪れることを常に予見しつつ、柔軟にその対応を変える姿勢で臨むことこそが、結果的に「適応的」になるということなのです。「事業とは、環境の変化に適応することそのものである」という言葉もあります。これは、そういうことも指していますね。

適応障害になった人は、あくまで「今」の組織環境に「適応」できなかっただけで、それはある意味「チャンス」と捉えることも可能です。「環境の変化が起きた時に、滅びにくい者」になっている可能性があるということだからです。

Q.精神衛生をよくするために、「こんな考え方をするとよい」というのはありますか?

A.以下の5点は意識したいところです。

■他者に過度な期待をしない

他者に対して「こう動いてくれたらいいな」と思ったとしても、それを押し付けないということですね。期待を超えてくると喜びになりますし、そもそも期待をしないので怒るということがとても少なくなりました( 私はアンガーマネジメントの実践をしています→「怒り」と巧く付き合うコツノート参照。最近では、弁当屋さんで前日に予約をした弁当のオーダーが通っていなくて大幅に予定が狂った時ですら笑顔でいられたというくらい、訓練がきいてきています)。 他人に対する感情を押さえておくことは、日常生活のあらゆるところで応用でき、精神を落ち着ける効果がとても高いです。

■職責以外背負わない

職責の範囲のこと以外は、一切背負わないということです(もちろん、言われたらやるくらいの協調性というか、人間性は必要ですが)。忖度社会である日本でこれをやるのは最初は結構勇気がいるのですが、慣れてしまうと周囲も「そういう人」扱いをしてくれるのでラクになってきます。 とはいっても欧米ではないので「職務定義書に書かれていないこと以外は私、やらないので」というような大それたことをする必要はなくて、社内においては「投稿に『いいね!』を盲目的に押さない」とか、「自分が直接メンションされたわけではないことには、直接聞かれたとき以外は応えない」とか、「オフのときはメールを返さない」「昼食の時は電話に出ない」くらいのことはすぐに実践できることかと思います。

■目的志向を持たない

なぜか「目的」を持って生きることが大切とされがちです。これが私たちを息苦しくさせている原因です。別に「何となく」でいいのです。だいたい、すべてにおいて目的を説明することは不可能です。いちいちいちいちすべての行動に目的を問われていたら、疲弊してしまいます。ただし、 組織人として「目的を持ったフリ」はしておきましょう。

■論理だけで考えない

人間は感情の生き物です。そこを論理(説明可能性)だけで考えるから頭がおかしくなるのです。人は別に論理だけで生きているわけではありませんから、時には「直感」や「美意識」といった、説明が不可能な概念を存分に使ったってよいのです。むしろ「論理だけ」で「正解」を導くような働き方って、気持ち悪くないですか?(論理だけで仕事が構築できるなら、本当にAIだけで仕事が回るという事態になってしまいますよね)。いまだに「PDCA」とか、「再現性」という言葉を金科玉条にして仕事を進めている 感性の古い組織はきわめて多いと思うのですが、変数・変化の多い時代に、変数一定の品質管理や工程管理の論理で「仕事をした気になっている」場合が本当に多いのです。だから「P」に時間を掛け過ぎたり、「再現性の説明の後付け」に苦心したり、 要は「作文」に時間がかかってしまうのです。だからホワイトカラーの生産性がいつまでたっても上がらず、「労多くして実少なし」で疲弊していく一方なわけです。もっと直感に頼るといいのではないかと思います。 言葉を崩して言うと、「あまり考え過ぎるな、もっと感じろ」ということでしょうか。

■心と身体の声に耳を傾ける

適応障害は、「頭でっかち」になってしまっている状況で起こりやすい病気です。すなわち、「考えることは考えるのだが、心と身体が追いついていかない」という状況が適応障害を引き起こしやすいということです。適応障害を経験したからこそ、復職後はもっともっと「心」(感情)や「身体」の出すメッセージをよく聞き、心が拒否していること、身体がついていかないことを「いかに少なくするか」という観点で日常生活を送るようにしていきましょう。

Q.このような仕事の仕方をしているとまずい、というものはありますか?

A.心身を病みやすい仕事の仕方は、「手段の目的化」です。ここに、仕事の非効率化の元凶と言える「ムリ・ムダ・ムラ」の原因の大部分が潜んでいるといっても過言ではありません。

手段の目的化というのは、「AをすることによってBを実現する(ゴール)」であるべきだった仕事が、いつのまにか「B」を見失い、「A」を「ゴール」として捉えてしまうことです。すると、本当の成果「B」が見えないまま「A」を追い求めることが目的になってしまい、仕事を苦しくしていきます。非常によくありがちなのが、「売上を〇万円に乗せる」のがゴールなのに、その手段としての「顧客に〇件訪問する」とか、「販促キャンペーンで〇件の新規受注をする」ということそのものがゴールになってしまうような倒錯です。手段が目的化すると、ゴールかと思っていたものがゴールではなく手段であって、いつまでも「成果」が現れてこないので(そもそも「手段」なのでそれ単体では成果と言えないのは当たり前です)、短距離走をずっと続けながらゴールの見えないマラソンをしている気持ちになってきて、仕事が終わりの見えない無間地獄と化します。

手段の目的化は、ある仕事の定義が明確に行われていないときに非常に起こりがちな現象です。メンタル不調者が続出した場合は、まずはこの「手段の目的化」が組織内で深刻化していないかどうか、総点検してみるとよいでしょう。

Q.「仕事の定義を明確にする」ために必要なことは何でしょうか?

A.求める成果を曖昧にせず、ある仕事のゴールを定量的にも、定性的にも明確化することです。定量的な明確化は、「売上額」「前年比」など比較的分かりやすいのですが、もう1つ重要なのが定性的な部分での明確化です。これは一言で言うと、「曖昧な表現を可能な限り具体的に(かつ漏れなく、ダブりなく)定義する」ということになります。

「徹底」「検討」「推進」「処理」「効率的」「管理」「改善」「育成」「理解」「配慮」「概ね」「しっかりと」「十分に」「スムーズに」「分かりやすく」「可視化」などが代表的な「曖昧言葉」ですが、これを「いつ」「誰が「何を」「どうすれば」その状態であるか、を明確化して定義づけるということです。

例えば「新サービスの導入"推進"」であれば、「上半期までに」「営業部員全員が」「新サービスの趣旨を顧客に説明でき」「下半期には担当顧客の30%がその新サービスを導入している状態」を「推進」と定義するとか、「1か月以内の経費精算"徹底"」であれば、「半年後に」「ライン部門の全社員が」「1か月以内の清算を100%遂行できている状態」を「徹底」と定義するなどです。

Q.心と身体の声に耳を傾けるためには、どうすればよいですか?

A.適応障害は、「頭でっかち」になった「脳」が、「心」と「身体」の悲鳴を押さえつけた結果、その無理が祟って発症する病気といえます。現代社会はあらゆる行為に有意義性(価値や重要性)を求めすぎています。その結果として、「今ここ」という身体性や心性は軽視され、「過去を反芻し、未来に備える」ことができる「脳」がきわめて優位となる「頭脳化社会」となっています。これが行き過ぎると、「今ここ」を捉える感性(心と身体の感覚)が摩耗し、有意味性(ここにあることを感じること)の実感、もっと言えば「生きているという感覚」を喪失することになります。これすなわち、適応障害の換言です。平易に言えば、「過度に脳に支配された心身からの悲鳴」ということです。このように、高度頭脳化社会の結果としての適応障害の発症というロジックが成り立つのであれば、適応障害は、「心性と身体性の回復」を要求する心身の症状 (悲鳴)である、と見ることもできるわけです。

そう考えると、適応障害の抑うつ症状というのは、「心と身体のメッセージ」であるということが理解できるのではないかと思います。

例えば、このような「心と身体の声」があるのかもしれません。

▼心と身体の声

往々にして、私たちはれらの症状を「悪いものだ」と決めつけて、頭痛薬を飲んだり、湿布を張ったり、栄養ドリンクで誤魔化したりして乗り切るわけですが、それは「対症療法」でしかありません。

私たちが風邪を引いた時、「寒気」で熱を産生し、「熱」でウイルスや細菌を殺し、「咳」や「鼻水」「下痢」でばい菌を体外へ放出し、「だるさ」で身体を休ませようとします。骨折した時は、「痛み」で障害を負った部位を動かさないように仕向けます。このように「症状」は、「身体からのメッセージ」なのです。適正にこれらの症状を「押さえる」ことはQOLの観点からも有効ですが、実際は「栄養」と「休養」によってしか、自然治癒力は発揮されないわけです。

適応障害も同じです。「眠れない」なら睡眠薬でまず眠る、頭痛は頭痛薬、めまいは抗暈薬、抗うつ症状には抗うつ薬、と適切に症状を寛解させることはできますが、実際にはこれらの「心身のメッセージ」に耳を傾け、それこそ「休養」することでしか、本当の自然治癒はない、ということになるのではないでしょうか。

ということで、本項の結論は「症状の訴える<心身の声>を探る」ということになります。

Q.適応障害の再発は、どのような形で起こりますか?

A.再発するときは、初発の時と同じような症状が表れやすいといわれています。また初発は「身体の不調」→「心の不調」という順番で発症することが多いとされますが、再発の場合は心の易刺激性が高まっているため、いきなり心の不調を自覚することからスタートすることもあるようです。

Q.適応障害には、再発が多いと聞きます。再発を繰り返すと、どんなまずいことがありますか?

A.一説には、1年で4割強が再発するといわれるくらい、適応障害は再発を起こしやすい病気です。

再発によって心身のパフォーマンスが大きく低下し、従前の状態で就労することが非常に難しくなってしまう可能性があることがもっとも懸念されることです。初発では「100%」に戻せても、再発以降は戻せても90%、ということも言われています。

また、最も現実的な問題として、再発を繰り返してしまうことにより、休職期限が来てしまえば退職しなければならなくなる、ということです。休職期限がプレッシャーとなり、焦るから「休むこと」に専念できなくなってさらに体調を崩してしまう、という負のスパイラルに陥ることもあります。

Q.再発を防ぐための留意点はありますか?

A.おそらく発症以前には適わなかった、「自分の素直な声に耳を傾ける」ということと、「必要な時に他者の助けを借りる」という2点を意識することだと思います。より具体的には、次の6点に留意することが重要と考えられます。

▼心身の不調が再発していないかどうかをモニタリングする

▼軽減勤務を絶対に逸脱しない

▼上司とコミュニケーションを取れている状態が維持できている

▼主治医の指示に従っている

▼産業医、人事などとの定期的なコミュニケーション(※)が取れている

(※)会社からは、定期的な面談や、状況を報告するシートの提出など、様々な様子伺いの機会が提供される場合がほとんどです。これらにしっかりと応えられているかも重要な指標です。

▼新たな問題が発生していない

Q.どのような状態を「寛解」というのでしょうか?目安はありますか?

A.適応障害の緩解/寛解は、「症状が消失し、日常生活に支障がなくなり、不自由なく発症前と同じような社会生活を送れること」と定義づけられるでしょう。一般的には、以下のような状態を目安にされるとよいでしょう。

▼症状

▼日常生活

▼社会生活

▼通院・服薬

▼再発防止

Q.復職後の自身のキャリアが不安です。

A.休職は、短期的には業績の査定に、中期的には今後のキャリアに少なからず影響することは間違いありません。しかし、「適応障害になってしまうような働き方」の先にある(はずであった)キャリアが、本当に自分の「幸せ」につながっていたのかというと、そうではなかった可能性があります。休職の機会に、改めて自身の「働き方」を見直してみるとよいでしょう。


【8.よりよい生活のために・・・

Q.再発が不安でたまりません。どうすればよいでしょうか。

A.冷たいものを食べ過ぎて下痢をしたり、風邪で高熱が出たり-といったことは、誰もが一度は経験しているでしょう。下痢も風邪も、「再発するかもしれないし、再発しないかもしれない」ものです。しかしいちいち、「また再発するかもしれない」などと不安に駆られて生きることはあまりありません。やや乱暴ですが、適応障害もこれと同じで、再発するかもしれないし、再発しないかもしれないわけです。はっきりと結論の出ないことであれこれ悩むというよりも、自分の心身の状態をセルフモニタリングし、「適応障害になる兆候」を掴み、早めにケアするという自己管理に意識を集中させるとよいでしょう。

■適応障害についての正しい知識を身につける

適応障害の症状、治療方法などについて、医学的に裏付けられたソースから知識として身につけます。

■休職に至ったときの状態を記録する

休職した時の自分の状態を記録します。環境、症状、気分などをまとめておくことで、「どんな時に発症するのか」という自分が陥りやすいパターンを把握できます。

■セルフモニタリングとセルフケア

自分の心身の声を聴き、症状悪化の兆候を掴んだら早めに休むなど、セルフケアをします。

■生活リズムを整える

睡眠時間、食事の時間、排泄の時間-可能な限り生活リズムを一定にすることで、体調は安定していきます。

■主治医・産業医と連携する

適応障害の症状で「人に攻撃的になる」「疑い深くなる」ということはあるかと思います。気持ちの赴くままに勝手に服薬を中止したり、通院を中断したりすると、再発の可能性も高まり、却っていたずらに治療が長引く原因にもなります。医療のプロである主治医・産業医の指示は、素人である一般人よりもはるかに的確(である確率が高い)です。猜疑心の前に、まずはプロを素直に信じることも必要です。

■変な気張り方をしない

必要以上に気張って頑張りすぎる、過剰に周囲に気遣いをする-というのが疲弊の第一歩です。いつでも気配りは必要ですが、やりすぎは自分にとって毒にしかなりません。

■100%納品をしない

最近のソフトウェアは、完成品納品ではなく、「アップデート方式」に完全に切り替わっています。永久に開発途中(環境変化に応じて改定を続ける)ということです。働き方も、完成品納品主義ではなく、永久に開発途中(環境変化に応じてアジャイルに変化する)に切り替えていくことが不可欠です。環境変化が大きい時代に「完納」を目指すと、あっという間に陳腐化し、新しい環境に適応できなくなってしまいます。

Q.あらゆる業務が降ってきて、中途半端に手を出すと、満足のいく成果が出せません。何かいい方法はないでしょうか?

A.組織の構成員の場合、「単一の仕事だけをする」というのは非常に珍しく、大抵は、メインの業務のほかに、複数の業務を掛け持ちすることが普通ですよね。様々な業務を主幹する部署も縦割りで存在し、それぞれがそれぞれの目標を持って業務をおろしてきますから、「あれも大事」「これも大事」になって、すべての業務に100%の力を割くことは、物理的に不可能です。

結論から言うと、適当にやり過ごすのが正解、ということになります。すべてに100%の力を注ぐ必要はありません。そもそも「それほど力をかけてやらなくてもよい」ことは多いですし、周囲の多くの人は、実は「適当に」やり過ごしていることがほとんどです。額面通りに「重要」とされることすべてに労力を割いていては、いくら時間があっても足りないでしょう。優先順位のつけ方の問題といえばそれまでですが・・・。

上長や主幹部署は、社員が「どうせ100%は聞いてくれない」と思っているからこそ、しつこく業務管理をしてくると考えるのがよいでしょう。複数の業務それぞれに進捗管理表があって、その入力に追われて辟易とする人はごまんといるはずですが、その「すべてに」「100%正確に」律儀に進捗を報告する人はほとんどいないはずです(〆切日を忘れたり、格好悪い数字にならないように見込み値を入れたりなど は誰もが経験していることのはずです)。

繰り返しになりますが、「どうせ100%ちゃんとやるわけがない」と思うから上司や主幹部署は管理を強く言うのであって、社員側は「あー、また言ってるよ」「しょうがない、そしたら今週はこれくらいの数字を入れておけばギャンギャン言われないだろう」と対応するのがオトナというものです。いちいち「正確に」「ちゃんとやらなきゃ」と反応していては、 あっという間に疲弊してしまいます。

「虚偽にならない程度に見込みで動く」「いざというときにフルスロットルを踏めるように、適当に流し運転をする」というのは、何十年も健康で働いていくための一番大切なスキルかもしれません。そしてこれは「スキル」なので、練習すれば必ず(その人なりに)できるようになる「技術」ということでもあります。

Q.業務を流し運転するためのスキルの勘所のようなものはありますか?

A.すごくシンプルに、「業績評価項目」と「直属の上司が興味のあること」の2つです。これ以外のことは、適当にやっても基本的には問題ありません。ここを間違えると、「力の入れどころ」が分からなくなって苦しくなります。

業績評価項目に書かれていることは、部署も上司も、そして個人もその内容で評価されますから、「この項目で評価しますよ」と書かれていることにまずは"全集中"すればよいのです。言い方を変えると、ここに書かれていない要素は、いくら頑張ったところで(定性的な評価は多少上がるかもしれませんが)根本的には「評価」しようがない、というのが正直なところです。このあたりの塩梅を見極めることがまず重要です。

次に、直属の上司が興味のあることです。部署内の会議で上司が興味のありそうなこと、最近よく上司がしゃべっていること、が「上司の興味があること」です。そして、「上司の興味があること」というのは、その上司が参加している「上役の会議」で「取り上げられること」に他なりません。表現を崩して言うと、「上司がその上司から詰められること」です。ここの体裁を整えておけば、うるさく言われることは絶対にありません。

一番まずいのが、業績評価項目や上司の興味のあること「以外」に注力してしまっているケースです。会社には多かれ少なかれ、やめるにやめられない「お荷物プロジェクト」があります。誰かがその処理をしなければいけないのですが、中途半端に数値目標だけ残ってしまっていると、その管理も必要になってきます。ここに妙に入れ込んでがんばっても、誰も得をしない-のですが、入れ込んでしまう人はいるものです。「上司の無理解」によって、入れ込む人自身が適応障害になってしまうこともあれば、ただでさえ忙しいのにこの「お荷物プロジェクト」の数字を(重要度を勘違いした担当者に)詰められて、業務過多で適応障害になってしまうこともあります。これは所謂サンクコストの問題で、「お荷物プロジェクト」は百害あって一利なし、即時「清算」してしまうことが最適解なのですが、それで 仕事が成り立ってしまっている人がいると-そうはいかないのが難しいところです。

Q.何かしようとすると焦ってしまい、業務が回りません。何かいい方法はないでしょうか?

A.焦るとパニクって正常な判断ができなくなり、ますます焦る・・・ということを繰り返すと、「できない」の悪循環が出来上がります。良い方法は、2つあります。1つは、まず徹底的に業務マニュアル(業務手順)に頼ること、もう1つが、「できる人」の「行動」を真似ることです。

■徹底的に業務マニュアルに頼ること

皮肉なことに、「できない人」ほど、マニュアルを無視して勝手な判断で物事を動かしてしまいます。そして、自分で「マニュアルのマニュアル」を作ってしまいます。 これでは余計に時間がかかり、余計な仕事が増え続けることになります。「守破離」と言います。長年の実務で業務手順を知悉してはじめて、「マニュアルの外」に対応できるのですから、「業務手順を舐めてはいけない」のです。

■できる人の行動を真似ること

「電話の仕方」でもいい、「メールの文面」でもいい、まずは何か1つの行動を抜き出して、それを徹底的に繰り返してみるのです。「できる人」の行動には必ず「できる要素」が詰まっています。例えば、「昼食のときの行動」というのもバカにできないと私は思っています。 例えばある「できる人」の昼食の行動(実例)を追いかけてみると・・・

▼できる人の行動例(昼食の場合)

のような共通項が見られます(上記に当てはまらない人も当然います)。これをコンピテンシー・・・とまでいうと大げさかもしれませんが、「できる人」の行動の要素を抽出して、それを真似してみるというのは、「何故その行動をしているのか」を考えること自体が「自分の行動を変革させる」ための訓練にもなりますので、お勧めです。

Q.精神衛生上、あまり意識しない方がよいビジネス用語はありますか?

A.巷にはいろいろ耳障りなビジネス用語が跋扈していますが、次の3つは「また言っているよ」と聞き流すことを強くお勧めします。

■「社員の成長」

今やあらゆるところで「社員の成長」ということが言われます。しかし、会社にとって重要なのは「成果」(売上、利益)であって、社員の成長そのものではありません。「成果」を出せると、その社員は「成長した」と判断されることが多いのですが、「成長」しなくても成果を出せてしまうことはありますし、「成長」したからといって必ずそれが「成果」に結び付くとは限らないのです。「成果を出せ」と言っても言われ過ぎて聞く耳を持たないのが普通ですから、「成長しろ」という言葉で言い換えているだけで、「社員の成長」は会社の目的ではありません(し、そのプロセスですらありません)。会社にとっては社員が成長しようがしまいが実はどうでもよくて、欲しいのは利益だけです。したがって、「言葉遊び」に付き合って「この会社で成長したいです!」と嘯くのは処世術として大いに結構なのですが、罷り間違っても本気で「この会社で成長します」と思って行動しないことをお勧めします。本気でそれをやってしまうと、必ずどこかで壁にぶつかります。繰り返しますが、「成長」しなくても成果を出せてしまうことはありますし、「成長」したからといって必ずそれが「成果」に結び付くとは限らないからです。一般的には「成果」を出せば「成長」していなくても出世しますし、「成果」が出なければいくら「成長」していても出世は難しいでしょう。「自分が成長」することよりも、「どうやったら成果につながるか」を意識して行動したほうが、結果的に徒労感を抱えて生きずに済むことになります。

■「PDCA」

とりあえず「PDCA」と言っておけば仕事をした気になれる便利なワードですよね。生産管理・品質管理とあまり関係のない営業などを含む感情労働系にもこの言葉が下りてきたことで、全体的にちょっとおかしなことが起こっているような印象が拭えません。実際の現場というのは、本来、直感でまず実践してみる→やり直し、といった「動きながら考える」という働き方が普通でした。今は、現場レベルまで「仮説→実践→検証・・」を、あろうことかいちいち文書にもさせて行動管理をしようとしているケースが多いです。その結果、何が起こったか。「会議やミーティング、報告書類の増加」です。しかし、現場において一番大切なのは「実践」のはずです。その実践の時間を削ってでも、「P(計画)」や「A(検証)」に時間を割き過ぎる職場が多くなっているようなのです。現場は「会議漬け」「報告書漬け」で疲弊する一方です。そのくせ、成果を上げるために「実践せよ」では、本末転倒です。

■「再現性」

これもPDCA同様、本来は生産管理・品質管理の用語であって、営業などを含む感情労働系にどこまで馴染む言葉なのかは、甚だ怪しいところがあります。ただでさえ今は環境の変数が多すぎて、単純に「こうすればこれだけ売れる」という予測が立ちにくい時代です。40代のAさんが3年前に首都圏で挙げた実績の出し方が、そのまま20代のBさんが今年、地方で同じように行動して類似の実績を出せるかというと、これは相当に難しいことでしょう。そもそも、ここでの「再現性」という言葉は、ほとんどが「成果の要因を説明できる」とか、「成果を上げるための要素を抽出する」という意味でしか使われていないことに注意が必要です。かなり語の定義を曖昧にして、あまりにも気軽に「再現性」「再現性」と合唱している今の図は、滑稽としか言いようがありません。

Q.休職で迷惑を掛けてしまっていて、申し訳ない気持ちでいっぱいです。どうしたらリカバーできるでしょうか?

A.生きていれば、誰でも何かしらの迷惑を掛けます。まず、「申し訳ない」と思うことはやめ、「リカバーする」という使命感も忘れましょう。自縄自縛に陥ってしまっています。

そもそも社会は相互作用で成り立っています。例えば「水を1杯」飲むだけで、どれだけの人の手がかけられているか。山林を保全し、河川を整備し、ダムを造り、取水堰や浄水場を管理し、上水にして、その水道管を計画して建設して維持管理して、建物に引き込んで、その建物を作った人がいて、家の水道を使える什器を整えた人がいて、コップはコップで原料・生成・流通・輸送・販売というルートを経て、ようやく水を口にできます。余った水は下水道として浄水設備へ流れ、海へと流れていきます。-この経路の1つでも欠ければ、私たちは水を1杯すら満足に飲むことができないのです。

税金にせよ、年金という世代間の扶助にせよ、公教育にせよ、なんにせよ、誰もが誰かに寄りかかって生きているのが現代社会です。こういうのを、「お互い様」と言います。働いて税金を納めて、その結果として人生のほんのわずかの期間を休職しただけなのですから、あまり罪の意識は背負わず、自分の生を生きることに徹するのでよいでしょう。

Q.「規則正しい生活」って具体的にはどういうこと?

A.一般的には、「メタボリックシンドロームを予防するとされる、健康的な生活習慣」のことを指すことが多いようです。ちなみに「脂っこい食事/濃い目の味付けの食事を取りがちである」「野菜が不足している」「甘い飲み物や食べ物を摂りがちである」「間食が多い」「夕食の時間が遅い」「アルコール摂取量が多い」「喫煙習慣がある」「ドカ食いや早食いの傾向にある」「生活リズムが不規則である」「運動不足」 「睡眠不足」などが、代表的な「メタボの危険因子」です。

実際、人間ドッグなどでのコレステロール値の異常(B以下)が認められる従業員の多い職場は、メンタル不調の発生も多いとされます。ここでも、「夕食が遅い」「生活が不規則」「睡眠不足」「 日々の食事において、外食やコンビニ弁当等の割合が高い」などの危険因子が指摘されるところです。

要するに、「規則正しい生活」とは「良い睡眠(規則正しいリズムの睡眠)」「良い食事(食生活)」「良い運動(適度な運動)」のことを指します。これができているのであれば、いかにも身体にはよさそうではあります。ただし、これを金科玉条にして、例えば「一切ジャンクフードを食べない」とか、「夜更かしを絶対しない」というのは、生活から「潤い」を喪失させる行為です。「制限され過ぎた生活」というのも、却って心身に悪いでしょう。あくまでも「こういう風にできたらいいな」の理想像として掲げるようにして、できる範囲で(そして、「やりたい」と自然に思える範囲で)実践すれば十分なのではないでしょうか。

その前提の上で、それぞれを解説していきます。

■良い睡眠

これは一言で言えば「朝起きた時に、疲れが残っていない睡眠」ということになります。睡眠は適応障害とも密接に関わる要素ですので、改善リストをこのQ&A内にも掲載しています。詳しくはこちらをご参照ください。ここで意識しておきたいことは、 「絶対に早寝早起き」とか、「絶対に7時間は寝ないといけない」などとは決して思い込まないことです。 例え「遅寝」であっても規則正しい睡眠のほうがよいとされていますし、「今日は6時間睡眠だったけれど、そこそこ眠れた気がするし、まあいいか」と思えるくらいの「緩さ」で 全体的に捉えることが良質な睡眠にとっては何よりも重要なことです。

■良い食事

「良い食事」には、3つの観点が挙げられます。

▼食生活の基本コントロール

▼カロリーコントロール

▼嗜好品コントロール

経験上、「間食を控えめにする」とその日の体調が心なしか良い気がします(プラシーボ効果かもしれませんが・・・)。何事も「摂りすぎ」というのは身体によくないのだな、と直観されます。
ただし、繰り返しになりますが、カップラーメンを食べたい日は気の向くままに食べればよいですし、夜中に甘いチョコレートをバクバク食べてしまう日があっても良いのです。そういう罪悪感を感じるような食生活をしてしまうことも含めて、「人間らしさ」です。「食べたいときに、食べたいものを食べる」ということは本来幸せなことです。それを「理性」の力で押し込めることだけが、唯一絶対の「善」とは とてもいえないのです。

■運動

運動不足は筋力低下をはじめとする体力・気力の低下に直結します。しかし、「分かっちゃいるけど、面倒くさい」のも事実でしょう。 以下、「運動」について、3つの観点を提示します。

▼記録を取る

▼日常生活に組み込む

▼ストレス解消法と組み込む

こちらも、「運動が絶対」という義務的思考で捉える必要は全くなく、「できればOK」くらいの感覚で気軽に取り組めばよいと思います。以前はNHKの「みんなの体操」を毎日・・が難しくても、週末や週3回くらいでも録画しておいて時間のある時に実践する(オリジナルの体操+ラジオ体操の組み合わせで、10分ほどで終わりますが、 これだけで結構いい運動になります)-というのをお勧めしていたのですが、最近はどうもポリコレ臭が強くなってきてしまい(見ていただければ分かります)、個人的には酷くイライラするようになってきたので(※個人の感想です)、ここは「ラジオ体操」で十分だと思うようになってきました。YouTubeで「ラジオ体操」と検索して、そのまま出てきた動画をみて体操すればまあOKです。毎日できたらとてもよいのでしょうが、週1でも、いや、2週に1篇でも、 少しでも続いたらそれで十分ではないでしょうか。

Q.「運動が大事」というのは分かっているのですが、どうも運動は苦手です。

A.別にそれでいいと思います。「運動しなければならない」と思って無理やり運動しても長続きしませんし、精神衛生にもよくありません。とはいえ、「少しも体を動かさない」というのはおそらく身体に毒でしょうから、運動というほどではなくても、毎日5分でも散歩はするとか、駅ではエスカレーターではなく階段を使うとか、せめて2週に1回はラジオ体操をするとか、風呂上がりにストレッチをするとか、何か代替手段を考えて「も」よいでしょう。ただし、これも乗り気でないときにムリにやる必要はないと思います。

Q.でも運動は大事ですよね?

A.大事か大事でないかというと、大事です。ただ、「運動が大事」とは一般的な「スポーツ」とか、「競技」を指していないことは誰もが承知していることです。「運動が大事」というときの「運動」とは、何なのでしょうか?それは、極論を言えば「さびつかない程度に、ちゃんと身体を動かそうね」ということに尽きます。

コロナ禍で適応障害、うつ病患者が「増えた」と言われています。それはコロナそのものの要因(病気への不安)、コロナに起因する要因(社会不安、経済不安、テレワーク化などによる環境の急激な変化)などがあるでしょうが、もう1つ忘れてはならない要因として、単純に「身体を動かすことが不足した」ということもあるのではないか、と私は疑っています。

通勤をすると、嫌でも駅の階段を上り下りし、ホームの上を歩き、電車の中で立ちっぱなし、オフィスの中では意外と動き回る(コピー機、倉庫やラテラル、会議室への移動、コーヒーを飲む、昼休憩など)・・と結構な量の「動き」をします。通勤時間が1時間半くらいの場合、働きに行くだけで「1日1万歩」を歩けてしまった、なんていうことは結構普通だったわけです。それがコロナ禍でどうでしょうか。下手をすると、1日「500歩以下」なんていうこともあるのではないでしょうか。

どう考えても身体に悪い生活です。健全な精神は健全な肉体に宿る-という格言を持ち出すまでもなく、これで精神を病まないはずが、ないのです。

どうも、「日常のちょっとした動き」をスポイルしてしまったことが、コロナ禍における適応障害増加の一因であるような気がしてなりません。・・・ということは、「日常のちょっとした動き」を意識的にこなすことが、もしかすると「運動は大事」といったときの「運動」なのではないか、と思うわけです。

Q.日常のちょっとした動き、とは?

A.「さびつかない程度に、ちゃんと心と身体を動かそうね」ということです。例えば、以下のようなものが挙げられます。

▼日常のちょっとした動き(例)

Q.通勤も運動ですか?

A.はい。駅の往復、階段の上り下り、電車の中でバランスを取って立つ、オフィス内での移動(家と違って、トイレや給茶スペースなどへはそれなりに歩きます)など結構動くのが通勤です。コロナ禍で、テレワークから久しぶりに出社してみたところ、夜は疲れ果てて寝てしまった・・・なんてはなしはごまんと聞きます。今まで何気なくこなしていた「通勤」が、慣れない身にどれだけこたえるか、ということでもあります。

Q.運動は慣れますか?まず、どうすればよいですか?

A.無理のない範囲で続ければ、慣れると思います。大切なのは「最初の一歩」を踏み出すことと、それを継続することです。「やる気が出るまで待とう」と思ってもやる気は出ませんし、調子に乗って激しい運動をしては、数日と持たないでしょう。

「何もしない」よりは「何か身体を動かす」方がよいですし、せっかく身体を動かすのならば、心拍数が120くらい(個人差アリ)で息が上がる程度の有酸素運動(ジョギング、エアバイクなど)を20分くらい、週2~3回、これを1週間、1か月、数か月・・と続けることで、おそらく精神的にはよい影響が現れてくるでしょう。

Q.休養が不足していることを示すサインはありますか?

次のいずれかに当てはまる場合は、休養が不足している可能性が高くなります。

▼疲れが溜まっていると感じる

▼夜はいつの間にか眠ってしまい、気づくと朝になっていることが多い

▼休日は寝て終わってしまう

▼仕事に集中できない

▼仕事をする意欲がわかない

▼自分の時間が取れないと思う

Q.ストレスへの対処法について教えてください。

A.ストレス反応の発生機序は、「ストレッサー」に、「個人要因」と「環境要因」そして「周囲のサポート」が影響した結果として、「ストレス反応」が起こるということでした。まずは、自分がどのような状況にあるのかを客観的に判断することが必要です。具体的には、「どのようなことにストレスを感じているのか」「どんなストレス状態で働いているのか」「悩み事を一人で抱えやすい状態に陥っていないか」といった、「ストレッサーの把握」「周囲のサポート状況の把握」を行いましょう(できれば、「個人要因」や「環境要因」についても可視化したいところですが、まずは「ストレッサー」の把握が優先です。具体的なストレッサーの中身については、別のQ&Aで取り上げます)。

ここでもっとも有効なのが、「ストレスチェック」を受けることです。点数化することで、「どのストレッサーに暴露されているのか」を客観視できるからです。

そのうえで、「自分に起こりやすいストレス反応」はどのようなものか、を理解しましょう。大きく分けると、「心」に出る人、「身体」に出る人、「生活態度」に出る人、の3パターンがあるようです(もちろん、そのすべてに症状が出る人もいるでしょう)。「ストレス反応」について詳しくは、次のQ&Aで取り上げます。こちらも、ストレスチェックの結果を参考に、自分に出やすいストレス反応の特徴について知るようにしましょう。

これらを受けて、ストレスに対処することを「コーピング」と呼んでいます。コーピングは、大きく分けて「問題焦点コーピング」と、「情動焦点コーピング」の2つに分けられます。

▼「問題焦点コーピング」

▼「情動焦点コーピング」

コーピングの種類は、複数のものを組み合わせるほど有効だとされます。まずは自分のストレスの原因と反応を知り(問題を発見し)、そのうえで「気が晴れる方法」「気分が落ち着く方法」を見つけ、状況に応じたストレス解消を図る(課題化する)ことがストレス対処の鉄則となります。

Q.ふと思ったのですが、そもそも、「適応」する必要ってあるんですかね?

A.その通りです。適応障害というのは、「現代社会の要請」に対する「適応」の「障害」です。ある意味で、人間性を極度に失った現代社会に対して、その感覚を麻痺させることが「適応」とも言えるので、「適応」が常に人間にとって「正常」な状態であるかどうか、というと、それはまた別問題の可能性があることには常々、留意しておきたいものです。

現代組織社会は、人間性を極度に失うことで成り立っています。高度に規格化された「厩舎」に住む「社畜」は、朝になるとまず電波メディアで上級国民によって選択された扇動を無批判に受容し、高度に遺伝子操作された栄養源を補給します。その後、貨物列車と見紛う満員電車に揺られ、無限の自己欲求を刺激する自称「スマート」な電子機器で消費欲を喚起され続けて疲弊します。その後直線的なコンクリートと硝子にプラスチックといった無機物で構成されたオフィスに缶詰となり、およそ生体リズムとは相違して設定された労働時間の限りを効率重視で働かされます。オフィスでは生身の人間の処理量を超えた情報の洪水に四六時中曝され、心身の休息が担保されることはありません。感情よりも利益が優先で、計画と実行のサイクルに追われ続け、常に選択と集中を迫られます。 集団内に蔓延る同調圧力に屈し、組織の原理に従って上の者に忖度することで、自信の倫理観や自尊心を押し殺すことを強制されます。さらに無限の努力と成長を明に暗に常に強いられ、理不尽な要求にただ只管耐えながら、無駄なく効率よく働くことが何よりの美徳とされます。「時は金なり」で、「生産性」のあることだけが「有意義」とされ、何事にも「再現性」を求められます。毎日の食事は単なる「栄養補給」に堕し、睡眠すら生理的欲求と無関係な「時間」で管理されます。今の楽しみよりも老後の不安が優先され、たまの休みは「休養」ではなく「疲労回復」に充てられて終わります。挙句、稼いだ金の4割は上納金として貴族に容赦なく吸い取られ、さらに可処分所得は年々減少するばかり。

-これは、現代人がまったく疑問を持たずに誰もがこなしているルーチンですが、そもそもこれらが人間性を欠いているがゆえに、その適応度合いがエスカレートした時、心身がその「無理」に耐えられなくなり、抑うつ症状として発出せざるを得なくなる、ということでしょう。

繰り返しになりますが、「適応」することが、そのまま人間の「生」にとって真に「よいこと」であるかどうかは、再考の余地があると言ってよいのではないかと思います。

Q.もしかして、「適応障害」になることって、そんなに「異常」なことではないのでは?

A.上述の通り、人間性を極度に失った現代社会に過剰に「適応」し、その結果として「適応」できなくなったが故に「適応」障害を発症しているわけですから、人間の「生」を捉えた時、「適応障害」になるのは人間的にむしろ「正常」な証拠かもしれない、という逆説は成り立つ可能性があります。「適応障害は誰でもなり得る病気です」という言葉は、このような真実を言い当てているかもしれませんね。

人間の「生」と向き合ったとき、適応障害に絶対になり得ない、ないしは、そのプロセスが全く理解できない、という人はまずいないのかもしれません。もし完全に「適応障害」と無縁でいられるとしたら、その人は真の意味で何の悩みもない人類史上最高位の特別貴族か、極めて強靭な鈍感力の持ち主か、はたまた果てしない愚鈍か、驚くほど感情がないか、所謂サイコパスか、要するに「超人間」、ということになりそうです。そしてそういう人が本当に幸せなのか、人間的に「深い」のか、というとそれはまた別でしょうね。

Q.ラクに生きるためにはどうしたらよいでしょう?

A.よく言われることですが、一言で言えば「執着を捨てる」ことです。これは「今ここを生きる」と同義でもあります。「今を生きること」と対置されるのが「過去の反芻」と「未来(将来)への備え」なのですが、特に「過去への反芻(こうすればよかった)」と「将来への備え(こうしなければならない)」は、突き詰めると「限りない欲望への執着」ということになります。他の場所でも書いていますが、「今」が心身の作用で自覚されるのと、「過去と未来」が脳の作用で自覚されることにも留意したいところです。要するに、脳による思考が心身の「今」を支配する構造が「執着」と換言することもできるわけです。すなわち、「脳の支配から心身を解放する」ということが「執着を捨てる」ということになります。

ところで欲望とは、現代においてはマズローの欲求段階説で言うところの「社会欲求」、「承認欲求」および「自己実現欲求」といった高次段階に突入していますから、これはそのまま「生存欲求」や「安全の欲求」を超えた、金銭欲であり、出世欲であり、名誉欲であり、他者の評価欲求であり、集団から隔離された孤独への恐怖からの解放欲求でもあります。自己目的化した現代組織(官僚型組織)はこの欲求を最大限利用しようとします。これが生み出すものは、拝金主義、盲目的な組織への適合、そして行きつくところは人間性を剥奪する過酷な労働環境です。

執着は、最終的には酷薄な環境で生きることを必然的に要求します。したがって、この執着そのものを捨てることが「ラクに生きる」ことの要諦であると言えるでしょう。

そのためには、「スルースキル」を身につけることが有効です。職場で「ストレス耐性が高い」と言われている人を観察してみると、実は相応にストレスで体調を崩すことは人並みにあるものの(胃炎、膀胱炎、巨大な口内炎、肌荒れなどはむしろ普通の人以上に劇症化するケースがある)、決定的な「破滅」には至っていないのです。そのポイントが、どうも「スルー力」にあるようなのです。

スルー力とは、すなわち「受け流す力」です。他者のことを「受容」するというよりは、「ふーん」と、ただひたすら流していく。自分の器に相手の要求を取り込むのではなく、上流から押し寄せてくる「相手の要求」という奔流を「竿」で下流へ流していく、そんな「手さばき」というのでしょうか。あるいは嫌いな顧客が来たら、シャッターや暖簾を下ろしてその時だけ「店じまい」してしまう-そんなしたたかさが「スルー力」の正体です。

このアナロジーは、「執着しないこと」を換言した表現である、ということにお気づきでしょう。そうなのです。「ラクに生きる」とは「執着しない」ことであり、「執着しない」ということは「スルーする」ということだったのです。「意識はするが、気にしない」というしたたかさ。これが「ストレス耐性」と言われるものの正体なのかもしれません。

Q.スルースキルが大切なことは分かるのですが、どうやったらそれを実践できますか?

A.「Hear」だけど「Listen」はしない、「See」だけど「Look / Watch」はしない、ということですね。聞こえてくることは自覚するが、態々「聴き」はしない。見えることも自覚はするが、「観る」ことはしない。その姿勢ですね。「敢えて自分から抱え込まない」「敢えて背負わない」ということでもあるかと思います。

これを大前提に、いくつか実践方法を具体的にご紹介したいと思います。

■インプットされる情報を、「自分の人生にとって必要なこと」だけに要約してしまう

情報がやってきたら、すぐに「自分の人生にとって必要か、必要でないか」を判断します。必要なことであれば受け容れ、そうでないことは即時にシャットアウトします。情報を全部取り入れるのではなく、瞬時に取捨選択するということです。例えば上司から数字のことでネチネチ言われたときに、「ネチネチ」の部分は一切取り込まず、「要するに、次の上役会議に出る時までに、見栄えのいい数字を作っておけってことだろ?」と解釈するのが"正解"です。

■相手の真意や言葉の裏側を考えすぎない

何かを言われたときには、基本的にはその言葉の表面だけを素直に受け取るようにします。極端な例を書くと、京都の人に「いい時計してはりますなぁ(話が長いよ、ボケ)」と言われたら、「ありがとうございます。でもこれ、実はパチもんなんですよ」と笑顔で返すのが"正解"です。

■相手に表面上合わせる

理不尽なことを言ってくるムカつく顧客にも、表情を崩さずに「はい」「そうなんですか」「ごめんなさい」「承知しました」と言っている方がうまくいきます。内心では般若のような顔をしていても、です。

■余計な情報を仕入れない

「自分の人生にとって必要でない」情報を、徹底的に仕入れないようにすることも重要です。例えば、SDGs関連など、「いいことしています」系のアリバイ型の仕事は「私にとってみては」どうでもいいことの筆頭なのですが、こういう「自分にとっての」ブルシット・ジョブは、この世に山ほどあります。こういうのを「脳の自動振り分け」でキャッチしないように行動するだけで、スルースキルは格段に高まります。

こうしてみると、スルースキルが高い人は、ある意味でサイコパス的な要素があるともいえます(ただし、「人の気持ちは分かる」はずですので、サイコパスそのものではありませんが・・・)。

Q.いつも、どうも自分の気持ちの整理がつきません(混乱してしまいます)。何かよい整理方法はありますか?

A.「理想」と「現実」のギャップが「問題」で、その問題を解決する手段が「課題」です。「問題化」と「課題化」を明確にすることが、思考整理の基本となります。

急性期で体調の悪いときには難しいと思いますが、徐々に体調が回復してきて、思考する気持ちの余裕が出てきたら、ノートなどに自分の心の内を書き出していくのもよいでしょう。順番に、思考整理の方法をみていきます。

■問題を発見し、課題を抽出する

まずは、問題を見つけて課題化するところからスタートします。よく言われるのが「To be(理想像)」と「As is(現状)」を書き出すことです。これにより、両者間のギャップ(これが「問題」です)を可視化することができます。
問題が見えてきたら、課題化に着手します。「緊急度」と「重要度」のマトリックスでマッピングしたり、リストアップした課題に「点数」をつけて、定量的に評価をしてみると、客観的に「取り組むべき課題」が見えてくるでしょう。

■アイデアを練る

問題や課題が見えてきたら、そのアイデアを実現可能なレベルに練っていきます。最近よく言われている方法の1つが「マンダラート」ですね(大谷選手でも有名なアレです)。中心のキーワードを9つあげ、そこから派生させたキーワードを9つ、計81個のキーワードを連関させて、目標化するというものです。ある目的を具体的な行動に落とし込むのにはかなり有効なツールだと思います。
ただ、なかなかここまで思考を深めるのは(特に体調が悪いときには)難しいでしょうから、もっとシンプルに、あるアイデアを実施したとき/実施しないときの「メリット」「デメリット」を比較してみるとか(「プロコン表」)、当該のアイデアの「効果」と「実現可能性」をプロットしてみる(「ペイオフマトリックス」)だけでもアイデアが固まってくるかもしれません。
繰り返しになりますが、ポイントは「問題化」と「課題化」です。まずは「気持ち」を書き出すだけになるかもしれませんが、それではただ「気持ちを見えるようにしただけ」になってしまいます。ここから、「問題」を発見し、「課題」にしてはじめて、思考が整理されてくるのです。

Q.睡眠時間は絶対に7時間以上ないといけませんか?

A.いいえ。統計上、死亡率がもっとも低くなる睡眠時間は「7時間(~7時間半)程度」とされているのは事実ですが、この時間は年齢、日中の活動量、その時の体調などにより個人差があります。必ず7時間寝なければならないとやきもきするのは却って心身に悪いですし、そもそも寝すぎるのがよいわけでもありません。

必要以上に長く睡眠を取ったからと言って健康になるわけでもなければ、多少睡眠時間が短くなったところで、すぐに健康を害するというわけではないということですね。

Q.私はショートスリーパーです。毎日4時間くらいの睡眠でまったく問題ないのですが・・・

A.実際に3~4時間程度の睡眠で十分なショートスリーパーとされる人がいるのは事実です。遺伝的な要素も大きいとされます。しかし、大多数は「自称」ショートスリーパーである可能性が高いとも言われています。

目安として、「平日は短時間睡眠で平気だが、土日は昼過ぎまで長く寝るんです」とか、「電車の中や会議中などでよく眠くなるんです」、「昼寝はよくするんですよね」「毎朝寝起きがとても悪いです」という人は、決してショートスリーパーではありません。この場合、基本的に睡眠時間が慢性的に不足しており、心身に疲労が蓄積している可能性があります。まず、平日に十分な睡眠時間を確保するように心がけましょう。

Q.必要な睡眠時間の基準ってあるんですか?

A.はい。「翌朝すっきりした気分で起きることができ、日中も眠気がなく、快活に活動できる」のであれば、必要な睡眠時間が取れていると判断してよいでしょう。

例えば10時間寝てもすっきりしないのであれば、それはこれまでの疲労が蓄積しているのかもしれませんし、睡眠負債が解消していないのかもしれません。自分にとってちょうどよい睡眠時間はどのくらいか、探ってみるのもよいでしょう。

Q.睡眠の質が低下していることを示すサインはありますか?

次のいずれかに当てはまる場合は、睡眠時間そのものの「長さ」に関わらず、睡眠の質が低下している可能性が高くなります。

▼眠りが浅い、すぐ目覚めてしまう、何度も目覚めてしまう、なかなか寝付けない

▼寝る間際までスマホを見てしまう

▼就寝・起床時間が不規則である

▼いびきがうるさいと言われることがたびたびある

▼日中に眠くなりやすい

Q.良い睡眠のために、寝る前にやるべきことはありますか?

A.「副交感神経を優位にすること」です。

代表的なものは、「ぬるめのお風呂に浸かる」「やさしい音楽などでリラックスする」「身体が落ち着くノンカフェインの飲み物(あたたかいハーブティなど)を飲む」といったところでしょう。

また、「睡眠環境を整える」ことも重要です。

寝る前に過ごす部屋の照明を徐々に落とす、睡眠時は部屋を暗くする、遮光カーテンを使用する(外の灯りを室内に入れない)などの工夫で随分と寝やすくなるはずです。

睡眠環境という観点では、「気温と湿度」も重要になってきます。暑すぎても寒すぎても快眠からは遠ざかります。一般的に、夏は26~28度、冬は18~23度くらいの室温に保ち、湿度は50%くらいに保つことが快適な睡眠に必要とされます。次項では、「寝苦しい夜」を避けるため、熱帯夜の室温調整についてみていきましょう。

Q.夏は寝苦しく、睡眠の質が落ちます。どうすればよいでしょうか?

A.日本の夏は、もはや「窓を開けて何とかなる」レベルを超えてきています。極端なことを言えば6月~9月末くらいまで、すなわち1年の1/4くらいは、エアコン(冷房)が不可欠な気候になってきています。一方で、「一晩中エアコンをつけていると喉が痛くなる」という人もいるでしょう(これは別の原因で、カビ掃除をしっかりしたほうがよいということかもしれませんが・・・)。どのような対策を取ればよいのでしょうか。

大前提として、就寝時にエアコンをつけることの是非について述べましょう。結論から言えば、熱中症を防ぐ意味でも、適切にエアコンを使用することは不可欠であるといえるでしょう。「窓を開ける」ことで何とかなるレベルはとうに超えていますし、扇風機の風も一晩当たれば、体調を崩す原因にもなります。

就寝のメカニズムをみると、入眠直後1時間程度は、発汗をしやすい時間帯です。この時間はしっかりと冷房で部屋の空気を涼しくしておくとよいでしょう。入眠後1時間以上たつと、発汗は収まってきます。ここからは、しっかりと汗が乾いていくことが理想です。ここでエアコンがかかり続けていることで除湿状態になるため、汗がしっかりと乾き、眠りやすい環境が続きます。

もし入眠後1時間くらいでエアコンのタイマーを切ってしまうと、湿度が上がって不快になるばかりでなく、汗も乾かなくなるため、寝苦しい状態となります。できれば、少なくとも入眠後3時間程度はエアコンがつきっぱなしになった状態にしておくことが理想でしょう(一晩中つけているのも、問題はありません)。

なお真夏は、太陽が出る頃になると再び部屋の温度も上昇していきます。「朝方に暑くて目が覚めてしまう」とか、起きないまでも「起きた時に汗で身体がべたついている」といったときは、できれば起床時間の1~2時間前に「入タイマー」をセットして、汗が乾くようにしておいたほうが起きた時に熟眠感が得られるのではないかと思います。

部屋の温度は「28度以下」、湿度は「50~60%」が理想です。ここでポイントとなるのは、「部屋の温度」であって、「設定温度」ではない、ということです。

似非エコロジストのせいで、「エアコンの設定温度を28度にしましょう」という科学的に間違った説が出回ってしまったせいで、湿度も高いのに「28度」、部屋の温度が30度近いのに「28度」をかたくなに守っている人が存在します。熱中症一直線と言えるでしょう。そうではなく、あくまでも「部屋の温度」が28度なのです。「部屋の温度を28度以下にして、湿度を50%くらいにする」というのが正しくて、「エアコンの設定温度」は、部屋の温度・湿度が快適になるように調整すべきなのです。

日中を寝室で過ごすことはない、という人は、日中は寝室をそのまま(エアコンなし)にしているということです。これはどういうことかというと、部屋が日中の蓄熱で暑くなっているということになるのです。部屋の蓄熱はバカにならないもので、真夏だと、夜に日中の熱が部屋にこもり、灼熱地獄のようになるということもよくあるのです。ここをエアコンの設定28度で冷やそうとしても、なかなか冷えるものも冷えないのです。ここで寝るというのは、「熱中症になってください」といっているのと同義です。危険なのです。寝る前からエアコンをガンガンにかけておき、部屋を十分に涼しくしておきましょう。

まとめます。「部屋の温度は28度以下、湿度は50~60%」「入眠時の発汗に備えて部屋を十分に冷やしておく」「汗を乾かすために、少なくとも入眠後3時間はエアコンをかけっぱなしに」「朝になると気温が上がるので、できれば起床前1~2時間のタイミングでエアコンを入れておく」「一晩中エアコンを入れても大丈夫。喉が痛くなるのは、カビなど別の原因かもしれません」

Q.良い睡眠のため、寝る前にやるべきでないことはありますか?

A.「交感神経を優位にすること」です。

スマホやPCなどの画面を見ること、激しい運動、持ち帰り仕事や難しい勉強といったものが代表的な刺激物と言えるでしょう。

コーヒーや紅茶などのカフェインを含む飲み物を飲むこと、寝酒、寝る前の食事、喫煙なども眠りの質を妨げるものの代表例ですね。

Q.快眠のために必要なことを教えてください。

A.7項目、まとめてみました。

  1. 睡眠時間は個人差があるので、過度に気にしない。
    →「快適に目覚められて、日中の眠気で日常生活が棄損されない」程度の睡眠が、「ちょうど」と思ってよい。眠くなってから床につき、就寝時間にこだわりすぎない。
  2. 就寝前の刺激は避けて、リラックスして眠る。
    →副交感神経を優位に、交感神経を落ち着かせる。
  3. 「同じ時間に寝て、同じ時間に起きる」
    →規則正しい睡眠習慣が重要。「同じ時間に起きる」優先順位を高くする。
  4. 朝起きたらすぐに日光を浴びる
    →朝起きたら体内時計のスイッチを起動する。
  5. 規則正しく食事を取る
    →食事と排便のリズムを整えることも重要。
  6. 1日20分でも運動の時間を設ける
    →適度に「身体を動かすこと」が睡眠の質を高めることを助けます。
  7. 昼寝は15分程度。3時以降の昼寝は避ける。
    →寝すぎは夜の入眠を妨げます。長くても30分まで。3時以降の昼寝は夜の入眠に影響する。

Q.なぜ、仕事に慣れているはずの中堅社員も適応障害になってしまうのでしょうか?

A.積み重ねてきた経験が、武器にもなれば弱点にもなるからです。環境が変化しても、これまでの経験が生かせて応用できればよいのですが、その経験と自信が、融通の利かない固定観念に変質してしまうと、それが足枷になる可能性もあるのです。これまで「環境に適応できていた」からこそ中堅社員になれたはずなのですが、それは「今後も環境に適応できる」ことを必ずしも約束はしないということですね。

大きな環境変化に対して、意外とレジリエンスが弱かった、ということは往々にしてあることだと思います。

Q.安定してパフォーマンスを上げていたベテランの社員が、突然燃え尽きて休職してしまいました。理由としてどのようなことは考えられますか?

A.大きく分けて、4つの理由が考えられます。

■蓄積疲労

長時間残業、深夜残業、出張の連続、間断のない渉外・折衝・クレーム対応などの加重な労働が続くと、もって1年、長くて3年も続けば破綻します。特に取り掛かっている過酷なプロジェクトがひと段落した時が危険です。

■急激な環境の変化

「環境に最も適応した者は、環境の変化が起こった時に真っ先に滅びる」という言葉の通りで、長年の労働による従前の環境への「過剰適応」が、変化の激しい時代においては足枷になることもある、ということです。

■老化

30代半ば以降、思うように心身がはたらかなくなることを否が応でも自覚するようになってきます。20代では知覚できなかった「衰え」が、これまでと同じような働き方を許さないということです。いつまでも20代の体力・気力で働いてはならない、ということですね。

■組織内での評価

昇進レースからの脱落、同僚や後輩に先を越される、左遷、取り掛かっていた大きなプロジェクトの頓挫・中途解散などは、これまでの仕事人生の「全否定」にもなりかねません。組織にどっぷりと漬かっていた人ほど、このダメージはとてつもなく大きなものとなることがあります。

Q.面倒を見た後輩が何人も離脱しています。もう、教育的行動に疲れました・・・

A.右肩上がりの成長・終身雇用の時代であれば、先輩が後輩を教育する-ということは組織として成立したのですが、もはや右肩上がりの成長は望めず、雇用も流動化していきています。会社に長く勤めれば勤めるほど、「あんなに面倒を見てやったのに・・・」という元・社員だらけ-それが普通の時代でしょう。

結論から言うと、後輩を十年前、二十年前の時代感覚で面倒を見ていく必要はないと思います。強いて言えば、教育の責を負うのは直属の上司だけでしょう。あとは、基本的にはつかず離れずで、「疎外」しない程度に関わり、自分の業務を「阻害」しない程度に教え、あとは野となれ山となれ・・・でよいと思います。そもそも、やめてしまえば赤の他人です。これはお互い様でもあります。誰も悪くありません。

Q.若い社員が立て続けに心身の不調を理由に転職・退職しています。毎年反省を生かし、残業をさせないとか、メンターだけでなく部署全員で声を掛け合うとか、客観的に見てかなり「やさしさ」を追求しているつもりなのですが、それでも毎年この状況が続いています。職場に何か問題があるのでしょうか?

A.よく笑い話で、OJT(On the Job Training)は「お前ら 自分勝手に 適当にやれ」の略だといわれていた時代があります。こういった放任型の職場環境で、新人がつぶれてしまう・・というのはよく聞いた話です。ただ、それも過去の話。今はその裏返しとして、「お膳立て(あるいは「惜しみなく」) 十分に 手取り足取り」なOJTになっている過保護な職場も多いのではないでしょうか。それでも、若手の離職率は減りません。

要するにこれは程度の問題で、手をかけ目をかければよいというものではないのです。釣った魚を、物珍しいからと言って手で触りまくったら、たちまち弱ってしまうのと同じです。過剰な成長管理は息が詰まるだけですし、何人もの人から際限なく飛び交う適当な「アドバイス」ほど、取捨選択に困るものもありませんからね。「そっとしておく」という対応も時には必要なのです。

消費者的な立場で、「何もしてくれない」という立ち位置でいるのも考え物ですが、あまりにもお膳立てをしすぎて「窮屈」な環境にも人が寄り付かなくなります。WLB(ワークライフバランス)だけをやたら充実させたところで成長できる環境ではない(ぬるすぎる)のも、それはそれで若者的な (いい意味で青臭い)「やる気」をスポイルする場合があります。もちろん、業績優先でWLBなんてもってのほか-なんて旧時代的な対応は論外ですが・・・。いずれにしても、それだけバランス感覚が必要ということでしょう。

おそらく、若手が立て続けに退職する部署というのは、そのあるべきバランス感覚をどこかで喪失してしまってる可能性が高いと言えます。生物としてのヒトの生存にとって、何か極端なことをしていないか、抜本的かつ客観的な点検が必要ということでしょう。

Q.最初は「1か月で戻ってくる」予定だった休職者ですが、結局復帰まで1年と長引いた挙句、1年後にまた再発してしまいました。このような人が職場に多くいます。なぜでしょうか。

A.「1か月で戻ってくる」というのは、最初の医師の診断書が「1か月」だったからで、経験の少ない上司や職場はそれを「1か月後に治る」と思い込んでしまいがちです。しかし、このQ&Aで記載の通り、「1か月」で戻ってこられることはまずなく、どんなに短くても「3か月」はかかり、さらに戻ってからも少なくとも半年~1年くらいは再発を防ぐための軽減勤務を課されることになります。

適応障害は、ストレス源から離れ、適切な投薬で症状を押さえ、認知行動療法で認知の歪みへの気づきを得られることで、確実に寛解を見込める病気です。しかし、ストレス源に戻り、服薬をやめ、認知が再び歪めば、容易に再発することでも知られています。なぜ、再発は起こってしまうのでしょうか。

結局のところ、職場には独自のカルチャーが根付いています。体育会系と文化系、功利主義と利他主義、営業重視と開発重視など、様々な要素が複雑に絡み合って組織カルチャーを形成しています。

社員がメンタルダウンした際は、一般的に「組織そのものの認知の歪みを修正する」という行動が採られることは稀で、「個人をどう再適合させていくか」という、個人の問題に矮小化していくことがほとんどです。この場合、復職時には(特に変わっていない)休職時と類似の環境で復帰することが普通、求められるのです。 すると、何も変わっていない職場で、結局同じ労働環境が招来され、まったく同じ症状を発症してしまう-ということはごくごく当然の帰結であると言えるでしょう。

Q.テレワークを導入してから、メンタルを病む社員が急増しました。因果関係はありますか?

A.まずは、「本当にテレワークだけが原因か」の精査は必要でしょう。たまたまコロナ禍における社会不安と重なった、その他の働き方改革施策との不整合、会社の業績が急拡大(急縮小)して業務の性質が変わってしまった、他の要因で人間関係が悪化したなど、様々な環境変化が原因となっている可能性もあるからです。またメンタルを病む社員が急増するときは、大抵の場合は複合要因が絡み合っていることがほとんどで、 単純に「テレワークのせいだ」と短絡的にはいえないところもあります。

とはいえ、「テレワーク」が労働者のメンタルヘルスに大きく影響すること自体は、徐々に明らかになってきています(今は、世界全体で「社会実験」をしているようなものです)。テレワークでメンタルヘルスを棄損してしまう原因は、例えば以下のようなものが考えられています。

▼仕事とプライベートの境目が曖昧になる(切り替えができなくなる)

▼リアルコミュニケーションの減少

▼孤独化

▼相談・雑談の希薄化(薄まるラポール、心理的安全性)

▼帰属意識の希薄化

▼タイミングのずれ

▼即レスによる疲弊

▼運動不足

▼家族に気を遣う

▼注意散漫、集中力低下

▼業務環境の質が低下

▼仕事に終わりがない

Q.「テレワークうつ」を起こしやすい人はいますか?

A.従来のメンタルヘルス障害は、人のコミュニケーションが不得意で(「社交度」が低く)、「自立度」も低い(他者評価依存型)タイプの人が発症しやすいと言われていました。しかし、テレワーク中心の状況下においてはどうやら様相が異なっているらしいことがわかってきています。 実は「テレワークうつ」(テレワークによる適応障害)と呼ばれる現象は、社交性は高いものの、他者評価に依存しがち(「自立度」が低い)な人がもっとも罹りやすいと言われているのです。 以下、「社交性」「自立度」の観点で各タイプの特性を見ていきましょう。

▼もっとも罹りやすいのは「社交性」が高いが「自立度」が低いタイプ

もっとも、従来もっとも適応障害と親和性の高かった、「社交性」が低く、「自立度」も低いタイプが適応障害にかかりやすくなくなったのかというとそのようなことはありません。

▼もともとの適応障害予備軍、「社交性」が低く、「自立度」も低いタイプは・・・

一方で、「社交性」が低く、「自立度」が高いタイプの人はどうでしょうか。

▼「社交性」が低く、「自立度」が高いタイプは

では、残る「社交性」が高く、「自立度」も高いタイプはどうでしょうか。

▼「社交性」が高く、「自立度」も高いタイプは

Q.これまでと同じ仕事をしていても、テレワークになってから適応障害を起こすことはありますか?

A.あり得ます。仕事内容が同じでも、勤務環境が大きく異なるからです。比較的早期にテレワーク環境に慣れることができる人もいれば、なかなか慣れることのできない人、どうしてもそのような勤務環境に馴染めない人、様々考えられるでしょう。

テレワークと親和性が低い人の場合は、第一に「気持ちの切り替えができない」という原因が考えられます。一見すると「通勤時間がないこと」はメリットのように思われがちですが、意外と駅に向かって、マインイン電車に乗って・・というルーチンが、その人にとっては気分転換になっていたということもあり得るのでしょう。

また、「扱う情報が多すぎる」という問題もあります。そもそも通知が多すぎる(マルチタスクを強いられる)という問題のほかに、そもそもの情報があまりにも不自然という問題があります。これはどういうことかというと、どうしても「画面と自分」というバーチャルな空間に身を置くことで、「現実で起こっていること」と「頭の中で発生していること(目で見ている、音で聞こえている)」ことに微妙な乖離が生まれているということがまず挙げられます。すなわち、「音のずれ」「表情が見えない」「相槌が確認できない」など、ビデオ会議を通じて通常の会話をしているようで、まったく普通の会話状態になっていないということですね。この「ずれ」に知らず知らずのうちにストレスを感じてしまっている可能性があるのです。また、送信される情報は常に「取捨選択された情報」であって、メールであれチャットであれ、ビデオ会議であれ、相手の「細かいニュアンス」「真意」といったものを推し量るのが極端に難しくなってしまっています。そして、意外と大切なのが「空気」です。人は「場」に合わせて何となく空気を察して立ち居振る舞いをするものです。オフィスにいれば感じられた、上司がイライラしているときの「緊張感」、偉い人が大勢いる時の「緊迫感」、上司がいなくて何となく「弛緩した空気」などが一切感じられないため、「場」の状況をなかなか捉えることができない、という問題もあります。

こうした結果、脳が処理オーバーを起こし、「脳疲労」のような状態が持続するケースもみられます。この状態が続けば、やがてその状況へ適応することが能わなくなる可能性もあるといえるでしょう。

Q.「テレワークうつ」を防ぐ方法はありますか?

A.現状、「テレワークが人間に及ぼす影響」は科学的な評価すら十分に定まっていない状況であると言えます。まずは、「どのような状況でメンタルを棄損するのか」という観点を知り、不調の「気づき」の材料を増やすことが大切だといえるでしょう。 上述の「テレワークうつを起こしやすい人」の類型で確認したように、少なくとも、「これまで適応障害にならないと思っていた人たち」も、適応障害の「予備軍化」している可能性だけは注意しておくに越したことはないでしょう。

本来テレワークには「酷薄な通勤環境を改善する」「時間と場所に制約されない働き方が実現できる」「オフィスなど固定的なコストが削減される」「ワーク・ライフ・バランスの改善に貢献する」といった計り知れないメリットもあります。しかしながら、「万能の働き方ではない」ことが見えてきたことも事実です。理想は「リアルワークとテレワークのハイブリッド」、すなわち中庸ということになるのでしょうが、その塩梅はここから人類が「実験」によって導いていくほかありません。

中庸に至る過渡期にいる現代人ですから、その過程で「適応」障害が発生するのは、ある意味で「正常」な反応だと言えるのかもしれません。

以下のページもご参照ください。

Q.会社では働き方改革をはじめとしたWLB施策やメンタルヘルス対策をしっかりとっています。それでもメンタル不調者は一向に減りません。なぜでしょうか?

A.組織に巣食う病巣を「全社的」にしかみておらず、総花的な施策しか打ち出せていないからだと思います。

そもそも、人が「ストレス」「悩み」と感じることは千差万別です。

現場・ ライン部門は「あまりにも多忙で有給が取れない」、本社・スタッフ部門は「WLBは充実しているが、仕事にやりがいがない」といった部門間の悩みの差。 若手社員は「上がつっかえていて新しいことに挑戦させてもらえない」、中堅社員は「ゴールの見えない仕事ばかりで厭戦気分」といった世代ごとの不満の差。 このほか、「男女差」「役職差」「都市部と地方部の差」など、挙げればきりがありません。

本来は、「どんな社員に向けて」「どんな働き方改革施策を」「どうやって取り入れていくか」を細かくアプローチしていくしか解決し得ないことなのですが、多くの場合は そこまで人的にも金銭的にもリソースを割く余裕がなく、全社一律にWLB施策が打ち出されているのが普通です。

まずは施策ごとに対象となるペルソナを設定し、1つ1つ潰していく・・・しか解決策はないでしょう。ペルソナを碌に設定せずに一律の対策を続けているだけでは、永遠のいたちごっこが続くことは間違いありません。 もっとも、「全員が満足する制度」などは絵空事にほかなりません。

Q.会社が、メンタルヘルスの一環として「特別休暇を社員に付与する」と通達してきました。しかし、どうも的を射ていない気がしてしまいます。

A.その通りですね。「特別休暇」ごときでメンタルヘルスが保たれるようでしたら、とっくに有休を消化してでも休んでいる、という話です。会社の「対策していますよ」というアリバイ作りという要素が透けて見えるのが、 その違和感の正体ではないでしょうか。

会社でメンタル不調者が続出していると、経営陣も「まずい」となり、当然ですが産業医からも「対策を取らないと危険ですよ」というアドバイスが出されることになります。ここでそれなりの企業が慌ててとる方法の1つが、全社一律の「特別休暇」の付与です。有休とは別に、5日~10日程度の休暇を特別に付与するといった、経営陣から従業員への"労い"-というか、ご機嫌取りの手法です。奴隷も休ませないと、しっかり働いてくれないわけですね。コロナ禍で、 そこここの企業で散見された施策の1つです。

しかし、このQ&Aでも何度も記載している通り、過労やメンタル不調が蔓延している職場の場合、多くの労働者の受け取り方は「こんなに忙しいのに、休めるわけないだろう!?」です。場合によっては、「スタッフ部門の人間は大手を振って休めるだろうが、数字に追われる現場はそうはいかないんだよ!」と受け取られてしまい、却って社内で経営陣への怨嗟を拡大することになりかねません。

メンタル不調者が急拡大しているときは、このような小手先の懐柔策では何も解決しません。当座しのぎの弥縫策と言ってよいでしょう。繰り返しになりますが、生半可な対策では、組織には経営陣への不信と怨恨が蔓延することになるでしょう。

ここまできてしまうと、しばらく組織は停滞します。離脱者が増えることで、利益も上がりにくくなってくるでしょう。できれば、そうなる前に手を打ちたいものです。

Q.すべての人が働きやすい職場というのは作れないのでしょうか?

A.残念ながら、絶対に不可能です。世代(人口ボーナス世代と人口オーナス世代)、性別、職種やキャリアデザイン(総合職・一般職・地域限定職、正社員・非正規社員)、ライフワークの志向性(仕事中心か家庭中心か)、仕事に求める価値(収入、やりがい、社会貢献)、 年齢(体力と気力の差)、ライフステージ(独身、結婚、単身赴任、子どもの独立、介護など)が一人ひとり全く異なるからです。

そしてそもそも、本当に「すべての人にとって」である必要があるのか、という問題もあります。

ここで、「会社が求める志向性」と、「会社に必要なスキル」のマトリックスで考えてみましょう。前者を「ビジョンの合致度」、後者を「能力の適合度」としてみます。

▼「ビジョンの合致度」が高く、「能力の適合度」も高い社員

それでは、続けてこれ以外のケースを見てみましょう。

▼「ビジョンの合致度」が高いが、「能力の適合度」が低い社員

▼「ビジョンの合致度」が低いが、「能力の適合度」が高い社員

▼「ビジョンの合致度」も「能力の合致度」も低い社員

さて、このように書いてみると、「ビジョンの合致度」や「能力の適合度」のいずれか(または両方)にミスマッチをおこしている場合、必ずしもその職にとどまることが、個人にとっても、組織にとっても「善」であるとは言えない、ということがいえるかと思います。とくに両方にミスマッチを起こしている場合は、「無理をして会社に残らないほうが幸せ」ということも十分にあり得るのです。

しかし、総花的な働き方改革を行う会社にはよくありがちなのですが、こういった「ギャップ層」にまでも「働きやすさ」を重視して一律の社員つなぎとめ施策を取り入れてしまうことが起こります。すると、本来は残らないほうが幸せな可能性もある層まで、「このまま会社にいよう」という「ぶらさがり現象」が惹起され、それに嫌気がさした優秀な層(上述のハイパフォーマー層)が転職をしてしまう、といった現象が起こってしまうこともあるのです。これでは、会社の活力は削がれる一方でしょう。こうしてみると、安易な「働き方改革」は諸刃の剣でもあるといえます。これは、「過剰な規制や補助金漬けで旧態依然とした業界の古い体質が生き残ってしまい、新規参入を妨げて結果的に社会の活力を奪う」とか、「大企業正社員の旧来の権利だけを守る政府の御用組合が、大多数の労働者の権利を棄損している」という、現代日本の生産性の低さの原因となっている現象を、1つのアナロジーとしてみることもできるかと思います。

ということで、「すべての人」という主語で働きやすさをデザインすることはナンセンスです。あれだけマーケティングをするときはターゲットとなる層を定め、その層にピンポイントに刺さる販促施策を検討しているというのに、こと社内のこととなると、まるで社員が皆同質であるかのように同一の施策を当てはめようとするのは、時代錯誤も良いところです。本来は、「誰に」「どんな施策を」「どうやって進めていくか」を、1つ1つ、丁寧に設計していく必要があるといえるでしょう。

さらに、今はここへ「ダイバーシティ」の観点が加わることも忘れてはなりません。すでに「家族手当とLGBT」などのような多くの「多様性」に向けての問題が、日本のあらゆる組織の水面下で蠢いています。ますます、「すべての人」を想定することの陳腐さが、ここへきて 更に際立ってきているといえるでしょう。

Q.メンタル不調を完全に防ぐことは難しくても、「快適性を上げる」ための改善はできると思います。働きやすい職場づくりに向けた改善のポイントにはどのようなものがあるでしょう?

A.働きやすい職場とは、疲労やストレスを感じることが少ない職場環境のことを指します。職場のハード面(明るさ、清潔さ、通いやすさ、人間工学に基づいた最新の作業環境、休養 の設備など)がいくら整っても、人間関係や処遇、労働負荷などのソフト面で強いストレスを感じるようであれば、それは決して「快適な職場」とはいえません。そこで昨今は、ハード面の取り組みだけでなく、ソフト面の観点への取り組みが着目されています。以下7つの領域について、見ていきましょう。

■領域1:キャリア形成・人材育成

いわゆる「成長する風土」のことです。個人の成長と組織の成長は密接にリンクしています。「成長ハラスメント」というべき外圧による「成長圧力」ではなく、「成長」を内在化できている組織は個人のモチベーションを高めやすく、結果として個人の「成長実感」や「自己効力感」にも作用し、快適性を高める誘因となります。

▼組織ビジョンを明確にした人材育成

組織において、「求める人材像」の要件を明確に定義することが肝要です。そして、明確な人材像の定義に必要なのが、組織ビジョンや理念です。「目指す状態」と「そこで働く人物像」は首尾一貫していることが必要なのです。

▼人材経費から人材投資へ

教育は「コスト」ではなく、組織の将来に向けた「投資」であるという発想を持つようにします。教育は即効性の高いスキル・知識教育から、時間をかけて身に着けていく経験型の学習など、様々なスタイルがあります。顕微鏡と望遠鏡、両方に視点を合わせた教育プログラムの設定が不可欠でしょう。

▼キャリアモデルの形成

制度として「箱」を作ることはできますが、その「箱」を活かしてキャリアを形成していくのは、従業員自身ということになります。意図的に作るであれ、結果として(優秀な人材によって)作 られたものであれ、「モデル」となるキャリアパス、成長の方向性が提示され、 キャリアモデルをイメージして日々の業務に励む流れが確立されると、その組織で働く「可能性」がリアルにイメージできるようになり、個人の内発的な成長が加速することになるでしょう。

▼個人の主体的なキャリア形成意思の醸成

キャリアモデル形成と合わせて意識しておきたいのが、個人のキャリア意識の醸成です。しばしば、組織の思惑と個人の意志・希望は合致しませんし、自分勝手な「我儘」は許されるべきものでもありません。ただし、 時代の要請を鑑みても、意に反した異動や配置転換を行うときには会社側の「説明責任」が生るといってもよいでしょう。個人と組織の関係が変化している過渡期において、「個人の目指す状態」と「組織が達成したい状態」をつないでいく試みを続けることは、仕事の働きやすさ、働きがいや、そもそもの環境の快適さにも直接・間接に影響するといえるでしょう。

▼成果・貢献による成長実感

100の座学よりも、1の実践です。 「勉強会」を開催する、目標を書かせるといったアリバイ作りで満足するのではなく、実際に「成果」を実感できる経験を現場で積むことを最優先できるような仕組みを構築することが何よりも大切です。その際は、「 いきなり大きなホームランを狙うよりは、小さなヒットを積み重ね ていく」というような、少しずつ「成長実感」を持てる実践経験を積み重ねていくというメッセージを経営陣が発していくことも重要になってきます。

◎キャリア形成・人材育成領域チェックリスト

  1. 意欲を引き出したり、キャリア形成に役立つ教育が行われている。
  2. 若手のうちから、将来のキャリアプランをイメージした人事管理が行われている。
  3. 教育の目標が明確である。
  4. 必要な時に必要な教育・訓練が受けられる。
  5. 従業員の成長が大切だと考えられている。

■領域2:人間関係

快適な職場を構成する最重要の要素が「人間関係」です。組織化の目的は、そもそも、1人では成し得ないことを、所属するメンバーの「協働」と「連携」によって達成することです。そして協働と連携は、メンバー相互の信頼関係によって成立します。ラポールが十分に形成されていない職場では、協働や連携が機能不全を起こし、効率的に成果を上げることができなくなるばかりでなく、快適性も棄損してしまうことになります。

▼上司のマネジメント

職場の人間関係で最も影響力が強いのが、「評価者」「被評価者」の関係、すなわち「上司と部下」の関係です。管理者の在り方・マネジメントスタイルは、そのまま部下の「働きやすさ」「成果創出の効率性」に直結します。上司は、自分の言動が部下にどのような影響を与えているかを不断にセルフレビューし、常に改善を図っていく必要があります。また、部下が積極的に報告・連絡・相談ができるような仕組みになっているか(「気づいたら部下が壊れていた」とか、「どうしてこんなになるまで放っておいたんだ」というトラブルが起こる背景には、「相談のしにくさ」-ラポールの未形成-が挙げられることがほとんどです)ということを、常に意識しておきたいものです。
ちなみに、部下とのコミュニケーションを増やすためにせっかく「1 on 1」を実施しても、それが「上司が部下を詰める場」になってしまっているというケースをよく聞きます。これではラポールが形成されるどころか、まったく「心の架け橋」がかからないまま、「またあの時間が来た・・」と部下には疎まれ、ストレス源を拡大しているだけになります。こうした「勘違い1 on 1」が横行していないかどうか、もよくよく点検が必要です。

▼縦のつながり・横のつながり

いわゆる「ギスギスした職場」には、組織本来の目的である「各メンバーの強みを集合し、一致協力して目標に向かうことで、効率的に成果を上げる」という雰囲気がありません。相互信頼が形成されていないのです。これは、極端な成果主義や業績主義の影響で、同僚間の競争が酷薄なものとなり、「協力すると損」と思われるような意識が、各メンバー間に醸成されていないことが原因です。ここまで極端ではなくても、近年はテレワークの普遍化によって、コミュニケーションの絶対量の低下や関係の疎遠化によって、職場の人間関係の悪化ないし希薄化は加速度的に高まっています。
人間関係の良好さは、コミュニケーションの量に比例します。関係改善を図るためには、コミュニケーション量を意識的に増やす必要があると言えます。仕事の内容でコミュニケーションを増やしていくというよりは、日常の挨拶、雑談、敢えてリアルに集まる会議の設定、昼休みの声掛け、親睦的な食事会(いかにも気を遣う旧来の飲み会ではなく、職場内でもよいので、お昼に1時間くらいかけて「豪華なお弁当を食べる」程度のもので十分でしょう)といったコミュニケーションが、ラポール形成にはより望ましいと言えるでしょう。

▼相互支援と協働

組織が大きくなればなるほど、個人の仕事は、全体の「部分」となっていきます。言い換えると、高度な分業化が進めば進むほど、構造的に連携や協働ができなくなる(相互にサポートもしにくくなる)という傾向がみられます。
敢えて近似の業務担当者同士をペア化する、共通業務をシェア化する、業務を長年固定化せず、一定程度ローテーションさせるなど、特定の業務を「知っている」「触れたことがある」人を組織内で意図的に増やし、過度な属人化を防ぐことも重要な観点です。

▼リアルなコミュニケーション

コロナ禍を経て、メールやチャットといった「文字情報」、電話やビデオ会議といった「音声情報」「映像情報」-それ「だけ」で業務が完結してしまうことが激増しています。情報を取り扱う効率は高まっているかもしれませんが、一方で人間関係という観点においては、「頭脳」の処理領域が肥大化する一方で、「心」「身体」の処理領域がスポイルされるという意味で甚だ不自然なものであり、「疎外化」「孤立化」が進む一方です。何事も中庸が肝心です。敢えて「リアルなコミュニケーション」(対面コミュニケーション)を組み込むことも、「快適な職場」形成のためには重要なファクターと言えるでしょう。
といっても、「社員旅行」「会社の運動会」「社員の親睦会」「頻繁な飲み会」は、いかにも古い価値観で、現代の多様な働き方・価値観にはまったくマッチしていません(オフの時くらい会社の人の顔なんて見たくない、という人にとってはこのような「余計なおせっかい」は、ストレスでしかないでしょう)。メンバーには、メンバーそれぞれの人生があり、家庭があり、個人の領域があります。あくまでも「仕事の場において」リアル・コミュニケーションの機会を形成していくべきでしょう。

◎人間関係領域チェックリスト

  1. 上司は、仕事に困ったときに頼りになる。
  2. 上司は、部下の状況に理解を示している。
  3. 上司や同僚と気軽に話ができる。
  4. 上司と部下が気兼ねない関係にある。
  5. 上司は、仕事がうまくいくように配慮や手助けをしている。

■領域3:仕事の裁量

「裁量」とは、「任される度合い」のことを指します。自らが担当する仕事において、自分の考え・想い・アイデアを反映できること、自分の判断で物事を進められることは、自らの主体性や独自性を発揮できるという意味で、自己効力感や快適性に影響し、自らのアイデンティティ(存在感、存在意義)にも直結します。高度化した現代組織では、仕事が全体の「部分」となり、ルールやマニュアルも厳格に定められることが多く、「独自性の発揮」が困難であるケースも多いと考えられますが、それでも、どのような仕事であっても、その制限の中で自らの「主体性」「独自性」「創造性」を発揮することが、自分にとっての「働きやすさ」「働きがい」につながっていくことは疑いようのない事実です。

▼主体性を活かす-権限委譲と裁量拡大

組織化の目的は、「メンバーそれぞれの個性(強み)を活かし、その総和によって、共通の目標を効率的に達成していくこと」です。メンバーの「強み」を発揮できる業務分配が効率的な成果創出の要諦ですし、リーダーシップ行動もメンバーを「支援」して目標達成に「導く」ことが理想とされています。旧来型の「管理・指示・命令するだけのマネジメント」ではなく、いわゆる「引き出すマネジメント」ですね。職場の快適性や活性に必要な要素は、個々が「主体性」と「独自性」、そして「得意なこと」を発揮できることにこそありますから、「信頼して任せる」という権限委譲(ときに移譲)と裁量拡大の発想は、極めて重要な概念であると言えましょう。

▼現場の意見を大切にする

総論では「現場に耳を傾ける」「一人一人と向き合う」と言っても、各論として本当に現場の意見や見解が取り入れられることはほとんどありません。大抵は、上層部や現場感覚のない「貴族」が思いついたことを、現場が「翻訳」して実行にあたる、ということで社会が成り立っています。組織の情報伝達の本質は「伝言ゲーム」です。トップダウン型の上意下達であれ、ボトムアップであれ、情報は移動するうちに「変容」するものだということを前提に、コミュニケーションをしていく必要があります。

▼組織のフラット化

情報伝達のロスを減らし、意思決定のスピード感や裁量度を上げる最も簡潔な手段は、組織そのものをフラット化することです。「バトン役」である中間管理層を減らすことで、顧客・現場・経営層のルートを近づけられるという効果が期待できます。
一方で、フラット化を進めすぎると「現場の社員1人当たりの裁量が拡大しすぎて業務加重状態を招く」という事態や、「対外的にも対内的にも、業務の責任の所在があやふやになる」といった問題、さらに「役職が減ることで、組織内で目指すステップが見えにくくなり、モチベーション形成を疎外する」といった状況など、弊害も見られます。「白い巨塔」化するのも問題ですが、「フルフラット」化にも問題があるということですね。美術的に形容すると、「一定の陰影はつけておかないと、組織が立体化しない」ということでもありましょう。

▼「正義」の「本音と建前」を現場でコントロールする

コンプライアンス、環境経営、SDGs、セキュリティ、個人情報保護、ダイバーシティ、働き方改革、情報開示、LGBT、女性活躍、世界平和、ポリティカル・コレクトネス・・・これらの 「正義」を体現するかのような言葉を聞いて、本音ではしかめっ面をしたり、「うっ」と思ったり、内心舌打ちをしたり、「またそれか・・」とうんざりしたり。そういう人も多いのではないかと思います。これらの概念は本来「よいこと」のはずなのに、なぜか胡散臭く、そして「近寄りたくない」ものに聞こえてしまいます。本音と建前の乖離ともいえ、実に本末転倒な現象と言えるでしょう。
こういった用語が胡散臭く聞こえてしまうのは、第一に「道徳」概念が「商売(カネ勘定)」に取り込まれてしまっているということへの、本能的な忌避感なのではないかと思います。そして、「風紀委員」的に、ある意味で一方的ともいえる「正しさ」を押し付けてくることへの拒否感もあるのでしょう。こうした「忌避感」や「拒否感」は、きわめて自然な感情であり、そういった感情を「否定」することは何者にもできません(それこそ「内心に土足で踏み込む」行為ですから、ポリコレに反しています)。こういった「正義用語」に私たちが息苦しさを覚えるのは、「内心への介入」があるからなのでしょう。正義化した社会が、「適応障害」の発生をさらに助長しているということは、皮肉なことに否定できない現象ではないかと私は観察しています。

「白河の清きに魚も棲みかねて もとの濁りの田沼恋しき」

私は、この「正義の暴力」ともいえる昨今の社会状況をみるだに、江戸時代の有名な狂言を思い出します。白河の老中松平定信が行った「寛政の改革」。厳しい財政改革が経済を停滞させ、文化も廃れさせてしまったことで、改革は頓挫しました。腐敗政治で失脚した老中田沼意次の時代は、たとえ政治は混乱していても、経済は発展し、生活が豊かになり、文化も爛熟。そんな田沼時代が懐かしい・・・という強烈な風刺です(200年以上経った今の時代に語り継がれているということは、それだけ本質をついた風刺だということができるでしょう)。
「水清ければ、魚棲まず」とも言います。清流過ぎると、栄養も細ってむしろ魚が住めない場合もあるのです。最近の例では、汚水処理技術の発展で瀬戸内海の漁獲量が激減しているというニュースもありました。生物は、きれいすぎるとむしろ「快適に生きていけない」ということがあるのでしょう。殺菌や消毒の結果、抵抗力が落ちる-ということもよく言われます。アレルギーの原因の1つが、この「きれいすぎる環境にある」とさえ言われています。
このように 正義は、「有無を言わせない」という宿痾から逃れられず、ときに 窮屈で、もっと言えば暴力的です(正義の味方であるアンパンマンも、プリキュアも、ウルトラマンも、ゴレンジャーも、仮面ライダーも、その元となる思想はともかくも(※)、「力」によって「悪」を制します)。上記で例示した「よいこと(コンプライアンス、環境経営、SDGs、セキュリティ、個人情報保護、ダイバーシティ、働き方改革、情報開示、LGBT、女性活躍、世界平和、ポリティカル・コレクトネスなど)」も「正義」であるがゆえに、本質的に暴力性を内在しています。いわば「きれいな暴力」です。これを現場で「翻訳」して、逆説的ですが暴力に潜む「毒気」を中和し、無毒化(あるいはせめて弱毒化)した上で業務ラインに載せていくのは、まさに上司・管理職の力量であるといえるでしょう。「毒」を持ったまま業務ラインに供すれば、その毒気に当てられて、心身を病んでしまうのはいわば必然ですらあるのです。

(※)一応、ファンの方に怒られないように書いておくと、例えばプリキュアは「正義の味方」ではなく、「自分たちの大切なものを守るために(仕方なく)闘う」という要素がストーリーとして強調されており、また立ち向かう「悪」も「絶対悪」ではなく「悪になる宿命があった」という描かれ方をされることが多いです。したがって単純に「正義の押し付け」をしているという作品ではないということ(これはプリキュア以外にも言えますが)は承知のうえ、敢えてステレオタイプな記述をしております。ご了承ください。

◎仕事の裁量領域チェックリスト

  1. 自分の新しいアイデアで仕事を進められる。
  2. 仕事の目標を自分で立てて、自由裁量で進めることができる。
  3. 自分のやり方と責任で仕事ができる。
  4. 仕事の計画・決定・進め方を自分で決めることができる。
  5. 自分の好きなペースで仕事ができる。
  6. 経営層の意向を上司が適切に翻訳し、部下が進めやすい仕事に変換して提供できている

■領域4:社会とのつながり

「自分の関わっている仕事が、社会にどう還元されるか」ということを意識できることは、「働きがい」に直結する重要な概念です。仕事が社会貢献や社会的意義につながることは、「石切り職人」の寓話(石を切っているのか、教会の材料を切っているのか、立派な教会を作る仕事をしているのか)の通り、仕事そのものの快適さにもつながってくるでしょう。

▼わくわくするビジョン

組織は、社会に対して何らかの価値提供を行うことを目的とし、そしてそれが存在意義にもなっています。「企業理念」や「社是」と、日常の業務がつながっていることで、はじめて従業員は自社の社会的価値を感じ、ときに反芻し、また自分の仕事に誇りや信念をもって従事するようになり、ロイヤリティの高い職場環境を構築することもできます。従業員を駆り立てるような言葉、わくわくするビジョンは大切です。
しかし、ときにこのビジョンをはき違え、「なんでもいいから日本一になること」とか、酷いものになると「首都圏で売上一位になる」といったものを「ビジョン」として掲げてしまっている組織が散見されます。こういったビジョンは社会的価値には直結せず、単に「業績指標の目標」でしかありません。「日本一」になったり、「売上一位」になって喜ぶのは、それをぶち上げた当の上司だけで、その時の構成メンバーが何かよいことがあるかというと、せいぜいボーナスが数万円上がるとか、営業部長からドンペリをプレゼントされるとか、その程度のものでしょう。こういうビジョンを掲げる人は、大抵、構成メンバーを「自分が出世するための踏み台」程度にしか思っておらず、「駒をどう自分有利に動かすか」という「ゲームの素材」くらいにしか思っていません。その慣れの果ては、「適応障害で業務離脱したメンバー日本一」でしょう。それはそれで、「なんでもいいから日本一」という目標を達成したことになりますが!

▼自社サービスの価値実感

「売ること」だけに一生懸命になりすぎると、従業員(ときに経営層も)が、自分たちの提供している商品・サービスの価値を実感していないといったことが発生します。自社商品やサービスの価値は自分たちが一番よくわかっている、という気持ちは、実は「売ること」においては一番大切な要素にもなってくるのです。人口もシュリンクし、商品もサービスも飽和している現代(だからデフレになるわけです)、とっくに「出せば売れる」時代ではなくなっています。「価値実感」のないものを売ることほど、成果も上がらず、辛い仕事はないといえるでしょう。

▼正義

先ほど「正義の暴力性」について滔々と述べた後に書くのも若干、気が引けるのですが、とはいっても「正しい(とされる)こと」の観点(コンプライアンス、環境経営、SDGs、セキュリティ、個人情報保護、ダイバーシティ、働き方改革、情報開示、LGBT、女性活躍、世界平和、ポリティカル・コレクトネスなどを含む)それ自体は、持続可能な企業経営および快適な職場の形成において、とても重要な観点であることは論を俟ちません。法令遵守、社会的に正しいとされることへの受容と理解、適切な社会性の保持というのは、「社会とのつながり」を考えても不可欠です。守るべきルールを遵守し、「正しい」経営を行うことは、当然ながら従業員、取引先、顧客といったステークホルダーの安心感や信頼感とも直結します。

◎社会とのつながり領域チェックリスト

  1. 自分の仕事は、よりよい社会を築くのに役立っている。
  2. 自分の仕事は、社会とつながっていることを実感できる。
  3. 自分の仕事は、世間からの評価が高い。
  4. 自分の仕事に関連することが、新聞やテレビで取り上げられやすい。
  5. 今の会社は、ルールを守り、社会的に正しいことをしている。
  6. 今の会社、職場、この仕事に携わっていることを、誇りに思う。

■領域5:適切な処遇

「処遇」とは、報酬・地位(昇進や昇格に伴う地位待遇)を指します(そして基本的には、報酬と地位は比例します)。そしてハーズバーグの「動機づけ・衛生理論」において、報酬は、(一般的に思われているところの)「動機づけ要因」ではなく、「衛生要因」であることが示されています。すなわち、適切(金額の多寡のみならず、正当な評価に基づくという意味です)な報酬が得られていないとき、人は「衛生要因」を棄損する、すなわち「不満足」を感じ、快適性を失われると解釈することができるのです。つまり、単に「高い報酬」を得られればそれでよいという単純なことではなく、その報酬が評価に基づいて正当に支払われていることが、本人の「存在価値」や「承認欲求」を満たし、快適性を担保する要因であるということになるのです。

▼適切な報酬水準

報酬水準のベースは、所属する組織の収益性に規定されます。しかし、収益性の観点だけで労働分配率を設定するのではなく、「従業員への利益還元」「業界や地域水準との適合性」「配分の納得性(経営の説明責任)」といった観点も考慮し、適切な報酬水準を担保するようにしたほうが、結果として労働者のモチベーションアップ、快適性向上による生産性への好影響も期待でき、むしろ収益性を高めるといった好循環に転換できる場合もあるのです。

▼評価システムのブラッシュアップ

評価は、「公正であること」「納得感が得られること」「評価方法がオープンで可視化されていること」「シンプルで分かりやすいこと」などが重要です。そのうえで、利益への貢献度に応じて適切な差をつけることも公平感やモチベーションの形成に不可欠な要素となります。
評価は、必ず評価前の「確認」と、評価後の「フィードバック」とセットである必要があります。評価前に上司と部下の間で適切に振り返り、評価後にはその評価がつけられた理由を明確に示すことが、「納得感」につながってくるからです。このとき、「どのような状態であればより報酬が高まるのか」「どのような取り組みや努力が今の組織では評価されるのか」という「報酬を高めるための道筋」を明確に示すことが上司の役割でもあります。
こういった最前線でのチューニングを適切に行えるようにするためにも、評価システムをブラッシュアップすることが欠かせません。評価のシステム構築において重要なのは、「新規性」「先進性」「システム全体としての完成度の高さ」「無謬性」などでは決してなく、あくまでも「現場で有効に活用されるか」という観点です。
どんなに完全無欠と思われる評価体系が完成しても、究極には組織の目的を果たすことのできる運用が行わなければ無意味なのです。どんなに立派な「目標シート」と「振り返りシート」が出来上がっても、それが日々の業務から完全に隔離され、「評価のときだけ仕方なく書くもの」「上司も部下も、評価のときにしか目を通さないもの」になっていることがほとんどでしょう。それは、ただ業務を邪魔しているだけの「無駄」でしかありません。
いかにも「いい子」が「正解」を書くような、まるで「テスト」と見紛うような評価シートを運用して満足するの愚を前例踏襲で漫然と続けるのではなく、現場で実際に運用しやすいか、日常的に自社の業務特性に応じた活用がなされているか、という事を追求していくことこそが、評価システム設計者にとってもっとも求められていることだと言えるでしょう。

▼業務内容と評価の一致性

業務管理をする際は、「評価基準」に含まれていないものは一切管理すべきではありません。例えば、Aという商品を販売促進しようとするときに、その進捗状況を管理したいのであれば、「Aの販売量」は必ずその期の定量評価項目に組み込むべきです。しかし、驚くほど多くの組織で、「評価項目に含んでいないのに、なぜか業務管理される」ということが横行しています。「評価にならないこと」を仕事で推し進めることほど人のやる気を奪うものはありません。「会社で推進するものは、必ず定量評価で評価する」というのはモチベーション管理の基本中の基本です。ときに「この項目については、定性で評価する」と「逃げ」を打つこともあるのですが、それは「これ自体は利益貢献が少ないが 社長命令で推進しなければいけないので、とりあえず評価には入れておかないと」と「本音」を言っているだけです。そんないわば捨て仕事を「がんばれ、やれ」と言われても、本気でやるわけがないでしょう。
ただ、たまに勘違いして、そういう「捨て仕事」を一生懸命やってしまう人がいます。他の人がやる気がないのに、その人だけがんばってしまうので、周囲とのやる気の差でチーム内がギスギスしてきます。上司もその人がなまじ頑張っているものだから、「これは捨て仕事だから、ほどほどでいいよ」とはとても言えません(本来は"翻訳"してブレーキをかけるべきなのですが・・・)。こういう「無駄なこと」が組織内ではたくさんあります。「捨て仕事」を増殖させないためにも、「会社が従業員にやらせたいことは、すべて定量評価する。定量評価できないことは、基本的には業務管理をしない」という姿勢が極めて重要です。「評価に直結しない捨て仕事を業務管理する」と、間違いなく適応障害患者を激増させる愚を犯すことになります。「最近、適応障害が激増したな・・」という組織は、こういう「捨て仕事」を評価もせずに増やしていないか、よくよく点検してみる必要があるでしょう。そして「 仕分けに困った仕事は、定性で評価する」というのは、「逃げ」でしかありません。

◎適切な処遇領域チェックリスト

  1. 見劣りのしない給料がもらえる。
  2. 働きに見合った給料を得られる。
  3. 地位に合った報酬を得ている。
  4. 給料の決め方は公平である。
  5. 評価はいつも公正で、納得がいく。
  6. 評価基準はオープンになっており、シンプルで分かりやすい。
  7. 業務内容と評価基準は一致している(評価と関係のない業務はない)
  8. 経営がうまくいっている。

■領域6:休暇とメンタルヘルスケア

現代は、業務の複雑化・高度化・スピード化、情報処理量の増加、競争の激化、市場の縮小化、人材の多様化など、多面的なプレッシャーやストレスに曝される組織環境において、疲労の蓄積から心身の不調を訴える従業員が増加しています。適切な休暇職場の快適性は、「労働」と「余暇を含む個人生活」のバランス、すなわちワーク・ライフバランスによっても規定されます。休暇制度が実際の運用面で充実していれば心身の健康を保つ機会を得やすい組織と言えま しょう。一方、本来の業務時間を大幅に超えた長時間労働や休日出勤が多く、代休・振休・有休の取得が困難な職場は、明らかに不快適な職場と化していると言えるでしょう。現場で運用可能な適切な休暇制度とヘルスケアの仕組みを整えることは、現代組織にとって必須の取り組みだと言えます。

▼休暇制度の再設計

休暇制度は組織のカルチャーによって大きな差があるものです。どんなに新規性があっても、あるいは他の企業が導入しているものを猿真似したとしても、実際に従業員の実用に供していなければ、画餅としか言いようがありません。「わが社にはリフレッシュ休暇制度があります」と喧伝しておきながら、その実誰も取得しない制度であれば、羊頭狗肉の誹りを免れないでしょう。従業員が実際に活用でき、また確実に取得できる仕組みの構築と風土の醸成が不可欠です。
休暇の取り方についての感覚には、個人差があります。本来は強制されるべきものではなく、個人の裁量に任せるべきものです。例えば有休の「一斉取得日」「計画取得制度」などは、「休みをもしものときのために取っておきたい」というニーズや「特定の時期にまとめて休みを取るつもり」という要求に応えられるものではありません。「一斉」に行うものは「特別休暇」(夏季休暇、年末年始休暇も本来は「有休」とは別に付与するほうがより個人の裁量を尊重することとなります)、「個別」に取得するものは「有休」や勤続年数に応じた「リフレッシュ休暇(サバティカル休暇)」など、裁量に応じて休暇付与の基準は変えるほうが望ましいといえるでしょう。

▼有休取得の推進

有休取得率は、職場の働き方の健全度を測るバロメーターの1つです。部署ごとに偏りがないか、時期的な変動はどうかなど、定量的に有給取得率のデータを分析し、可能な限り有休取得率を上げていく方向の企業努力が不可欠です。
現実の職場では、法定の「5日」の有休取得すら四苦八苦して、「有休なのに自主出社(あるいは在宅で風呂敷残業)」を容認・黙認、あるいは事実上強要しているような職場はごまんとあります。こうした「有休なのに仕事をしている状況」というのも、労務管理上はもとより、健康上も、また何よりコンプライアンスの観点からも極めてリスクがあるといえるでしょう。
なおライン部署とスタッフ部署では、往々にしてライン部署の有給取得率が低い傾向にあります。部署特性が異なるので100%公平である必要は元よりありませんが、それでも著しい乖離がある場合は、現場の人間が著しく不足していることを示唆しています。社内での怨嗟(スタッフの奴らはおいしい思いをしやがって、など)が知らず知らずのうちに生まれてしまっている危険性もあるので、極端な差は絶対に放置してはなりません。
取得促進のためには、人数バランス、業務の偏り、休暇中の業務リカバー体制、上司の意識、メンバーの意識、取得者への対応など様々なハードルを乗り越えなければなりません。直属の上司だけにその責を負わせるのではなく、全社的な運動として取得促進を図っていく姿勢がまず必要ですし、現場レベルでも、社員自らが、計画的に自分の業務を(できれば半年、年単位で)積極的にデザインし、「休む」ことを業務に組み込む風土づくりを推し進めていかなければならないでしょう。

▼メンタルヘルスケア体制の整備・促進

メンタルを病む社員が増加する中、職場全体でメンタルヘルスケアについて理解する機会が必要不可欠です。理解のためには、「知識」と、それを日常的に活用する「スキル」の両面が必要です。しかし、講習会や勉強会、研修などによるメンタルヘルスの「学び」、そしてそれを支えるメンタルヘルス推進部署の拡充といったハード面の整備は、面タウヘルスケア体制を促進していくにあたって、「前提」でしかありません。何よりも大切なことは、一人ひとりが「相手」に関心を持ち、日常的にお互いを気にかけ、支援をしているという風土そのものです。対人コミュニケーションや傾聴の技術を日常の職場環境において実践することを「カウンセリング・マインド」と呼ぶことがありますが、まさに一人ひとりが「カウンセリング・マインド」を持って、相手とコミュニケーションをしていくことが必要となります。

◎休暇とヘルスケア領域チェックリスト

  1. 世間よりも長い夏期休暇や年次休暇がある。
  2. 産休・育休、介護休暇を取りやすい。
  3. 有休を取りやすい制度や、雰囲気がある。
  4. メンタルヘルスケアを浸透させる仕組みが整備されている。
  5. お互いがお互いに関心を持ち合い、助け合う風土である。
  6. 心身の健康相談を気軽にできる制度が整っている。

■領域7:労働の負荷

労働負荷には、2つの側面があります。1つが、業務の絶対量という「量的側面」であり、もう1つが業務の難易度や困難さといった「質的側面」です。
量的側面は、業務過多ないしは業務未熟による長時間労働・休日労働など超過勤務の常態化を指します。超過労働が常態化する理由は、リストラによる人員削減に伴う残存社員の負担増、競争激化による業務量拡大に伴う負担増、人員バランスの不整合や人材育成の陳腐化による低スキル社員増加に伴う負荷増、部署内での休職社員の増加に伴う残存メンバーの負担増などの要因が挙げられるでしょう。さらに近年は、残業禁止やノー残業デーなどの一律残業禁止対応の弊害として、所謂「持ち帰り残業」も常態化しています。これにテレワークが重なったことにより、職場以外での業務時間がブラックボックス化する問題も起こっているのです。
質的側面は、業務の高度化・複雑化・スピード化が進む中で、常に最新のスキルや知識をアップデートしていく必要がある時代や組織の要請に対して、能力やスキルが追いつかず、不適応状態に陥ってしまうことを指します。
こうした質量双方からの酷薄な労働負荷はそのまま過度のストレスやプレッシャーとなり、心身の疲労が蓄積され、メンタルヘルスを棄損してしまうことになるのです。労働負荷の多寡は、「快適な職場環境」の土台となる最も重要な要素の1つと言えるでしょう。

▼業務実態の正確な把握

「社員は、実際にどのくらい労働しているのか?」-これは、正確に測れるようでなかなか把握できない難題と言えます。客観的な数値としてはタイムカードや勤怠簿、入館記録、パソコンのログイン記録等によって、超過勤務時間、深夜勤務時間、休日勤務時間を見ることは可能です。しかしこれは「自己申告の表面的な時間」でしかなく、実際は上司から「タイムカードを早く押せ」と命令されているかもしれないですし、残業が月に45時間を超えると報告書を出す必要がある会社の場合は「超えないように自発的に調整する」といったことをしている人はごまんといるでしょう。「持ち帰り残業」や「休日のちょっとした取引先対応」などはそもそも数字に上がることはありません。
こういう実態があるのに、出てきた数字だけ見て、「わが社の労働時間が減っている」などとやるのは、知っていてわざとやっているのか、本当に現場を知らないバカなのか、どちらかだと言えるでしょう。
お勧めは、完全匿名で「本当はどのくらい労働しているのか」のアンケートを全社員に対して取ることです。おそらく、経営陣が思わず天を仰ぐほどの残業実態が明らかになること請け合いです。特定の部署を預かる上司ですら、「こんなにタイムカードと違っていたのか」と、乖離に眼が飛び出るのではないでしょうか。
ちなみに、働き方改革を任された部署が、外部コンサルに騙されて(笑)やることの1つに、「業務の工程表をつくる」というのがあります。「どの業務に何時間かかったか、可視化する」「業務の実態を元に、棚卸する」というのが最大の目的です。この目的自体は非常によいことだと思います。ただ、問題はやり方です。全部署を悉皆的に調査するのではなく、大抵の場合は、モデル部署を選定し、かつ、実名式で行うものですからそんなもの、「忖度」がはたらくに決まっているのです。ほんらいは、「全部署」を対象に、「無記名で」棚卸をするべきなのです。そうでないと、業務実態を正確に把握することなど、絶対に不可能です。
なお、実態把握を上司に委ね、その報告をさせることも愚の骨頂です。誰もが自分の管理を無能と思われたくないに決まっているのですから、それこそ「忖度」と「調整」で「きれいな」実態が出てくるに決まっているのです。

▼業務体制の見直し

業務実態を正確に把握したら、次は業務体制の見直しです。業務体制の改革は、一部署や上司個人、社員個々人の業務取り組みだけでは対応の限界があります。組織全体として、経営の意志で、業務構造改革、業務プロセス改善、業務体制の見直しを進めていかなければなりません。
人不足であれ、スキル不足であれ、労働負荷が高い状態というのは、結局のところ「業務全体の効率性が低い」ため「業務量が適正でない」状態に陥っている、そして「業務量が適正でない」ため「業務全体の効率性が低い」という負のループにハマってしまっているという解釈に落ち着きます。
こうなってしまった場合は(あるいはできればそうなる前に)、業務遂行方法の見直しといったプロセス改革のみならず、業務そのものの休・廃止、集約化、外注(アウトソーシング)化、部署の所轄・分担の組みなおし、組織の再編など、組織全体で業務量の削減と、効率性向上を図っていくことが必要といえるでしょう。

▼労働時間の削減を具体化する

既に「ノー残業デー」や「残業禁止」、「終業時間後や休日のPCログイン不可設定」、「時間外メール禁止運動」など、様々な労働時間削減の施策が打ち出されています。
そもそも労働時間は、同一業務であっても個人差がみられるものです。それは個人の能力、社歴、キャリア、スキル、経験、知識などが一人ひとり違うからですが、当然に、「労働時間に対する考え方」も人それぞれです。
すなわち、多くは同一賃金であれば「労働時間が短いこと」を好むかと思えば、「それでも自分はもう少し働いていたい」という人、「強制的に時間を管理されるのが性に合わない」という人もいるということです(もはや概念が昭和の価値観である「生活残業がしたい」というのは、ここでは論外とします)。
そうなると、畢竟、どれだけ施策が打ち出されても、「抜け道」を探す人が出てくることになります。「残業禁止」でも、近所のカフェや自宅に持ち帰り残業。「PCログイン不可」でも、ファイルを自宅のPC宛にメール送信すればOK時間外のメール禁止も、私用携帯でやり取りしてしまおう・・・等々。これらが社内規定で「禁止」されているのであれば問題ですが、多くの場合、そこまで細かく抜け道を塞いでいるケースというのは「まれ」でしょう。
しかしながら、「抜け道残業」はコンプライアンス的にも、また何より健康管理という側面から見ても、リスクしかない行為です。「際限なく労働に心身を捧げることの危険性」は極めて深刻なものです。ここは組織の強いメッセージ、上司の姿勢がとても重要になります。
絶対に「長時間残業」の危険性を舐めないでください。今の長時間残業は、昔のような「メールがなかった時代」「24時間アクセス可能な時代」とは訳が違うのです。「昔は深夜残業が当たり前だった」という認識が、人の心身を壊します。わずか10年前と比べても、情報の絶対量が圧倒的に多くなっていること、変化の度合いが急激であること、これを絶対に絶対に忘れてはならないのです。
そして(成果が変わらないという条件のもと)残業削減効果のみられた社員に対しては、賞与等で評価するという方法も有効でしょう。ただしこの方法は、「元から効率的に短い時間で勤務をしていた社員」に対しては、何も報いないということになってしまいます。これではいかにも不公平ですので、社員単体の評価ではなく、全社単位の「変化度」を評価尺度にして、削減された人件費の一部を賞与の原資として全社員に還元するなど「社員それぞれの取り組みが、全員に還元される」仕組みにしたほうが、制度としては洗練されているといえるでしょう。

▼勤務体制を見直す

働き方も価値観も多様化しています。今どき、「全員が同じ時間に集まって、同じ空間で同じ時間だけ働く」という働き方は、漫画的というか、滑稽にすら映ります。現代の要請は「硬直化」した「集団の意志」による職場環境ではなく、「柔軟」で「個人の選択」が尊重される職場環境です。
職場の快適度を高める取り組みとして、「勤務時間」においてはフレックス勤務制、裁量労働制、みなし労働時間制などが、「勤務形態」においてはテレワーク・リモートワーク、サテライト勤務制度などが、「職場の形態」においてはフリーアドレス、ビデオ会議、バーチャルオフィスなどが積極的に導入されてきています。
このような勤務体制の見直しにおいては、その過程で環境の変化に適合できない社員の適応障害の発生なども起こってくるでしょう。こうした「変化の犠牲」をどの程度想定し、どう対策していくかについても、制度設計時にはよくよく検討する必要があるといえるでしょう。

◎労働の負荷領域チェックリスト

  1. 仕事はいつも時間内に処理できる。
  2. 全体として、仕事の量と質は適切である。
  3. 残業・休日休暇を含め、今の労働環境は相応である。
  4. 翌日までに仕事の疲れを解消できる。
  5. 家に仕事を持ち帰ることは、めったにない。
  6. 自分の職場は、「全員が同じ時間に集まって、同じ空間で同じ時間だけ働く」という旧態依然とした職場環境からは脱している。

Q.職場の居心地を悪化させるものはなんですか?

A.究極には、「ハラスメントが生まれる職場環境・風土」に帰結します。これとは逆にハラスメントが生まれない職場環境・風土、そして組織・制度とは何かを考えてみるとわかりやすいでしょう。

▼ハラスメントが生まれない職場環境・風土

あくまで「目指すビジョン」が明確で、「正当な評価と報酬」が担保されているという前提条件の下において、

▼ハラスメントが生まれない組織・制度

いかがでしょうか。このような環境では「適応障害」をはじめとしたメンタル疾患が起こりにくいことは容易に想像ができます。ここからは、「ハラスメント」の観点で議論を進めていきましょう。

Q.ハラスメントとは、何ですか?

A.ハラスメントとは、「行為者本人の意図とは関係なく、相手を不快にさせ、相手の尊厳や人格を傷つけてしまう言動」のことです。簡単に言えば、「行為者の意図と無関係な"いやがらせ行為"」ということになります。 しばしば、適応障害の発症原因の1つとなります。

Q.ハラスメントが起こる職場には、どのような問題がありますか?

A.ハラスメントが起こると、しばしば「仕事のやる気をなくす」「仕事のトラブル・ミスが増えた」といった仕事上の影響のほか、「心身に不調をきたす」といった日常生活への影響も起こり、やがて休職や退職、転職といった「業務離脱」にもつながっていきます。

ハラスメントは、職場の生産性を下げるだけでなく、貴重な人材を流出させるという、社会にとっても大きな損失につながる大問題なのです。

Q.職場のハラスメントにおける「職場」とは、「オフィス」のことですか?

A.いいえ。労働者(正社員、パート社員、契約社員、派遣社員を含めた、職場のすべての従業員)が業務および業務の延長上の行為をする場所「すべて」を指します。出張先や業務のために移動中の車中(電車、クルマ)、取引先はもちろんのこと、勤務時間外の宴会、接待の席、社員寮、通勤中、またテレワーク中の自宅・喫茶店等 、そして画面内もすべて「職場」に含まれます。

「宴会の席での行為だから、ハラスメントにはあたらない」「喫茶店でのテレワーク中だから、職場とは言えない」というのは詭弁だということです。

Q.職場でよくみられるハラスメントには、どのようなものがありますか

A.代表的なハラスメントに、「パワハラ(パワーハラスメント)」「セクハラ(セクシャルハラスメント)」「マタハラ等(妊娠・出産、看護・介護、育児休業・看護休暇・介護休業等に係るマタニティ等ハラスメント)」、そして「リモハラ(リモートワークに係るハラスメント)」があります。以下、それぞれ詳しくみていきましょう。

Q.パワーハラスメント(パワハラ)とは、どのようなものですか?

A.職場のパワハラは、「優越的な関係を背景とした言動」であって、「業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」により、「労働者の就業環境が害されるもの」を言います。客観的に見て業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、パワハラとはされません。

■「優越的な関係」とは?

「地位が上の人(上司など)」対「部下」のほか、「知識や経験が豊富でその協力が業務遂行に不可欠な同僚」対「相対的に知識や経験が少ない同僚」、また「集団」対「個人」など、抵抗や拒絶が難しい関係性にある状態を「優越的な関係を背景とする」と言います。

■「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」とは?

社会通念上、業務遂行において明らかに必要がない、業務目的を逸脱している、業務遂行の手段として不適当、回数(頻度・継続性)、行為者の数などが許容範囲を超えている場合などが挙げられます。

■「就業環境が害される」とは?

労働者が身体的または肉体的に苦痛を与えられ、就業環境が不快適になることにより、職場で本来の能力を発揮することが著しく困難になるなど重大な支障を来している状態を指します。

パワハラには、いくつかの類型があります。以下、具体的に見てみましょう。

▼身体的な攻撃

(※)実際に怪我をした場合は、立派な「暴行罪」なり「傷害罪」なりが成立します。

▼精神的な攻撃

▼過大な要求

▼正当な労働条件・労働環境の侵害

▼人間関係からの切り離し

▼過小な要求

▼いわゆる「新型パワハラ」

▼プライバシー(個)の侵害

Q.セクシャルハラスメント(セクハラ)とは、どのようなものですか?

A.職場において、働く人の意に反する「性的な発言」「性的な行動」によって、就業環境が害されたり、労働条件そのものについて不利益を被ることを指します。

■「性的な発言」とは?

本人の意に反して、性的な事実関係を尋ねること(恋愛、結婚、性的嗜好、性的指向・性自認)、性的な冗談・ジョーク・からかい、性的な情報や噂を流すこと、性的な体験談を放言することなどが挙げられます。また、ジェンダー(社会的性別)に関することも「性的な発言」に含まれます。

■「性的な行動」とは?

性的な関係を強要すること、不必要に身体に触れること、猥褻物を見せること、猥褻な行為を行うことなどが挙げられます。ハラスメントの範囲を超えて、もはや「犯罪」と言ってもよいでしょう。また、本人がはっきりと断るか、明らかに態度を留保しているにもかかわらず、食事やデートなどに執拗に誘うことなども「性的な行動」に含まれます。

以下のようなものが、セクハラの具体例となります。

▼対価要求型セクハラ

▼環境型セクハラ

▼ジェンダー型(※)セクハラ

(※)ジェンダー・ハラスメントとして「セクハラ」とは別個の概念として取り扱う場合もあります。ここでは広義のセクハラの類型に含めて解説しています。

Q.マタニティ等ハラスメント(マタハラ等)とは、どのようなものですか?

A.妊娠・出産のほか、育児休業・介護休業等の制度利用に関わる周囲の言動により、妊娠・出産した女性、育休や介護休業等を取得した社員の就業環境が悪化することを指します。子を授かった女性に向けられるものが「マタハラ」、同男性に向けられるものが「パタハラ(パタニティハラスメント)」です。なお、子どもの看護等による休暇や親の介護休業などによる休職者へのハラスメントとして「ケアハラ(ケアハラスメント)」という概念もあり、これらを含めてここでは「マタニティ等ハラスメント」と称して解説します。

以下のようなものが、マタハラ等の具体例となります。

▼制度利用に関する嫌がらせ

出産・育児・介護に関連する公的制度(産休、育休、看護休暇、介護休業)・社内制度(軽減勤務、時短勤務、フレックス勤務等)の利用に対して、利用を断念させるような言動で、制度の正当な利用を妨害することを指します。

▼状態への嫌がらせ

出産・育児・介護によって就労状況が変化した本人そのものへの嫌がらせ行為を指します。

Q.リモートハラスメント(リモハラ)とは、どのようなものですか?

A.テレワーク環境の進展で急増している、新しい概念のハラスメントです。「テレハラ(テレワークハラスメント)」とも呼称されます。

良くも悪くも、コンプライアンス意識の高まりとポリティカル・コレクトネスの隆盛により、オフィスにおけるセクハラ・パワハラについては、少なくとも「意識」して振舞う人は増えているといえるでしょう。しかし、それは オフィスという「公」の空間で、「他者」の目があったからこそ成し得るといってもよいでしょう。しかしながらテレワークは、自宅やカフェなど、半プライベートな空間で行われることから、必然的に「他者の目」が薄れ、ともするとハラスメントに対する意識が希薄化したり、相手との距離感などを見誤り、さらに「対面でコミュニケーションができない」が故の認知的な難しさも手伝って、職場ではしないようなハラスメント行為を無意識にしてしまうことがあるとされています。 しかし、テレワークのバーチャルな空間も、れっきとした「職場」であることを忘れてはなりません。

以下のようなものがリモハラの具体例となります。

▼パワハラ的リモハラ

▼セクハラ的リモハラ

オンライン会議は、特に「密室関係」を作りやすく、新たなセクハラの温床ともなります。
オンライン会議以外では、次のようなハラスメントが考えられます。

▼テクハラ(テクノロジー・ハラスメントまたはテクニカル・ハラスメント)

PCやスマホなど、ICTに関する機器の利用が苦手な人に対する嫌がらせを「テクハラ」と呼んでいます。

▼逆テクハラ

さらに深刻なのが、「逆テクハラ」といわれる現象です。ICT機器の利用が苦手な人(上司など)が、自分の努力を放棄してICT関連の業務をしばしば立場の弱い人(若手社員など)に押し付けるもので、パワハラの一種(「過大な要求」に該当)とも言えるでしょう。

Q.上記で挙げた以外にもハラスメントはありますか?

上記以外に、以下のようなハラスメントが挙げられます。

▼エイジハラスメント(エイハラ)

▼ブラッドタイプハラスメント(ブラハラ)

Q.ハラスメントが起こってしまう原因は何でしょう?

A.このご時世、「悪いことをしてやろう」と自覚的にハラスメントを起こすという人は少ないでしょう。パワハラであれば「教育のためだった」、セクハラであれば「同意の上だった」という言い訳が垂れ流されることが容易に思い起こされます。

ハラスメントが起こる背景には、ただただ「自覚のなさ」があります。「まさか自分がハラスメントを起こすわけがない」という思い込みは誰にでもあります。そして職場の中で立場が上位にある人(強い人)ほど、しばしば「自分が正しい」と信じて疑わないものです。

自分の価値観を知らず知らずのうちに押し付けていたり、根拠の弱い思い込みで言動を発していたりする結果、まったく自覚なく相手が不快と思う領域に踏み込み、相手を傷つけているのです。

こうした「無意識の思い込みと偏見」のことを、「アンコンシャス・バイアス」と言います。アンコンシャス・バイアスに基づいて発した言動が、ハラスメント(嫌がらせ)につながると考えられるのです。

■アンコンシャス・バイアスを起こす認知の歪み

無意識の思い込み・偏見を起こす代表的な「認知の歪み」を見ていきましょう。

▼ステレオタイプ

(例)あの人は女性だから、細やかな気遣いができるはずだ。

▼ハロー効果/ネガティブハロー効果

(例)最近の若者はとにかく礼儀がなっていない。今度の新入社員も同じに違いない。

▼正常性バイアス

(例)あの社員は残業が続いているが、この前の会議で元気そうだったし、まあ放っておいて大丈夫だろう。

▼バンドワゴン効果(集団同調現象)

(例)残業代を40時間以上つけるなと言われた。先輩もそうしているみたいだし、まあ我慢するか。

▼確証バイアス

(例)酒が飲めない奴は出世しない。Aも、Bも、Cもそうだった。だから、間違いない。

▼アインシュテルング効果

(例)定時で帰る社員はみな、決まってやる気がない。自分の若いころは率先して残業したものだ。

このほかに、職場でみられる「アンコンシャス・バイアス」の例を挙げてみましょう。

▼職場で頻繁にみられるアンコンシャス・バイアスの例

Q.ハラスメントのない職場環境をつくるためには、どうすればよいでしょうか?

A.ハラスメントは、誰もが当事者になる可能性があるものです。「自分が正しい」というのは、しばしば「思い込み」です。そして「思い込み」は、不要な誤解とハラスメントを招く元凶でもあります。

上記で取り上げたような無意識の思い込みや偏見、アンコンシャス・バイアスを、誰もが必ず多かれ少なかれ「持っているのだ」ということを、意識し、気づき、自覚し、相互に認識することがとても重要です。

ハラスメントが発生しやすい職場と、そうでない職場の違いは、「コミュニケーション」の違いと言われています。価値観だけでなく、働き方そのものが多様化する中で、組織の中ではミス・コミュニケーション、コミュニケーション・ロスが発生しやすい環境が整ってしまっています。

これまで以上に円滑なコミュニケーションを一人一人が意識するべきときだといえるでしょう。コミュニケーションを充実させていくことで、確実にハラスメントが発生しにくいい職場環境が醸成されていくのです。

Q.パワハラと業務指示・教育的指導との境界はありますか?

A.管理職には部下を適切に指導し、育成し、成果創出につなげる義務があります。当然ながら、時には強めの指示、厳しい指導、叱責が必要となる業務シーンもあるでしょう。しかし、業務の適正な範囲を超えて、精神的・肉体的苦痛を与える行為は「パワハラ」とされます。

管理職が人事権という強大な権力を有していることを認識し、自身の言動が常に職場全体に影響していることを理解して、日ごろのコミュニケーションを取っていかなければならないといえるでしょう。

そのためにも、管理職は「アサーティブ・コミュニケーション(アサーション)」や「アンガーマネジメント」などの指導技術を不断に学んでいく必要があるといえます。

以下もぜひご参照ください。

Q.ハラスメントを受けたときには、どうすればよいでしょうか?

A.絶対に一人で悩まないことです。すぐに社内の相談窓口(メンタルヘルス相談窓口や、コンプライアンス相談窓口)に相談しましょう。これらの窓口は、守秘義務をもった外部の心理カウンセラー、弁護士などが相談員として担当しますから、原則として秘密は守られます。

なお、ハラスメントを受けた際は、「証拠」を抑えておくことも重要です。

▼ハラスメントの「証拠」の例

また、「サービス残業を強要」するような環境の場合は、必ず「正しい勤務時間」を記録しておくようにしましょう。

Q.周囲のハラスメントに気づいたり、相談されたりした時には、どうすればよいでしょうか?

A.可能な限り迅速に対応します。証拠がない段階では加害者・被害者に対して公平に対応することも重要です。まずは本人の話を聞いた上で、可能な限り本人経由で社内の相談窓口へ相談・通報することを促します。

万が一本人が通報等を渋った場合は、被害者の了解を得た上で、代理で社内の相談窓口へ相談・通報することも有効です。個人情報の観点から、上司や人事担当者などに、第三者が直接相談することは原則として望ましくはありません。

ここでもっともやってはいけないことは、「黙殺」です。見て見ぬふりをすることは、状況を悪化させることがほとんどです。ハラスメントを発見したら、被害者を孤立させず、応援するようにしたいものです。

Q.メンタル不調を発生させやすい会社・職場・職種には、どのような特徴がありますか?

A.どのような会社・職場・職種であれ、メンタル不調は発生し得ます。人間は多様な個性を持っていますから、例え百人が「すばらしい職場だ!」と絶賛するような会社であったとしても、あらゆる環境において「ミスマッチ」は発生し得るからです。しかしながら、「やたらとメンタル不調が起こっているぞ」という会社・職場・環境というのも残念ながら存在します。そして「人が壊れる職場」には、以下のような特徴が共通して見られます。

■労働時間の長さ

月間の残業時間が恒常的に50時間を超える社員が半分以上いるような職場は、どこかに非効率があるか、さもなくば人材の絶対量が不足しているといえるでしょう。もしくは、スキルに見合った業務を課せていない可能性もあります。また1人でも「80時間超え」がいるような職場は、業務の配分をミスしている可能性が高いです。
今は、24時間いつでもどこでも情報にアクセスできてしまう時代です。「外出してしまったら連絡が取れない」とか、「印刷は会社でしかできない」「上司の判子を